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転生したらクズだった件  作者: 秋月 爽良


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第5話 明かされる真実

「俺が本気で反省する日が来るなんてな……」


 夜の村の見張り台で、俺は星空を見上げながら呟いた。肩にはミアが手縫いしてくれた防衛隊の隊長マント。酒場で酔っ払った村人たちからは「クズ隊長」と愛を込めて呼ばれている。

 それでも、かつての“ほんまもんのクズ”だった頃を思えば、今の自分はかなりマシになったと思う。

 しかし、そんな平穏な日々に異変が訪れる。


「うわあああああああああっ!!」


 翌朝、村の中央広場で村人の悲鳴が響いた。そこには、村人全員が石像にされたというトンデモ事件が発生していた。


「ちょっと待て、俺が寝てる間に何が起きた!?」


 ミアが泣きながら駆け寄ってきた。


「ユ、ユウマ! 昨夜、謎の魔導士が村に現れて、『愚かなる者どもよ、我が力の礎となれ!』って言いながら、変な呪文を唱えて……」

「それ完全に悪役ムーブじゃねえか!! 何で誰も止めなかったんだよ!?」

「ユウマが熟睡してたから……」

「俺ぇぇぇぇ!!?」


 完全に油断していた自分を殴りたい。が、俺はすぐに気を取り直した。


「よし、ここは勇者らしくいっちょ派手に解決してやるか!」


 魔導士の名は「グレゴール・マリモンド・デ・ヴァイン」。名乗り方からして怪しい。肩には巨大なフリル、背中には謎の羽、足元にはローラースケート。あきらかにファッションセンスが呪い寄りだ。


「貴様がこの村の英雄か? 名乗れぃ、醜き人間よ!」


「俺はユウマ、元・クズ、今・ちょっとだけマシな隊長だ!」

「くだらん称号だな。貴様のような愚者は、このグレゴール様が——」

「うっさい! 村人元に戻せぇぇぇ!!」


 俺、開幕からフルスロットル。勇者の剣が唸り、火花を散らす戦いが始まった。


「おい! その剣、ただの布切れか!?」

「いやいやいや、効いてるだろ!? 衣装のフリル半分ちぎれてるぞ!」

「ぬあああ! このフリルは祖母の形見だったのにぃぃぃ!!」


 まさかの感情的逆襲を受けピンチ。だがそのとき、ミアが魔導士の後ろからサプライズタックル!


「ミア! ナイスタッッコゥ!」

「ユウマ、早く! この魔導士の杖を壊せば呪いが解けるって本に書いてあったの!」

「本て何!? 魔導士の取り扱い説明書かよ!!」


 叫びながらも渾身の一撃で杖を破壊。爆音とともに、村人たちの石化が解けた。


「お、おれの、フリルが……!」


 魔導士は地面に倒れ、少女漫画の悪役みたいに「許さない……次こそは……」と言いながら爆発(演出)して消えた。

 事件解決後、村人たちは俺とミアに大感謝。ミアは「あなたがいてくれてよかった」と微笑み、夜には久々の祝賀会が開かれた。

 しかし、俺は知らなかった。

 この日の夜から——

 人生最大の悲劇が幕を開けることを——。

 祝賀会の後、酒に酔った俺はソファで寝落ち。目を覚ますと、パンツ一丁、しかも不自然にずり下がっていた。


「お、おかしい……。ミアと何もしてないのに……俺のパンツがやけに自由……」


 そんなとき、ミアが部屋に入ってくる。


「ユウマ、おはよ——ぎゃああああああああ!!!」

「ちょ、待て! 違うんだ! これは何かの罠だ! パンツの陰謀だ!」


 だが、ミアの表情は凍っていた。目には涙、唇は震え——。


「……もう、信じられない」


 彼女はそのまま走り去ってしまった。

 数日後、ミアは村から姿を消した。手紙1つ残さず、まるで初めから存在しなかったかのように。

 俺は必死で探した。あらゆる都市を巡り、王都にも足を運んだ。

 そして、ついに見つけた。


 王都の高級レストラン。

 そこにいたのは、煌びやかなドレスを身にまとったミア。そして、隣には——エイドの姿があった。

 元パーティーメンバーであり、昔俺を追放したあの男がミアと一緒にディナーしていたのだ。


「ミア……?」


 俺の呟きに気づき、彼女が振り返る。

 その瞳に、後悔の色はなかった。


「ユウマ……、ごめん。私、エイドと一緒にいた方が幸せなの……」

「な……」


 エイドはニッと笑って言った。


「よう、久しぶりだな。安心しろ、ミアのことは俺がちゃんと守る」


(この展開、まさかの寝取られエンド!?)


