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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 遭遇編 第15話 迷える子羊達の出会い ――サイド:鏡夜――

 皇家が京都にある事からもわかるが、京都は陰陽師達のお膝元に近い。その為、当たり前ではあるが、陰陽師達が山程屯している。そうなれば必然、エリナが拐われた事も即座に彼らの知る所になった。

 星矢や覇王を考えれば当たり前だが、天道や神宮寺から派遣されてきた使用人達の中には、魔術を把握している者は居たのである。そこから、連絡が回ったのであった。


「おう、俺や。何や、親父。流石にまだ着いとらんで」

『いや、そうでは無い。お前、今何処ら辺だ?』


 一人少し所要で別行動していた鏡夜であったが、それ故に、京都に単独で居た。そこに連絡を受けた涼夜から連絡が行くのは、自然な流れだった。


「えっと、今か・・・今は・・・」


 鏡夜は少し周囲を見回して、現在地が分かる様な目印を見つける。それを聞いて、涼夜は即座に指示を飛ばした。


『そうか。それは良かった。たった今しがた、神宮寺家から連絡があってな。京都観光中の英国の調査官の娘が拐われたらしい。そこから南へ1キロ程行った所だ。直ぐに向かえ』

「マジか!? おう、今直ぐ行くわ!」


 当たり前だが、この指示は鏡夜としても考える必要の無い事だった。彼は使い魔を即座に召喚すると、大空に飛び立つ。そして5分程で、直ぐに交戦中らしき二人の存在に気付いた。


「あれか! ありゃ・・・まさか、油取りか!? まさか東北の奴がこんなとこにきとんかいな!」


 どちらが自分が標的とする相手なのか、というのは見るまでもなかった。なにせ少女を担いでいるのだ。わからないはずがない。だが、鏡夜はそこで思わず足を止めてしまった。もう一方の男に、気付いたのである。


「つっ・・・」


 蒼い髪。自分よりも少し高身長の背丈の男の背中を、彼は見間違えるはずはなかった。それ故に、迷いが生じる。

 ここでのお互いの立場は、陰陽師とあやかし達の長だ。それ故に、このまま進めば良いのかどうか、判断出来なかったのである。そうして彼が悩む間に、戦闘が終わる。


「・・・俺らより、遥かに強いやないか・・・」


 無念さを滲ませて、鏡夜が呟いた。見ていたわけでは無いだろう。少女を拐った『油取り』というあやかしは、そんな白昼堂々犯行に及ぶ様な相手では無い。

 それ以前に陰陽師達との伝手がないカイトに連絡が行くとも思えないので、おそらく偶然見かけてやってきたのだ、というのは鏡夜には簡単に想像出来た。


「おう、親父」

『ああ、どうだった? 間に合ったか?』

「いや、楽園の奴らが先に救助しおったわ。偶然見かけたみたいやな」

『そうか・・・なら、お前は近づくなよ。いらぬ戦端になりかねん。他の奴らにも、そう言っておこう』

「ああ、頼むわ」


 その会話を最後に、鏡夜はスマホをしまう。鏡夜は嘘は言っていない。鏡夜達の認識では、カイトも確かに楽園の奴らの一人だ。相手が今自分達が探している奴だと言わなかっただけだ。


「つっ・・・なんでんな呑気に笑ってられんねや・・・」


 ケタケタと笑いながら平然と飛び去ったカイトを見て、鏡夜は泣きそうな顔で呟いた。過日と変わらぬ笑顔。それは喩え年を取ろうと、幼馴染たる彼にわからぬはずがなかった。

 そんな幼馴染としての感慨を抱いていただからだろうか。再び、スマホの着信音が鳴り響いた。それに鏡夜がスマホを見ると、相手は紫苑だった。


「なんや・・・?」

『なんや、元気無いやないの』

「あー・・・まあ、色々あってな」


 流石にこんな状況だ。声に覇気がなかったのは、電話越しにでもわかったらしい。とは言え、相手もまた幼馴染の一人だ。此方のそんな心情を慮ってくれるはずがなかった。


『あっそ。まあそりゃどうでもええわ』

「お前な・・・せめてなんか大丈夫か、ぐらいはかけろよ」


 とは言え、こんな紫苑の対応こそが、鏡夜に幾ばくかの元気を取り戻させる。このズケズケとした紫苑の性格が、今の鏡夜には何よりも有りがたかった。そんな鏡夜の言葉に、紫苑が電話越しにでも嫌そうだ、という感を満載だった。


