第八百五十七話 王国観光初日終了 (叶・桜)
「まんぞく……」
「満足そうな顔してないけど、大丈夫? 食べ過ぎてお腹痛くなったとか?」
夕飯時になって宿に帰って来た二人。
桜は未だに踊りを見た後で考えたことが、頭の中をぐるぐると回っていた。
甘いものを食べるときだけそれに集中して忘れ、食べ終わったらまたすぐに悩みだす、というのを続けていたのだった。
「お腹は痛くない」
「そっか、でもパイナップルジュース飲んだ後あたりから不機嫌だよね?」
「不機嫌ではないから大丈夫よ。ちょっと考え事してるだけ」
そう言って桜は叶のことを抱きしめた。急に抱きしめられた叶は一瞬だけ驚きつつも、頭を撫でて返事をする。
「それに今日はやけに甘えるね」
「そういう日もあるわよ」
「そっか」
ただ自分の胸を押しつけるように桜に抱きつかれ続ける叶。叶も頭を撫で続けながらさらに状況を把握するため、質問をし始めた。
「なにか悩むようなことがあったらさ、相談してよ。俺と桜はそういう仲でしょ?」
そう言うと、桜の様子が変わった。
「あっ、うん……! その、ごめん、ちょっと気になったことがあるの」
「なにかな?」
桜は抱擁を緩め、叶の顔を見た。その頬は少しだけ赤くなっている。それが暑さのためではないということは、叶にはすぐにわかった。
桜は恥ずかしげに言葉を紡いだ。
「……か、かにゃたってさ、男よね?」
「当たり前でしょ」
「だ、だよね」
桜は目をキョロキョロさせている。
「それで?」
「あ、あの……男の人って私たちぐらいの年齢から異性の裸により過剰に反応するようになって……じ、自慰行為とかする人も出てくるじゃない?」
「ま、人によっちゃしてるようだね、俺はしないけど。それでつまり……なにが言いたいの?」
「つまりね? かにゃたは女の人の裸に興味あるのかなって……私のを見てもそんなに動揺しているようには見えなかったし」
なぜそんな質問を抱いていたのか、叶にはさっぱりわからなかったし、さらに前の旅行の時に桜の裸を見てしまった本人の目の前でも動揺しまくっているつもりだった。
叶は返答を考える。
「まあ、あるかないかと言われれば、あるよ。一応ね」
「い、一応?」
「普通の男の人のそれよりは弱いってことだよ」
「そうなんだ……」
「うん、にいちゃんも父さんもそうだよ」
「えっ!?」
桜は驚愕の表情でいる。叶にはなぜ驚いているのかははじめ、分からなかったが、桜が続けた質問で理解することができた。
「だって、特にあゆにぃなんて、お姉ちゃんとあんなべったりなのに……」
「自分の好きな人は例外なんだよ。ふふふ、浮気ができない体質だよね。だから安心してね」
「な、なんだぁ……よかった!」
ホッとため息をつく桜。
何か困ったような表情はすっかりと消えていた。
「いやぁ……ダンスのお姉さん達に釘付けだったから興味あるのかな、やっぱり……って思ったのよね」
「ああ、違うよあれは。伝統的な踊りなのに男性集めに使われてたのがちょっと気に食わなかっただけさ。ほら、前に見たときは本当に凄かったから」
「なるほどね! あー、これでなっとく!」
「よかった、なにか悩みが晴れたみたいで嬉しいよ」
「えへへ、ご迷惑おかけしました。ところで私の裸見ても割と普通だったよね?」
スッキリとした顔の桜のその質問に、叶はどきりとする。長年連れそった桜はその反応を見逃さなかった。
「なぁに……? まさか私のも興味ないの?」
「ま、まさか!!」
「でもそんな大きな反応じゃなかった気がするし。あーでも一緒に寝てる時に前は逃げようとしたりしたから意識はしてくれてるのかな……?」
「違う……違うんだよ……」
今度は叶が顔を真っ赤にする。叶がこれから照れるようなことを言う前兆だと桜は悟った。
「興味はある! でも、感情を押し殺してるだけなんだよ。あのあと酷かったんだから」
「ど、どんな風に?」
「言わなきゃダメ? 想像より酷いと思うよ」
「う、ううん、じゃあいいよ」
桜のこのあとの考えとしては、もし興味が本格的に内容だったら踊り子達と同じ格好をして突撃するつもりだった。しかし反応をみてそれが必要ないことがわかった。
「なんかごめんね、心配させた上に疑っちゃって」
「いいよ。俺も無理に押し殺すのはダメだって今回で学んだ」
「だって……結婚するっていうのに興味ないんだったら……赤ちゃんとか欲しくなったらすごく困るな……って思って。本当にごめんね?」
桜は再び抱きつき、叶は頭を撫でる。この件はこれで一件落着。喧嘩になることもなにもなく終われたのだった。
本来ならば桜は下着姿の一つでも見せる覚悟はあったのだが、それをしなくて済むなら恥ずかしいので、せずに済ませたかったようである。
そのあとは宿屋の主人に頼んでおいたデザートたっぷりの夕飯を食べ、豪華な風呂にそれぞれ入り、一緒のベッドで抱きつき合いながら眠ったのだった。




