表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

第八話。お嬢様の思いと、再びの合流。 パート1。

「ふぅ」

 手近なベンチに腰を降ろして一息つく。

 夕方になったオハヨーは、人の流れがいったんおちついている。

「たしかに、店員さんたちの言う通りですわね」

 

「ずいぶん今更な話題だな。で、なにがなんだ?」

 俺の右隣に座ったマリーに、彼女の方を見ずに言う。

「わたくしとジョセさまを見て、みなさん揃って兄妹と言っていたじゃないですか」

「言ってたな」

 

「ベンチに座るジョセさまの動きで、

改めてあなたの背の高さを意識したんです。

それで、たしかにあなたの妹のようだな、

と思ったのですわ」

 

「そっか。なんでちょっと寂しそうな言い方なんだ?」

「だって、エイダーズ・クロスの女性の方とジョセさまは、

いっしょに並んで歩いていたところで、兄妹には見えないんですもの」

「そうだな、たしかに」

 なんの話だ? まったくなにを言わんとしてるのかわからない。

 

「悔しいのですわ」

「悔しい?」

 思いもよらない言葉が出てきて、上ずった間抜けな声が出てしまった。

「ええ。勝ち目がないんですもの」

 

「勝ち目?」

 頼むから、俺でも理解できる言葉で喋ってくれっ。

「けれどわたくしは、兄妹よりも距離の遠い、

でも親しい関係に見られるようになってみせますわよ、ジョセさま」

 

 一度も落とすことなく持ち続けているぬいぐるみを、

 強く抱きしめながらこちらを睨むように見て言うお嬢様。

 

「……お、おまえがいったい、なにに燃えてるのかわからないけど

……まあ。がんばってくれ」

 謎の宣言なんていきなりされたら、そりゃ動揺もする。

 僅かの沈黙の後に、不快感のずっしりと乗った溜息が返って来たのも、

 また意味が分からない。

 

「危機から救われて以来わたくしが抱く思い、

あなたさまにはわからないのですわね」

 少し悲しそうな、そしてつらそうな表情をして

 そんなことを呟いたマリー。

 

 この幼女と少女の境目のような女子は、思わせぶりなことを

 こうしてちょっとちょっと言う。俺にはその意図を読むことは

 どうもできそうにない。

 

「どうも感謝の気持ち……じゃ、なさそうだな」

 なんともきまずく、左手で額を軽く抑えた。

 

 それにしても月の満ち欠け三周分、その思いとやらを

 このお嬢様は持ち続けてたわけか。それも鮮度を保ったままで

 ……。凄まじい執念だな。

 

 メイドたちといいマリーといい、エンダイヤ家の人間は

 どいつもこいつも執念深いんだろうか?

 しっかしほんと、自分の上半身ぐらいあるドでかいぬいぐるみを、

 よくこの状況で、落とさず持ててるよな。これもまた

 凄まじい執念だぜ。

 

 

「さて。これからどうする? いい加減、

見るだけってのも飽きたんじゃないか?」

 このわけのわからん状態のお嬢様を通常に戻すべく、

 俺は話題を変えた。

 

 オハヨー全体を使っているこの夏フェスタ。

 人込みと相まって、全部見て回るのは

 普段この町を見回るよりも、

 遥かに時間と体力を消耗する。

 

 人といっしょ、ましてや

 夏フェスタが初めてっぽい雰囲気の子供といっしょなら、

 その消耗度合は一人で回るよりも大きい。

 

 

「そうですわね。もう少し、

お小遣いを使ってもいいかもしれないですわね」

「ずいぶんと他人事たにんごとだな」

 

「できることなら、出費は最小限にしたかったのですけれど」

 こんな時ぐらい、倹約家精神

 頭の片隅に追いやっちまえばいいのになぁ。

 

「どうやら、そのぬいぐるみだけじゃ

満足が持たなかったみたいだな」

「ええ。不思議ですわね」

「なにがだ?」

 

 

「こういうにぎやかなところにいると、

体といっしょにお財布までうきうきしてしまいます」

「のわりには、ずいぶんとつつましやかなウキウキだな。

お前も財布も」

 

「子供らしくない、とよく言われますわ。

今日は意識して抑えていますけれど、特にお財布のウキウキは」

 そう言って、ささやかに苦笑しているお嬢様。

 

 こういう表情も、予算の管理に調整がきかせられるのも、ついでに言うなら

 お財布がウキウキするなんて言い回しをするのも、

 実に子供らしくない。

 

 

「なんか買ったりするなら今しかないぞ。精霊玉せいれいだまが始まったら、

また人が戻って来るからな」

「ええ、わかっていますわ。流石にこのぬいぐるみ以外の買い物の品は、

アリーナに渡したいですが、うまく合流できるでしょうか?」

 

「さてなぁ。って言うか、ぬいぐるみは手放さないんだな」

「ええ、勿論ですわ。ジョセさまとの思い出ですから、

最低でも今日一日ぐらいはずっと抱いていたいです」

「そうか」

 それだけを答えた俺は、知らず口元が緩んでいた。

 

 

「よし、休憩終わりっ。いくぞ」

 ガバっとベンチから立ち上がった俺に、

 「はいっ」とこちらも元気よく答えながら

 ベンチを立ったお嬢様である。そのまま俺はまた的撃ちの方に向かって歩き出した。

 

 はたして、お嬢様のお眼鏡にかなう物が

 残ってるかどうか、だな。

 

 

***

 

 

「残っていませんでしたわね」

 オハヨーを一周して、またベンチに戻って来た俺達。

 お嬢様は、そんな残念そうな声と同時に腰を下ろした。

 疲労の息交じりにも聞こえる。

 

