断章 嵐の前編 第5話 デートへ行こう ――皐月編――
弥生とのショッピングデートから明けて翌日。前日に購入した服からタグを取り払うと、カイトはため息を吐いた。その原因は、彼の横の少女に化けた魔王にあった。
「ぷくくく・・・」
「そんなに面白いか」
「お、お主本当に男色の気があるのではなかろうな」
「ねぇよ!」
ティナの笑いを堪えた問いかけに対して、カイトは速攻で否定する。彼女はカイトが男――といっても外見は完全に美少女だが――とデートに出掛ける事が楽しくて仕方がなかったらしい。
彼女の知る所だけでも山程不可思議な経験をしているカイトであったが、男に頼まれて彼氏役でデートに出掛けると言う変わった経験は聞いたこともなかったのであった。
「さて、本当かのう・・・なにせお主はかつて男装した奴とデートしておった事もあるからのう」
「ふつーに相手男装だ、つってんだろ」
「む・・・まあ、あれを男装と認めるのはいささか余も難しいからのう」
カイトの言葉にティナは少し苦笑を浮かべる。カイトはかつて男装をした人物と色々な縁があってデートを複数回していたのだが、当人はどう見ても単に男装しているだけの美女だった。
まあ、幸い顔付きは端正だったので色々工夫すれば男装の麗人と見れなくはなかったが、顔付きだけだった。それ故に、全員普通のデートだと把握していたりする。
「皐月などならあれでも良かったのじゃろうが・・・あれでなぜ男装出来ておると思うておるのやら」
「所謂自己暗示なんだとよ。本性はあれだからな。剣を振るうには、少々無理があったらしい」
「いっそ魔術できちんと人格を作れば・・・いや、その場合は剣技の冴えに影響が出るやも知れんのか・・・うーむ・・・なかなかに面白い考察になりそうじゃなぁ」
「はぁ・・・じゃあ、行って来る」
「うむ」
どうやらティナは新しい魔術の開発に没頭してしまったらしい。カイトの見送りをそこそこに、思考の海に沈んでいく。それを見てカイトはため息を吐いて、彩斗の実家を後にするのだった。
当たり前だが、カイトの生地・大阪に限らず、多くの大都市圏には有名な遊園地の他にも幾つか地元民しか知らない様な遊園地が存在している。
通常、カイトが皐月ら神楽坂三姉妹と遊園地で遊ぶ時にはお値段の問題でそちらを選ぶ事が多いのだが、流石に今回は名目上でもデートはデートだ。高い方の有名な遊園地を選ばされた。
「くそっ・・・めちゃたけえ・・・」
入り口にて、カイトはチケットを購入すると同時にそう吐いて捨てた。当たり前だが、有名な遊園地は入場料もチケット代も高い。今回はデートということで遊び倒せ、との先方の指定だったのでフリーパスを買ったのだから、尚更だった。
ちなみに、カイトは高いと愚痴ったが、今の彼の総資産は既に天音家の総資産額を遥かに上回っている。多分、桁が二つ程違うだろう。『紫陽の里』と『最後の楽園』の資産の一部を頭首就任に際して受け継いだ結果、更に増大したのである。
が、どうにもこうにも旅の時代の経験と公爵家設立当時の街の開拓に伴う赤貧時代を記憶している為、細かな所の金銭感覚としては相変わらずだったのである。なお、旅時代に冒険者として稼いだ金は莫大なので本来は旅時代から大富豪なのだが、それを知ったのは公爵に就任してからだったりする。
「えっと・・・待ち合わせが9時で、今が8時半頃だから・・・後30分かよ・・・」
これから先30分の苦行を思い、カイトは思わずため息を吐いた。今は夏休みだ。それ故に有名テーマパークともなればチケットの購入からして一苦労で、カイトが先んじて買いに行かされていたのである。つまり、カイトはこの夏の晴天の空の下で、ずっと待たされ続ける事になるのであった。
「バレないんなら、いっそ魔術でも使いたい・・・」
