第八百七十話 旅行 2 (翔)
長いようで短かった馬車での移動も終わった。正直、いつもあの屋敷でやっていることと大差はないような気がしたが。帰りも同じ会社(?)に頼んだが、こうなるんだろうか。
「ついたー、わっふっふ」
「1日馬車ってのもなかなかキツイものだな」
「そうかい?」
リルが上機嫌だ。
たしかに娯楽目的でお互いが全く知らない場所に来るってのも初めてだし、テンションが高くなるのも仕方ないかもしれない。……こいつの場合はまた別の理由がありそうだが。
「到着いたしました。昨日はお楽しみでしたか?」
もしかしたら置いてあった箱が少し動いてるとかで判断したのかもしれない。着いたことを伝えにきた御手がそう言ってきた。確かにまぁ……うん、言う通りではあるが……ものすごく余計なお世話だ……。
とりあえず俺たちは馬車から降り、村の入り口へと足を踏み入れる。
「さー、ショー! 中へ行こうじゃないか!」
「おう、そうだな」
俺たちが旅行しにきたこの村。
なんでもここは純正エルフとエルフのハーフが沢山いる村なんだとか。森の中にあり大木にツリーハウスを構えていたり、珍しい果物がわんさか採れたりするらしい。
村の入り口で手続きを済ませ(受付は男性だったがエルフだったからイケメンだったぜ)、満を持して村の中へ。
「まずは宿を探そう」
「わふぇ、そうだね!」
そこらへんを歩いていた、昔はすごくイケメンだったであろうエルフの老人に、俺たちは調べておいた宿の場所を聞くことに。
「すいません、この村の宿で、おおきな木が目印だとかいうのを探してるのですが……」
「ああ、旅行客かね? おおきな木ばっかりでわからなくなったか。その宿なら多分、アレじゃな」
おじいさんが指差したのは一つの大木。上にはツリーハウスらしきものが乗っかっているが、しかしよくみると、大木の幹からも光がところどころあふれていた。まさか。
「はははは、大木が目印なのではなくて、大木自身が宿なのじゃよ」
「そ、そうでしたか! ありがとうございます!」
普通、エルフは他の種族を嫌うらしい。が、このメフィラド国は昔からエルフを優遇しているらしく普通に馴染んでる。そもそも城下町にも結構出歩いてるから、本来なら珍しい種族らしいが、メフィラド国民にとってはそうでもない。
ともかくおじいさんに御礼を言いつつ、俺とリルはその宿屋へ。この村はここともう一つ宿屋があり、一般層向けか富裕層向けかで別れている。俺たちは恥ずかしながら後者。普段金を使わなくていいのは有夢のおかげだがな。
宿の受付の人も耳がとんがってて美人だった。エルフってのはやっぱりすごいな。
「いらっしゃいませ」
「二人用の部屋を部屋を一部屋お願いしたいのですが」
「承知しました。シルバー、ゴールド、プラチナとクラスが3つ有ります。プラチナクラスは一部屋しかないのですが……。シルバー、ゴールドには2人用のお部屋がございますね。どちらにしますか?」
俺とリルは相談。せっかくの旅行だし豪華なゴールドクラスをお願いしようということに決め、それを頼んだ。
早速準備がされ、部屋へ案内される。
さすがは一泊一人1万8000ベル。日本円にして18万円だな。かなり高い場所にあり、木がくり抜かれたような部屋になっていて……ナチュラルテイストというものを極めた感じだ。
「ではごゆっくり」
そう言って店のスタッフはいなくなった。リルは部屋の中で荷物を降ろしながら花をすんすん鳴らしていた。
「どうした」
「やっぱり、自然の香りというか木の香りは素晴らしいね」
「この匂いが好きだったか? 確かに風呂の入浴剤はよくヒノキの香りとかだよな」
「一時期木や土だけが友達の時期があったからね。……一番好きなのはショーのにおいだよ」
「お、おう」
こちらに近づき、抱きついてきた。
というよりは匂いをかいでいるようだ。普段の生活からはあまりわからないが、やっぱ元が犬……狼だからか匂いには結構こだわりがあったりする。
食べ物の好き嫌いもにおいで決めてるしな。
「ふー、リラックスできるよぅ……」
「よかったな」
「ここはいいよ……ほんとに。木の中がこんなにいいものだなんて」
「たしかにな」
しかしゴールドクラスでこの木の中ってことは、頂上にあったログハウスがプラチナクラスなんだろうか。
プラチナクラスはゴールドクラスの4倍くらいの値段だった。余裕で泊まれるとわかっていても、その値段に戦慄するものだぜ。
「いつから村を見て回る?」
「1時間くらい休んだら行こう。ここは……純粋な地球出身である俺ですらワクワクしてくんな。探したら案外アナズムも娯楽に富んでるのかも」
「どうだろうね。ゲームはないけどね。チェスやジェンガ、リバーシですらあゆちゃんが持ってくるまで無かったんだから」
「まあな」
でももっと旅行を試してみるのもいいかも知んねーな。




