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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 楽園創設編 第18話 電子世界の歌姫

 それは、かなり昔から有名な事だった。それ故、カイトとティナが気付かなかったのが可怪しいぐらいに、だ。その日もその日でカイト達はお盆を彩斗の実家で楽しんでいた。


「・・・ん?」

「む? どうしたんじゃ?」


 そんなある時、だ。ふとカイトが何かに気付いた。


「いや、ちょっと静かにしてくれ・・・」


 カイトの求めに応じてティナも静かにすると、彼女の耳にも歌声が聞こえてきた。それは今の彼女にとっても、馴染みのある歌声の様に聞こえた。


「聞き覚えのある声にも聞こえるが・・・発生源はどこじゃ?」

「わからん」


 二人は周囲を見回して、更には魔術を使って周囲を検知するが、そこには自分達が見知った以上の人物は居なかった。だが、答えは予想外の所から、やってきた。


「んー♪んんー♪」


 聞こえてくる音楽と同じテンポで、浬が鼻歌を歌っているのだ。それで、二人は音の発生源が彼女の聞いているヘッドホンからの音漏れだと気づく。流石にごきげんな所を邪魔するのも悪いので、とりあえず一曲終わるまで、二人は待つことにする。


「あー・・・良かった」

「浬。今、お前音楽聞いてたか?」

「あ、ごめん。もしかして、音漏れしてた?」


 カイトの言葉に、浬が此方を振り向いて、ティナにも注目されていた事に気づく。それでようやく、どうやら音漏れしていたらしいと気付いて、照れた様子で謝罪した。とは言え、二人はそんな事を指摘したかったわけではない。


「なあ、その音楽」

「いい曲でしょ? 新作、出来たんだって」


 カイトの言葉を遮って、浬はヘッドホンのプラグを抜いてプレーヤーのスピーカーで音楽を流しはじめる。どうやら浬はかなり気に入っているらしく、非常にごきげんだった。そうして暫く聞いていた二人だが、やはり、その声には聞き覚えがあった。


「・・・この声・・・もしかして」

「ぬ? 検討が着いたのか?」

「ああ・・・多分、あってる。ちょっと待っててくれ。確認してくる」


 どうやらティナは確認を諦めたらしく、そのまま浬と一緒に音楽を楽しんでいた。なので、カイトはそのまま一人でリビングを出て、静かな所に移動する。


『あら、何か御用?』

「ああ、いや・・・そっちにエルザ居るか?」

『あら・・・私に用は無いの?』

「悪い。まあ、単なる確認だからな」


 どこか拗ねた様子のエリザに謝罪しつつ、カイトはエリザの答えを待つ。が、直ぐに答えが返って来た。


『居るわ。ちょっとまってなさい・・・これで、スピーカーモードになったわ』

『はい、何でしょうか?』

「いや・・・一つ良いか?」

『はい』


 かなり真剣な声音に、エリザもエルザも息を呑んだ。が、ただ一人を除いては、そこまで真剣になるような物ではなかったのだが。


「なあ、エルザ。お前、もしかしてネットに自作の歌をあげてないか?」

『・・・え?』

『あら、初耳ね』


答えは聞くまでもなかった。エルザのどこか焦った様な気配に、その隣に居るであろうエリザの楽しそうな口調。それこそが全ての答えを如実に表していた。


『ねえ、カイト。そのアドレスは?』

『きゃー! エリザちょっと待ってください!』

『さ、カイト。アドレスを』


 楽しげな二人のじゃれあいが、電話越しに伝わってくる。どうやら正真正銘エリザも初耳だったらしい。かなりカイトを急かしていた。

 ちなみに、カイトが気付いてティナが気付かなかったのには、理由がある。それはひとえに、エルザの歌声を聞いたことがあったかなかったか、だった。カイトは偶然ではあったが、彼女の鎮魂曲(レクイエム)を聞いていた。それ故、歌は違ってもその歌声に気付けたのである。


「えっと、普通にタグで検索すれば・・・って、うぉ!?」

『あら、どうしたの?』

『わー! きゃー!』


 浬から情報を得ていたカイトもネット検索をしていたのだが、その検索結果を見て大いに驚く。その後ろでかなり恥ずかしいらしいエルザが大騒ぎしているが、楽しげな二人はそんな事を気にしない。


