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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 遭遇編 第13話 奇妙な出会い

 その日もその日で、カイトはティナや綾音達と共に神無の所に出向いていた。今回は以前は店先で着れなかった洋風の衣装についても許可が下りたらしいので、そちらを着る為に、であった。当然だが、直ぐにヒメ達も合流する予定である。

 ちなみに、なぜカイトが一緒なのか、というと弟の海瑠の面倒を見ろ、というだけの話である。もう彼は11歳なので良い年頃だし家には祖父母も居る。良いと思うのだが、心配性の綾音が連れて来ていたのである。


「でも、綾音ちゃん。本当に良いの?」

「あ、良いの良いの。なんか前回のが好評だったみたいなのよ。それで、客寄せパンダになってくれるなら、って許可してくれたのよ」


 そうして神楽坂本店にて再び着せ替えの準備をしていた綾音の問いかけに対して、神無が撮影の用意をしながら手で問題ないと明言する。今は夏休みとあって観光客も多く、前回の簡易ファッションショーはそれを含めても予想以上の人入りがあったので許可が下りたらしい。


「ティーナーちゃーん! 今回は貴方の為に特別衣装を用意してみたわ! これ、ちょっと着るのが面倒だから、皐月ちゃん、弥生ちゃん、手伝ってあげてね!」

「ええ、じゃあ、ティナ。こっちよ」

「はぁ・・・余は一応魔王なんじゃがなぁ・・・異世界・・・む、この衣装はもしや・・・」


 神無の指示を受けた皐月に手を引かれていたティナだが、どうやら衣装には何か思う所があったらしい。少し笑みを浮かべると、皐月と共に職員用更衣室に入っていった。と、本来ならばそれと一緒に行くはずだった弥生が、一着の衣服と睦月の手を握りしめて、大声を上げた。


「お母さん! こっちの睦月ちゃんに着せて良いかしら!」

「ええ、そっちはもう撮影終わったから、好きにしていいわよ!」

「うわぁー!」


 どうやら弥生は弥生で少し気になる衣服があったらしい。母に許可を取ると、即座に睦月を連れて更衣室に去って行った。


「あ・・・これ、可愛いー」

「あ、ホントだ。この黄色いのヒメちゃんに似合いそう。あ、私こっちの揃いの白いのにしよっかなー」

「あ、そっちも可愛い」

「ねー」


 どうやら母と総氏神は何らかの波長が合ったらしい。メルアドを交換するわと非常に仲が良くなっていた。そうして、そんな身内達を見て、カイトとヨミは同時に溜め息を吐いた。

 氏子と氏神が仲が良いのは良いことだろうが、共に実年齢は言及しないほうが良いだろう。まあ、二人共見た目はそれを感じさせないが。


「はぁ・・・お母さん・・・」

「はぁ・・・姉上・・・」

「あの・・・」


 そこへ、今日も今日とてカイトと一緒の海瑠がヨミに声を掛けた。


「えっと、お姉さん、ってもしかして・・・あのヒメさん、ですか?」

「ええ。私が下で、その下が・・・あっちのヤサグレ小僧です」

「え・・・? あ、あっちのお兄さんが?」

「ええ」

「ん?」


 ヨミの言葉にカイトと海瑠が視線を送ると、非常に疲れた顔のスサノオがカイト達に向けて片手を上げた。どうやら彼も何らかの理由で連れてこられたらしい。彼はカイトが此方に気付いたのに気づくと、のっそりと歩いてきた。


「おーう・・・姉貴に叩き起こされた・・・無茶苦茶楽しみだったらしい。久しぶりに日食モード見たわ」

「こいつに車の運転をさせたんですよ」

「あ、あはは・・・」


 スサノオのセリフとヨミのセリフに、カイトも海瑠も苦笑するしかない。日食モードとは、ヒメに搭載されている容姿と性格が変更された状態の事だ。他にも今の平日モードと、日没後に現れる落日モードと言うのが存在していた。

 それから暫く、4人でハイテンションに繰り広げられるファッションショーを観察するが、流石に11歳の少年にただ見ているだけ、というのは出来なかったらしい。


「・・・お兄ちゃん。暇」

「あー・・・まあ、しゃーねえわな」


 暇そうな海瑠を見て、カイトは仕方がないとは思う。だが、不運なことにたった今綾音は更衣室に消えた所だ。動くに動けなかった。そんなカイトを見て、ヨミが笑って告げる。


「良いですよ。ご母堂には私から言っておきますので、自由にしてきなさい。カイト、弟の面倒はきちんと見なさい」

「はぐれたら鏡頼む」

「ええ」


 今日は良い天気だった事も相まって何時も以上に人混みがひどく、少し気を抜けば迷子になりそうだった。それを見てカイトはヨミにはぐれた場合は<<八咫の鏡(やたのかがみ)>>で探してもらえる様に頼んだのだった。


