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第108話 聖女は神竜の過去を見る

 数千年前――


 ドーズギールは、(こう)(ごう)しい白き(うろこ)を持つ竜でした。




 青空を駆ける姿は美しく、優雅。

 神竜と呼ばれていたのも(うなず)けます。


 当時、大陸には数多くの強大な魔獣がはびこっていました。

 今でいう災厄クラスの個体がゴロゴロ。


 人も魔族も弱く、魔獣の脅威に怯えていました。

 年々生存圏を切り取られ、大陸の隅へと追いやられていく。


 そんな時、人族や魔族の希望となっていたのがドーズギールです。

 彼は強い力を持つ魔獣達を、次々と打ち倒して行きました。


 人族や魔族を助けようと思って、行動したわけではありませんでした。

 高い知性や理性を有していましたが、ドーズギールもまた竜型の魔獣にすぎません。

 彼にしてみれば魔獣討伐は、単なる縄張り争いだったり食べるための狩りだったり。


 それでも強大な敵を打ち倒してくれるドーズギールは、人族と魔族から熱狂的に支持されていたのです。


 特に人族からの(すう)(はい)(けん)(ちょ)でした。

 魔族と比べて戦闘力が低い人族にとって、強き神竜は憧れの(まと)だったのです。


 ドーズギールは人族を襲いませんでした。

 エサにしようと思えばできたのですが、食いでのない小さな存在に興味を持てなかったのです。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 ある日のことです。

 ドーズギールがねぐらにしている洞窟に戻ると、1人の少女がいました。


「神竜ドーズギール様。わたすはミランダと申すます。ふつつかものですが、よろすくお願いするんダス」


 少女は洞窟の床に正座し、三つ指をついて深々と礼をします。

 こげ茶色のおさげ髪が、床に垂れていました。


『何だ貴様は? なぜ(われ)のねぐらに居る? 何をよろしくお願いするというのだ?』


「わたすは(いけ)(にえ)として、ドーズギール様に捧げられたんダス。美味しく召し上がって欲しいんダス。――できればあんまり痛くないよう、食べて欲しいんダス」




 ドーズギールはふんっ! と鼻を鳴らしました。

 巨竜の鼻息だけで、ミランダと呼ばれた少女のおさげが揺れます。


『我は人族など食わぬ。(ぜい)(じゃく)な存在より、力の強い魔獣を食った方が強くなれるからな』


「そ……そんな……。困るんダス。わたすは生贄として差し出された以上、もう村には帰れないんダス。責任取って、食べて下さいダス」


『知るか。だいたい貴様は痩せ細って、ちっとも美味そうに見えぬわ』


 ミラディース様が化けている現代のミランダと違い、大昔のミランダはガリガリに痩せて針金のような体つきでした。


 おそらく、村ではろくに食べれていないのでしょう。

 生贄に出されたのは、口減らしの可能性が高いです。


 ミラディース様がぽっちゃり体型に化けるのは、元となったミランダを憐れんでのことかもしれません。




「そんな……。ならばわたすを、美味しそうになるまで太らせてくださいダス。いっぱいご飯を食べさせてもらえたら、肉が増えて美味しそうな女になるんダス」


『何だそれは? エサとして差し出された生贄に、なぜ我が食事を出さねばならぬのだ?』


 ミランダは押し黙ってしまいました。

 代わりに彼女のお腹が、グゥ~! と轟音を上げて自己主張します。


『チッ! 腹が減っているのか? 勝手に餓死するではないぞ。死体の片づけが面倒だ。――洞窟の奥に、魔獣の肉を貯蔵している。好きに取り出して食うがいい』


「あの……。わたす魔獣の生肉はちょっと……。あと、食べやすい大きさに切り分けていただけると助かるんダス」


『ええい。世話の焼ける生贄だ。この姿のままでは、調理しにくい。――ヌウン!』




 白竜の巨体は閃光を放ちました。

 ドラゴニュートが竜化する時の光に似ています。


 閃光が収まった時、ドーズギールは人の姿へと変わっていました。


 銀色の髪と青い瞳を持つ、(あで)やかな美青年です。 

 服装はミラディア聖騎士を連想させる、清潔感溢れる白い衣装でした。


「わあ。ドーズギール様、カッコいいんダス」


「くっ……。脆弱な人族の姿を取るなど屈辱だ。あんまりジロジロ見るでない」


「照れなくてもいいじゃないダスか」


「どうも貴様と話していると、調子が狂うな。――確か人族からの(みつ)ぎ物の中に、調理器具があったはずだ。捨てなくて良かったぞ。おい、ミランダ。我は人族の料理など分からぬ。手伝え」


「初めての共同作業なんダスね」




 人族の調理器具と、自らの魔法を駆使して出来上がったドーズギールの料理。

 焦げ目だらけでグチャグチャな形のそれを、ミランダは美味しそうに食べました。


 神竜の唇がわずかに吊り上がったのを、わたくしは見逃しませんでした。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 その後ミランダは、ドーズギールの巣穴にすっかり居ついてしまいました。


