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僕の日記  作者: Q輔
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おーい、生きてるかー

 3月30日(土)晴れ


 僕が生臭さ高校生の頃は、今の若者のように携帯電話を持っている生徒はナッティングで、新しいもの好きの友達が、かろうじて自慢げにポケットベルを持っているといった時代でした。何しろ当時携帯電話を持っている人たちといえば、芸能人、超多忙なビジネスマン、そしてヤクザ者ぐらいだったのだから仕方がない。情報化社会の黎明期のさらに前の話だ。ウホウホ前夜だ。当時のテレビのドッキリ企画で、横断歩道で信号待ちをしている黄色い帽子を被った小学生の女の子が、まだ発売したばかりのでっかい携帯電話をもって、「あ、パパぁ~、あたし~、いま渋谷~、早く迎えに来て~」なんてませた口調でお話をしていて、それを目撃した通りすがりの大人たちが、「いやいや、あれはヤバいでしょう」「おいおい、世も末だな」なんてリアクションをしていた。迫りくる新時代を風刺した面白いドッキリだった。いち視聴者として僕も大爆笑していた記憶がある。早いもので、あれから数十年が経ちました。いやはや今は末世なのであろうか。そんなメールもラインもない時代の、僕らの授業中の通信手段といえば、ただの紙切れであった。小さな紙キレにメッセージを書いて前後左右最寄りのクラスメイトに教師の目を盗んでこっそり手渡しする。受け取った生徒は責任もって次の生徒へ、さらに次の生徒へ、とこっそり手渡しを続け、紙キレはやがてたどり着くべき生徒の元へ辿り着く。いわゆる「授業中に手紙が回ってくる」というやつだ。僕のところにもたまに紙切れは回ってきた。一番多かったメッセージは「おーい、生きてるかー」と書かれたのもだった。僕があまりに授業をつまらなそうに受けてるのを見かねた友人たちが、メッセージを回してくるのだ。時に男子の汚らしい文字で、時に女子の丸っこい文字で、僕の生命の安否を気遣う温かいメッセージが回ってきた。そういえば、成人してからコンパなどでツンとすましたいけ好かない女の子がいると、僕はわさとベロンベロンに酔っぱらって、会を台無しにしてしまうようなことをよくしたのだけれど、そんな道端でゲロまみれの僕にさえ「おーい、生きてるかー」の紙切れは回ってきた。ライブハウスで怖いパンクのお兄さんたちに、たびたびボコボコにされた時も、必ず「おーい、生きてるかー」の紙切れは回ってきた。まったく、戦地や被災地の瓦礫に向かい叫ばれる懸命な「おーい、生きてるかー」もあれば、僕のような人間のクズを哀れむような「おーい、生きてるかー」もあるわけです。今日まで僕という人間は、不思議とそんな風に常に誰かに身を案じられながら生きてきた気もするし、もしかしたらあれは僕が自分で紙切れに文字を書いて「これを教室一周回したら僕のところに戻してね」なんてことを自分のためにしていたような気もする。まあ、今となってはよく憶えていないし、今となっては誰があの紙切れを書いたなんてことはどうだっていいことだ。今日も僕はこうして生きてる。それでいいじゃないか。

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