2-30 実の姉妹
「その生まれを恥じることはありませんよ、フレア。あなたはもう、立派なバレンシアの子供なのですから。わたしの両親も、すべて納得済みのことです。しかし……わたし個人としては、あまり納得のいくことではありません」
「どういうことだよ」
もうすっかりカミリアの話を信じてしまっているフレアは、穏やかながらも怒りをたたえた姉の様子に恐れをいだきつつ、尋ねた。
「最大の理由は、バレンシアの家の牛の使い方です。先程の冒険者に毒を盛ったのはその最たる例。だけど、他にもバレンシアの家は許せないことをしている。わたしの誇りを傷つけているんです」
「お、おい。あんまりそういうこと言うな。うちの家は……」
名門たるバレンシア家は庶民を守り導く。
尊敬こそされ、恨まれるなんてありえない。そう思っていた。
なのに目の前の女は、姉は違うと言う。
「ちょうどフレアが産まれた頃のこと。うちの牧場が、少しだけ経営が厳しかったことがありました。家族みんなで切り詰めれば耐えられたかもしれないけど、やはり辛い時期。子供がひとり増えたため、なおさらでした。……その時にうちに声をかけたのが、バレンシア家です。隠居したあなたのおじいさん」
「おじいちゃん……?」
「先代当主です。彼はうちに資金援助を申し出ました。その対価とさてふたつの事を要求しました。ひとつは、バレンシア家と、そこから繋がり城と懇意にしている宿屋に優先的に牛の肉や乳製品を供給すること」
だからカミリアの家は、バレンシア家と契約してると言っていたのか。
それから、まさか。
「なあ。もうひとつは」
「当時産まれたばかりで、魔法の才の鱗片を見せていた赤ちゃん。フレア、あなたを養子として引き取るというのが、もうひとつの対価でした。……両親は、その方がフレアが幸せになると思い、了承しました」
庶民の出の魔法使いが名門に養子に取られるのは普通のこと。喜ぶ親も多い。
だから生活が貧しい家に手を差し伸べる条件として、成立しているかも怪しくはある。
だけど同時に、フレアの祖父はフレアを金で買ったとも言える。
「両親は納得しています。フレアもさっきまでは何も知らず、お金持ちの生活を楽しんでいました。……ちょっとだけ、過激な遊びもしてたようですけど」
ブレイズのブレスレットを見せながら、カミリアは少しだけ笑い、続ける。
「とにかく、わたしが本当のことを話さなければ、フレアは幸せなままでした」
「そ、そうだよな。だってアタシ、こんなこと知りたく……」
本当に知りたくなかったのだろうか。真実を知って、少しだけ安堵したのではないだろうか。
親やきょうだいと違って魔力量が少ないのは、名門から産まれたのではなかったから。庶民の親から偶然に生まれたから。
名門の落ちこぼれなんかじゃない。ちゃんと理由があった。
「そっか。そういうことだったんだ……」
知ってよかった。フレアはこの時、完全にそう思い直した。
そしてカミリアは、そんなフレアの頭を優しく撫でる。
「真実を知って戸惑う気持ちはよくわかります。それでわたしを恨んだとしても、それは仕方ないこと。でもフレア。もしよかったらだけど、協力してほしいことがあります」
「協力……?」
「お金持ちの家の子になったあなたに、こんなことをお願いするのは奇妙かもしれません。だけど今なら少しは考えてもらえると思います。……あなたの養父を含めたお金持ちの非道を正したいの」
「非道……それは、客人の料理に毒を仕込んだり……あたしみたいな庶民の出の子供を金持ちに売るとかのことか?」
先程までの会話で知った、自分の家の悪事。それを知らされて、フレアも黙っているわけにはいかなくなった。
お願いしてきたのが、自分の実の姉だというのもある。
けれど姉の希望を聞いてしまえば、フレアは今の家族と対立するわけで。簡単に了承できることでもなかった。
「アタシは……」
「いきなり言われても戸惑いますよね。わかります。わたしとしては、さっきあなたが暴れていた、燃える力がほしいのですけど」
「魔法少女ブレイズの力が?」
「そう言うんですね。それです。魔法少女ブレイズの力を活用したい。……今日は帰ってもいいですよ。お返事は、また今度聞かせてくださいな」
相変わらずの優しい笑みと共に、カミリアはブレスレットをフレアに返した。
解放してくれるってことだろうか。
「で、でも。ええっと、カミリアさん……姉さん?」
「お好きな呼び方でいいですよ。突然のことで慣れていないでしょうし」
「じゃあ、姉さん。アタシ、突然のことすぎて何をすればいいのか、本当にわからないんだ」
「すぐに答えを出す必要はありません。フレアのしたいようにしてください。なにがあっても、わたしはフレアの味方ですから」
街のはずれの方向へ向かうカミリアの馬車を、フレアは黙って見送ることしかできなかった。




