2-22 暗闇の中、ヒラヒラ
事実、ブレイズは自分の能力でルミナスの攻撃を防ぐのは困難と悟ったらしい。
そして防御が難しいなら、積極的に攻撃して一気に畳み掛ける。そんな発想に至るのは当然な性格をしているわけで。
「喰らえ!」
昨夜のように火柱をルミナスの方に放ちながら、地面を蹴ってルミナスに急接近。
火柱を盾で防ぐルミナスに向けて、蹴りを放つ。足を炎で覆ったキックだった。
「くっ! 思ったより強い……」
魔法少女になったために脚力も強化されているのか、蹴りを盾で受け止めたルミナスは後方によろめく。
ブレイズはその隙を逃さず盾を再度蹴る。ルミナスの手から、ついに盾が弾き飛ばされた。
「ギル! 下がって!」
そう言いながらルミナスは僕の手を引いて後ろへ飛ぶ。その眼前をブレイズの回し蹴りが通過する。
「熱いなあもう!」
悪態つきながら、ルミナスは手に太い槍を作り出す。
これをブレイズに向けて突くのではなく、ブレイズがさらなる横凪ぎの蹴りをする直前に地面に突き立てた。
固い杭となったそれに、ブレイズは思いっきり向こう脛をぶつけてしまった。ああ、これは痛いやつだ。
「つぅぅ……ふざけやがって!」
一瞬だけ足を抑えて屈んだブレイズだけど、すぐに立ち上がって反撃に出る。
今度は拳に炎を纏って殴りかかる。
ルミナスは槍を抜いてこれを両手に持ち、その柄でブレイズの拳を受け止めた。
それは成功したけど、ブレイズのちから任せの拳の威力は高く、ルミナスはそのまま後方によろけて、勢いで門の外に出てしまった。ブレイズはそれを追いかける。
周りには大勢の牛がいた。
バレンシアの屋敷を襲おうとした牛もいるのだろうけど、唐突に門から転げ出てきたふたりの少女を見て動きを止めた。あと僕も出てきたし。
「なんだこいつらは……どんだけいるんだ」
「親玉を殺さない限り、どんどん出てくるよー。だから今はほら、わたしたち戦ってる場合じゃないんだよね。この牛を止めて親玉を探さないと。……まあ、ブレイズと戦いたい気持ちはあるけど」
「気が合うな。この牛共をぶっ殺したいのは間違いねぇが、まずはお前からだ!」
ああもう。ブレイズってば完全に目的を見失っている。ルミナスを倒すことしか頭にない。
ルミナスは冷静だけど、それ故にブレイズを止めなきゃ他の行動はできないと悟っている様子。
目の前の燃える少女は、力ずくで打ち倒さないと止まらない。
両者は睨み合いながら、次の攻撃に移るべく構えていた。ブレイズは拳に炎をまとわせて、ルミナスを狙っていた。
僕はそんなふたりを、少し離れた箇所で見つめていた。ルミナスになにかあればすぐに動けるように。
そして、あることに気づいた。
「ねえ。ふたりとも。周りを見て。牛の様子がおかしい」
「え? なに? ……なんだろこれ」
牛の様子がおかしいのは、見た目の問題ではない。頭部が異様に大きかったり口が裂けてたり、牛とわかるが奇妙な形をしている生物たちの特徴は同じだ。
問題は行動。なぜか興奮しているように見える。魔法少女たちを睨みながら鼻息を荒くしている。
そして地面を足で踏みしめ、今にも襲いかかろうとしてる様子だ。
牛はルミナスたちというよりは、ブレイズただひとりだけを見ているように思えた。
その理由も、おぼろげながらわかった気がした。
「牛は色を認識しないけど、ヒラヒラ動くものを見ると興奮する」
「え? ギルなにを」
「ヒカリが昨日言ってたこと! 牛はブレイズの姿に興奮してるんだ!」
色は認識しなくても、光の明るさはわかる。
この闇夜の中で、炎を掲げているブレイズの姿はひときわ目立つはず。
炎の見た目は布とは違っていても、ヒラヒラと動いているのは変わらない。
それにブレイズの格好も、少しの動きや風が吹けば揺れるものだし。
そうでなくても牛のミーレスたちは、人を襲い殺すのに特化した動物。ブレイズに襲いかかることに、なんの抵抗もない。
ルミナスもすぐにその事実に思い至ったらしい。
「ブレイズ! 庭に戻って! 囲まれた状態は危ない!」
「へ? お前、なにを言って――」
ルミナスの警告を理解していないブレイズが間の抜けた返答をするのと、周囲の牛がブレイズの方へ殺到するのは同時だった。
「ギル! わたしの近くにいて! あと盾を持ってて!」
「わかった! ブレイズは助けられる!?」
「わからない! ブレイズ次第!」
ルミナスは最初に、進路上に自分や僕がいる牛から光の矢で殺していった。
ブレイズを守る意志はありつつ、自分たちが優先なのは当然。
ブレイズだって状況は認識しているはず。
迫る牛の一体に対して巨大な火球を放つ。鼻先にぶつかったそれに、牛の怪物はひるむ様子を見せる。顔も焦げたというか、火傷を負ったはず。
だけど止まらなかった。
「ああクソ! ムカつくな!」
止まらない牛に対して火柱を放つ。
それは牛の体を焼いて香ばしい匂いをたてながら絶命。力なく崩れ落ちながらも、牛は惰性で石畳の通り滑りながらブレイズに近づいた。
このぶんならブレイズに到達する前に止まるだろうけど。
けれどその牛の死体を飛び越え、新しい単眼の牛がブレイズに迫った。




