第九百二話 説得成功
「そうだ……ね、わかった。そうさせてもらおう」
まずウルトさんがそう言ってくれた。情動に訴えるのもいいけど、今回は数字で示した方が説得として効果的だったみたいだ。
「私は絶対安静かぁ」
「そうです! 自分のためじゃなくて子供のためですよ」
「自分のためじゃなくて子供のために戦わない……ね」
何か考えているようなそぶりを見せながら、パラスナさんは自分のまだ出ていないお腹をさすった。そして何も言わずにウルトさんにもたれかかる。
「パラスナ?」
「………私、子育てうまくできるかなぁ」
「パラスナだけがするんじゃなくて、俺とパラスナでその子を育てるんだ。一緒に頑張ろうよ」
「うん」
パラスナさんは耳をヒョコヒョコさせ、微笑む。
このやり取りだけを見てると、なんだかショーとリルちゃんを見てるみたいだ。奴隷解放に貢献した二人だし、どっちかがリルちゃんに似た境遇だったとかありえるかもしれない。 だとしたら獣人を隠していたパラスナさんだけど、ま、余計な考察は良くないね。
「すごーく不安だったら、すでに子供を産んでいるお母さん達に訊けばいいんですよ!」
「そうね。知り合いに子持ちの人いるし、そうしようかしら」
なんなら、うちの両親を出動させたって良い。科学的や生物的な観点から見て教えてくれるだろう。もちろん普通の子育て方法も。
なんなら、ウルトさんもパラスナさんも世間的に偉い人という環境だし、二人ともが会社の会長であるミカのおじさんとおばさんの方が良かったり、健康な子に育てたかったらショーの両親もありだね。
「もしアドバイスがたくさん欲しかったらボクも知り合いにあたりますので」
「ありがとう」
うん、質問し始めた時より二人とも切羽詰まったような表情をしていない! 説得とアドバイス、どっちも大成功だね。
「あはは……色々報告したかっただけなのに、どうすればいいかまで教えてもらったよパラスナ」
「そうね、私も決めた。このお腹の子が生まれて、ある程度成長しきるまで冒険者のようなハードな仕事はしないわ。それが一番だから」
うんうん、それが一番。
というより、どうせ二人とも冒険者をしてきて貯めたお金と宿屋経営の収入があるだろうしそもそも働かなくてもいいんだもんね。
「重ね重ねありがとう。アリムちゃん、ミカちゃん。訪ねて見て良かった」
「いえいえ、このくらい。あ、赤ん坊が生まれたらそのための用品たくさん贈りますね」
「アリムちゃん製のゆりかごとか? すごく質が良さそうだね」
「相談したいことがあったら、また遠慮なしに来てください」
「そうさせてもらうわ、ミカちゃん」
二人はスクッと立ち上がった。話も終わったしそろそろ帰るみたいだ。時間を見たらすでに1時間経ってたし。
「それじゃあ、長居しても悪いからそろそろ帰るよ」
「わかりました! では」
「またね」
俺とミカで買える二人を門前まで見送る。屋敷をそれなりに離れてから二人は普通のカップルと同じように腕を組んで歩き始める。ウルトさんもパラスナさんも変装してるから堂々とベタついてるねぇ……。
俺たちのステータス補正がかかった視力でも見えなくなったため、自分たちの部屋に戻った。その途端、ミカが日本での姿に戻りながらベッドの上にダイブ。そこでゴロゴロと体を駄々っ子のように動かし始めた。
「欲しい! 私も有夢との赤ちゃん欲しい! ほーしーいー!」
正直、そんなこと言い始めると思ってたよ。できるならば俺だって欲しい。でもまだ高校生だし、地球で俺がミカとその子供を養っていくのは……最近収入はいい感じに入ってるとはいえ安定しないものだから不安しかない。
「まあまあ、俺たちもあの二人くらいの年齢になったら、きっとね」
「今からじゃダメ?」
「ダメー」
「有夢も子供も私が養うから!」
「もっとダメー。俺にだって夫としての威厳があるんですぅー」
「やだ……もう、夫なんてっ……えへへへへへへ」
情緒が安定していない。
あの二人への羨ましさのあまり、おかしくなっちゃってるんだ。でも可愛い。
「へへ……あ、有夢、ところでさ」
「うん?」
急にミカが正気になった。いや、目は虚ろだ。これはきっととんでもないことを言いだすぞ。
「今って私が嫌な予感するから心の準備なりしておこうって言ってた期間じゃない」
「その初日だね」
「そう、初日よ。そんな大事な初日から悪いんだけどさ……」
ベッドから降りて俺のところにスタスタと歩いてくる。そしてひしと抱きついてきた。わざと身体の女性的な部分を当てるように。つまりそう言うことだろう。
「今はお昼」
「お昼から夜まで!」
「正気?」
「正気ならこんなこと言わな……言うわね、有夢大好きだし」
そう言われたら仕方ない。俺の根負けだ。




