第八百七十二話 森林浴 (翔)
「森林浴だよー」
「おう」
昨晩は何があったか……振り返るまでもない。またリルという誘惑に勝てなかっただけの話だ。リルは昨日に引き続き上機嫌でいる。今日は約束通り森を歩くツアーに参加して森林浴だ。
起きて着替えて朝食を食って、その他諸々の準備をしたら早速昨日の案内所へと向かい、そして説明を聞きながら申請をした。
森を歩くには大人数で団体になって行く必要はなく、1人から6人のまとまりに着き一人、案内人が同行して行くらしい。だから地球のツアーみたいに大人数申し込み出なくてもいい。そして案内人はだいたい元冒険者なのだとか。
「それでは私が担当させていただきます」
「わふ、よろしく!」
「よろしくお願いします」
俺たちの案内人についたのは耳が尖ってるからエルフか……いや、目の色がエルフ特有のものではないから、おそらくハーフなんだろう。ともかくハーフエルフの女の人だ。おーすっげー美人。リルほどじゃないけど。
一応、名前を呼ぶときはなんて呼べばいいか聞いたが、「案内人」でいいらしい。
「むっ……」
「わふぅ? どうかしたの?」
「いえ、なんでも」
リルのことをじっと見てから顔をしかめる。獣人が嫌いというわけではなく、自分の胸とリルの胸を交互に見てから顔をしかめていることから、どうやらあの大きさに嫉妬してるみたいだ。
たしかに案内人さんは大きくねーな、うん。
「それでは参りましょう」
森の観光コースの入り口から俺たちは進んで行く。
しかし、ほんとに豊富な木々が生い茂ってるな。ちょっとでも鑑定スキルを開いたら一気に情報が飛び込んできて、頭が痛くなりそうだぜ。
「この森の木々の樹齢の平均はおおよそ250年と言われています」
「わふー、すごいね! じゃあもしかしたら魔神と勇者や賢者の戦いが起こった時代を生き抜いてるのかもしれないんだね?」
「そうですね、平均して250年といっても、まだ10年程度のものから1000年は経っているものもあるので、中には2、3度歴史的瞬間を経験してるかもしれません」
1000年つったら途方も無い時間だよな。アムリタとかもあるし、地球とアナズムの時間差異もあるしで、合計200~300年は俺たちは生きていられる状況にあるわけだが、1000年は流石にやばい。
もっと言えば200年とか300年も生きる必要はないと思うが。まぁ……あれだな、リルがずっと一緒にいたいとか言い出したら飽きるまで付き合うだけだ。
と、そんなこと考えている間にどんどん進んでいっているな。ちょっと説明聞いたりしてなかったが……まあリルが楽しむために参加したんだし、俺はほどほどに耳を傾ける程度でいいだろう。
「あれ、なんだと思います?」
「わふぇー? あっ、村で飲んだ実が生えてるね」
「そうです、私たちの村の名産であるあの木の実はこの木から生えてくるんです」
すごいな、形がヤシの実だから同じように生えてるかと思いきや、林檎のように成ってるんだな。
「時期になったら落ちてくるんです」
「危なくない?」
「危ないですよ。でも美味しいです。……お」
そういってる最中にあの実が二つ、上から落ちてきた。
もう少しで俺の頭に当たるとこだったぜ……目の前、スレスレに二つとも落ちてきたからいいけどよ。
「ショー危ない……」
「びっくりしたぁ……」
「お怪我が無いようで何より。そうだ、もし案内中に木の実が落ちてきたら差し上げても良いことになってるんです。……飲みますか?」
「是非お願いするよ」
案内人はそこそこ慣れた手つきで実に穴を開けストローのようなものを指すと、それぞれ俺とリルに手渡してきた。
「飲みながら歩きましょう。実は自然物なので飲み終わったらそこらへんに捨てていただいて結構です」
再び歩き始める俺たち。
木の実がもらえたことは最終的にはラッキーか。頭にぶつかってたらほんとに危なかったけどな。
「そういえばお二人はどこから? フエンさんは、このメフィラド王国ではあまり見ない獣人のようですし、ヒノさんも黒髪黒目だなんて珍しい……」
この案内を依頼するときに名前とかは教えてある。雑談もするんだな。たしかに旅行の醍醐味ではあるけど。
「わふ、私は白狼族だよ。エグドラシル神樹国から来たんだ。ショーはもっと遠くから来てるんだよ」
「訳あって場所は言えねーけどな」
「そうでしたか。でも、獣人でエグドラシル神樹国って……」
案内人の顔が青ざめつつ引きつっている。仕方ない、やっぱりあの国は異族に関しての奴隷扱いが酷かった国だからな。こんな城下町から離れている村でも、それがどの程度か知ってるくらいに酷い。
「色々あって、私が彼に引き取られて……そこから恋が芽生えて今に至るのさ。メフィラド王国には弊害から逃れるためにやって引っ越して来た感じかな」
「何か凄くロマンチックな感じがします」
「そうだね、実際ショーとの出会いはロマンチックかもね」
そう言うとリルは嬉しそうに腕に抱きついてくる。
幸せそうだ。何も言うことはねーよ。




