閑話 叶に抱きつきたいだけ
「うーん……」
私は悩んでいた。
かにゃたに胸を直に触らせてからというもの、なんだかやっぱり少しだけ関係がぎこちなくなった気がする。
キスだってしてるし、ちゃんとお話しもするし、手だって繋ぐけどあんまり抱きつかせてくれなくなった。
そりゃあれだけ血を吹き出すかもしれないと思うと怖いわよね。でも……こればっかりはどうにかしないと、私と叶の今後に関わる気がする。
単に私が叶に思いっきり甘えたいってのもあるけれど。
「どうしたの? 桜」
「なんでもないの」
多分だけど叶は自分が私のハグを避けてることに気がついてないのよね。今しようとしたんだけど……瞬間移動かなにかで数ミリだけズラして躱してる。
もうこうなったらリルちゃんに提案してもらった水着シーズンに水着姿を見せてあげるっていう案にかけるしかない。でも、夏までかにゃたにまともに抱きつけないのも絶対やだ。
そういうわけだから、私の下着姿を叶に今から見せつけるしかない。
でも、でもよ?
私自身がかにゃたに抱きつきたいがために、嫌がってるかにゃたに下着姿を見せつけるだなんて不潔じゃないかな?
それに付き合う前はちょっと肌を露出した服装をしただけであれだけ怒ったってのに今更自分から見せるだなんて……虫が良すぎるよね。
「はぁ……」
「どうかしたの? さっきから変だよ」
「うん…え…へ」
抱きつかせてくれなかったけど、頭を撫でてくれた。
頭を撫でてくれるのは嬉しいんだけど、やっぱりこれじゃないっていうか……。
もう一度だけ抱きつこうとしてみた。やっぱり確かに触ることができていたはずなのに虚無を掴んだ感覚というか。
「うぅ……」
「んー?」
私が抱きつこうとしたことすら気がついてない。ほ、ほんとに無意識でやってるんだ。
じょあ……そうよ、私から抱きつこうとするのがいけないんだわ。もう2日は寝てる時も含めて抱きついてないから何とかしなきゃいけない……手っ取り早く叶に抱きしめてってお願いすれば実行してくれるハズ!
「ね、ねぇかにゃた」
「なに?」
「ナデナデだけじゃなくて……抱きしめて欲しいの」
「そういえば最近抱きしめてこないよね……ま、まああれだけのことがあったら仕方ないけど。桜がそう言うならわかった」
叶は私の手を引っ張り、自分の元に抱き寄せて……やっとギュッと……!
「あれ?」
「えっ……」
叶が抱きしめる瞬間、なぜか私は叶の腕の外にいた。確実に飛ばされたんだ。
「何で今能力が……。も、もう一度ギュッてするから待っててね桜!」
「う、うん!」
叶は私を抱きしめようと近づいてくる。そしてやっと抱きしめることができる範囲に入ったと思ったら……また私が範囲外へと無理やり移動させられた。
大好きな叶に故意じゃなかったとしてもここまで避けられたら流石に泣きたくなってくる。
「うっ……ぐすん……」
「ごめん、ごめんね! そう、そうだ…ステータスを切れば…よし。いくよ」
叶は三度目の正直と言わないばかりに思いっきり私を抱きしめてくれる。今度はちゃんと腕の中に。
暖かくて柔かくて頼もしくて……ああ、最高。
「ふぅ……よかっブッ!?」
「か、かにゃた!?」
叶の鼻から鼻血が垂れてきた。
やっぱり免疫がいろいろ低下してるみたい。全ては私の胸が悪いのかな? でも大きくすることはできてもしぼめることなんてできないし…….。
「だめだ……やっぱりあの日から……」
「こ、これから徐々に慣らしていこうねって私言ったじゃない……このままだとなにも実行できない……」
「そうだ、むしろ悪化してる。やっぱり慣らすしかないのかな。でも桜に恥ずかしいことはさせたくないし……」
真面目な顔でそう言うかにゃた。
おそらく、私の恥ずかしがり方は昔のままなんだって叶の中で認識されてるんだと思う。正直な話、私はだんだんとお姉ちゃんに性格が似てきている。
……大好きな人に限っては、裸を見られたりしても……許せるというか……。
「でも私はね、叶」
「ん?」
「や、約束の時になっても……大人なことできない方が問題なの。このままだと無理じゃない」
「うん……」
「だからやっぱり、少しずつ慣らしてこ?」
「そうだね、頑張る」
近くにあったティッシュを鼻に詰めながら、叶は決意したような顔で私をもう一度抱きしめてくれる。
今日もなにも変化がなかったら下着姿を見せようかなんて考えていたけれどその心配はなかったっぽい。
それで結果オーライなはずなんだけど、どうして少し残念な気持ちするんだろ。
「もしかして最近抱きついてこなかったのって、あの時のことを恥ずかしがっていたんじゃなくて、俺から避けてた?」
「う、うん。実は。お陰で夜寝てる最中も最近は……」
「そうなんだ……ほんとにごめんね?」
かにゃたは私の背中をさする。
私はより強く抱きつく。わざとじゃない、つい嬉しくて身体が勝手に。すると叶は新たに鼻血が……。