 頼まれてもいないのに、洞窟中を掃除。

 人族達からの貢ぎ物にあった装飾品で、巣穴を改装。


 ミランダの手により、巨竜のねぐらは人が暮らすのに快適な空間へと変わっていました。




「ミランダ、帰ったぞ。魔獣の肉を取ってきた」


「お帰りなさいダス。ドーズギール様。わあ、すごい量のお肉なんダス。すぐに料理するんダス」


「待て、我に作らせろ。最近料理というものが、かなり分かってきたのだ。今日こそ美味しく作ってみせる」


「ドーズギール様の料理は、最初から美味しいんダス」


 2人はとても楽しそうに過ごしていました。




「そういえばドーズギール様。今日は王都から、高位の神官様が訪ねてきたんダス。神竜様は留守だって伝えたら、また出直すって言ってたんダス」


「何? 本当か? 危害は加えられておらぬだろうな? 貴様はか弱い人族なのだ。我の留守中に、賊に入られたりしてはひとたまりもない。出かける時は、洞窟入口に結界魔法でも張るか?」


「そんなことをしたら、わたすも出入りできないんダス。そんなに心配しなくても……」


「貴様は生贄に捧げられし存在。つまりはもう、我のものだ。勝手に死んだり、(さら)われることは許さぬ」


「ふふふ……、わたすも死にたくないダス。このままずっと、ドーズギール様と暮らしたいダスから。もしわたすが死んだら、(なき)(がら)を食べて欲しいんダス。そうしたらずっと、お腹の中で一緒に居られるんダス」


「縁起でもないことを言うな」




 心配してプリプリと怒るドーズギールを、ミランダは優しく微笑みながら見つめていました。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 





 数日後――

 巣穴には、再び高位の神官が訪ねてきました。


 穏やかそうな物腰の方ですわね。

 現代のフレデリック・デュランダル教皇を思い出させます。

 もっともあの方は、わたくしが思っていたのとは違うお方だったようですが……。


 ドーズギールは人型となり、ミランダが設置したテーブルに着いて応対していました。




「ヤマタノオロチ……だと?」


「はい。東方にある島国で、猛威を振るっている魔獣です。8つの頭から炎を吐き、いくつもの国や村を焼き尽くしました」


「そいつを倒せというのか? 我に?」


「極東の島国からの使者が、わが国に助力を求めています。ですが我々の力では、返り討ちに遭うのが目に見えております」


「ハッ! 都合のいい話だな。我には何の利益もない」


「無論、神竜様に満足していただけるような捧げものをします。例えば生贄の女などどうでしょうか? そこの貧相な村娘だけでは、物足りないのではありませんか? 余ったら、食すれば無駄がないかと」




 ミランダはよく意味が分かっていないのか、きょとんとしています。


 代わりに激怒したのは、ドーズギールでした。


 溢れ出る殺気だけで、洞窟に亀裂が入ります。




 神官は椅子ごと倒れ、床に這いつくばって震えていました。




「ミランダの前で、殺しはしたくない。――今のは聞かなかったことにしてやるから、大人しく帰れ」


「そ……そんな! ヤマタノオロチ討伐は……?」


「ミランダを置いて、海の向こうまで行きたくない。貴様ら人族だけで、勝手にやれ」




 すごすごと神官が帰ろうとした時、口を開いたのはミランダでした。


「わたすは大丈夫ダスよ。ドーズギール様、どうか行ってらっしゃいませ」


「ミランダ?」


「放っておいたら、多くの人が亡くなるダス。他人でも、それは(つら)いんダス。それにヤマタノオロチなんて強力な魔獣を食べたら、きっとドーズギール様はますます強くなれるんダス」


「うむ……。それは確かにそうなのだが、しかし……」


「あと、ヤマタノオロチのお肉を食べてみたいんダス。お土産に少し、持って帰ってきて欲しいんダス」


「……わかった、全速力で行ってくる。大人しく、我の帰りを待っているがいい」






 翌朝――


 白竜の姿へと戻ったドーズギールは、東の空に向かい飛び立ちました。




 ねぐらである洞窟の前では、ミランダが手を振って見送ります。


 神竜ドーズギールの姿が見えなくなるまで、彼女は手を振って見送り続けました。







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【聖ドラ】イラスト大聖堂

本作には、1000文字の短編版もございます
【聖女はドラゴンスレイヤー】身体強化しか使えない偽物聖女、ブラック企業の傭兵魔道士と共に、素手で巨竜をボコり伝説へ。「俺はパンツなんて見ていない」と言われても今さらもう遅いですわ。必殺技でミンチですの

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【処刑されたはずの公爵令嬢、ドジっ子メイドへの華麗なる転身】頼もしいイケメンマッチョ騎士団長に溺愛されるのはいいのですが、そそっかしいので毎日失敗してはお仕置きされます。「さあ、私の膝の上に来なさい」

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神剣リースディアと同じ名前の帝国、世界樹が出て来たり、ミラディース様の妹神がラスボスの上司だったりするロボットもの
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

― 新着の感想 ―
[良い点] 神竜は、いい奴だった。 [一言] きっと、この後、泣くんだろうな。 だって、すぎモンさんだもん……
[一言] しばらくはつらい展開が続きそうですね。
[良い点] 次回予告が嫌な予感しかしないのは置いておいて、回想のストーリーがすんなり入り込める面白さです。
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