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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 嵐の前編 第9話 余波

 日夜激闘と言う名の訓練に励んでいた総司だが、一つ自らが言い出したことなのに、忘れていた事がある。そしてその余波は、決して穏やかではない反応を生み出していた。


「ちっ。相変わらず出やがらねえ・・・」


 希が自分の起居するマンションの一室にて、スマホを片手に忌々しげに呟いた。電話先は当たり前だが、彼の仲間達だ。

 では、誰が反応していないのかというと、言うまでもなく、総司だった。彼は激闘に明け暮れた結果、自らが提案した総会についてすっかり失念してしまっていたのである。まあ、それ以上に訓練が厳しすぎてそこまで手が回らない、という事が大きかった。

 そうして、彼は再度総司に電話をして、やはりつながらない事を確認すると、今度は別の相手に電話を掛ける事にした。


「・・・おう、涼太。俺だ」

『うーっす。希さん、やっぱそっちからもダメっすか?』

「ああ、全然出やがらねえ。メールもダメだ」


 当たり前だが、自らが慕った者だ。連絡が急に途絶えたとなると、心配する。それ故に全員何度も電話を掛けたりメールを送ったりしていたのだが、返事は梨の礫だった。


『はぁ・・・しゃーないっすね。非常時のプランを発動っす』

「あ? 何だよ、そりゃ」

『あれ? 言ってなかったっすか? 一週間待っても返答が無い場合は、全員が集まって探しに行く、って決めてたんっすけど・・・』

「しらねえよ」


 涼太の言葉に希はぶっきらぼうに答える。まあ、そういうのも彼がこれらのプランを決める時に居なかったのが、最大の問題なのだが。


『まあ、幸いに俺が車持ってますんで、希さんも迎えに行きますよ。流石に今日からだと無理なんで、明日になると思うんすけど・・・そっちバイトとか大丈夫っすか?』

「バイトはしてねえよ」


 ぶっきらぼうな希の言葉に涼太は電話越しでも判るぐらいに盛大にため息を吐いた。


『相変わらず闘技場のファイトマネーっすか・・・まあ、鍛錬と金稼ぎになっていいんっすけどね。あんま無茶やって変なのから狙われないでくださいよ』

「はっ、カモしか居ねえ。貢いでもらってるみたいなもんだ・・・で、明日の何時ぐらいだ?」

『そっすね・・・大体5時間ぐらいで到着するって書いてあるんで、多分昼過ぎぐらいっすね。飯そっちで食いますよ。なんか新しく出来た店紹介し』


 涼太の言葉を遮って、希はスマホの電源を落とす。そうして彼はそのまま眠りに就くのだった。




 それと時を同じくして、天神市警察署。日も暮れた頃だというのに、その日は少しだけ、大忙しだった。いや、最近の事情を鑑みればその日は、では無く、その日も、というべきだろう。


「はぁ・・・これで今月何回目、っすかね」

「知らん」


 幸いにして管轄外だった為、幸人と風海の二人はそれを横目に外回りの仕事から自分達のデスクを目指して歩いて行く。とは言え、道中の話題はやはり、先の騒動だった。彼らはエレベーターを待つ間にも話を進める。


「まあ、小鳥遊さんからすれば、自分の娘がようやく関係無くなってくれて一安心、ってところですか?」

「ん・・・まあ、な。あのティナって女の子には本当に足を向けられんよ」


 風海のどこか茶化す様な言葉に幸人はかなり恥ずかしげに頷いた。そう、入り口の所で揉めていたのは、総司達の後釜を狙うやんちゃ者の集団だったのである。それが人目の多い天下の往来で決闘まがいの事をしたものだから、全員まとめてしょっぴかれた、という事だった。


「にしても・・・最近ほんとに激化してますよねー」

「ああ。流石に御子柴達が引退して行方不明、という噂が流れて、それが定着したんだろう。後釜を狙う奴らが我こそは、と大暴れしてるわけだ」

「居たら居たで迷惑な奴らでしたけど・・・あんな奴らでもここら一体の取り纏めはしてくれてたんですかねー」


 彼らの所為で多くの少年達が非行に走った事実は消せないし看過出来ない物であったが、それと同時に、彼らには美学と言うか流儀に近い物があった。

 それ故に大きく面子を損なわれない限りは天下の往来で自らの配下が他者に迷惑を掛ける事は無く、その統率力などについては実は警察の方でも少し買っていたのである。認める認めないは別として事実として、彼らが天神市の安定に寄与していたのであった。

 そうして暫くエレベーターを待っていた二人だが、唐突にガラスの割れる音が響いて振り向いた。するとそこには、少なくない数の少年達が居た。


「おいこら! 仲間返せ!」

「サツがなんぼのもんじゃ!」


 ガラスの割れる音は、無作為に少年達が囚われた仲間を助け出す為に警察署の扉のガラスを叩き割った音だった。そんな少年達に、思わず風海が溜め息を吐いた。


「・・・はぁ。警察署に殴りこみを掛けるとか、馬鹿なんですかね?」

「さあな・・・とりあえず、見ちまったもんは行くぞ」

「はーい」


 そうして二人は丁度開いたエレベーターを横目に見ながら、一警察官の義務として、愚連隊を気取る少年達の捕縛に参加するのだった。

 当たり前だが、相手は警察官だ。当然だが武道は必須科目で、それはたかだか数人がバットや鉄パイプを持っていたからといって勝てる相手では無い。捕物はものの十分足らずで終わりを迎えた。そうして少年の一人を捕らえた幸人が所管の警察官に引き渡そうとして、その警察官が馴染みであることに気付いた。