カイトはため息混じりでそう言うが、そうは出来ない理由がある。というのも、カイトがふっ、と目を走らせただけでも二人程、カップルに偽装した陰陽師達が居たのだ。他にも夏休みのバイトとしてきぐるみに入った陰陽師達も居る、との情報もエリザ達を通して得ている。どうやら夏休みということで各地から普通に観光で異族達も来る事があるらしく、その監視、というわけだった。
ちなみに、これはカイトに関係があるわけでは無く、単に何か馬鹿をやらないか、という単なる監視である。だが、それでも監視は監視だ。ただでさえお尋ね者扱いのカイトにとって、不用意な魔術の行使は出来そうになかった。
それから30分。炎天下の中皐月と今回の揉め事の発端の人物を待ち続けていると、皐月がやってきた。が、何故か、皐月は横に三人の少年達が一緒だった。
「っつ・・・お前が、皐月ちゃんの彼氏か?」
カイトの容姿を見た少年が、カイトに問いかける。今回のカイトは弥生による完全ワンオフのコーディネートが行われた結果、かなり落ち着いた年上風のイケメンになっていたのである。
「・・・おい、こいつら誰だ?」
「だから言ったでしょ? 今回のデートの仕掛け人よ」
いきなりの不躾な問いかけに、カイトが挨拶も交さず皐月に問いかけると、皐月がため息混じりに告げる。
ちなみに、流石に彼氏とデートなのにおしゃれしないわけにもいかないだろう、と皐月の方はかなりおしゃれな衣装を着ていた。
「なんで三人も居るんだ?」
「そんなことはどうでも良い! お前が皐月ちゃんの彼氏かと聞いているんだ!」
「どうでもいいわけあるかよ・・・」
少年の一人の問いかけに、カイトがため息を吐いた。そもそもカイトは複数人来るとは聞かされていない。完全に初耳だった。
「はぁ・・・ったく。とりあえず、そうだ。で、お前らチケットきちんと買ってんだろな?」
「それは今からだ!」
「んじゃあ、こんな所でだべる前にさっさとチケット買ってこい!」
どこか偉そうな少年の一人の言葉に、カイトが尻を蹴っ飛ばす様にチケット売り場を指差す。炎天下の中で延々30分も待たされたカイトは当たり前だが、かなり不機嫌だ。ただでさえ関係もなく巻き込まれている方だというのに、これ以上こんな入口の前で待たされていたくはなかった。
「つっ、なんでそん」
「あぁ?」
なんでそんな偉そうなんだ、という少年の一人のセリフをカイトはひと睨みで黙らせる。そもそもこんな所で時間を食ってしまうと、ただでさえ開園前にチケットを買った意味が無い。
それに今は夏休み真っ只中のお盆前だ。人はこれから増える一方だろう。これ以上人が増える前に入園しなければ、デートも何もあったものではなかった。
「んで、結局なんで三人なんだ?」
「そりゃ、三人から同時に付き合って、って告白されたからに決まってんでしょ」
「そりゃそうだ・・・で、だからなんで三人同時に来てるんだ?」
既に人混みが少し引くレベルに到達していた為問答無用に三人を送り出したカイトは、皐月に事のあらましを問い詰める。そうしてさらなる問い詰めを受けた皐月は、ため息混じりに事のあらすじを語った。
「それがねぇ・・・どうにもあの三人。同じ中学の友達らしいのよね。で、三人が先を争う様に私に告白してきて・・・で、一人が食い下がってると他の二人もそれに乗っかるように納得できなくなっちゃったらしくて、何を言っても聞かないし、結局彼氏が居るなら見せろ、っていう事よ」
「つまり、三人が暴走に暴走を重ねた結果、つーわけね・・・」
「そういうこと」
皐月の言葉に、カイトはため息を吐いた。更に詳しい説明を受けた所、どうやら三人が三人とも誰が一番皐月を好きか、というのの言い合いになり、次第に引くに引けない状況になってしまっての事らしかった。
更におまけに皐月が何か小悪魔的にからかったわけでは無く、偶然の一目惚れらしい。店先で着物姿で居た所を偶然に見かけただけ、らしかった。
「今回ばかりは、お前に同情する」
「ありがと」
どう考えても、今回は皐月に非は無い。なので全ての事情を聴き終えて、カイトは同情を示す。が、それで今の状況が回復されるわけはない。なので、目下のデートプランについてを問いかける事にした。