「おっし。じゃあ海瑠。ちょっと散歩すっか!」

「うん!」

「お、俺も行く。ちょっと近くにアイス屋あるんだよ。美味いぞ、案内してやる。兄貴、留守番よろしくな」

「いってらっしゃい。カイト、スサノオに奢らせて良いですからね」

「しゃあ! ゴチになります!」

「あ、おい! 乗んじゃねえよ!」


 どうやらスサノオも暇に耐えかねていたらしい。カイト達が移動するのに合わせて、歩き始めたが、それを見たヨミに楽しげに奢りを命ぜられる。

 そうして、三人は暫くの間、京都を観光するのであった。ちなみに、きちんとアイスについてはカイトが海瑠の分も支払った。


「あー・・・食った食った」

「お前・・・腹壊すぞ」

「んあ? 神様が腹壊すかよ」


 一人バクバクとアイスを5杯程おかわりしていたスサノオに対してカイトが引き攣った顔で忠告したが、どうやら神様は身体の出来が違うらしい。平然とお腹をさすっていた。そうしてまだ食べていた海瑠を待って、三人は立ち上がる。


「ごちそうさまでした」

「おう。じゃあ、行くぞ」

「うん・・・あ、そういえば緑色のお兄ちゃんの名前、何?」

「ん?」


 海瑠の問いかけを聞いて、スサノオが眉をひそめる。今の彼には、一切の緑色を思わせる物は無い。それなのに、海瑠は緑色の、と言ったのだ。違和感を感じるには十分な言葉だった。だがそれに、カイトが小声で耳打ちした。


「・・・すまん。気にしないでやってくれ」

「困ってんなら、力貸すぜ。これでも民草の危機だ。見過しちゃ、八百万の名が廃る」

「すまん・・・が、流石に聞かせたくない」


 ちらりと海瑠を流し見たカイトの顔に、スサノオはどうやらここでは言えないこと、と判断する。なのでそのまま笑顔で海瑠に対して、名前を名乗った。


「おっと、悪いな。俺はすさ・・・いや、(みこと)だ」

「うん。じゃ、尊兄ちゃんだね」


 にぱ、と笑った海瑠に、スサノオが思わず膝を屈した。そしてそのまま彼の目から流れたのは、何と滝のような涙だった。


「うぅ・・・こんな純粋無垢な弟がマジで欲しかった」

「そ、そうか」


 どうやら奇妙な姉を二人持つ彼はかなり苦労しているらしい。神話ではやんちゃ者として色々な事をするスサノオの意外な一面に、思わずカイトが顔を引き攣らせる。

 が、ここは天下の往来だ。しかも、観光客が沢山居る。それ故、こんな所で膝を屈すると、人混みにまぎれてあまり見つからなくなってしまう。それを、彼らは失念していた。


『ほら、ヨハン、見てよ! これ、すごく綺麗だ! エリナに似合いそうだ!』

『あはは、そうだな・・・だが、アレク・・・この衣服、本当に必要だったのか?』

『何言ってるんだ。郷に入れば郷に従え、って言うじゃないか。観光客に化けるなら、こういう格好が一番良いよ』

『まあ、確かにそれも一理ある・・・とは思うんだが・・・君の趣味じゃ無いのか?』

『否定はしな・・・っと!』


 どうやら外国の観光客らしい。彼らは京都の観光に興奮していたせいで、周囲の注意がおろそかになってしまっていた様だ。膝を屈していたスサノオにつまずいて、転んでしまう。


「あ! 悪い! 大丈夫か!」


 その衝撃で、スサノオも天下の往来で膝を屈していた事を思い出すと大急ぎで転んだ外人男性を助け起こす。そうして助け起こされて、外人男性は照れた様に笑いながら首を振った。


「いえ、此方こそすいません。注意が疎かだった様です」

「いや、こっちが悪いんだ。怪我は無いか? 服に汚れとかは?」

「ええ・・・幸い衣服にも汚れはありませんし、大丈夫ですよ」

「そうか・・・ん?」


 見たところ身体に怪我はなさそうだし、衣服にほつれもなかったので、スサノオはほっと一安心する。よもや三貴子の一人がこんな間抜けな事で人間を怪我させたとあっては、まさに八百万の神々の代表格の名折れだった。

 だが、そうして衣服も確認していた所為で、彼らの異変に気付いてなんとも言えない顔になった。


「ええっと、どうしました?」

「あー・・・そっちの兄ちゃんもあんたの連れか?」

「ええ、そうですが・・・ヨハン。何か可怪しいですか?」

「いえ、何もわかりませんが・・・」


 どうやら相手側もスサノオの表情から、自分の何かが可怪しいと気付いたらしい。そしてどうやら異変は自分だけでなく、隣の友人にもある、ということも。そうして二人はお互いの衣服を見回して、違和感が無い事を確認する。それに、カイトがかなり言い難そうに口を開いた。


