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第30話 聖女は大槌を振るう

 オーディータ様は、わたくし達の遥か眼下にいたはずでした。




 リュウ様の背上でわたくしが(まばた)きをし、目を開いた瞬間――




 その時にはもう、目の前に地の魔王竜が迫っています。


 なんという飛行速度でしょう。




『うおっ!』




 リュウ様は、赤竜の巨体をひるがえしました。


 すれ違い(ざま)に振るわれたオーディータ様の爪を、ギリギリで回避。




 リュウ様は長い首を高空に向け、相手の姿を追おうとしますが――




「リュウ様! 下から攻撃が来ますわ!」


『何っ!?』




 地上から飛んできたのは、岩の(つぶて)


 それが連射されて、飛行中のわたくし達を撃ち落とそうとしてきます。




『土魔法の遠隔発動かよ!? なんて距離で使いやがるんだ!』




 自分の体から離れた場所で魔法を発動させるには、高度な魔法技術が必要になります。


 魔力だって、通常の何倍も消費します。


 距離が離れるほどに難しくなり、魔力消費も加速度的に増えていく。


 わたくし達の位置より遥か高空から、わたくし達より遥か下にある地面で魔法を発動させるなんて――


 (はな)(わざ)もいいところです。




 岩の礫は連射速度が高く、その射線はのたうつ蛇のように連なってわたくし達を追ってきます。




『ちっ! まるで雷竜領の魔道兵器、「マシンガン」だな!』




 急旋回と急加速。


 曇天に複雑な軌跡を(えが)きながら、リュウ様は礫の回避に専念します。


 わたくしは振り落とされないよう、リュウ様にしがみつくので(せい)(いっ)(ぱい)




 ――それが、よくありませんでした。


 リュウ様が回避飛行に専念するのなら、わたくしがオーディータ様の動きを警戒しておくべきだったのです。




 気付いた時には、上方から鋭利な輝きが襲い掛かってきていました。


 1本1本が大剣ほどの大きさもある、オーディータ様の爪ですわ。




「なんの!」




 リュウ様の背中を、貫かせてなるものですか。


 わたくしは両掌で、爪を挟み込んで食い止めます。


 昔お父様から教わった、真剣白刃取りという技ですの。




 なんとか、振り下ろされる爪を止めることはできました。


 ですが、急降下して来た魔王竜の勢いを殺しきることはできません。


 速度と質量に押され、わたくしもリュウ様も急降下を始めてしまいました。




『空中戦なら、私に勝てるとでも思ったか? 竜化を使えるようになったばかりで、飛行経験の少ないお(ぬし)が? 浅はかだな、リュウ・ムラサメ』




 そのまま大地に叩きつけられるのかと思いきや、オーディータ様は減速し空中に(とど)まりました。


 リュウ様とその背に乗るわたくしだけが、落下を続けます。




『まずい! 聖女様! 逃げ……』


『今さらもう遅い。潰れろ、【グラビトンマッシャー】』




 今度は発動を止められません。




 リュウ様は発生した超重力場に(とら)われて、腹ばいの姿勢で草原に叩きつけられました。


 勢いとリュウ様の体重、超重力場によって、クレーターが穿(うが)たれます。


 背に乗るわたくしも、(いっ)(しょ)に潰されそうになっているのが()()()()()




『があああっ!!』




 念話魔法と(ほう)(こう)の両方で、苦しそうな叫びを上げるリュウ様。


 そんなリュウ様に、オーディータ様はゆっくり降下して近寄ります。




『無様だな、リュウ・ムラサメ』


『う……うるせー! 地竜公としての立場を忘れて、暴れ狂っているオッサンには言われたくねえよ!』


『お主の言う通り、私は無様だ。領主としても、夫としてもな。お主には、私のような男になって欲しくなかった。パートナーを、むざむざ死なせてしまうような男には』


『なあ、頼むよ! もう、聖都住民に関しては諦める。俺もこのまま、殺せばいい。だから、聖女様だけは見逃し……』


『すまぬが、少し遅かったようだ』




 わたくしの手足は、曲がってはいけない方向に折れ曲がりました。


 口からは血が吐き出され、ビクビクと(けい)(れん)しています。


 明らかに、内臓が潰れている。


 これはもう、助かりません。




『せ……聖女様ぁーーーーっ!!』




 わたくしの体はさらに潰れ、血と肉のペーストになりながらリュウ様の背に張り付いていきます。




 ――ちょっと、グロ過ぎではありませんの?





『……ガツンとやっちまいな』




 ああ――

 ドラゴンの姿になっても、その笑みは変わりませんのね。


 牙をむいた、不敵な笑み。




 リュウ様の笑みを、わたくしは見下ろしていました。




 ――遥か、上空から。




 身体強化魔法で、視力を強化した状態で。




 リュウ様が【グラビトンマッシャー】に囚われようとした瞬間、わたくしは自らの跳躍とリュウ様の風魔法によって上空へと飛び上がっていたのですわ。



 

 リュウ様の背中に張り付いていた、わたくしの(なき)(がら)


