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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 遭遇編 第14話 不思議な出会い

 アレクセイとヨハンの二人を着付けに出したカイトだが、外に出て直ぐに海瑠が再び暇そうにし始めたのに気付いた。


「暇か?」

「うん」

「おっし。じゃあまた・・・」


 出掛けるか、と言おうとして、最後まで言葉にならなかった。カイトの視線は遥か上空を睨んでいた。


「カイト。行ってください」

「海瑠。俺と一緒に遊ぼうぜ。兄ちゃんはトイレだってよ」

「え?」

「すまん!」


 悪いとは思ったが、海瑠の疑問を無視して海瑠をスサノオに任せ、カイトは一気に走りだす。それも、民家の屋根の上をありえない速度で、だ。


「おい! 待ちやがれ!」

「やべ! 誰かしらねえが、気付かれた!」


 カイトが睨んだ先に居たのは、一人の妖怪だ。これだけなら、まだ別に何か不思議に思う事も無い。日本はそもそもで異族に溢れている。それを考えれば、異族が空を飛んでいた所で可怪しいことは無い。現に調査に来ているアレクセイもヨハンもこの異族では無いが、異族が空を飛んでいるのを見て、日本ではここまでおおっぴらに動いているのか、程度にしか思っていない程だ。

 では、なぜカイトが大急ぎで追いかけ、ヨミとスサノオがそれに手を貸す事になるのか。それは、彼が抱えていた荷物にある。


「ガキさらおうたぁ、いい根性してんじゃねえか!」

「ちっ! はええ!」


 周囲は既にヨミの力にて結界が張り巡らされている。なのでカイトは何ら気にすること無く、前を走る妖族に対して大声を張り上げた。

 そう、カイトが追っかけている理由は、その荷物が一人の西洋人形の様な可愛らしい少女だったから、である。どう見ても誘拐だった。何が理由なのかは知らないし、知ろうとも思わないが、それでも、見過ごす道理はなかった。


「ちょ、結構早いな!」

「けけけ! 追いつけるもんな、はぁ!?」


 目の前を走る妖族はそれなりの速さだった。が、当然、カイトに敵うはずが無い。後ろを振り向いて挑発しようとした彼だが、見る間に消え去ったカイトに思わず瞠目した。

 ちなみに、後ろを振り向いた妖族だが、声から男であることはわかったが、顔は奇妙な面を被っていた為、わからなかった。特徴があるとすれば、少し小柄な背丈とボロの様な衣装の帯に鉄串が幾つも刺さっていた事ぐらいか。


「・・・消えやがった・・・か? ってぇ!?」


 後ろを見ながら走っていたものだから、目の前に障害物がある事に気付かなかったらしい。彼は思い切りその障害物に衝突する。


「てて・・・ん、げぇ!?」


 よそ見厳禁、そう思い目の前を見て、妖族は目を見開いた。目の前に居たのは、転移術で一瞬で目の前に移動していたカイトだったのである。


「おい、今ガキ離しゃ、見逃し」

「ちゃ!」


 カイトのセリフを遮って、妖族は女の子を抱えていない左手で少し長めの鉄串を突き出す。それはどこか、魚を突き刺す時に使う串の様だった。


「ちっ!」

「刀!? どっから!?」


 不意を突いたつもりだったのだろうが、カイトにこの程度では不意打ちにはならない。仮面の妖族の驚く声が響いた。

 カイトは何時も通りに蘇芳翁から貰った刃引きされた刀を取り出すと、突き出された鉄串を切り飛ばす。刃引きされていようと、カイトの力を加えれば普通に名刀の様に扱えるのだった。


「ちゃ、ちゃ、ちゃ!」


 刀相手には鉄串では不利。そう即座に判断すると、仮面の妖族は俊足を以って距離を離しながら、更に帯に刺した無数の鉄串をカイトに投擲する。投じたそばからどこからともなく帯に鉄串が補給されて行く所を見ると、おそらくこの鉄串は彼の異能に由来する物なのだろう。


「ちっ! いちいちめんどくせえ奴だな!」


 投じられた鉄串をいちいち刀で切り払いながら、カイトは離れていく距離に苛立ちを募らせる。現状、京都であまりおおっぴらに揉め事を起こしたくないので転移術は多用したくない所なのだが、無数に投じられる鉄串に行手を阻まれては致し方がない。

 ちなみに、カイトの腕前ならこの程度の鉄串を全て自らの力で吹き飛ばす事も可能だが、それをやると明らかに自分がここにいますよ、と言っている様な物だ。それ故に出来ないのであった。


「ふっ」

「なっ!・・・ぐふっ」


 ドサリ、という音と共に、仮面の妖族が倒れる。帯から鉄串を取っている関係上、彼の投擲は斜めに振り上げる様な形だ。なので、投擲した直後には、どうしても脇腹ががら空きになる。その為、投じた瞬間を狙い転移したカイトにがら空きの脇腹を打たれ、気絶したのだった。


