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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 嵐の前編 第3話 前哨戦 ――戦いは数――

 カイトが用意を進めていた頃。当たり前だが、皇家率いる陰陽師達も動いていた。


「全く・・・夏休みで良かった」

「・・・」


 皇花の呟きに、横の見張りに近いお目付け役が無言の圧力を発する。だが、そんな相手に対して皇花は気にすること無く問いかけた。


「だが、夏休みでなければ、しかも最終週でなければ、ここまで新世代と旧世代が揃う事はないが?」

「・・・それは認める」


 お目付け役の一人が皇花の言葉に同意を示す。新世代とは皇花達の様にまだ若手で次の時代を担う者達で、旧世代とは今現役で活躍している者達だ。

 とは言え、旧世代の彼らとて表向きの仕事があり、新世代の面々にしても学校が存在している。なので場合によっては参加率が悪くなる可能性も存在していたのだ。

 だが、彼らには表のしごとや学業以外にも魔術師や戦士としての鍛錬もある。そうなると、夏休みという学生達の長期休暇と言うのは新世代の調練に最適だ。今回の最終週の大戦はまさにその出来栄えを確認するのに最適、と判断された為、協同してくれるのが想定以上に多くなっていたのである。


「皇花・・・リストは出来ているか?」

「ああ、此方だ・・・っと、先の立花の親子の名前を記載していないな」


 巻物状のリストをお目付け役に提示しようとした皇花であったが、先ほど参加の意向を示した二人について記載していない事に気付く。

 そうして、皇花は私物の筆ペンを取り出すと、そこに達筆な字で名前を記す。一番始めに記載された名前は何の違和感もなかったが、『立花 誾千代(たちばな ぎんちよ)』と『立花 宗茂(たちばな むねしげ)』の名前だった。

 これらは有名な戦国時代の武将とその妻の名前だ。普通なら、偶然だ、など何らかの反応を示すだろうが、彼らは何も思わなかった。書いた皇花がそれを提示すると、お目付け役達も眉一つ動かす事無く、うなずいた。


「ふむ・・・宜しい。当日は御当主達が応対に出られる。貴様は決して、その場に出ない様に」

「承った」


 決して、と厳命された皇花は嫌そうな顔を一つも見せず、それに頷く。別に気にする必要はなかったし、彼女も彼女自身の本来の役割を把握している。

 それに、諦めもある。なのでそれに対して何かを思うよりも、別のことを考えた方が建設的だ、と思っていたのである。


「さて・・・ここで勝てねば、日本の国政に影響してくるな」

「・・・」


 こういった別にどうでも良い呟きにまでお目付け役達は反応するつもりはないらしい。皇花の苦笑した笑みも見なかった事にした。と、そこに鏡夜がやってきた。


「おーう、ちょっとええか」

「ああ、なんだ?」


 次の来客にまでは時間があったし、相手は名家の嫡男だ。丁重に扱え、とはお目付け役達から厳命されている。

 まあ、それ以前に皇花にとって彼は幼馴染でもあったので、対して邪険にする必要もなかったのだが。


「京都の我関せず、の奴らはどうするんや、って親父が」

「ああ・・・それか。色々な・・・そうだな御子神だのなんだのと動いてもらっている。すまない、連絡が行っていなかった様子だ」


 鏡夜の言い口に相変わらずの言い方だ、と皇花は呆れるが、お目付け役達もそれを知るので少し眉をしかめたぐらいだ。なので、鏡夜は気にする事なく、先に進む事にした。


「ああ、なんや。そういうこと・・・と、じゃあ俺は親父に報告したら東京行ってくるわ」

「ああ、そうか・・・東京?」


 立ち上がった鏡夜を送り出そうとした皇花だが、ふと、違和感を覚えて首を傾げた。鏡夜が東京に行くとは聞いていたが、それは確か従兄弟の竜馬の結婚式に出る為だ。それも既に昨日終了しており、再び東京に戻る意味がわからなかったのである。


「なんや親父が総理迎えに行く、言うとるから、お前も来いやと・・・どうでもええ、ちゅーねん」

「仕事だ。諦めろ」


 ため息混じりに鏡夜が呟いた言葉に、皇花が苦笑する。ちなみに、二人共皇花の横のお目付け役達が先ほどからの鏡夜の言動にかなり苦々しい顔をしていたが、それに気付いてなお、お構いなしだった。

 まあ、鏡夜は今回の一件にそもそも不満が多いので、それを知る彼らも致し方がないと思って口を挟む事はなかったが。


「さて・・・んじゃあ、行ってくるわ」

「ああ」


 そうして、二人はお互いに行動を開始する。部屋を出た鏡夜はため息混じりに呟いた。


「さて・・・まあ、何でもええけど、とりま今回の総理は不運やったなぁ」


 鏡夜が思うのは、これから迎えに行く予定の相手だ。ここ数日皇の上層部の面々が大いに動きまわって、隠蔽の為に様々な手立てを行っているのだった。


「まあ、しゃーないんやろうけどなぁ・・・ここで俺らがしくじりゃ確実に、占術師共は攻めて来る。それがやっこさんらの悲願や・・・せやけど、中国にしても何処の国にしても世界大戦なんぞやりたない・・・はぁ、どないせい、ちゅーねんな・・・」


