第八百四十六話 余計な忙しさ (翔)
「疲れた」
「わふー、わかるよ」
人生初の俺メインのテレビ収録をして、これで面倒なことがひとつ終わったと思ってた矢先に何故かテレビ局に向かって小型の隕石が落ちてきやがった。
MCを務めていたお笑いコンビ、『ハヤシライス』の下川さんに楽屋に呼ばれ、そこで叶君と桜ちゃんを中心に話をしたのは良かった。全員分のサインとかも貰えたしな。
そのあと流石の叶君と桜ちゃん人気で人が集まり、テラスの方に移動して……ああなった。
あの階層にあれだけの有名人が居たんだ、俺たちが居なかったらどうなってたかと思うとゾッとする。
逆に考えれば、俺達が呼び寄せちまったのかもしれねー。その可能性も捨てきれないよな。
「ショー、早く寝ようよ。明日は詳細を説明しなきゃいけないんだよ」
「そう……だな」
マジでめんどくせーが、そうも言ってられない。監視カメラが生きてただけでもまだ説明が楽な方だろう。
叶君にも苦労かけさせちまうな。なまじ歳上である俺らなんかよりもよっぽど事の顛末をうまく話せるからな、あの子は。
「それにしても明日は日曜日だね。……本当ならおやすみさ」
「ああ、明日は今日の疲れを取る予定でいたんだがな。ま、デートの用事がないだけマシか。一日中寝るだけのつもりだったし」
「そうだね」
もしデートの予定があったなら、俺よりも、リルがひどく落ち込んでいたことだろう。今疲れ切っている俺なんかより弱りきっていたに違いない。
……あー、くそ、マジで疲れた。
肉体的疲労じゃなくて精神的疲労だろう。一体撮影中に何回「イケメン」って言われた? 否定ぐらいさせてくれたっていいじゃねーか。そういうストレスが溜まってるんだな。
まあ、俺の彼女と俺の幼馴染達を超絶美人だと言ったことには同意するが。
リルの言う通り本当にさっさと寝よう。
「じゃ、もう寝るぜ。おやすみな、リル」
「わふ、寝なって言ったのは私だけど、ちょっと待って」
「あん?」
考えを改めたようにリルはそう言った。まだ寝て欲しくない事情でもあるのだろうか。
「えっとね……地球だけどさ、き、今日は一緒に寝ないかい?」
「マジで?」
「わふ。でも私と添い寝するのは疲れるのはわかってるんだ! でもこう言う状況なら逆に彼女と眠ることによって疲れが癒されるとか……ないかい?」
リルと添い寝したら疲れが癒される……!
癒されるだろうとも。リルと一緒に寝て癒されないはずがない。あくまで添い寝以上のことをしなければだが。
よし、決まりだ。かく言う俺も実はそろそろリルに本格的にも甘えてもらわないと物足りなかったんだ。
「よし、こいよ」
「わふーん!」
こいよ、と言ったはいいがリルは俺より先に俺の布団の中に潜ってくる。たまにこうして添い寝するが、いつも両親にバレないかどうかドキドキだ。
バレたところでなんて言われるかわからんが。
嬉しそうな顔をしながら、リルは俺が同じ布団の中に潜るのを待っていやがる。どう考えてもさっきの提案は俺のためだけでなく、リル自身の望みがデカイ。でもそれでいい。
俺は自分の布団に満を持して入った。
「わふー。抱きついてもいい?」
「ああ」
リルがぎゅっと俺のことを抱きしめる。このとても柔らかい感覚は久しぶりのような気がしてならない。
テレビに出ることが決まってからずっと、緊張からあまりリルには意識向けてなかったから……。もちろんその間にも幾度となく抱きつかれていたはずだし、アナズムでなら添い寝なんて毎日している。
「わふふ、……撮影はお疲れ様だよ」
そういやいつものことだから忘れてたが、抱きつかれてるからリルの顔は俺の顔のほぼ目の前にあるわけだ。そう、我が彼女ながら最高に可愛いリルの顔が。
こうしてしばらく離れて冷静になって考えるとなんつー幸せだろうか。胸が柔らかいのも含めて。
「ああ、ありがとな」
「説明も頑張ろうね。あ、特に私と叶君でしっかり説明するからね!」
「ああ、頭いい二人に期待してるぜ」
そういや、監視カメラの映像がしっかり残ってるのも叶君のおかげだったな。実はあの子、隕石が来てぶつかるとわかった瞬間に監視カメラに色々と耐性を付与させておいたらしい。
よくとっさにそんなこと考えつくもんだ。
芸能人の方々にはあのドキュメンタリーのことで終始会話の中心だったし、やっぱり叶君はすげーな。
「ねぇねぇ、ショー」
「ん?」
「明日、色々お話が終わって……アナズムに行ったら、私、ショーの疲労をねぎらうために色々するよ! 何かしてほしいことがあったら言ってね!」
「おう、じゃあまたいつも通りマッサージでも頼むかな」
「わふん! オーケーだよ!」
アナズムに行ったらたっぷりリルを甘やかそうな。2週間以上、俺のこと励まし続けてくれたわけだしよ。