「とっ」


 仮面の妖族がとある民家の屋根の上に倒れ伏す直前、カイトは拘束を解かれた女の子を抱きとめる。そうして少女を見てみれば、首筋に仮面の妖族が使っていた物よりも遥かに細く、遥かに短い針の様な串が突き刺さっていた。


「これで・・・意識を阻害しているのか」


 少女が誰なのか、というのは少女の記憶を覗き見れば知れる。だが、流石にいたいけな少女の記憶を覗き見るのはしたくなかったので、カイトは仕方なしに首筋に突き刺さった串を抜き去った。すると、直ぐに少女が目を覚ました。


「おう、目覚めたか?」

『え・・・?きゃあ! なにこれ!? どこここ!?』

『ああ、日本語無理なのか・・・』


 少女から飛び出てきたのは、英語だった。それ故、カイトも英語に合わせる。そうして横に倒れていた明らかに人間では無い姿を見て大いに驚いていた少女に、カイトも言語を英語に変えた。


『あー・・・まあ、あんまいいたくないんだが、こいつはまあ、妖怪だ』

『よう・・・かい? あの日本でいうフェアリーとかみたいなの?』

『まあ、どう見ても違うけどな。どっちかってとデモンだ。その一種でいい』

『ふーん・・・お兄さんは?』


 どうやらこんな所――民家の屋上――で妖怪の側に立っていたのだから、カイトの事も妖怪の一種だと思ったらしい。


『まあ、違うっちゃあ違うが・・・とりあえず、えっと、お嬢ちゃんはどこにいたんだ?』

『え・・・? 確か、扇子作ってたとこ』

『それじゃわかんねえよ・・・しゃーないか』


 少女の要領を得ない答えに、カイトは苦笑して、少女を抱きかかえた。この妖族については、既にヨミが手を回して神使達が回収してくれる事になっていた。カイトの記憶を消去しないといけないからだ。


『きゃあ!』

『後で親御さんとかには黙っててくれよ・・・っと』

『わぁー!』


 カイトは少女をお姫様抱っこの要領で抱きかかえると、そのまま民家の屋根の上から飛空術を使い飛び立つ。少女の年の頃は見たところ10代前半だ。なので、変な事を言っても親は真に受けず、記憶に措置は施さなくても大丈夫だろう、とカイトは判断したのである。


『あー・・・ちょっとまっていてくれるか?』

『うん』


 そうしてカイトが向かった先は、神楽坂本店だった。神無ならここらの体験教室について知っているだろう、と思ったのだ。そうして少女を店前に置いて歩き始めようとした所で、呉服店の中を興味深げに覗いた少女が声を上げた。


『わ・・・綺麗なお着物が一杯・・・あ、お父様!』

『え?』


 それは、丁度着付けを終えて出て来たアレクセイだった。彼はいきなり響いてきた娘の声に、目を丸くして少女の方を振り向く。


『お父様! わー! 綺麗なお着物!』

『エリナ! どうしたんだい、こんな所で!?』

『今日のお稽古が終わったから、桜と瑞樹に案内してもらってた所よ。 お父様はお仕事じゃなかったの?』


 当たり前だが、アレクセイは娘に対して日本には仕事で来ている、と言っている。そして、それは嘘では無い。だがまさか着物を着て出歩いている所を目撃されるとは思っていなかったので、少しだけ照れた様子で言い訳を探す。


『ああ、なるほど。えーっと・・・僕の今回の仕事は日本の文化を調べて、女王陛下にお報せする事でね? お着物を着ているのは、そのお仕事の一環だよ』

『いいなー』


 仕事とは言え、公然と着物を着ている父を見て、エリナがかなり羨ましそうにしている。それを見て、アレクセイは少し苦笑して、神無の姿を探す。


「すいません。この子が着れる様な着物ってありますか?」

「ええ、ございます。少々お待ちいただけますか?」


 どうやら神無の方もアレクセイが何を言いたいか把握したらしい。微笑みと共に子供向けの安い着物を取りに向かう。その間、アレクセイは当たり前だが、一緒に居るはずの桜と瑞樹について問いかけた。


『そういえば、瑞樹ちゃんと桜ちゃんは?』

『え? 居ない』

『は?』


 平然と居ない、と言われたものだから、アレクセイは目を丸くする。そんな父に、エリナはニコニコ笑顔で告げる。


『なんか、ようかい? っていうデモンに攫われて、その後に蒼い髪のお兄さんに助けてもらってお空を飛んだの! だから、桜も瑞樹も今は一緒じゃないわ! 多分、扇子を作っている所!』

『えぇ!?』


 エリナの言葉に、アレクセイは心の底から驚きを露わにした。まずそもそもで妖怪に攫われた事も驚きだが、続いた『蒼い髪の男』という言葉にもっと驚いた。だが、その驚きは横のヨハンも共有した物だった。彼も大慌てでエリナに問いかける。