 唯一、相手方の裏を把握している鏡夜がため息混じりに呟いた。それでも唯一ありがたいとすれば、今回の討伐相手が自分の幼馴染で、彼は喩え勝っても故意に日本を危機に貶める事が無い事だ。

 それだけは、彼にも断言出来た。まあ、勝った時点で日本の危機であるのは致し方がない事だろう。


「おまけにあいつも逃げられん、と・・・はぁ・・・」


 ため息は尽きなかった。そもそも、カイトの実家と故郷は日本で、彼自身の真実は家族に何も知らせていないのだ。

 確かに、バラして逃げる、という手段を取れれば良いのかもしれないが、残念ながら、彼の親兄弟は仕掛けられる追手から逃げ延びられるだけの実力もなければ、逃げて安住を得られる地も無い。

 それは他ならぬ鏡夜が理解していた。曲がりなりにも日本の裏方事情の多くを知っているのだ。逃げ場が無い事は即座に理解した。

 だからこそ、カイトは安心して自身の正体を露呈させたのだ。ここで自分が悩むのも、そして自分が正体を露呈しないであろう事もカイトの手のひらの上だ、と鏡夜は何処かで薄々勘付いていた。そして、現に今どうすれば良いのか、という悩みは尽きていない。


「くそ・・・いっそ無茶苦茶悪党なら、何ら躊躇い無くやれたもんを・・・」


 鏡夜が忌々しげに吐き捨てる。鏡夜とて陰陽師の端くれだ。悪害を為すとして、知性ある存在を消し去った数は無いでは無いのだ。喩え人間と同じ形をしていても、そこの所は容赦が存在しているはずがなかった。

 だが、残念ながらカイトは悪党では無い。善人では無いだろうが、少なくとも決して悪党とはいえなかった。

 それが、鏡夜を悩ませる。カイトにも言い分があり、その言い分はまた、正しくはあるのだ。ただ単に、彼らの正義と真正面からぶつかっているだけだった。そこの所が、彼に義務感と友情の間で結論を付けさせないのだった。


「くそっ・・・ほんまにくそったれな世界やわ」


 そう呟いて、鏡夜は使い魔を走らせて再び実家へと戻っていくのであった。




 鏡夜が去った後。皇花は再び仕事に取り掛かろうとしたのだが、そこでまた来客があった。今度は秋夜とその父親だった。


「・・・颯夜殿。どうしました?」

「いや、これから鞍馬山の鞍馬殿にご挨拶に伺おうと思ったが、ここから近いのでな。なので、先日の詫びを、と」


 颯夜はそう言うと、横に置いた紙袋を皇花に手渡す。それは東京土産の詰め合わせだった。それに一瞬皇花は困惑を浮かべ、横のお目付け役達を窺い見る。

 どうやらお目付け役達も流石に陰陽師の中でもかなりの名家の差し入れを断れとも言えないらしく、少し嫌そうな顔をしたが、一つ頷いて了承を示した。


「・・・」

「ありがとうございます」

「いや、此方こそ愚息がご迷惑を掛けている。今暫くではあるが、どうかよろしく頼む・・・秋夜、行くぞ」

「はーい。じゃあ、またね」


 秋夜はそう言うと、父に続いて立ち上がって歩き去って行くのだった。


「全く・・・私なぞ単なる養女・・・贄女(にえめ)にすぎない存在だというのに」


 一人――お目付け役は居るが、気にしていない――になり、ため息混じりに皇花が苦笑を見せる。

 贄女。それが彼女の本来の役職だった。その役割は呼んで字の如くに、生け贄となる事だ。ただ単に彼女はその中でも並外れた実力を有していた為、便宜的に皇家に養女に入っただけである。表向きには、皇家からも生け贄を出す、という外聞の問題だけの話だった。

 まあ、国内では誰もが彼女が養女である事は知っているので、それが単なる嘘偽りだというのは百も承知だ。ただ単に、詳しい事情を知らない他国の魔術師達への覚悟の程を魅せつけるだけの事だった。


「食べても宜しいか?」

「・・・」


 皇花の問いかけに、お目付け役達は少し考えて、頷いた。既に儀式の近い身として、皇花には食事制限からお清め等の監視、ありとあらゆる行動が術式に影響を与えない様に監視下に置かれていた。それ故に、問いかけたのである。