『えー・・・大丈夫? 鏡夜くん?』

「うぇ」

『ほら、あんたそんな返しするやないの。大丈夫な証やん』

「そりゃ、あんな猫なで声出されりゃああなるわ!」


 紫苑の言葉に、鏡夜は電話越しに怒鳴った。紫苑も意図したわけではないだろうが、怒鳴った事でかなり元気が回復する。だが、続いた紫苑の言葉に、再び鏡夜は意気消沈する事になる。


『あはは・・・でや。まあ、そりゃええわ。あんた皇花ちゃん知らん? なんか最近電話しても全然返ってこんねんけど』

「つっ・・・ああ、それやったら、ちょっとあいつ今忙しいねん。ほら、あいつんちも偉いでかい家やろ?」


 真実を知っている身として、そしてそれを隠さねばならぬ身として、鏡夜は泣き笑いに近い顔で紫苑に嘘を吐く。鏡夜は今ばかりは、誰も居ないで助かった、と心の底から思った。

 実は、紫苑はカイトの転校暫くして大阪から転校し、京都に引っ越ししていた。そしてなんの因果か、転校先の学校は皇花が通う学校だったのだ。

 何があったのかは、鏡夜も知らない。だが、二人は親友らしいのだった。お互いに正しい事を正しいと主張し、悪を見過ごせぬタイプだ。おそらく、そこで波長があったのだろう。


『ああ・・・そういや夏は忙しいから、もしかしたら電話にも出れないかも、って言っとったっけ・・・』

「おう。それで、お盆やからあいさつ回りとか忙しいんちゃう? ウチも挨拶行ったし」

『なんや、そういうことやったんか。じゃあ、お盆明けまで待ったほうがええんやろな』

「おう、そうしたり」


 泣き笑いに似た表情のまま、鏡夜は紫苑の言葉に同意を示した。幸いにして、お互いに顔の見えない電話越しだ。どんな表情なのかは、相手にはバレていなかった。


『ああ、そや。あんたそう言う、ってことは皇花ちゃんと時々おうとんねやろ?』

「・・・ああ、まあな。ついこないだもあいつんちで会ったとこや」

『ええなー。ウチは行かせてもらわれへんからなー・・・まあ、それやったら、皇花ちゃんも女の子やねんから、ちょっとは気にかけたりや』


 その言葉を最後に、紫苑は納得したらしく勝手に通話を切断した。それと同時に、鏡夜のスマホがミシリ、と音を立てた。


「・・・くそっ!」


 苛立ちを隠せず、鏡夜は悪態をつく。紫苑は、何も知らない。だからこそ、彼女はただ純粋に連絡のつかない親友の安否を心配していたのだ。

 そして、その純粋な思いに嘘を吐いている自分が許せず、そしてその相手が自分の幼馴染である事に、尚更鏡夜は苛立ちを隠せなかった。


「はぁ・・・とりあえず、あいつに言うといたるか・・・」


 どうやら、大声を上げた事で少しは苛立ちも紛れたらしい。持ったままのスマホを操作して、鏡夜は三度電話を始める。電話の相手は、当たり前だが親友に対して行方をくらませている少女だった。


『ああ、なんだ。鏡夜か? どうかしたのか?』

「ああ。紫苑から電話あったわ」

『つっ!』


 鏡夜の言葉を聞いた瞬間、電話越しにでも、皇花が息を呑む気配が伝わってきた。


『・・・それで、紫苑は何か言っていたか?』

「おう・・・元気にしとんのか、とか大丈夫なんか、とか俺に気を付けたれよ、とか言うとったわ」

『そうか・・・』


 珍しく、皇花が悲しげで、申し訳無さそうな声を返した。


「お前、ほんとにいっぺんぐらい電話でけへんのか?」

『・・・知っているだろう』

「んなもん、お前の力量やったらだまくらかす事出来るやろ!」


 今までの短時間に蓄積された鬱憤が、言外に潜んだ皇花の意図に気付いて鏡夜に怒号を上げさせる。

 知っているだろう。その言葉が指し示すのは、やりたくても出来ない、という事だった。だが、それは詭弁だ。本気で皇花がやろうと思えば、横の監視の目をくぐり抜けて短くでも連絡を取り合う事が出来ないはずは無いのだ。単純な魔術的な実力ならば、皇花は三童子の中でも最高だ。それをしないのはひとえに、彼女の意思だった。


『・・・おい。草壁の』

「つっ・・・わーったわ!」


 どうやら、電話の音声は横のお目付け役達にも聞かれていたらしい。唐突に電話相手が男に代わり、どこか脅す様な声音に代わる。そして、それと同時に鏡夜は電話を切った。

 これから死ぬ皇花に俗世に対して未練を持たせない様に、と細心の注意を払っている彼らにとって、鏡夜の言葉はその規則を破らせようとそそのかせる言葉だった。それは明らかに看過出来ない言葉だった。