 それがドロリと溶けるように、空中へと消えます。


 幻影魔法【ミラージュファントム】。


 かつてミランダを(あざむ)いた魔法は、魔王竜相手でも有効でした。


 お互いに強大な魔法を撃ちまくったせいで、小さな魔力の流れへの警戒が(おろそ)かになっていたのでしょう。


 オーディータ様は、わたくしを空中へと逃がした風魔法にも気付いていなかったようですし。




『……なっ! ヴェリーナ殿は、どこへ!?』




 オーディータ様は上空を見上げ、目が合いました。




 自分の鼻先まで、落下してきたわたくしと。




 わたくしは両手を組んで振りかぶり、全身を()()らせます。


 これも、お父様から教わった技。


 異界より来た覆面の勇者が得意とした格闘技、プロレス。


 そのプロレスにある、ダブルスレッジハンマーという技ですの。




「【フィジカルブースト】、全開」




 これは、正真正銘の全開です。


 普段のわたくしは破壊力を追求するだけでなく、肉体保護のための身体強化にも魔力を多く()いています。


 そうしなければ、自分の突きや蹴りの威力に耐えられず怪我をしてしまいますもの。


 今回は敢えて肉体保護の魔力を削り、攻撃に回します。


 この手が砕けても、構わない。


 それで、オーディータ様を止められるのならば。




 左右組み合わせ(つち)と化した両手を、わたくしは魔王竜の頭部に打ち下ろします。




 鼓膜が破れそうな衝撃音と共に、オーディータ様の頭部がブレました。


 緑の(うろこ)に覆われた巨体は、大地へと叩きつけられます。


 ローラステップの広大な草原に、地割れが走りました。




 ――ついにわたくしは、魔王竜からダウンを奪いましたのよ。




 しかし、追撃は無理ですわ。


 両手に走る激痛。


 やっぱり、手の骨が砕けましたのね。




 なので――




「リュウ様。(あと)は、お願いします」




 わたくしが言い終わるより早く、リュウ様は動き出していました。


 重力魔法を受けて、負傷してしまったのでしょう。


 全身から血を滴らせながら、オーディータ様へと駆け寄ります。


 飛行する力は、残っていないのかもしれません。




 そして倒れた状態から身を起こそうとしていたオーディータ様の(のど)(もと)に、鋭い牙を突き立てました。




 ええっ!?

 息吹(ブレス)ではなく、嚙みつきですの!?




息吹(ブレス)を確実に当てるためには、こうするしかねえだろ? ……離れろ! 聖女様!』


 


 まさか――

 リュウ様!?




 わたくしがバックステップして距離を開けた瞬間、凄まじい閃光が走りました。




 次いで爆炎が巻き起こり、わたくしは吹き飛びます。




 【イフリータティア】の首輪(チョーカー)が展開する耐火魔法の防御があっても、肌がチリつくほどの高温。




 リュウ様はオーディータ様に噛みついた状態から、息吹(ブレス)を放ったのですわ。




「リュウ様ぁーーーーっ!!」




 爆炎の向こうへ消えたリュウ様に向かい、わたくしは肺の中の空気を振り絞って呼びかけました。




 そんな――

 そんなはずはない。


 リュウ様はいつだって頼れる先輩冒険者で、わたくしが知る限り最高の魔道士で――


 わたくしの(そば)に、いてくれる()()


 いつかわたくしが冒険者として独り立ちしたら、(いっ)(しょ)にいられなくなるかもしれません。


 でもそれは、今ではないでしょう?


 もっと、先の話でしょう?




 お願い!


 わたくしの呼びかけに、応えて!






『……そんなに心配そうな声を出すなよ、聖女様』


「ああ……リュウ様。ご無事で……」


『無事……とは言い(がた)いかもな。牙が何本か吹き飛んで、口の中も火傷しちまった。めちゃくちゃ(いて)え』


「もう! 無茶をするからですわ! 心配をかけた罰として、(あと)でデコピンの刑ですのよ!」


『身体強化魔法は、無しで頼むぜ。聖女様のデコピンなんて、頭が吹き飛んじまう。……なあ、聖女様。俺の命に、別状は()えがよ……』




 爆炎が、晴れてゆきます。


 そこにあったのは、赤い巨竜の姿だけ。


 緑の魔王竜は、姿が見えません。




 ――いえ。


 駆け寄ってみると、オーディータ様もいらっしゃいました。


 仰向けに、倒れています。


 人型に戻っていたので、見えにくかっただけ。


 身に着けていた緑の鎧は、もうほとんど残っておりません。


 炭化してしまった上半身が、晒されていました。


 首から上は無事なようですが、その表情には死相が色濃く浮き出ています。






『オッサンは……。地の魔王竜ブライアン・オーディータは、もう助からねえ』






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本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
【聖ドラ】イラスト大聖堂

本作には、1000文字の短編版もございます
【聖女はドラゴンスレイヤー】身体強化しか使えない偽物聖女、ブラック企業の傭兵魔道士と共に、素手で巨竜をボコり伝説へ。「俺はパンツなんて見ていない」と言われても今さらもう遅いですわ。必殺技でミンチですの

本作のスピンオフ。19話回想シーンで処刑されたリスコル公爵には、娘がいた。彼女が巻き起こす、ドタバタメイド奮闘記。ノートゥング家の面々も出ます
【処刑されたはずの公爵令嬢、ドジっ子メイドへの華麗なる転身】頼もしいイケメンマッチョ騎士団長に溺愛されるのはいいのですが、そそっかしいので毎日失敗してはお仕置きされます。「さあ、私の膝の上に来なさい」

ミラディース様の妹神や、樹神レナード、世界樹ユグドラシルなど、本作と若干のリンクがある異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

神剣リースディアと同じ名前の帝国、世界樹が出て来たり、ミラディース様の妹神がラスボスの上司だったりするロボットもの
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

― 新着の感想 ―
[一言] え、つら イケオジまじかよ え、つら
[一言] オーディータ様ぁああああ(´;ω;`)ブワッ 私のメンタルもう残量ゼロよ。 どうして私の推しはいつも死ぬのか(某聖女のドルト●然り) そろそろ本気で検証するべきときがきたのか……
[良い点] オーディータ様のグラビトンマッシャーを、聖女の肉体回復でなんとかする力技かと思ったら、まさかの幻影魔法でしたか! まんまと騙されました!! [気になる点] オーディータ様はやはり助からない…
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