 既に死が決まった者として自棄になるのでは無く、逃避でも無く自らの意思でルールに則って行動するあたり自分は硬い、と皇花は思う。

 だが、それが性分だ、と諦めてもいた。まあ、諦められる様に教育されているのだから、仕方がない。


「では、遠慮無く・・・いや、丁度良い。次の来客への対応で使わさせてもらおう」


 次の来客予定は時計を見てみれば、かなり近かった。なので皇花は使い魔に包み紙を開けさせてお茶の用意と一緒に持ってこさせる事にする。

 そうして次に来たのはそれは一人の若い少年と少し若い父親だった。皇花はそれに先ほど貰った茶菓子を提供すると、雑談を少しに本題に入った。


「丸目殿・・・それで、此度のご返事を持ってこられたのですか?」

「ああ、それもあるが・・・いや、先に此方を伝えておこう。此度の戦、我らも参加致す。これの実戦経験を積ませるのに丁度良い」

「ありがとうございます」


 横は息子らしい。彼は少し緊張した様子で正座する少年の背を叩くと、少年の方は少しだけ緊張を滲ませて頷いた。この緊張っぷりは皇花にも覚えがある。初陣を迎える時は、誰もがこんな風に緊張を浮かべていたのだ。それを見て取った皇花に、丸目の名を戴いた男が頷いた。


「初陣でな・・・まあ、これだけ多くの強者達が集まるのだ。良い経験だと思ってな・・・それと、もう一つ。此方が今回訪れさせて貰った理由だ。高山の血筋が近々来訪するらしい」

「高山・・・高山 重友(たかやま しげとも)の子孫ですか?」

「ああ」


 丸目は皇花の問いかけに頷くと、一通の手紙を差し出した。それは彼の言葉が確たる証拠となり得る事を示す資料だった。その内容に、横で覗き見ていたお目付け役達も思わず顔を顰めた。

 ちなみに、高山 重友(たかやま しげとも)とは関西のキリシタン大名の事で、有名な名前であれば高山 右近(たかやま うこん)とも呼ばれている。

 ではなぜそんな人物の子孫が来訪する、となるのかというと、当時のキリシタン国外追放令を受けて右近は家族と共に国外に追放されているのである。多くの家族は彼の死後帰国を許されているが、その際に海外に残った血筋の一つはその後も海外にとどまり続けていたのであった。


「・・・ついにヴァチカンも動き始めたか・・・」


 手紙の中身を読んで、皇花が苦い顔で呟いた。だが、苦い顔なのは横のお目付け役達も一緒だ。それに丸目は少しの驚きを得たが、とりあえずは皇花の呟きに頷いた。

 右近の血筋の中でも海外に残り続けた血脈はその後大陸を渡りヴァチカンへとたどり着き、剣士としての腕っ節の強さとその信仰心の深さから高名な退魔師(エクソシスト)の家系になっているのだった。そうして、更に丸目が口を開いた。


「大陸に渡った時に一度死合したが・・・あれはやはり日本に端を発する剣士の流派だったな。いや、あそこまで退魔師(エクソシスト)達の技を融合させてみせるとは、なんともはや・・・」

「あー、丸目殿?」

「いや、だが俺も負けていない。これでも丸目の当主。流石に術式の展開では負けたが、剣技ではまけては居ない。いや、剣技なら勝っていた。それにそもそもこっちは」

丸目 蔵人(まるめ くろうど)殿!」


 尚も続ける丸目の談義に、皇花が流石に待ったを掛けた。そもそも今はそんな話をしている場合では無いのだ。それに気付いて、ようやく丸目も照れた様な笑みで答えた。


「いや、失敬失敬。つい話に入ってしまった・・・まあ、次の戦ではきちんと我ら丸目のタイ捨流をご覧入れよう」

「お頼みします」

「では、俺達はまた修行の旅に出る。まだ半月も先なんだ。覚えるべき事は山程ある。ほれ、行くぞ」

「はい、父上」


 その会話を最後に丸目親子は立ち上がり、部屋を後にする。それを見届けると直ぐに皇花はお目付け役達に視線を送ると、彼らは既に動いていたらしく、一つ頷いて口を開いた。


「高山家については我らで対処する。貴様は気にする必要は無い」

「了解した」


 なんの説明もなかったが、別にお互いそれで気にする事も無い。なので皇花は再び前を向いて、着物の懐から今日来る予定の来訪者リストを確認する。


「次は・・・宮本殿か・・・此方は当主が入院中との事だから・・・伊織か。彼女も若くして襲名しているか・・・今代は妙に逸材が多いな」


 立花も然り、今彼女が呟いた宮本と言う名も然り、全てが戦国時代から続く名家だった。

 一応表向き家筋を継いだ家もあるが、今回呼び寄せたのは、その中でも裏事、つまりは異族退治や魔術などを使い熟す、古来からの戦い方を継いだ者達だった。

 その中でも特に優秀な者達は、祖先の名を受け継いで、襲名という形でその名を名乗る事がある。皇花が呟いたのは、その襲名を果たした少女の事だった。

 そうして、皇花達皇家もまた、戦いに向けて準備を進めるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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