第千九十六話 かたまり
「……だ、だめ!」
俺はゴブリンが今からしようとしていることを止めるために、足にガッシリとしがみついた。さっきまでほぼ無抵抗で殺され続けていたのに、美花のためだからかな、身体が簡単に動いてくれた。しかしゴブリンは俺に少しだけ目線を移した後、そのしがみついた方の足を振る。俺は勢よく吹き飛ばされた。木を何本か自分の体で折りながら遠くまで吹き飛ばされ、やがて生き絶える。そして再び元の場所で蘇った。
ゴブリンが美花の露わになってる胸を人差し指でフニフニと楽しそうにいじくり回しているのが目に入った。俺はもう一度止めようと近づいたが今度はしがみつく前に踏み潰される。
美花が囚われてから二度目の復活。ゴブリン、今度は美花のお腹あたりを愛おしそうになぞり、それから裏返しにしてお尻を向けさせると、それもさっきの胸と同じように大きな手で軽くつつく。背中をなぞり、また表に返して胸をいじる。そうしているうちに、美花が目をしました……というより、放心状態から正気に戻った。
「えっ……はっ……?」
「ギバ……」
「あっ……」
美花は俺の表情と、いやらしくヨダレを垂らしているゴブリン、そして自分の姿を見てこれから何をされるか察してしまったようだ。目に涙をため、自分の胸を必要に触り続ける指を押しのけようとしながら叫んだ。
「やめて……お願い、やめて!」
「ギ……?」
「お願い、お願い、やめて。わた、私は有夢のものなの、有夢だけのものなの! 体も心も全部。だ、だから、やめて……」
「ギババババ」
ゴブリンは笑った。アナズムと違って俺たち以外に人がいないので学習ができず、SSSランクの知能を持ってしても言葉は通じていないだろうけれど、必死なのは伝わったみたいだ。その上で、ゴブリンは笑った。
そしてゴブリンは美花の右手、右足、左手、左足を動かないようにするよう持ち方を変えた。股が開くような姿勢をとらせたんだ。
「いやっ……いやぁ、いやあああああ!」
「ギバ、ギババババババ!」
「美花ぁ……美花、美花ぁ……!」
「嫌だよっ、助けて有夢、助けてよ……! いやだ、こんなのいやだよ」
「ギバババババババ」
ゴブリンは俺と美花の悲痛な叫びを楽しんでいる。美花を浮かせたままわざわざ俺の前までやってきた。見せつけるかのように。
「あ、あああ、見ないで、有夢……見ないで……」
「うっ……うう……」
「やめてよ、こんなの、嫌だよ……殺さられる方がましだよ。まだ、そっちのが耐えられるから……やめて……嫌だ、殺して……」
「ギーバッ!」
そして、ゴブリンは美花を思い切り自分の男性の象徴へと押し付け……ようとしてギリギリでその手を止めた。目も虚ろだ。
「ギ……?」
「えっ……な、なに?」
「ギガ……ギア……?」
「きゃっ!」
ゴブリンは自分の手から美花を落とした。美花は拘束を逃れたんだ。
慌てて俺は美花の元へ駆け寄って抱きしめた。もちろん美花はすぐに俺を抱きしめ返した。でも、泣きじゃくったり慰めて欲しそうにしたりするわけでなく、フラフラと足取りがおかしくなったゴブリンを不思議そうに眺めている。
「た、助かったけど……なにこれ」
「美花……美花ぁ! ああ! ああああ、あ……か、間一髪だったよ、本当に良かった。よがっだよおおおおお!」
「え、えへへ」
「美花は俺のものだからね。絶対に許さないよ」
「あの……有夢が……やったの?」
「うん」
へへへ、どうやらやっと、形になってくれたみたい。俺と美花を前にして欲情し始めたから焦っちゃったけど本当に、ギリギリ間に合った。よかった、本当によかった。
「一体どうやっ……」
「ギァ……ギィギィ……ギアアアアアア!」
「うっ」
「あっ」
ゴブリンは、頭を抱えて暴れ始めた。その衝撃でまた俺と美花は死んでしまったようだ。さすがはSSSランク、のたうちまわるだけでも人間二人くらい即死させてしまうとは。
またまた復活した俺達。今度は死んだショックで放心することもなく、美花が質問の続きを聞いてくる。
「はぁはぁ……それで、あれは……?」
「頭抱えてるでしょ?」
「うん」
「あの魔物が人型だってわかってから、ずっと、脳みそに塊ができるよう血の流れを滞らせてたんだ。念術でね」
「まさか……おじさんの?」
「そう、お父さんの真似! 俺もだてにあの人の息子じゃないからね! ……ゴブリン、暴れるままちょっと遠く行ってくれたし、ちゃんと説明しようね」
お父さんはアナズムにきてから俺も叶もできなかった、念術で相手を体内からいじくり回して倒してしまうという離れ業をやってのけた。
ゲームにはこういう裏技的な敵の倒し方もある。お父さんは生物学・医術の知識を用いてアナズムにとってのそういう穴を見つけ出したわけだ。その方法を聞いてからすぐに叶も真似したりしてたっけ。
叶は確かに天才だ。お父さんも天才だ。あの二人は大まかな哺乳類、鳥類、もちろん人間も含めて内臓や血管がどのように配置されているか全部頭の中に入っている。……俺だって医術の知識を頑張って覚えようとしたけど、どうにも向かなくて……アナズムに来る前は基本的なものと人間の血管・臓器の位置くらいしか覚えられなかった。あの二人に比べたら完璧じゃないかもしれない。でも、逆に言えばつまり、人型であれば……俺はお父さんと同じことができる。
そこで俺は魔法で滅多打ちにされてるあいだに、念術とMPにポイントを割り振った。そして殺されるたびにゴブリンの、あの夜でも目立つ金ピカの頭、その内部、一部血管に念術を打ち込み続けたんだ。
死んでる途中で気がついたんだけど、俺達、生き返るとMPやHPが全快になるみたいなんだ。どうせレベル1で死に続けるからってそこらへん、甘く設定されたのかもしれない。となると何度と何度も、死ぬたびに全力の念術を放てる。
「ギピ……ピッ……ピッピィィィィィ!」
「そしてこうなったわけ」
「うん、確実に一点集中で何時間も血の流れを邪魔し続けたから、たとえSSSランクでもひとたまりもないはずだよ」
「実際そうなってるもんね」
「ピッ……ビイェェェェェェェ!!」
ゴブリンはあたりの森を蹴散らした後、俺達の元に戻ってきた。そして、何かを訴えたそうな目線をむけてきてすぐ、目が白眼になって、口からは泡がぶくぶくと吹き、痙攣しながらその場に倒れこんだんだ。
「殺され続けるのはまだいい、アナザレベルの予定してたことだろうし。でも俺の美花に手を出そうとしたことは、予想外だったし、本当に許せないよ。……死んでね」
俺はすかさず、念術を当て続けた場所をとどめのつもりで蹴飛ばした。その瞬間、ゴブリンは体をはね上がらせ……胸元からSSSランクの魔核を放出したんだ。
俺の体は熱湯に入れられたんじゃないかってくらい、一気に熱く、熱くなった。




