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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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馬と一緒に

記憶についてお勉強をしてくれたレグルスさんは、私に分かりやすく説明をしてくれた。

人の記憶には種類があり、新しく入って来た経験を理解して覚えることを『記銘』といい、一度記憶をした経験を残す事を『保持』、覚えたものを引き出すことを『追想』というらしい。

その中で私の中で欠如をしているのは『追想』の一部だという。

追想の中にも種類があると言われ、細かく分類すると『自分に関わる記憶』、『知識』、『動作』の三つがあり、私は『自分に関わる記憶』だけが抜け落ちているのだろうと教えてくれた。


「なるほど。だから、記憶がなくても日常生活を行うことには問題はない、というわけですか」

「そうですね」


自分のことは全く分からないのに、生活は問題なく送れるという不思議は解決した。


「色々と教えて下さってありがとうございました」

「……いえ」


なんとなく疲労は滲んでいるように見える馬男(レグルスさん)にお礼を言う。きっと忙しいだろうに、睡眠時間でも削って勉強をしてくれたのだろう。

相変わらず馬の被り物姿で現れるレグルスさんは、毎日お菓子と本を持ってやって来てくれる。

数日間は絶対安静ということで風呂や身支度の時間以外は寝台の上で過ごすように言われていたが、ちょこちょこレグルスさんや、マリリンさんという召使いの女性が来てくれるので、暇を持て余すことはなかった。レグルスさんは他に持ち場があるからか、午前中には現れることはなく、訪れるのは午後か夜だけとなっている。どうしてか常に申し訳なさそうにしていた。意識が戻った時『悪いのは私だ』と言っていたので、もしかして何かの罪滅ぼしのつもりでここに来ているのかと聞けば、それは違うと高速で首を横に振っていた。


「だったら良いのですが」

「すみません。怪しい挙動をしてしまって」

「まあ、それより気になるのは馬の被り物ですけどね」


怪しい動き以前に、何故素顔を晒さないのかが気になってしまった。


「これは、自分に自信がないという私に、ユードラさんが贈ってくれた大切なものです」

「へえ、そうだったのですね」


記憶を失う前の私はかなりの変わり者だった? 顔を隠すにしたって顔の表面を覆うだけの仮面とかもあったはずなのに、どうして馬を選んだのか謎過ぎる。私は一体何者だったのか。

それからレグルスさんに色々と質問責めをしたが、聞いた話をきっかけに記憶が戻ることはなかった。だったら記憶がなくなる前と同じ行動を辿ってみようと思い、私はレグルスさんが被っているような馬の頭部の制作をした。

馬の被り物制作で分かったことと言えば、レグルスさんが教えてくれた記憶の欠如について、『自分に関する記憶』のみ失っているということを、身を以て実感した。私は馬の被り物の作り方を知っている。完成予想図から型紙を作り、使用する材料を決め、一針一針丁寧に縫う。

馬の被り物は苦労することなく完成したのである。このことから、私はこういった作業に慣れていた、ということが分かった。


「――というわけで作ってみたのですが」

「素晴らしい、腕前です」

「ありがとうございます」


レグルスさんに褒められて調子に乗った私は完成した馬の頭部を被ってみる。


「あ!」

「どうかされましたか?」


なんだか既視感を覚えてしまう。


「ユードラさん?」

「わ、私、は――こ、この馬の頭部を常日頃から被っていたような気がします! 違いますか?」

「え、ええ、まあ、被って、いましたね」

「やっぱり!!」


動機は不明だが、この被り物を身に着けていたようだ。このままの姿でいたら、記憶が戻るかもしれない。この日から私は馬の被り物を被って生活をすることにした。

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