第五百八十話 ラブロングサーカス団
〈さあ、みんなで楽しもう! ここは愛に満ちている! ラブ、ラブ、ラブラブ、ラブラブ、ラブロングサーカス!〉
しばらくして俺たちにの元に頼んだジュースやお菓子が届けられてから十分後。
映画とか劇場とかで必ず鳴る、ブーーというブザー音がした。そして流れるこのサーカスのテーマソング。
「いよいよって感じだね!」
「楽しみだねぇ!」
俺と美花は椅子の肘置き越しに手を繋ぐ。ちなみに3組全員がそれぞれの想いの人と手を繋ぎ始めてるよ。まあ、これ実質トリプルデートだしね。
〈みなさん、愛が満ちるラブロングサーカス団へようこそ!〉
どこかのスピーカーから聞こえてくる女の人のナレーションの声。
〈近くから、遠くから、お越しいただき誠にありがとうございます! この2時間、愛に溢れた夢のような時間を楽しくお過ごし下さい!〉
舞台にヒョコヒョコしながら光夫さん…おっと、ピエロのロングハート君がタイヤのようなものを持ちながら出てきた。
〈ピエロのロングハート君が出てきましたよ! どうやら皆さんを歓迎するみたいです!〉
ロングハート君はタイヤをわざとらしく置き、舞台より客席全体を手を振りながら見渡した。
元々有名なだけあって、観客の熱気がすごいすごい。
かくいう美花も若干はしゃいでるみたいで、俺の手を強く握り、輝いてる目でステージを見てるみたい。
……って、俺は美花じゃなくてステージを見なきゃね。
せっかくサーカスを見に来たのに。
〈なになに、ロングハート君が、みなさまを歓迎するために、1芸披露します……? ですって! ではロングハート君でタイヤ乗りでーす!〉
まだ何もしてないけど拍手喝采。
光夫さん…じゃなくて、ロングハート君はタイヤを地面に置き、その上に乗った。
乗ったとともに(普通に考えたら当たり前だけど)前に顔から倒れてしまう。
タイヤは横に倒れ、ロングハート君は手足をパタパタさせて悔しそうにするの。それで指で『もう1回』とジェスチャーしながらまたタイヤを立てた。
そしてもう1回乗ろうとするも、また転んでしまう。
再び起き上がったロングハート君は悔しそうに地団駄を踏み、腕を組んで考える(フリをする)。
5秒ほどしてからピンボーンという効果音とともに何か閃いたようなそぶりを見せ、またタイヤを立てた。
そしてその上に立つ……のではなく、なんと倒立。
それはもう鮮やかで、一発で成功させてしまった。
「ふええ…すっごい!?」
「わふ、私でもできる気がしないよ…!」
「さすがサーカスって感じだな」
どう考えても立てたタイヤの上に倒立の方が難しい気がするけど…。
タイヤから降りたロングハート君は、ウンウンと満足そうに頷くと、今度はまたタイヤの上に足で乗ろうとした。
しかし、それは失敗する。
あれは成功しておいて、それは失敗するんだよ。
思わず吹いちゃった。
「うまく笑わすもんだね…ふふ」
「サーカスってこんなに楽しかったんだね、叶!」
「ん、まあ俺もほとんど初めてみたいなもんだけどね」
サーカスが初めての2人は本当に楽しそうに観てる。
あ、リルちゃんも子供も見たいにはしゃいで、翔にからんでるね。
「私たちが前に来た時よりクオリティ高くなったかしら」
「そんな10年前のこと詳しく覚えてないよ。でも…確かにそんな気はするよね」
ロングハート君は『あれぇ?』とでも言いたげに首を傾げ、そのタイヤを持ち上げ首にはめると、観客に向けて一礼し、舞台の奥へと去っていった。
〈ロングハート君は度々出て来ますからね! それではまず皆様に披露するのは『エアリアル』。上から垂れる布を操り、可憐に舞ってくれます!〉
宣言通りにこのテントの天井から布が降ってくる。
数名のバレエダンサーのような服装を身にまとった人々があらわれ、お辞儀をする。
証明がこのテント内を優美なものに変え、雰囲気を一変させたの。
それぞれが布に足を掛け、音楽が流れ始めると、スルスルと捲き上げながら登ってゆき始める。
「わふー、よく器用に登ってくね」
「リルはあれできそうか?」
「タイヤの上で倒立よりはまだ可能性あるけど、基本的に無理だよ。狼族も万能じゃないのさ」
「そうかそうか」
リルちゃんの運動神経がいくら人の道を外れてるからと言って(女子曰く体育がやばいらしい)、ああいう身体動かすこと全般なんでもできるわけじゃないんだね。
まあ当たり前か。
翔も運動神経化け物だけどサーカスみたいなことできないしね。
「むーん、サーカスって感じだね」
「そうだねぇ…」
布を降り、また登り、また降りることを繰り返す口径は確かに可憐だった。
さて、まだまだプログラムはあるはずだ。
楽しまなきゃ。