「あ、明石さん。来てたんですか?」

「おいこら、あばれんな・・・最近こっちが物騒だ、ってんで応援に来てたんだよ。御子柴達が本格的に居なくなった、ってのがこいつらの中で確定したらしいな」


 少年の一人を明石に引き渡し、幸人は先輩警官の言葉を聞く。そうして明石も更に少年を別の警官に渡すと、そのまま快活な笑みを幸人に向けた。


「っと、そうだ。聞いたぞ。由利ちゃん、ようやく大人しくなってくれたってな。あそこのチームも休業状態で仕事が楽だ。ま、最近会えなくなって俺としちゃ寂しい限りだけどな」

「どこで聞いたんですか・・・」


 ニヤついた笑みで幸人に告げる明石に対して、幸人は苦笑を浮かべるしか無い。由利が更生の一歩を踏み出して久しいが、そのお陰で明石の警察署に幸人が向かう事も無く、蘇芳翁襲撃に関する殺人事件の捜査の兼ね合いで明石と会う事はなかったのである。


「ああ、そういや言ってなかったか。俺の娘が8中で教師やってんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「おう。つっても最近入ったばっかのぺーぺーだけどな」


 明石が所属する警察署がまだ立ち上げ前に娘が教師を目指している、と聞いていた幸人としては言われてみれば、納得の行くルートだった。

 ちなみに、彼の娘の明石教師とは最上の横をデスクとして最上の面倒をよく見ている女教師だったりする。


「っと、まあ、お前らも仕事だろ。悪いな、わざわざ手伝ってもらって。今度飯奢るぜ」

「いや、いいですよ。こっちも由利の件で結構ご迷惑をお掛けしてますしね」

「あはは、そう言うなって。たまにゃお前と飲みたい事もある。風海ってのとも一度飲んでみたかったしな・・・って、そうじゃねえな。それだけじゃねえんだ」


 笑っていた明石だったが、ふと、表情を真剣な物に変える。そうして真剣な表情で口を開いた。


「最近になって今みたいに馬鹿やる奴が増えてやがる。多分こんな事やったりすんのが勲章みたいに考えてやがるんだろうが・・・どうにも天神市や周辺には数が多くてな。目立とうってんで始め御子柴探しにやっきになってやがったんだが・・・それが居ないとなると有名株を手当たり次第に潰そう、って輩が現れ始めた。一週間ぐらいでほとぼりは冷めるだろうが・・・お前んとこも気をつけろよ」


 明石の気の利いた助言だったのだが、聞かされた方の幸人はそれに対して少しだけ影のある表情で笑みを浮かべた。


「ウチのはもう実家帰ってますよ。俺ほっぽってね・・・今日なんてほら、わざわざ由利が写真付きのメールで海水浴行った、って送ってきましたよ。帰って来るのは俺のお盆明け一緒です」

「あ・・・あははは! そら、襲撃も仕掛けらんねえわな!」


 居ない者はどう足掻いても対象にはなり得ない。影を含んだ笑みで幸人からそう言われて、明石は一安心だ、という風に大笑いするのであった。




 明けて翌日。所変わって天城邸では相も変わらずソラが用意に勤しんでいた。


「えっと、今度は容量削ったし、ネット回線もきちんと手配した・・・」


 ソラは出発後に知った事だったのだが、ネット回線は世界共通では無い。国が違えば接続される先は異なるのだ。それ故ソラは海外で日本のゲームをダウンロードしようとして出来なくて困惑したのだった。

 そうして困った挙句海外暮らしが長い煌士に問いかけてみれば、きちんと対処しないと日本のサーバーにはアクセス出来ない、と苦笑されてしまったのである。なのでソラは実家に帰宅してから海外で日本のサーバーにアクセスする方法を調べて、きちんと設定をメモしたのであった。


「よっしゃ。これで問題なし」


 最後の用意を確認して、ソラは満足気に鞄を閉じる。そうして時計を見れば、まだ出発までにかなり時間がある事が分かった。


「あー・・・本屋行ってくっか」


 流石に今から遠出をするつもりの無いソラは適当に週刊誌でも読んで時間を潰そう、と出掛ける事にする。


「雷蔵さん、ちょっと本屋行って来る」

「はい、いってらっしゃいませ。お時間までには、お帰りください」

「おーう」


 ひらひらと手を振るソラに対して、雷蔵翁は柔和な笑みでそれを見送る。ここ当分喧嘩をすることもなく家人たちと揉める事もなく至って温和なソラを最早警戒する必要も無く、安心して送り出したのであった。そうして、ソラは家を出て一路本屋を目指し、呑気に歩き始めるのだった。


