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第109話 聖女は吐き気をもよおす邪悪を知る

※ショッキングな表現がございます。ご注意ください

 ドーズギールの強さは圧巻でした。




 ヤマタノオロチが暴れている上空まで行くと、白竜はいきなり光の息吹(ブレス)を吐いたのです。


 光は途中で分かれると、それぞれが8つの頭を貫通しました。


 恐らくヤマタノオロチは、ドーズギールの存在を認識する間もなく死んだのではないでしょうか。




 ミランダとの約束どおり、ドーズギールは肉を持ち帰ります。


 どうやら空間魔法を使えるようですわね。

 ヤマタノオロチの巨体が、フッと掻き消えました。

 異空間に収納したのでしょう。




 そこからの撤収は早かったですわ。


 ヤマタノオロチの被害を受けていた人々が手を振っているのに、完全無視。


 急激に方向転換すると、白竜は一気に超音速まで加速しました。

 衝撃波で空が揺れます。


 全力飛行ですわね。

 急いでミランダのところに帰りたいのでしょう。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 一刻も早く帰りたいのでしょうに、ドーズギールは人族の王国へと寄り道をしました。


 律儀にも、討伐報告をするようです。


 王宮庭園の真ん中に、ヤマタノオロチの頭部8つを出現させます。




「おおっ! これが極東の島国を荒らしていた、ヤマタノオロチ! 何という恐ろしき姿……。これを倒してしまうとは、さすが神竜様!」


 高位神官が絶賛していました。

 ねぐらの洞窟に訪ねてきていたのと、同一人物です。


『これで満足だろう? (われ)はもう、ミランダの待つ洞窟へと帰る』


「お待ちください、神竜様。(じつ)(ばん)(さん)(かい)の準備をしておりまして。ミランダも参加すべく、この王宮に来ているのです」


『何? まことか?』




 それを聞いたドーズギールは、人型へと変化しました。

 明らかに嬉しそうです。




「ええ。ミランダは今、王宮内で準備を整えております。神竜様に、最高の姿をお見せするために」


「そうかそうか。ミランダはあれで、素材としてはなかなかのものだからな。着飾れば、さぞ美しかろうよ」


「ええ、そうですね。最高の()()です。さあさあ、神竜様。お酒でも召し上がりながら、ミランダの登場をお待ちください」


 そう言って神官は、王宮中庭に用意された宴席へとドーズギールを案内します。


 人型となった神竜は上機嫌で、(そそ)がれるお酒を飲み干していきました。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 (うたげ)が進み、ドーズギールも酔いが回っていきました。

 神竜でも、お酒で酔うものなのですね。


 高位神官が隣に付きっきりで、ドーズギールにお酌をしていました。




「ミランダはまだか?」


「もう間もなくでございます。こちらの料理でもお召し上がりになって、お待ちください」


「待ち遠しいな。……ほう? 見たことのない肉料理だ」


「いかがですか? お味は?」


「うむ。なかなか()()いぞ」


「それは良かった」




 神官の顔が、(しゅう)(あく)(ゆが)みました。


 次の瞬間、ドーズギールは体をビクリと(けい)(れん)させます。


「ぐっ! グハッ! き……貴様ら。一体何をした!?」


「どうです? 力の弱い我々人族が、あなたのような強き存在を制するために編み出した呪法です」


「馬鹿な……。なぜこんなことを……。我は貴様ら人族に、危害を加えたことなどなかったはずだ!」


「今まではそうでも、これからも大丈夫とは言い切れない。あなたの力は、簡単に我が王国を壊滅させてしまえるほどに強い。危険過ぎるのですよ」


「なんと浅はかな……。我を殺したら、強大な魔獣に対抗できぬぞ? 次にヤマタノオロチのような魔獣が出現した時、どうするつもりだ?」


「ご心配なく。この呪法はあなたを殺すものではなく、従わせるものです。これからは王国の守護竜として、末永く働いていただきます」


「呪法など使わなくても、我は貴様らを守ってやるつもりだった。ミランダが望む限り」


「それではあの(いけ)(にえ)(むすめ)が、生きている間に限られる。それにたかが娘1人の意思で、王国の存亡を決められてはかないませんからね」


 弱き存在ゆえの怯え。

 怯えからくる、(ぎょ)せない存在への排斥欲と支配欲。


 いつの時代も、人は変わらないものなのですね。

 同じ人族として、悲しくなります。


 ……これがミラディース様のおっしゃっていた、「見るのが(つら)い」という部分なのでしょうか?




「貴様ら! ミランダに手を出しておらぬだろうな!? あやつは我のものだ! 何かしたら、本当に貴様らの王国を灰にして……」


「ははっ! 何をおっしゃる。自分で食べておいて、心配するなど(こっ)(けい)だ」




 何を……?

 この神官は、一体何を言っていますの?


