第73話 聖女はハイテク魔道具をぶっちぎる
「妹さんが……」
「そうだ。両親の遺体は一部残ったが、妹は跡形も残らなかった。大砲を食らって、バラバラになっちまったんだ」
アーウィン・フェイルノート様のお顔が、苦悶に歪みます。
肉親を失う辛さは、わたくしにも少しは理解できるつもりです。
レオンお父様を失った時のような喪失感を、この方も――
しかも、3人いっぺんにだなんて――
「やったのは、ウ・ミムラー海洋国家連合の海賊らしい。俺の村は、水竜領の北側……海の近くにあったせいで、目を付けられちまってなァ。海賊団は、俺がマシンゴーレムの試作機で壊滅させてやった。だが、ちっとも気が晴れねェ」
そうでしょうね。
失ったものは、戻ってはきませんから。
「それでフラフラと雷竜領に戻り、ここで酒浸りになりつつ細々と魔道具を作る日々だ。どうだい? ウジウジと、情けねェ男だろォ?」
自嘲気味に笑ったアーウィン様に、わたくしはピシャリと言い放ちました。
「情けなくなど、ありません!」
強い語気に、アーウィン様の体がビクリと震えます。
ついでに横にいたフクも、驚いたように全身の毛を震わせました。
「家族を失って辛かったでしょう。苦しかったでしょう。後を追うことすら、考えたでしょう。しかし、あなたはそれをしなかった」
アーウィン様の瞳が、大きく見開かれます。
「お酒の力を借りても、よいではありませんか。独りで殻に閉じこもっても、よいではありませんか。あなたは生きている。妹さんの分も、ご両親の分も、生き抜いている。誰にも文句は言わせません!」
わたくしは両手をかざして、部屋いっぱいに散らばる魔道具や機械――アーウィン様の生み出した作品を示します。
「周りを見て下さい。あなたが生み出したものの数々。これが答えであり、あなたの使命です。魔道具職人にして錬金術士、アーウィン・フェイルノート。自分の生き方に、誇りを持ちなさい!」
アーウィン様は、顔を伏せてしまいました。
目の端に、キラリと光るものが見えます。
「へッ! 元教会聖女ってのは、本当らしいな。……ありがとうよ、お嬢ちゃん。チクショウ。機械油が、目に入っちまったァ。しみるぜェ」
わたくしは部屋に置いてある魔道具や機械に興味を示すフリをして、アーウィン様の涙を見ないようにしていました。
フクも空気が読めるにゃんこなので、わたくしと同じように室内を眺めて回っています。
ふと、机の上に置いてある写真立てが目に入りました。
カメラと呼ばれる、魔道具で撮影されたものですわ。
成人と思われるエルフの間に挟まって、13~14歳ぐらいのエルフ少女が笑っています。
アーウィン様と同じ、翡翠色の髪。
ひょっとしてこの方が妹さんである、イーリスさんなのでしょうか?
でも、この少女は――
「アーウィン様。イーリス様が亡くなったのは、1年前と仰いましたわね?」
「ああ、そうだぜェ。正確には、春頃だな。その写真は、死ぬ直前に撮って送られてきたもんだ」
「……だったら、計算が合いません。フク、あなたもこの写真の子を見て」
「あにゃにゃ~! この子、間違いないよ。オイラ達は、会ったことがある」
アーウィン様はフクに飛びつき、両前足をガシッと握りしめながら問い詰めました。
「な……なんだってェ!? いつ!? どこでだ!?」
フクの代わりに、わたくしが答えます。
「ウ・ミムラー海洋国家連合、アヴィーナ島。時期は、今年の夏ですわ」
写真に映っていた少女は、戦艦カジキンの動力源にされていたエルフの奴隷少女でした。
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「そうか……。イーリスは、生きているのかァ……。海賊共のアジトを襲撃した時にも見つからなかったから、てっきり……」
「ええ。夏までは、確実に生きておられました」
「こうしちゃいられねェ! すぐ捜索に……いや待て! 闇雲に探し回っても、ダメだな」
「ええ。ウ・ミムラー海洋国家連合の奴隷制度は、徐々に解体されていっている段階。イーリス様は、どこかの児童養護施設に送られた可能性が高い。しかし、それがどこの国なのかは判断がつきません」
ウ・ミムラー海洋国家連合かもしれませんし、奴隷制度解体で協力関係にあるミラディア神聖国かもしれません。
ミラディア神聖国は魔国ヴェントランとの国交もあるので、この国に送り返されている可能性だってあります。
考え無しに捜索に出ては、すれ違ってしまう可能性もあるでしょう。
「……あっ! あれがあった! 実はよォ、俺ァ人探しに最適な魔道具を作ったことがあるんだ。だけどよォ、出力が弱くてなァ。半径3kmまでしか、捜索できねェ」
「それではさすがに、捜索範囲が足りませんわね。何か、出力を上げる方法はありませんの?」
「あるにはあるんだが……。お嬢ちゃん、魔王竜クラスの強さを持つ竜人族の知り合いとかいねェよなァ?」
「おりますわよ」
