第八百三話 面倒な話 (翔)
「わふぇ……美味しかった」
「めっちゃ食ったな」
「うん……明日の朝ごはんまで何も食べられないよ」
そっと、リルの腹を撫でてみた。まあ、彼氏だから許されると思う。……やばいな、そうとう出てるなこりゃ。普段ほっそいからその分わかりやすいぜ。脱いだら絶対、腹(と胸)だけ出てるぞ。
「わふ……赤ちゃんできたかも」
嘘だろ、きちんといつも対策は……って、腹が出てる時に言うネタの定番だよな。
「お、おう。これだと三ヶ月くらいか」
「わーふ、名前何にしようか」
「まだ決めてねーよ」
リルが嬉しそうにふざけている。ふと、視線を感じた、剛田が俺のことをじーっと見ていた。
「な、なんだよ」
「お前……一瞬、顔色が変わったぞ」
「は、はあ? なんで、ネタだろこれ」
「まさかだと思うがお前、リルさんと……」
「わふー、ショー、やっぱり食べ過ぎは良くないようだね!」
「お、おう…そうだな!」
「……まあ、なんでもいいが」
あ、あぶねー。リルのおかげで助かったぜ。
いや、別に俺たちの年齢でするってのはおかしいことじゃないがな、アナズム関係者以外の知り合いには知られたくないからな。
「よし…もう2時間か! これでお開きだ! それぞれ金額用意しろよー、六人は俺が払うからなー」
「「ゴリセン、ごちそうさまです!」」
「お前ら二人ともも良く頑張ったな」
「ありがとうございます!」
「ごちそうさまっス!」
「剛田は本当によく活躍してくれた。星野も来年もしたいしてるからな」
それぞれがゴリセンに礼を言って行く。自分も合わせてかなり出させちまうことになるよな。
俺らもすぐに礼を言わなきゃな。
「すいません、ゴリセン」
「わふ、本当に私もいいんですか?」
「火野はもう言うことねぇよ! お前がナンバーワンだ。フエンさんも、俺が火野と約束したんだ、いいんだよ……あ、もっかい言うけど、あとで二人に話があるから残ってくれよ」
「わふ!」
会計が終わり、解散となった。
みんな満足そうな顔で暗くなった道を歩いて行く。どうやらカラオケに行くやつらとかもいるそうだ。
ゴリセンはそこんとこは口だけ注意して、特に厳しく取り締まったりはしなかった。
俺とリルとゴリセンは焼肉屋の店内に座れる場所があったので、そこに座らせてもらい、話をすることに。
「で、話ってなんです?」
「……あー、先に言っておく、すっごいめんどくさいぞ」
「わふ、めんどくさい……?」
申し訳なさそうな顔をしながらゴリセンはそう言う。
「……二人のクラスに佐奈田っていう異常に情報が早い子がいるだろ? 多分、そこらへんからもう情報は入ってるとは思うが火野、お前は今、世間の話題の一つだ」
「ええ、聞いてます。でもなんで俺がって感じで。高校生の柔道大会くらいでここまで騒がれませんよね、普通」
「お前まさか、自分が普通だと思ってるのか?」
「えっ」
ゴリセンはなんとも言えないような表情をしているぜ。いや、俺は割と……たしかに筋肉あるし、トラブルに巻き込まれやすくはあると思うが、それ以外は普通だぜ?
「……まず、優勝した。団体、個人のダブルで優勝だ。これはすごいことだな」
「ええ、まあ」
「あと、お前はエスカレーターで高校に上がってきたからあまり自覚ないかもしれないが、うちの高校は日本でも有数の進学校だ。……偏差値も全国で上から五番以内に必ずあるような」
「それもわかってます」
「……そこでお前は学年一位になったわけだ。ま、四人も一位いるがな」
「あ、はい」
たしかにそう捉えるとすごいのかもしれない。ああ、文武両道ってやつだ。俺らからしたらただ単に人より多くの時間と、人より恵まれた環境で勉強も柔道もこなしてきた結果なんだが。
有夢曰く、アナズムで大変な目にあったんだから、このくらいはやってもいいでしょ、とのこと。
「それで、まあ、普段こんなこと言わないが、はっきりこの際言ってしまおう。容姿も優れている。俺だけの判断じゃないぜ? まずお前を見た人は『おお、すごいあの子強そうでかっこいいですね』と言うのだ」
「だって! ショー!」
またでた。もうそらそろ、自分がカッコいいだとかイケメンだとか言われちまうからそう言う反応にした方がいいんじゃねーだろうか。てか、見た時からそう言われてるのか……。
「で、だ。なんと聞いた話じゃ、お前がいままでこの街でしてきた行いも一部情報を流通させているところでは把握されている」
「た、例えば!?」
「人命救助の回数とか……この街の不良が誰も手が出さない存在になってるとか」
「わふー、ショーやんちゃしてたらしいもんね?」
そんな言い方は語弊があるぞ!
路地裏で脅迫していた奴らがいたから注意したら、ナイフでこっち突っ込んできたから投げ飛ばしたら、そこら一体で一番強いやつだったとか、そんな偶然が重なっただけ!
「つまり、だ。俺が何が言いたいかと言うと……メディア、そう、テレビや新聞はこれほど素晴らしいネタになる学生に、まず食いつくって話だ」
「ま、まさか」
「そう、そのまさかだ」