「んっ。マジか。このシリーズもう出ねえと思ってたのに、続編出すのか」


 それから暫くの間。ソラは呑気に――店員の買わないなら出て行け、という視線を無視しつつ――週刊誌を立ち読みしていたソラだが、流石に2時間程読書していると流石に喉も渇く。そろそろ店員の圧力も少し看過出来ないレベルであった事もあって、ソラは一度店を後にする。


「えーっと・・・そういや古本屋あったよなー。こっち近道だったよな」


 自販機でドリンクを購入したソラはとりあえずそれを一口口に含むと、流石に戻るのはあれか、と思い別の店を目指す事にする。そうしてソラは自分やガラの悪い少年少女達しか通らない再開発で残された裏道を通り、それに遭遇した。


「あぁ・・・? あ? お前・・・天城か?」

「あ? んだよ。」


 通路の途中で出会った少年達に睨まれて、ソラも睨み返す。どこかで見た顔だ、とはソラも思ったらしい。とは言え、流石にソラとて何百と潰してきた不良少年達を覚えているはずはなかった。


「丁度良い所に来やがった・・・てめえ潰しゃ俺達の名が上がる」

「あぁ? うぜえなー・・・俺今急いでんだよ」


 立ち上がった少年達に取り囲まれて、ソラが非常にうざったそうな顔をする。昔のソラだったら、この時点で喧嘩に発展していただろう。だが、今のソラはかなり丸くなっており、滅多な事では喧嘩をしようとは思っていなかった。それは今のこの状況でも同じだった。


「てめえらで好きにやれよ。俺はもう喧嘩しねえよ」


 そう言って歩き始めたソラは、うざったそうな顔のまま、少年たちの間を強引に通り抜ける。そうして少年達の間を通り過ぎた所で、どうやら飲んでいたらしいペットボトルの水を頭から被せられ、更に振り向いた所に唾を吐きかけられた。


「あ? 逃げんなよ。てめえにやられた恨みは全員忘れちゃいね」

「おい・・・てめえら全員覚悟出来てんだろうな」


 唾を吐きかけた少年の言葉を遮って、ソラは問答無用に一撃を食らわせて昏倒させる。たしかに、ソラは温厚になった。

 だが、それでも。唾を掛けられてまで怒らない程に大人しくなったわけではなかった。それからは、完全に激怒したソラのワンサイドゲームだ。元々ソラは弱くなったから温厚になったわけではない。更に強者が現れて、強引に更生させたのだ。彼らが勝てる道理はなかった。


「はっ! よえぇんだから喧嘩売ってんじゃねえよ!」

「ごふっ」


 倒れこんだ少年の一人の腹を、ソラは怒り混じりに思い切り蹴っ飛ばす。それで少年は少し飛んでいって、横のビルの壁に激突した。そうしてそれを背に、ソラは少年の一人が取り落としたペットボトルの水を手に取った。


「ちっ・・・こっからアメリカだってんのに、着替えなきゃなんねぇな」


 流石にソラとて唾が付着したままで気分が良いはずは無い。彼はペットボトルの蓋を開けると、中の水で顔を簡単に洗う。そんな事をしていると、後ろから声が響いた。


「あ? 何だこりゃ?」

「うっわー、ひでえっすねー。希さんがやったみたいっすよ」

「おりゃもっと・・・いや、こんなもんか」


 ソラは声に馴染みがあったので、後ろを振り向いた。すると、ソラの後ろに居たのは合流して昼飯でも食べに行くか、と外に出ていた希と涼太だった。昼食に少し時間を取り過ぎたので近道するか、と通りかかったのである。


「あ、天城か。そりゃ、こうなるわ」

「あー・・・更生した、つー噂あったんっすけど・・・あの面みりゃ、デマっぽいっすね」


 元々更生自体を知らない希は振り向いた少年の顔を見て納得し、此方に情報網を残してきていた涼太は振り向いたソラの鬼のような形相に得た情報をデマと決める。


「・・・あ?」

「・・・おい、どうした?」


 そうして二人の言葉に、ソラが怒りに我を忘れた事にようやく気づく。そうして顔色を変えたのを見て、思わず希が声を掛けた。


「これ・・・俺がやった・・・んだよな?」

「おい、大丈夫か?」

「つっ!」


 希の心配そうな声に、ソラが特大の苦虫を噛み潰した様な顔になる。その顔を見て、唐突に希がソラの手を取った。


「おい、来いよ。どうせもう少ししたらサツくんだろ。逃げんぞ」

「あ、おい・・・」

「え、ちょ! 希さん!?」

「おい、涼太。さっさと車回せ。天城。お前も来い」

「え、ちょ! 希さん!? 本気で言ってるんすか!?」

「・・・頼む。俺も今はこっちに居たくねえ・・・」


 思いつめた様子のソラにまで頼まれて、涼太はしぶしぶ車を回す事にする。そうして、ソラを乗せた車は、少し急ぎ気味に東京を離れていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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