「・・・けっこー昔っから投稿しているな」

『あら、そうなの?』

『うぅ・・・』

「一番昔ので5年ぐらい前だ・・・で、その再生回数・・・」


 カイトが作った意図的な溜めに、エリザが息を呑む。なお、流石に騒ぐのが恥ずかしくなったのか、エルザも黙っていた。時折うめき声にも似た声が入ってくる所を見ると、彼女も再生回数については知っているのだろう。


「なんと、8千万突破してる。これ、累計億余裕で突破してんな。2曲目も5千万超えてるし・・・あ、単独億突破あったわ。むっちゃ絶賛されてる」

『・・・え?』

『うぅ・・・』


 どうやらエリザも圧倒的な人気を誇っている事は想定外だったのだろう。カイトの言葉を聞いて思わずぽかんとした気配が伝わってきた。

 ちなみに、当たり前だが彼女らがIT企業の重役だからと言って、何ら工作はしていない。純粋に、エルザの歌の腕前が素晴らしいからにほかならない。


『あ、貴方一体どれだけやってたの・・・?』

『えっと・・・多分、他のサイトも含めると、累計15億ぐらいだったと・・・まあ、一曲あたりが短いので、何人かの方が繰り返しで聞かれていらっしゃるんだと思いますけど・・・』


 流石にこれにはエリザも大いに驚いてエルザに問いかけたのだが、それにエルザはかなり恥ずかしそうに答えた。どうやら幾つもの動画投稿サイトに投稿して、なるべく多くの人に聞いてもらおうと思ったのだろう。その結果が、累計10億超というとんでもない再生回数だった。


「ああ・・・ようやく思い出した。そっか、確か弥生さんの着メロもこれだ」


 そうしてふと、カイトが思い出したかの様に告げる。以前弥生とのデートで彼女の着信音に聞き覚えがあったのは、エルザの声だったからだ。そんなカイトの言葉に、エリザがため息混じりに隣のエルザに問いかけた。


『貴方・・・着メロ配信もやってるの?』

『いえ! それはやってません! 多分ダウンロードして、音声だけを抜き出したんだと思います!』


 ここまで来て、隠し事は無しだと思ったらしい。かなり焦った様に否定する。まあ、本格的にデヴューしていないし、そこまでやればどこかのテレビ局がエルザになんとかコンタクトを取ろうと躍起になるだろう。


『あら、もしかして・・・ああ、これね。聞けば一発で分かるわね』

『きゃあ! エ、エリザ! 急に流さないでください!』


 どうやらエリザもエリザで検索を始め、向こうでもヒットしたらしい。まあ、あれだけ有名になっていれば、即座に見つけられるだろう。現にカイトもものの数分でヒットした。それぐらいに有名だったのである。


『迂闊だったわ。これなら、今度の株主総会ででも流そうかしら?』

『やめてください!』


 楽しそうな声が向こう側から響いてくる。エリザはあまり俗世間に興味が無い。それ故に、今までずっと有名な曲がある、とは知っていても、それを親友が歌っているとは把握していなかったのだ。まあ、知っていても今の今まで気付かなかったカイトもカイトだが。


「とりあえず、この歌声なら、うなずけるな」

『うぅ・・・ありがとうございます・・・』

『あら?・・・』


 そうして照れたような気配を見せたエルザだったが、エリザがふと、何か訝しげな気配を滲ませる。


『ねえ、エルザ。これってもしかして・・・』

『あ・・・はい。そうですね。あの時の歌です』


 スマホ越しに聞こえてきたのは、完全に英語だけの曲だった。エルザが一番始めに投稿した曲だった。ここにいる全員が英語は理解出来る。なのでそれを意訳してまとめると、それはまるで幼い子供の様に純愛を歌った歌の様だった。


「いい歌だな」

『・・・ありがとうございます』


 カイトの称賛に、エルザが心の底からの感謝を述べる。だが、それにはどこか、自分以外の者思いを馳せている様な感が含まれている様に感じられた。そして、それは事実だった。


『昔に出会った女の子が作った歌です。大昔・・・黒死病で死んだ女の子が、その前に死んだ幼馴染への思いを歌った曲です。覚えておいて、と頼まれて・・・色々アレンジはしましたけど、歌詞は殆ど原曲のままです。それで、どうしても、みんなにも聞いて頂きたくて・・・』