 出店でみせめぐりを含めると、だいたいオハヨー一周半ぐらいだ、

 俺もそれなりには疲れてる。子供の体だとより疲れるだろう。

「お嬢様のおめがねにかなう物はなかったか」

 俺もお嬢様に続いて腰を下ろした。

 

 これまでの時間、危険な状況には一度もなってないどころか、

 その兆しすら見えて来ない。仲間たちが対処してくれてるのか、

 それとも純粋に裏通りの連中が顔を出してないのか。

 いずれにしても、今年も治安は良好だ。

 

「ええ、残念ながら」

「まあ、むりもないさ。昼間に大方捌けたはずだからな」

「すごい人ですものね。エイダーズ・クロスの皆さまへのお礼と、

メイドたちへのお礼に、と思ったのですが」

「流石に数、多すぎだろ。って、メイドたちへのお礼?」

 

「ええ。だって、ジョセさまをずっと探してくれていたのですもの。

お礼をしなければ」

「具体的に物で、か?」

「口でもお礼はしていますけれど、なんとなく形に残しておきたくて」

「なるほどな」

 

「よ、お疲れさん」

「同じタイミングで休憩するなんて、面白いですね」

 俺に声をかけて来たのは、昼間カグヤといっしょにいた

 自称異世界人の二人だった。

 

「お前らも休んでるのか?」

「ああ。いくらリカミナスタ草で自然強化させられたって言っても、

人込み且つ女子二人に気を回しながらはきつかった」

「大丈夫だって言ってんのに、アクトの奴かっこつけてさ」

「わたしは嬉しかったですよ、すっごく」

 

「ニャんたはそうでしょうね、顔見ただけでわかったわよ」

「カグヤもいたのか」

「気付きなさいよ」

「むちゃ言うな、正面しか見てなかった俺に、

横のお前ら三人に気付けると思うか?」

 

「なんで偉そうに言うのよ?」

「いやーテンポいい会話だなぁお前ら。流石同業者の知り合い」

「ニャんたとニャたしも似たようなもんでしょ」

「そう……かね?」

「ええ」

 

「そうですね」

稲妻いねつままで言うか?」

「だって、そう思いますから」

「お前、異世界生活経て言葉に遠慮が減ったよな。

溜めも減ったし」

「……そう、ですか?」

 

 

「ところでお前らさ。めんどくさい目にあったって話だけど、

なんでそんなこの世界にまたこうやって顔出してるんだ?」

「ん? 春のことが大変だったって話なだけで、

この世界そのものは嫌いじゃないからだよ。二人ともな」

 アクトの答えに、なるほどな と俺は頷く。

 

「知り合った人たちが優しかったから、って言うのが一番大きいです。

一人を除いて」

「そうなのか?」

 

稲妻いねつま……」

 困ったような声色と顔で言うアクトに、

 「あっ」と左手で口元を隠したアオイ。

 

「さっきもそんなやりとりしてたけど、

なにを隠したがってるんだ?」

「ややこしい話なんだ。ちっちゃい子を

長いこと放置すんのはよくないと思って

話すのをさけようと思ってるんだよ」

 

「そんなにややこしい話なのか?」

「それについては今度 よジョセ」

「ああ、わかってる。自分でそう言ったしな」

 

「あの、皆さま?」

 予想外にマリーお嬢様が話に入って来た。

「なに?」

「逆にそこまで隠されると、気になるのですけれど?」

 聞き返したカグヤに答えたマリー、なんとも不機嫌そうだ。

 

「あちゃ、裏目に出たか」

 困った顔の猫亜人ケイト・シスの少女、アクトと顔を見合わせる。

 どうしたものか、ってところか。

「よし」

 言うとカグヤは、ベンチから立ち上がった。

 

「どうしたんだ?」

 俺の問いに、「ニャたし的特等席に移動するから立って」と答えた。

精霊玉せいれいだままでもうちょっとあるし、

始まるの待ちながら話すことにしたわ」

 

「なるほどそっか、この後花火だっけか。けど、いい場所なんてあるのか?

高台があるわけでもなし」

 立ち上がってから、アクトが聞いている。花火って、なんだ?

 状況から考えると精霊玉のことか?

 

「そうですよね?」

 立ち上がったイネツマとアクトが呼んでいる青い髪の女子、

 アオイも不思議そうな声で続いた。

「あんまり行儀はよくない場所だけどね。ほら、ニャんたたちも」

 促されて、俺達も立ち上がった。

 

 

「カグヤ的特等席か。予想もつかないな」

 歩き出した直後アクトが言うと、

「そうですね。お行儀が悪いって言うのも、よくわかりませんし」

 とアオイが同意する。

 

「俺もまったく見当もつかない」

「同じく、カグヤさん? と今日初めてあったわたくしは、

予測のしようがありませんわ。けれど、この方向は……?」

 考えるようなマリーの声色。「そうだな」と

 なにか気が付いたような声のアクトの同意。

 

「言われてみれば、たしかにこの方向は」

剣塚亭つるぎつかていですよね? やっぱり、お行儀が悪い

って言うのがわかんないですね」

 アオイも不思議そうだ。

 

「楽しみにしてなさい」

 そう短く、少し楽しげな色を乗せた声で答えると、

 カグヤは自分の仕事場兼住まいに向かって、止まらず歩いて行く。

 

 

 

 俺達は解消されない疑問を抱えたまま、その後に続くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


関連作品。

地域密着型異世界召喚譚
ジョセの一日の舞台がちみしょ後日の、異世界側の話のため。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