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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 嵐の前編 第8話 スパルタ

 総司の入門が認められて数時間。いきなり若者からの一撃を受けて昏倒した総司は、ベッドの上で目を覚ました。


「はっ!」


 目を覚ますと、総司は勢い良くベッドから起き上がる。そうして、まずは周囲を確認する。すると、そこには倒れる前に見た若者が横の椅子に座っていた。


「起きたな、若造」

「あんたは・・・」

「ふん、わからんか? 俺が、鞍馬天狗こと、鞍馬だ」

「何?」


 鞍馬だと言いはる若者の言葉に、総司は首を傾げる。確かに、彼は鞍馬山の大天狗は老人に見えていた。だが、今目の前で自分に相対する若者からは、嘘を言っている様子はなかった。


「今の俺も俺だし」


 困惑する総司を見て、目の前の若者は笑いながら、何らかの術を行使する。すると、奇妙な煙が若者の身体を包み、再びあの老天狗の姿になった。


「この儂もまた、儂よ」


 鞍馬はそう言うと、再び術を行使して、若い姿に変わる。そうして、再び説明を開始した。


「まあ、簡単に言おう・・・と、いいたい所なんだが、まずは聞いておこう。お前が望むのは、武芸も含めた、鍛錬だな?」

「・・・ああ、いつっ!」


 自分が望む事を言い当てた事に驚いている総司の答えを聞いた鞍馬は一つ頷くと同時に、手刀を総司の頭に叩き込む。


「ああ、じゃない。はい、だ」

「ああ・・・あ」

「はぁ・・・とりあえず、貴様は俺の名前を呼ぶ時にさんは忘れるな」


 早速言いつけを守れなかった事で再び手刀を叩き込まれるか、と思い身構えた総司だが、そうはならず、鞍馬はそのままため息一つ吐いて説明を続ける事にした。


「俺が姿を変えたのは、とりあえず貴様の訓練に関係して、だ。肉体と精神は常に影響しあっている。それ故に、武芸の稽古をつけようと思えば、若い肉体と若い精神が必要だ。これは俺の術の一つで、俺は<<応身变化(おうしんへんげ)>>と呼んでいる。身に応じて、精神をも変貌させる变化術。肉体の老化や成長を制御して、術者が望む最適な状態に保つ為の物だ」

「そんなことが可能なのか?」

「はぁ・・・お前はまずは口調をなんとかしろ。師に対して敬語を使え、とまでは言わん。が、丁寧語は覚えておけ」


 平然とタメ口で自身に問いかけた総司に対して、鞍馬はため息混じりに注意する。まあ、まだ弟子入りしたてなのでここまでで済んでいた。


「あ、いや、申し訳ない」

「申し訳ありません、だ・・・まあ、いい。貴様を打ちのめす程度なら、あの老体でも十分に可能だが・・・稽古をつけるとなると、あの姿では俺の気が済まん」

「そ、そう・・・ですか。ありがとうございます」

「ああ・・・それで、若造の事情を話せ。弟子入りについては認めてやったが、なぜ、若造がここに来て、なぜ、強くなろうと思ったのか。場合によっては弟子入りそのものを取り消す。事に応じては、この場から出た時には、物言えぬ身体になっていると思えよ」

「うっ・・・ああ、わか・・・はい、わかりました」


 やはり、敬語や丁寧語は孤児院時代から荒れ狂っていた彼には馴染みのない物だったらしく、かなりいいにくそうだった。だが、それでも今後の行く末を決める重要な事だ。それ故、総司はなんとか丁寧な言葉づかいを心がけながらここ数年の自分達の事についてを語る。


「ふん、なるほどな。まあ、その意気や良し。足を洗った事についても、まあ、いいだろう。が、実家については未だに何もわからず、か」

「ああ・・・まあ、どうでもいい事だが・・・」


 総司の顔に浮かんだ少しの苦悩を、鞍馬は見逃さなかった。そうして彼は念話で配下の烏天狗達に命じて、総司の身の上の調査をさせ始める。

 彼は、非常に面倒見が良かった。人に稽古を付ける、というあやかし達から見れば奇異な事を好んでやる程だ。そして、若者が悩んでいるのを見ると、彼の性質としてどうしても、手を貸さずにはいられなかったのである。