 俺の頭の中で警報が鳴る。そして、笑えない事実が発覚。

 エイドとミアの出会いは、あの石化事件の直後。ミアは記憶を失い、王都にさまよいこんだところをエイドに保護されたらしい。

 記憶を失ってエイドの優しさに惹かれ、そして——


(よりによって、寝取られ相手が元パーティーのリーダーってどういうことだよおおおお!!!)


 頭を抱えるが、俺は立ち上がる。


「……いいよ。俺はクズだった。あの頃の俺には、お前を幸せにする資格なんてなかった。でも——」


 俺は勇者の剣を掲げた。


「今の俺は違う。取り戻してみせる。お前を。俺自身の人生を!」


 こうして、クズ男の復讐編——もとい、再生編が幕を開けたのであった。


「エイド、今こそケリをつけようぜぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 俺は叫び剣を構える。その姿はかつてのクズ男とは思えない、異様にキラキラした立ち姿。

 背後にはなぜかスポットライト(誰が設置したのかは不明)が差し込み、群衆が熱狂していた。


「うぉおおおおお! クズ隊長いけぇええええ!」


「ミアを取り戻せえええええ!」


「パンツ一丁で寝てたあの頃を思い出せぇぇええ!」


(最後のは関係ねえだろ!)


 村人たちの謎の応援を背に、俺は突撃する。

 対するエイドは、騎士団の名誉総隊長、王国魔術師の称号、筋肉美コンテスト3年連続優勝というパーフェクトスペック。

 だが、どこか無機質だった。


「……お前に、俺は倒せない」

「いや、倒すわ。だってお前、ヒロインNTRする側のテンプレそのまんまだもん!」

「お前、メタ発言やめろォ!」


 ◆壮絶なる殴り合いの果て


 俺の剣と、エイドの拳がぶつかり合う。

 ギャグでは済まされない、互いの想いと記憶が激突する。


「なぜだ……お前は何もかも失ったはずだ! それでも、どうして立ち上がれる!?」

「失って気づいたんだよ。俺……本当にクズだったんだって!」

「おい、急に自己肯定感下げるな!」

「けどな、そのクズを許してくれた奴らがいた。支えてくれた仲間がいた! パンツを洗ってくれた村娘もいたんだよぉぉぉ!」

「最後の情報いらないだろ!!」


 真剣なバトルの中に全力でギャグを混ぜてくる俺に、ついにエイドが笑った。


「……くだらない。だが、俺はそういうの嫌いじゃなかったのかもな」

「だったらもうヒロイン寝取んなやあああああああああ!」


 ボカッ。

 

 俺の拳が、ついにエイドの顔面にクリティカルヒット。

 奴は吹っ飛び地面に膝をつく。


「これが……お前の、答えか……」


 エイドの周囲に、幻影のように過去の記憶が浮かぶ。かつてパーティーとして共に戦った日々。

 無邪気に笑っていたミア。そして、クズだったけどバカみたいに前だけ見てた俺の背中。


「……あの頃のお前に勝てなかったよ」


 そう呟いて、エイドはその場に崩れ落ちた。


 ◆ミアとの邂逅


 戦いが終わった後、ミアが静かに歩み寄ってくる。彼女の表情には、涙と微笑みが混ざっていた。


「……ユウマ。本当に変わったね」

「クズを卒業するのに、色んな代償払ったけどな……」


 俺が自虐的に笑うと、ミアは俺の頬をパシンと平手打ち。


「バカ」

「いってえええええ!? え、何で今ビンタされた!?」

「私がいない間、ユウマがどれだけ頑張ってたか……知ってるから。だから、バカって言いたくなったの」

「それってどんなツンデレロジック!? 意味わかんねえよ!」

「でも……それでも、ありがとう」


 そう言って、ミアは微笑みながら俺にキスをした。


「お、おおおぉぉぉぉおおおおおお!?」

「村人たち全員見てるから静かにして」

「気まずうううううううううう!!」


 ◆そしてクズは伝説になる


 その後エイドは反省して王国を離れ、遠くの村でパン屋として第2の人生をスタート(やたらバゲットにこだわるスタイル)。

 ミアと俺は改めて婚約し、村でささやかながらも賑やかな結婚式を挙げた。

 披露宴ではミアが「パンツ事件」を暴露して大爆笑を取るという、なんとも言えない終わり方だったが——

 俺は、今ではこう言えるようになった。


「俺はもうクズじゃない。いや、ちょっとはクズだけど……。愛されるクズってことで、許してくれ!」

「全然許してないからなー!」


 村人全員のツッコミが響く。

 でもそれでもいい。こんなふうに、笑っていられる今があるなら——

 クズでも、いいじゃないか。

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