「あー・・・失礼ですが、その着物はご自分で着付けられたんですか?」

「ええ・・・まあ、見様見真似、ですけどね」

「ああ・・・なるほど・・・えっと、ですね・・・言いにくいんですが・・・その着物の着方、間違ってるんです」


 どこか照れた様子だが少し誇らしげな男性に対して、カイトはかなり申し訳無さそうに告げる。確かに、彼は最も困難な帯締めなどには見事に成功している。だが、最も単純な所でミスを犯していたのであった。

 そのカイトの言葉と、スサノオのなんとも言えない表情に、彼は顔をぽかん、と開けた。


「え?」

「えっと、ですね・・・その着物の合わせ。左前になっています・・・ええと、逆なんです」

「え、あ、そ、そうなのかい!?」


 カイトの言葉に、少し自慢気だった男性は顔を朱に染める。少し鼻高々だったのが、逆に間違いだった事がわかって恥ずかしくなったらしい。


「ああ、それでさっきから何か変だ、と思ったわけだ」

「ヨハン! 気付いてたなら教えてくれてもいいじゃないか!」

「いや、悪い悪い。まさかこれにも決まりがあるなんて思っていなくてな」


 どうやらそんな男性の友人の方は気付いていたらしい。少しだけ、申し訳無さそうにしていた。そんな二人に対して、スサノオがある提案をした。


「えーっと、あんたら、時間、あるか?」

「ええ、まあ、少しなら」

「カイト。確か本店では着付けもやってくれてたよな?」

「ああ。神無さんに言えば、一発でやってくれるはずだ」


 神無は当たり前だが、呉服屋の娘だ。それ故、着付けはお手の物だった。それを聞いて、スサノオは一つ頷いて、二人に告げる。


「来いよ。ここらで着物の着付けやってくれる店知ってんだ。そのままだとあんたらも決まりが悪いだろ? 迷惑掛けた礼だ。こっち持ちで手配してやるよ」

「え、あ、別にそこまでしていただかなくても」

「いや、それじゃ、こっちの気が治まらねえ。やらせてくれ」

「・・・じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


 一度顔を見合わせた二人だが、確かにミスしたままでは目立つだろう、と思った事もありスサノオの要請を受ける事にする。そうして、一同は一度、神楽坂本店に帰る事にする。


「おーう、すまん、誰か頼めないかー」


 そんなこんなで十分ほど歩き、店に入った所で、スサノオが声を上げる。


「え・・・あ、はい。なんでしょうか?」


 どうやら神無達は気付いてくれなかったらしい。別の店員がやってくる。奇妙な集団に始め困惑した店員だが、カイトと海瑠の姿を見て、緊張を解いた。カイトも海瑠もこれでももう数年以上この店におとずれていたので、店員とも顔見知りが多かったのだ。


「すいません。今、着付けって誰かしてもらえますか?」

「え? ああ、そういうことですか。少々、お待ちください」


 カイトの言葉を受けて、店員は後ろの外人二人に気付く。そして当然だが、呉服屋の店員である以上、そのミスには即座に気付いて、ほほ笑みを浮かべて、後ろに引っ込んだ。


「はい、代わりました。着付けですね。少々、お待ち下さい・・・といいたい所だったんだけど、カイトくんの紹介じゃ、仕方ないわね。タダでやってあげるわ」

「え、いや、そういうわけには・・・」

「ああ、今回ばかりは、俺に支払わせてくれ。これは俺の沽券に関わってな」

「あら、貴方は?」


 スサノオに気付いて、神無が訝しみの表情を浮かべる。彼はずっと店外に待機していたので、神無とはまだ知己を得ていなかったのだ。だが、それに答えたのは着替えを終えた所のヒメだった。


「あ、すーくん。どーしたのー?」

「おーう、ちょっとヘマしちまってな。まあ、ちょいこっちの異人さんに迷惑かけちまった」

「あ、そうなんですか。すいません、ウチの弟がご迷惑をお掛けしました」

「・・・え? おと、弟!?」

『Jesus・・・』


 ヒメの言葉に、思わず外人二人が呆然となる。神父であるはずのヨハンが思わず口汚い言葉が出る所を見ると、相当の驚きだったようだ。だが、それで驚きは終わってくれない。更にその騒動に引き寄せられて、綾音がやって来た。


「あれ? ヒメちゃん、そっちのどなた?」

「あ、私の弟です」

「あ、そうなんだ。私は天音 綾音。カイトの母親です。これからもカイトをよろしくね」

「おう」

『Crazy・・・日本はもしかして、不老不死でも極めて居るのか?』

『これは・・・女王陛下にご報告すべき事かもしれない・・・』


 平然と息子と言ったカイトの横に立ち挨拶した綾音を見て、アレクセイとヨハンは愕然とする。一応、念のために言えば彼らも本国では若く見られる。よく若作りだ、と言われるぐらいだ。

 だが、その彼らから見ても、綾音とヒメはありえない存在だったのである。そうして、彼らの報告書に、日本の事に関連して二人の事が書かれたかどうかは、謎である。

 お読み頂きありがとうございました。

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