「ふむ・・・まあ、それは良いか。では、明日から稽古に入る。今日中に烏天狗達にここでの生活について聞いておけよ」

「ありがとう、鞍馬さん」

「ああ・・・おい! 誰か新入りにここでの仕事とルールを教えてやれ!」


 鞍馬の言葉に応じて、烏天狗の一人が部屋に入ってくる。そうしてこの日から、総司の修行の日々はほぼ毎日の様に、続くのであった。




 総司の稽古の開始から、およそ2ヶ月。総司の修行は一気に苛酷さを増していた。


「ぐっ!」

「遅いぞ、新入り! 今の所で私がもし刀であれば、貴様の首は今頃身体を探していたぞ!」


 首筋に烏天狗の錫杖の打撃を受けた総司は一瞬昏倒しかけるが、意識をすんでの所で失わずに耐え切る。今の彼の総身は痣だらけの生傷だらけだった。まあ、数週間前からこれは変わっていないが、その傷の多さは数週間前に比べれば雲泥の差だった。


「新入り! 気を失わなければ良いというわけではない! 攻撃はまだ続くぞ!」

「くっ!」


 まだ音速には到達していないものの猛スピードで振るわれる錫杖を、ともすれば痛みや魔力行使で気を失いそうになる意識を必死でつなぎ留めながら総司は回避する。そうして回避して、カウンターを叩きこもうとするが、それは烏天狗達にゆうゆうと避けられる。


「くっ!」

「遅い! 今の攻撃では我ら烏天狗を捉える事なぞ夢のまた夢! それどころか我らの使いさえ捉えられん!」

「くそっ! 飛ぶのは卑怯だろう!」


 ふわり、と空中を舞い踊る烏天狗に対して、総司が忌々しげに怒号を飛ばす。だが、その怒号を飛ばすという行動を見過ごしてくれるはずがなかった。


「うぐっ!」

「甘いな、新入り。敵が自分が持っていない物を持っているのは当たり前。如何にしてその不利を覆すか。それこそが、この訓練の肝だ」


 後頭部を強打され、意識を失った総司を烏天狗の一人が抱きとめる。それを見て、鞍馬が稽古の一時中断を指示した。


「運んでやれ。目を覚ましたら、もう一度再開だ」

「はい、鞍馬様」


 どうやらこの烏天狗は女らしい。今まで烏の顔だったが、鞍馬の方を振り向く時にはショートヘアが印象的な美女のそれだった。

 いや、それだけではない。彼女と同じように、烏天狗の様相だった他の烏天狗達の顔も訓練の終了と同時に、同じように人間のそれに変わっていた。


「なんだ、凰彩(おうさい)。妙に優しいな」

「ふん、新入りだ。少しは気を遣ってやっただけだ」


 そうして開けた場所にある岩の上に総司を寝かせた凰彩だったが、そんな彼女に何処か茶化すように烏天狗の一人が問いかける。それを受けて、凰彩は少し憮然とした表情で返す。

 ここ当分。カイトと再開してからと言うもの、総司の一日はこのような状況だった。朝は流石に寺の清掃活動があるので除外されるが、それ以外は全て、気を失うまで実戦に近い形式での訓練を行い、気を失えば、ここに寝かされる。そして起きれば、また訓練の再開だ。昼も夜も関係は無い。夜だからといって、敵は待ってくれないからだ。

 休憩はご飯とトイレ、お風呂だけだ。まあ、その中でもお風呂は傷を癒やす効果のある薬湯なのでゆっくり浸かる事を許されて――というより命ぜられて――おり、そこだけは、唯一総司が心休まる場所だった。なお、流石に睡眠時間についてはきちんと取る事になっているので、今はまだ寝れない、という事はなかった。


「ふむ・・・」

「どうしました?」

「いや、やはりこいつは雑草根性というか、実戦でこそ、映えるな」

「そうですか?」


 鞍馬の呟きに、烏天狗達が口々に話し合う。そうして、その答えを出したのは、先ほどの凰彩だった。


「思い出しても見ろ。こいつはこの訓練を始めて何日目だ?」

「・・・そうか。そういえばまだ1週間と少し、か・・・」


 凰彩の言葉に、他の烏天狗達が少しの驚きを露わにする。確かに基となる基礎訓練は2ヶ月程こなしているが、それも所詮は基礎訓練。何か特別な事をしたわけではない。それに、周囲の烏天狗達も少しだけ、総司への評価を上方修正する。