『だ、大丈夫だったのか!』

『うん。だって気付いた時にはどこかのお屋根の上で、あっちのお兄さんが・・・あれ? 居ない・・・』


 後ろを振り向いてカイトの姿を探したエリナであったが、その時にはもう既にどこにも居なかった。一方、魔術についてを把握しているアレクセイ達は、小声で小さく相談する。


『何か魔術の痕跡は?』

『いえ・・・どうやら本当に善意で助けてくれたみたいですね』

『エリナが君の娘だ、と知っていたと思うか?』

『・・・いえ。おそらく、偶然でしょう』


 こそり、とエリナの服に取り付けておいた魔道具から何があったのかを把握していたアレクセイは、本当に単なる偶然で救われた事を把握して、ヨハンの言葉に頭を振った。

 一応念のためにアレクセイがプレゼントしたアクセサリに付けていた物だったのだが、よもやカイトもこんな海外の幼い子が魔術に関連のある親を持つとは思っていなかった為、気付かなかったのだ。まさに偶然が偶然を呼んだ奇跡だった。


『顔は?』

『いえ・・・そもそも画質が荒い事もありますし、向きが悪く、映っていませんでした。が、後ろ姿には確かに、蒼い髪が映っていました』

『とりあえず、悪人ではなさそう、か』

『ええ・・・そして、京都近傍にいる、というのも確実そうですね』


 期せずして、ではあったが、二人は今調査している対象についての情報を記録する。こんな事は万が一にもありえてほしくはないが、起こってしまった物は仕方がないし、エリナには魔術について教えていない。気をつけろ、と言うにいえない。だが、そこから得られた偶然の情報には値千金に匹敵する情報だった。


『・・・にしても、期せずして、借りを作ってしまいましたか』

『仕事と私情は別にしてくれよ』

『わかっています。まあ、幸いにして交戦では無く、単なる調査なので、気にする必要が無い、というのがありがたいですね』


 どう言おうと、エリナが救われたのは事実だ。それ故、アレクセイは苦笑して、そんなアレクセイにヨハンが苦笑する。調査対象に私情を挟むのは頂けないが、今回は調査であったので、アレクセイは報告書に少しだけ、優しい男だった、程度には付け加える事にするに留めた。

 それを受けて、ヨハンがカイトの捜索に先に行く事にすると同時に、幾つかの着物のカタログを持った神無が帰って来た。


『じゃあ、アレク。私は一度ここら一帯を捜索してくる。おそらく、そこまで遠くには行っていないはずだ。君は娘を』

『ええ、お願いします』

「はい、おまたせ致しました。此方が、観光客向けのお手頃なお値段のお着物になっております」

「ああ、ありがとうございます」

『エリナ、どれが良いかな?』

『えーっと・・・』


 下手なことを言って怖がらせる必要は無いだろう。そう二人は判断すると、何も言わない事を決める。そうしてヨハンは外に出て、そこに居たスサノオに一応お礼を言うと、密かに、京都の空に消えるのだった。




 そうして消え去ったヨハンを、カイトはしっかりと目撃していた。


「うぉー・・・やっべ。あれ、魔術師だったのか」


 間一髪。単なる観光客だと思っていたのだが、まさか魔術を使える奴だとは思っていなかったカイトは額から冷や汗を流した。


「調査員、ってやつか・・・消さなかったのは、拙かったか?・・・いや、消すと逆に疑われた可能性があったな。これはこれで良しとするか」


 魔術を殆ど使用しなかったお陰で会話こそ聞こえなかったが、だいたいの内容は把握出来た。アレクセイ達が魔道具らしき物体を取り出したのを見て、即座に姿を隠す系統の魔術を展開したのだ。

 そして、それは正解だった。安易にそれ以外の魔術を使う事はしなかったので、幸いにしてヨハンはたった今、カイトの真横を通り過ぎていった。


「ま、実力はまだまだ、か・・・いや、調査員なら、良い腕前と言える、か」


 戦闘員と調査員は違う。戦闘員は敵を討伐することが目的だが、調査員は調査地に潜み、群衆に溶け込む事を目的とするのだ。

 それを考えれば、まさに観光客としか思えなかったアレクセイ達は上出来と言えた。まあ、アレクセイが大興奮して日本観光を心から楽しんでいたのが、最大の理由だが。演技でもなんでもなかったので、カイトにも見切れなかったのだ。


「にしても・・・どっしよっかなー・・・」


 屋上に避難したのは良いが、下には今も娘の着付けた姿を心待ちにしているアレクセイが居る。安易に下りる事も出来ない。姿を消す系統の魔術は展開するのもそうだが、解除する瞬間もまた、最も警戒すべき瞬間なのだった。


「はぁ・・・帰るまで待つか・・・」


 そうして、アレクセイが帰ったのはなんと、今から3時間後の事だった。その間、カイトはずっと、炎天下の中、日陰に行くことも出来ず、立ちん坊をすることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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