「それは彼らに聞いて。なんか3つ程クリアしてもらいたい条件があるそうよ」
「はぁ・・・条件付きかよ・・・」
「今度ご飯奢るわ」
流石に今回のデートは何時も以上に面倒だ、という印象は皐月にもあったらしい。流石に申し訳なくなってそう申し出る。が、カイトはそれに苦笑して頭を振るう。そうして暫く待っていると、少年達が帰って来た。
「で・・・オレは何をすりゃ良いんだ?」
「ふん。お前が皐月ちゃんの彼氏だ、っていうんなら、俺達が言う事ぐらいは簡単にこなすはずだ」
不機嫌そうなカイトに始め気圧されていた少年達だったが、落ち着いたらしくカイトに威圧的に告げる。どうやら一人ずつ課題があるらしい。面倒なことこの上なかった。
が、聞かない事には始まらない。せめてもの救いは課題が隠されなかった事だろう。まあ、そこまでの知能がなかったのかもしれないが。
「まず、俺だ。俺からの課題は皐月ちゃんと本当に付き合っているのかを見せてもらう。本当に付き合っているのなら、CMでやってる事は出来」
「却下だ」
少年の言葉を遮って、カイトがため息混じりに告げる。あまりに馬鹿げた言葉にカイトはせめて名前は聞いておくか、と思ったがもう彼らの事を少年A・B・Cと名付ける事にした。当然、質問順に、である。
そうして自分の発言中にイキナリ駄目だしをしたカイトに、少年Aは口をぱくつかせる。だが、カイトとしてはそれを聞くつもりは一切なかった。
「アホか。CMってあれだろ? あのカップルが手を繋いで楽しそうにくるくる回転してそこら辺を踊ってる奴」
カイトの問いかけに、少年Aはこくこくと頷く。それに、カイトはため息を吐いた。
「お前な・・・周り見てみろ。夏休みでこんだけ人居るんだぞ? そんな事やったらどんだけ迷惑だと思ってんだ」
「え、だってでもCMは普通に・・・」
「ああいうのは迷惑にならない様に閉園後とか休園時、もしくは周囲の協力を仰いでにやってるに決まってるだろ。一般人がやったらどれだけ迷惑だと思ってんだ。はい、次」
どうやら少年Aはああいった撮影は普通に園内で行われていると思っていたらしい。カイトとしては呆れる限りだし呆れを隠さなかった。そうして、カイトは次に隣の少年Bを指差した。流石に彼はいきなり駄目だしを食らうとは思っていなかったらしく、少し言い淀んだが、意を決した。
「え、えっと・・・俺は勇気を見せてもらいたい。お前が皐月ちゃんの彼氏だって言うんなら、お化け屋敷でも普通に平然としていられるはずだ」
「余裕だな」
「ふん、後で吠え面かくなよ。ここに最近出来たお化け屋敷は日本最恐で有名なんだ」
少年Bの言葉にカイトは余裕の笑みで肩を竦める。当たり前だが、カイトに地球製のお化け屋敷で驚かせることは出来ない。
そもそも気配でどこから来るかわかるし、もっと恐ろしいお化けとは常日頃戦っていた。おまけにお化け屋敷特有の人狼や吸血鬼などにしてみれば彼の家族に普通に居る。怯える必要がなかった。そうして少年Bの課題を聞いて、最後の少年Cの課題を問うことにした。
「じゃあ、俺が愛を確かめさせてもらうぞ。皐月ちゃんと付き合ってる、っていうなら、この店でカップル限定のドリンクを普通に飲めるはずだ」
少年Cはそう言うと、自身のスマホの画像を見せる。その画面に映しだされていたのは、『カップル限定』と銘打たれた少し大きめのハートマークのストローが刺されたドリンクだった。流石にカイトもこれには顔を引き攣らせるが、今までにもなかったわけではない課題だ。
「わかった・・・金は?」
「いや、請求するなよ」
どうやらお金も自分で出せ、ということらしい。少年Cが思わずツッコミを入れる。それにカイトはやれやれ、と肩を竦めながら、テーマパークの中へと入場するのだった。
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