「なるほど。確かに、実戦的な訓練に入って一気に力量を上げているな」

「ふむ・・・」


 烏天狗達の気付いた様子に、鞍馬は顎に手を当てて少し考えこむ。正直に言って、彼は今内心で大笑いしたい気分だった。それぐらいに、実戦に入ってからの総司の上達さは目を見張る物があった。

 例えば、一週間前までは満足にできていなかった魔力を以って身体を動かすという基礎だが、総司はこの訓練に入って直ぐに出来るようになっていた。それ以外にも、実戦の最中に学んだ事は少なくなかった。百の練習よりも、たった一度の実践。それが彼ほど明確に現れるのも珍しかった。


「む」


 暫く考え込んでいた鞍馬だが、ふと、山に異変を感じる。そして直ぐに、山の見張りをさせていた烏が彼の所に舞い降りた。


「・・・そうか。ご苦労」


 鞍馬は烏から報告を受け取ると、何も言わずに視線だけで烏天狗達に指示を送る。どうやらこれだけで烏天狗達は全て理解したらしく、一瞬にして、その場には鞍馬以外がいなくなる。他に居るのは、岩の上に寝っ転がって気絶している総司だけだ。


「・・・来たか」


 それから、約10分。なおも気絶している総司はさておいて、鞍馬は唐突に空を見上げる。そこには、2羽の大きな鳥が飛んでいた。その2羽の鳥はゆっくりと、鞍馬の待つ森の開けた場所に舞い降りた。そうしてその上には、一人の狩衣姿の男と少年が座っていた。


「鞍馬殿。私は陰陽師一派・皇に属する御子神 颯夜です。以後、お見知り置きを。此度は皇一派を代表して、此方に来させて頂きました。此方は我が愚息の秋夜です。本来は貴殿のお目通り願う様な者では無いのですが、どうしても、といいましたので・・・」

「そうか、別に子息については構わん。好きにさせろ。遠い所・・・では無いな。よく来た。何分ここ暫くは忙しくてな。このような場であることは詫びよう」

「いや、そちらにはそちらの事情がある。急な来訪にも関わらず、一切手出し無用に通してくれた事を感謝しよう」


 開けた所に降り立った颯夜と秋夜の二人は鞍馬に対して一礼する。それを受けて、秋夜は一人行動を始める。これは可怪しいように思えるが、颯夜達皇家に近しい者達が礼節を尽くすのにはきちんと理由がある。

 確かに鞍馬は妖怪の一種にして本質的には颯夜達陰陽師の敵だ。だが、鞍馬はそもそもの性質から悪害を為す者とは捉えられていない上、歴史上有名な人物達を密かに訓練するなど支援している。歴史にこそ記されなかったが、彼に有名な武将達が最終的な隠れ家として庇護を依頼した事も少なくない。それ故、例え皇家としても邪険には出来ず、御子神という名家を動かして折衝に臨んだのである。


「それで、何用だ?」

「はい。実は次の大戦におきましては、鞍馬殿には中立を貫いて頂きたい、と皇家よりのお願いを携えてまいりました」


 鞍馬の問いかけに応じて、颯夜は懐から手紙を取り出して鞍馬に手渡す。書かれている内容は、彼が口に出した事を懇切丁寧に記載した物だ。そうしてそれを読み終えて、鞍馬が口を開いた。


「ふむ・・・確かに、我らは楽園には殆ど縁もゆかりもない。中立を貫いてくれ、という申し出は受け入れよう」

「ありがとうございます」


 鞍馬の言葉に、颯夜は内心で安堵の溜息を吐いた。だが、これで鞍馬の言葉が終わったわけではなかった。


「だが、それでも我らは妖族の一端。流石に同胞を安々と死にたえらせるのは見過ごせん・・・流石に貴様ら陰陽師にも、それ相応に縁がある。流石に俺が手出しする事はせん。が、これを知っている事が後々に発覚すれば、確実に我らと楽園の関係は悪化する。そこまでは、よいな?」

