転生したらクズ男だった件〜夫婦になってからが本当の地獄!?編
――ここは、魔王を倒した英雄・ユウマとその妻・ミアが暮らす小さな村、ミア村(勝手に命名)。
「ユウマ! また朝から酒!?」
「おぉ、ミアちゃんおはよう。朝酒ってのはな、前日の疲れを流す癒しの儀式なんだよ。むしろ医療!」
「その理屈が医者に通じるなら世の中もっと平和よ!」
朝っぱらから響くミアの怒号。新婚生活はラブラブだと思っていたが、実際のところは、
「今日も元気にド突かれてるなあ、隊長」
と、村人が遠巻きに指をさす始末。
ユウマは村の防衛隊長、そしてミアの旦那である。……だが、どうにもクズ根性が抜けきらない。
「てか、昨日の洗濯物たたんだ?」
「え? たたむって何?」
「お前は昨日から時が止まってるのかァァァ!」
結婚して早々、ミアのツッコミが俺の生活に導入された。それも容赦ない鉄拳付きである。
ある日、村の若者たちが防衛訓練のために広場に集まった。
「ではまず、模擬戦を始めます! 対戦カードは……ユウマ隊長VSミア副官!」
「なぜ夫婦対決ぅ!?」
「たまには家でも勝ちたいんです」
完全に私怨である。しかも村公認のエンタメとして広場に観客が集まっている。
(これが俺の末路か……!)
俺は剣を抜き真剣に構えた。妻の機嫌を損ねれば、今夜の夕食が草になるからである。
「いくぞ!ミアァァァァ!」
「遠慮なくやらせていただきます!」
ズドォォォォン!
一瞬でぶっ飛ばされる俺。
「クズの防御力じゃ私の怒りを受け止めきれないのよ!!」
観客「うおおおお!今日もミア副官の圧勝だァァ!」
涙が出た。色んな意味で。
そんなある日、ミアが洗濯物を干していたときのこと。
「……ん?」
洗濯かごの中に、見慣れぬレースの黒パンティーが。
バァァァン!
扉が開かれ、俺が部屋で昼寝していたところをミアが襲撃。
「誰よコレ!?」
「えっ!? 俺のじゃないぞ!? 履いた覚えない!」
「履くとかそういう問題じゃない!」
正座させられ尋問を受ける。
「待て! 多分これは村の誰かの落とし物だ! 防衛訓練で飛んできたんじゃないか?」
「パンツが飛ぶ防衛訓練って何よ!!」
結果、そのパンティーは老婦人ヒルダさんのものと判明し、村全体が微妙な空気に包まれた。
ヒルダ「最近風が強くてのぅ」
ユウマ「なんで俺が誤解で吊るし上げられねばならんのだ……」
「今日こそはちゃんとデートしよう。夫婦なんだから」
そうミアが言い出し、俺達は隣町に出かけることに。
「よし、まずはレストランでランチだな!」
しかし、俺が選んだのは激安スタミナ系居酒屋。
「昼から焼き鳥とビールってアンタ!」
「だってここ、昼間からハッピーアワーなんだぜ!?」
「ふたりの幸せを削ってまでハッピーアワー狙うなあああ!」
結局、ミアに連れられておしゃれなカフェに移動。
だが俺は、料理の名前を読めずに恥をかく。
「この『キヌアとアボ……アボド……アヴェンジャーズ?』って何?」
「全然ちがうから!!」
終始ミアの冷ややかな目線を浴びつつ、デートは終了した。
「……まぁ、これはこれで楽しかったかな」
「俺もミアのツッコミが無いと落ち着かなくなってきた……」
俺達は気づかぬうちに、歪んだ愛のかたちを築き始めていた。
ある晩。
「ユウマ、風呂入った?」
「入った入った!」
「……それ、昨日の話でしょ?」
「バレた!? でも今日は寒かったし……」
「私が風呂で綺麗にしてるのに、あなたが臭いの放ってるとか地獄絵図よ!」
ズボォォッ!!
風呂場に強制連行される。ミアが風呂の中で俺の頭を洗うという珍展開に。
「ほら、もっと丁寧に頭洗いなさい!」
「いや、これはこれでご褒美では!?」
「勘違いすんなああああ!」
ボゴッ!!
その日、風呂場からは奇妙な水音と鈍い打撃音が響き続けた。
数ヶ月が経ち、俺達は相変わらずの喧嘩とイチャつき(?)を繰り返していた。
「なぁミア、俺たち……なんだかんだ、うまくやれてるよな?」
「うん、まぁ……喧嘩も多いけど、私を笑わせてくれるから」
「照れるぜ。じゃあ今日は朝から……」
「何もしてないのにキス求めるなああああ!」
そして、またいつものように家が揺れるレベルのツッコミと共に、新婚生活が続いていくのだった。