「だよなァ。魔王竜クラスの竜人族なんて、その辺に転がってるはずが……ん? 今、なんつったァ?」
先ほどからアーウィン様は、驚いてばかりですわね。
わたくしの両肩を掴んできたので、やんわりとそれを剥がしながら答えます。
「わたくしの恋人は、リュウ・ムラサメ。魔王ルビィ様のご子息にして、山ひとつ溶かすような息吹を吐く赤竜。地の魔王竜ブライアン・オーディータ様や、水の魔王竜後継者シュラ・クサナギ様と互角に渡り合った竜人族。彼では、不足ですか?」
アーウィン様はワナワナと震えていましたが、緑の双眸は輝いております。
これは、希望を見つけた者の目ですわね。
「いいや、充分だぜ。お嬢ちゃんは、竜人族の逆さ鱗について聞いたことがあるか?」
「少しだけ。ドラゴン型の魔獣や、竜化した竜人族の体に1枚だけ生えているとか」
逆さ鱗はその名の通り、他の鱗と逆向きに生えた鱗。
強大な魔力を秘めており、魔道具の素材として使えば様々な特殊効果を付与できるらしいですわ。
「魔王竜の逆さ鱗を使えば、人探し用の魔道具を劇的に強化できる。他の国にいる奴だろうが、魔力の波長を辿って見つけ出すことができるぜェ」
「なるほど……。それではアーウィン様。わたくしと、取り引きしませんか?」
申し出に、アーウィン様はニヤリとした笑みを浮かべました。
「どうせそのリュウ・ムラサメってのが、シーナ=ユーズにいるんだろォ? 俺に道案内を頼む代わりに、そいつの逆さ鱗を譲ってくれるようにお嬢ちゃんが交渉してくれる。そんなところだろォ?」
わたくしも、ニッコリとした笑顔で答えました。
「いいえ、道案内だけではありません。リュウ様は現在、雷の魔王竜ミツキ・レッセントに捕まっています。なので救出まで、手伝っていただこうかと」
酔い覚ましのために水を飲んでいたアーウィン様は、噴き出してはげしくむせました。
「ゲホッ! ゲホッ! なんだとォ? あの先代より圧倒的に強ェって評判の、ミツキ・レッセントとやり合う気かァ!? 殺されちまうぞォ!?」
「心配要りません。3日前、すでにいちど殺されかけました。もう、慣れましたわ」
「心配する要素しかねェぜ。……しかし、面白そうだ。マシンゴーレムのロマンが分からねえミツキ・レッセントには、ひと泡吹かせてやりてえところだしなァ。いいだろう、協力するぜェ」
差し出されたアーウィン様の右手を、わたくしは強く握り締めます。
職人らしい、固くてガッチリとした手。
頼もしさが伝わってきますわ。
握手を交わすわたくしとアーウィン様の手の上に、フクがポフンと肉球を置いてきました。
その光景が微笑ましくて、わたくしもアーウィン様も思わず笑ってしまいましたわ。
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翌朝――
わたくし達は出発の準備を整え、小屋の前に集合しておりました。
「よーし! 雷竜領中心都市、シーナ=ユーズに向かって出発するぞォ」
大き目なリュックサックを背負ったアーウィン様が、拳を振り上げ叫びます。
「シーナ=ユーズまではかなり距離があるが、俺の作ったコイツがありゃ1日で着く。まだ商品化してねェ最新アイテム。その名もシルフボードだ」
風の精霊の名が冠されたその魔道具は、アヴィーナ島でリュウ様と乗ったサーフボードとよく似ていました。
違う点は、サーフボードと比べ全長がだいぶ短いこと。
複雑な魔法陣が描かれ、いくつかの魔石が埋め込まれていることです。
「こいつはなァ、地面から数十cm浮き上がって低空飛行できるボードだ。乗員を乗せた状態で、最高時速は100kmも出る」
ボードのスイッチを入れて地面に倒すと、アーウィン様の言葉通りふよふよと宙に浮かびました。
ものすごいドヤ顔で紹介するアーウィン様ですが、わたくしは心配になります。
「最高時速100kmですか……。速度を合わせて走るのが、大変ですわね」
「おいおい、ヴェリーナお嬢ちゃん。なにバカなこと言ってるんだァ? ちゃんとお前さんとにゃんこも、乗せていくに決まってんだろォ?」
「いえ。わたくし達が乗ってしまっては、ボードの速度がさらに遅くなってしまいますわ。わたくしはフクを連れて、自前で走りますので」
フクを法衣の胸元に入れて、【フィジカルブースト】の魔法を発動。
ちょっと出力を抑え気味にして、わたくしは走り出します。
背後から、
「はァ~!? なんだそのスピードは!?」
というアーウィン様の叫び声が聞こえてきましたが、すぐに小さくなっていきます。
『一刻も早く、リュウ様を救出したい』
その想いが、少々焦りを生んでいたようです。
速度は充分抑えたつもりでしたが、アーウィン様のシルフボードを軽々とチギってしまいました。
追いついたアーウィン様から、
「道案内役をぶっちぎって、どうするつもりなんだァ!?」
と、お説教されてしまいましたわ。
ごもっともなお話です。