「くそぉ・・・」


 鏡夜は知らず、涙を流した。おそらく、今頃皇花の横のお目付け役達は鏡夜の事を青い、と蔑んでいるだろう。だが、その青さは、鏡夜には捨てれぬ物だった。お国と個人。どちらを優先すべきか。それを決められる様になるには、まだ、鏡夜は若すぎた。


「お悩みですね」

「誰や!?」


 今の鏡夜は、上空100メートル程の所に滞空している。そこに声を掛けるということは、明らかに魔術に関連した者しかありえなかった。声を掛けられた事に気付いた鏡夜は、懐に手を突っ込んで呪符の用意をしながら、後ろを振り返る。


「いえ、まあ・・・誰か、と言われればヨミ、と名乗るわけですが・・・」

「つっ・・・平然と空中に立っとるやと・・・」


 警戒感を滲ませつつも、鏡夜はヨミを観察する。そうして見て取ったのは、確実に自分よりも強い、という事だった。そんな男とも女とも知れない相手に、最早警戒は無用と鏡夜は警戒を解いた。

 そもそもこの実力差では防ぎようも無いし、今も攻撃をされていない。それどころか不意を討たなくても確実に負けるだけの実力差だ。警戒しても一緒だ、と簡単にわかったのだ。


「んで? そのヨミさんが何の用事や」

「いえ、弟は友人の弟のお世話ですし、友人はあそこで突っ立ってるので、暇なんですよ」

「あぁ?」


 あそこで突っ立ってる友人、と言って指差したのは、間違いなくカイトだ。


「お前、あいつの知り合いかいな?」

「ええ、まあ。この間晩ごはんを一緒しました。面白かったですよ、姉上に引っ張り回されるカイトは」

「・・・なにもんや?」


 カイトの名前は、彼は今日は一度も言っていない。それどころか、ここ数日は一度も、である。それ故、普通にカイトの名前を言ったヨミに、鏡夜は再び警戒をする。


「いえ、ヨミで気付いていただければ、と思ったのですが・・・月読尊、です」

「なっ・・・」


 クスクスと笑いながら神威を発して告げられた名前に、鏡夜は震えが来た。カイトは平然とヨミやヒメと話し合っているが、本来はそんな相手では無いのだ。本来は、今の鏡夜の様に震えて、使い魔の上ででも、平服するべき相手だった。


「申し訳ありません! 月読尊様とは露知らず・・・とんだご無礼を」

「いえ、構いませんよ・・・それで、何かお悩みのようですが・・・まあ、言わなくてもわかります。カイトのこと、ですね?」

「はい・・・おれ・・・いや、自分はどないすればええんでしょうか・・・」


 流石に鏡夜とて、ヨミから問いかけられては、自分の悩みを洗いざらい話すしか無い。それほどまでに、三貴子とは敬意を払われる相手だった。なので、鏡夜は平服したまま、ヨミに対して自分の悩みを告げる。


「そうですね・・・では、私からのアドバイスです。貴方は貴方の正しいと思った道を進みなさい。何かあった時には、カイトを頼ると良いでしょう。彼はこの程度の対立では、友情に何か影響を与える事はありえませんよ。存分に、迷惑を掛けてあげなさい。彼も、それを望むはずです」

「ほんま・・・ですやろか」

「ええ。多分、ですけどね」


 おずおずと顔を上げた鏡夜に対して、ヨミは微笑みながら頷いた。それに、再度鏡夜は頭を下げる。


「ありがとうございます」

「まあ、もし、それでも何か悩む様でしたら、どこか静かな所で、一人になると良いでしょう」

「座禅でも組め、つーことですか?」

「そんな所です」


 最後は適当だったが、ヨミの言葉に背を押され、鏡夜は少しだけ、晴れやかな顔になる。神頼み、というわけでは無いのだが、これで良かった。安易に答えを与えるのは、彼らの役目では無い。それに、彼らにしても、本来はそこまで深く一人に関わりを持てるわけでは無いのだ。


「では、これにて」

「ありがとうございます」


 そうして、ふっ、とヨミの姿が消える。当たり前だが、これは流石に報告出来る事では無い。なにせ相手は日本で最も偉大な神の一柱。それとの会話は、彼らの間では秘される事が暗黙のルールだ。そうして、幾分晴れやかな表情で、その場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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