「そうか・・・」


 色々な思いがあって、彼女も歌を投稿する様になったのだろう。人魚姫が歌う歌にぴったりとした純愛を歌う歌が、スマホを通じて三人に共有される。

 黒死病とは、所謂ペストの事だ。羅患すると皮膚が黒くなる事から、黒死病との渾名が付けられたのである。今でこそワクチンがあり治癒する病気だが、かつては高い致死率を誇り、14世紀のヨーロッパでは全人口の3割が死亡した、とさえ言われている。一説には5年で3000万~5000万が死去したとも言われ、約半分が死去した、と言われる程だ。それでさえ、真実味を持っていると感じられるほどだ。まさに、悪魔の伝染病だった。


『あの時代は・・・酷かったわね』

『ええ・・・』


 二人は当時を生きた存在だ。幸いにしてペストは人魚族と吸血姫には感染しないらしく羅患する事はなかった様だが、それ故に、尚更その酷さを目の当たりにしている。だから、二人の声音は少し硬く、悲しげだった。


『でも、まだあの時代は良いほうよ。14世紀はもっとひどかったわ・・・なんら虚飾無く、村一つが滅んでいるのを見た事も少なくないわ』

『そう・・・ですか・・・』


 どうやらエルザとエリザが言っているのは、それ以降の流行なのだろう。ちなみに、エリザは千年姫と言われている様に1000を超える悠久の時を生きているが、エルザはそこまでではない。

 後に彼女から告白された所によると、エリザの半分程度しか生きていないらしい。なので、14世紀、つまりは1300年代はエルザも知らないのであった。


「語り合う事はなかったのか?」

『・・・そういえば、殆どなかったわ・・・』

『そうですね・・・』


 カイトの問いかけに、エリザもエルザも少し間を置いて答えた。どうやら、二人共記憶は封印し、それを思い出そうとはしなかったらしい。まあ、それだけ、辛い記憶が多い、ということでもあるのだろう。


『ふふ・・・』

「どうした、いきなり?」


 少し降りた沈黙の中。唐突に笑いをこぼしたエリザに、カイトが訝しんで問いかける。


『貴方が来てからというもの、久しくなかった事ばかりよ』

『・・・そうですね』


 エリザの言葉に、エルザも楽しげに同意する。当たり前だが、エリザもエルザもお互いの生まれを知っている様に、語り合った事が無いわけでは無い。ただ単に、安住の地が得られる様になって、いつの間にか語り合う事が無くなっただけだ。それが変わったのは、誰が認める必要も無く、カイトの出現だった。


「なら、丁度良いか。二人はどうやって出会ったんだ?」

『それは・・・少し恥ずかしいわ』

『ふふ』


 エリザが少しと言いつつ、かなり恥ずかしげな声で答える。それをエルザが笑うが、それに少し怒った様子でエリザが告げる。


『笑い事じゃ無いわ』

『う・・・まあ、そうですが・・・元はといえば、エリザが・・・』

『ま、まあ、それはそうね』


 どうやらそもそもの原因はエリザらしい。エルザがどこか怒った様な気配を返した。それに、怒った様子を見せたエリザだったが、少し照れくさそうに同意を示す。


「で、馴れ初めは?」

『それは・・・聞かないで。やっぱり恥ずかしいもの』

『そうですね』


 恥ずかしいという意見は一致しているらしい。なので二人は頑として答えようとしない。そこに、誰かのエリザを呼ぶ声が入ってきた。どうやら二人は会社に居たらしい。エリザを呼ぶ声は、社長という役職名だった。


『エリザ、お客様が来られた様です』

『あら・・・今日は終日来客の予定はなかったのだけれど・・・私はこれで失礼するわ』

「おーう」

『いってらっしゃい、エリザ』


 カイトの返事とエルザの返事を聞いて、電話先からエリザの気配が消える。そうして残るのは、当たり前だが、エルザだけだ。


『カイトさん・・・ありがとうございます』

「んぁ?」

『貴方のお陰で、彼女も変わり始めています。貴方が来てくれたお陰で、色々変わり始めているんです』

「別に大したことはしてねえよ」

『それでも、ありがとうございます』


 照れた様なカイトの言葉に、エルザは心からの感謝を述べる。これは事実だった。カイトとティナ。その二人が来た事で『紫陽の里(しようのさと)』との交流が始まって、今の楽園は俄に活性化し始めている。たった1~2週間でこれだ。どれだけ里が退廃的だったのか、なんぞ考える必要もなかった。


「ま、とりあえずは次の戦いはもう始まってる。それが終われば、本格的に交流がスタートする。礼ならそれ以降にしてくれ」

『はい』


 とりあえず、自分の存在を認めさせなければ、何も始まらない。なのでカイトが告げた言葉に、エルザが同意する。そうして、二人の会話も終わるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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