「それは、把握しております」

「であれば、だ。我々としては楽園側からもし支援の申し出があれば、それを断ることは出来ん。貴様らに手を貸している以上、あちらにも手を貸さぬは我らの面目が立たん」

「では、この情報を流す、と?」


 颯夜の顔に警戒感が滲む。当たり前だが、彼らは彼らで大々的に動いていても、情報の流出には細心の注意を払っている。流石に襲撃自体は既にバレているだろう、とは想定しているが、もし何時襲撃するかというのがバレれば、確実に此方の準備が整う前に襲撃を受けるだろう。鞍馬の言葉を警戒するのは当たり前だった。だが、その警戒に対して、鞍馬は頭を振った。


「違う。支援を頼まれれば、今俺が育てている部下をお目付け役と共に、参加させる。なに・・・実力としては下の下。まだ訓練に入って浅い者だ。実戦を経験させたい、と思ってな。そいつを殺さぬ様にしてくれれば良い」

「その情報については、後ほどお教え願えますか?」


 中立を保つのなら、それなりに各組織との繋がりを保つ事が重要だ。それを理解した颯夜は、幸いにして自らの裁量の範囲内だった事もあって、それを受け入れる事にする。


「いいだろう。その際には、そちらに伝えしよう」

「ありがとうございます」


 そうして、此方の話は終わりを迎えるのだった。




 一方、颯夜の下から離れた秋夜は、というと彼は珍しく、少しだけ普通の少年の様な好奇心旺盛な表情を覗かせていた。


「・・・」


 そうして彼がじっと見つめるのは、岩の上で気絶している総司だ。まさかこんな所に居るとは思わなかったが、そもそも彼が同行した理由は総司にあってみたかったから、だ。上から見つけた時は大いに驚いたのであった。


「・・・はっ!」

「うわぁ!」


 そうして暫く総司の顔を覗き込んでいた秋夜だが、ある時、総司はかっ、と目を見開いて勢い良く跳ね起きる。それを見て、間近に居た秋夜は少し慌てふためいた。


「・・・ん?」


 何時もなら、総司が目覚めた瞬間から悪口にも似た口撃が飛んでくるのに、何も無くて総司が周囲を見回す。すると、当然だが秋夜と目があった。


「・・・誰だ?」

「えっと、あの・・・秋夜」


 どこか緊張した様子で、秋夜は総司に自らの名前を名乗る。それを受けて総司は剣呑な雰囲気を収めて、謝罪した。緊張を自らが発した剣呑な雰囲気による緊張だと思ったのだ。彼は苦笑にも似た笑みで秋夜に微笑みかけ、自らの名前を名乗る。


「ああ、悪い・・・ついさっきまでちょっとたたか・・・いや、やんちゃをしていてな。俺は御子柴 総司。ちょっと訳ありでここにいるんだが・・・どうした?」

「あ、ううん! なんでもないよ! でも、兄ちゃん。そんなボロボロで大丈夫なの?」


 総司の名前を聞いた瞬間、秋夜は大いに目を見開いていた。それを総司はかなり訝しんだが、少年がそういうのだから、そうなのだろう、と思う事にした。

 ちなみに、総司は元々孤児院の出身だ。それ故に、本来はかなり、と付けて良いぐらいに面倒見が良い。それが特に秋夜ぐらいの年齢の少年に対しては慣れもあって邪険に扱う事はなかったのである。


「ああ、これか・・・いや、何。別に気にすることじゃない。このぐらいの傷なら舐めときゃ治る」

「・・・そっか。でも、一応手当しておいた方がいいよ。これ、傷薬。あげるよ」

「・・・いいのか?」

「・・・うん」


 こくん、と頷く秋夜に対して、総司は少し悩んだものの、秋夜の顔にあった少しの懇願を見てそれを受け取って、自らの傷口に塗りこむ。傷薬は軟膏のような塗り薬だった。


「つぅっ! 染みるな」

「うん。でも、良く効くよ」

「そうか、悪いな」

「いいよ、別に」


 暫くの間、二人の間にはのんびりとした空気が流れる。その時の秋夜は本当に単なる少年の様であった。


「あ、じゃあもう行くね」

「ああ、傷薬、ありがとな」

「いいよ、じゃあね」


 総司の礼に、秋夜が嬉しそうに笑う。それを見送って、総司は再び鍛錬に備えて身体を休めるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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[気になる点] この段階で総司が御子神って名乗ってるのおかしくないですか?
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