 あまりの嫌悪感に、精神が(きし)みます。


 肉体を現代に置いてきていなければ、(おう)()していたかもしれません。




「なっ……! グッ! ゲホッ!」


 わたくしの代わりに、ドーズギールが吐こうとします。


 ですが呪法の影響か、胃液すら出てきません。




「おやおや。吐いてしまっては、もったいないですよ? 美味しいと、あなたも言っていたではありませんか。それに吐き出したところで、今さらあの娘は生き返りません」


「あ……、あ……、ああああーーーーっ!! ミランダ!! ミランダーーーー!!」


 わたくしは後悔していました。

 ミラディース様に、過去を見せて欲しいとお願いしたことを。


 泣きたいのに……。

 叫びたいのに……。

 精神だけの状態では、涙も声も出てきません。




「……殺してやる。貴様らを絶対に殺してやる! 人族は皆殺しだ!! この大陸に、1人も残さぬ!」


 ドーズギールは巨大な白竜の姿に戻りました。


 しかし――




「呪法隊、前へ!」


 合図により、大勢の神官がドーズギールを取り囲みます。


 彼らが放った魔力を受けて、神竜の巨体は大地に縛り付けれられました。




『があああっ! 何だこの呪法は!? なぜ人族が、こんなに強力な呪法を!』


「ふふふ……。この呪法は、人肉を媒介として発動しています。媒体と被術者の絆が深いほど、強力な呪法となる。あなたとミランダは、よほどお互いを大切に思っていたようですね」


 何という外道な術!

 そもそも神に仕える神官が、呪法に手を出すなんて!


 彼らはミラディース教の神官ではなさそうです。

 ですが仕える神が違っても、元神官のわたくしとしては許せません!




『……そうか。我はミランダを、大切に思っていたのか。(そば)に置きたい、誰にも奪われたくないという想い。顔を見ているだけで、胸が温かくなる感触。これが貴様ら人族のいう、「愛」という感情なのか』


「ははっ! 魔獣風情が愛を語るなど、片腹痛い」




 ドーズギールの中で、何かが切れるのを感じました。


 感じたのは、わたくしだけではなかったようです。


 ドーズギールと会話していた高位神官も。


 周りを取り囲んでいた神官達も。


 (まが)(まが)しい魔力に()()されて、後ずさりします。




「……っ! 何という邪悪な魔力! それがあなたの本性か。……邪竜め!」




 白く輝いていた神竜の鱗は、闇よりも暗い漆黒に染まってゆきました。




『グ……ググググ……。我などより、貴様ら人族の方がよほど邪悪よ。さあ、滅ぶがよい』




 邪竜ドーズギールの暗黒の息吹(ダークブレス)により、王国の半分が消滅しました。

 彼を取り囲んでいた、神官達も一緒にです。


 その後ドーズギールは人型になり、わざと消滅させなかった王宮内を探索します。

 ミランダが生きている可能性もあると思ったようです。


 しかし彼が、地下牢で見つけたものは――




 王国の残り半分も消滅しました。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




 


 その後ドーズギールは、大陸にある人族の国家を滅ぼして回りました。


 多数の国家が連合を組んで邪竜討伐に挑みましたが、全て返り討ちに遭います。


 大陸の人族は、半分ほどにまで人口を減らしていました。


 しかしドーズギールもまた、危機的状況だったのです。

 邪悪な呪法は、彼の身体を(むしば)んでいきました。


 徐々に自我が消え始めたのです。


 ドーズギールは、自ら命を断つことを決めました。

 自分が自分でなくなる前に。


 彼が自らの墓標に選んだのは、ミランダと過ごした洞窟でした。

 



『ミランダ……帰ったぞ……。ああ、そうか……。ミランダは、もういないのだったな……。死ねば我の魂も……、貴様と同じ場所へ行けるのだろうか……? 今から我も……同じ場所……へ……』




 暗黒魔法で、自分の心臓を握りつぶしたドーズギール。


 しかし彼は死ねませんでした。


 あまりに人族に対する憎悪が強すぎて、魂がこの世に縛りつけられてしまったのです。






 こうしてドーズギールは、悠久の時を生きるドラゴンゾンビ――古代竜エンシェントドラゴンとなりました。






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本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
【聖ドラ】イラスト大聖堂

本作には、1000文字の短編版もございます
【聖女はドラゴンスレイヤー】身体強化しか使えない偽物聖女、ブラック企業の傭兵魔道士と共に、素手で巨竜をボコり伝説へ。「俺はパンツなんて見ていない」と言われても今さらもう遅いですわ。必殺技でミンチですの

本作のスピンオフ。19話回想シーンで処刑されたリスコル公爵には、娘がいた。彼女が巻き起こす、ドタバタメイド奮闘記。ノートゥング家の面々も出ます
【処刑されたはずの公爵令嬢、ドジっ子メイドへの華麗なる転身】頼もしいイケメンマッチョ騎士団長に溺愛されるのはいいのですが、そそっかしいので毎日失敗してはお仕置きされます。「さあ、私の膝の上に来なさい」

ミラディース様の妹神や、樹神レナード、世界樹ユグドラシルなど、本作と若干のリンクがある異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

神剣リースディアと同じ名前の帝国、世界樹が出て来たり、ミラディース様の妹神がラスボスの上司だったりするロボットもの
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

― 新着の感想 ―
[良い点] ヴェリーナが、食べられたいって言ったときの拒否反応が、こんなに切ない理由だとは思わなかったです。 [一言] 一回、わっと泣いたので、感想を書きますよ。 また涙ぐんでいるけどさ! まあ、泣い…
[良い点] ぐおおおおおおおおーーーーーーーん! なんてこった……
[一言] 非常に残念なことですが、世界史上、これと同じようなことをやった帝国があります。 やっぱり酷い滅び方をしてます。
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