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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 語り部編 第1話 二人の語り部

 それは、少女がエネフィアにてカイトから特別なお願いを貰う直前の事だ。いや、もしくは、カイト達天桜学園の面々が地球上から消えてすぐのこと、と言ってもいいだろう。

 カイトからお願いをされた少女とは別の、姫カットの黒いロングストレートの少女がスマホを片手に誰かと連絡を取り合っていた。


「・・・では、そちらは何の問題も無い、ということだな?」

『うぉい! お前今の話聞いとったらどないしたらそんな結論なんねんな!?』


 どうやら電話相手は少年らしく、少女の問いかけに楽しそうではあるが、少しだけ慌てた風に答えた。そうして、彼は再びになるが、同じ話を繰り返した。


『はぁ・・・こっちは大慌てや言うとるやろ。ものすっごい大急ぎで色々な手筈整えとるとこや。皇の上の奴らも大慌てでやっとる。こら俺と秋夜はそっち行き確定やな』

「お前も来るのか」

『なんや、嫌そやな』

「まあな」

『うぉい! 仮にも幼馴染やぞ!』


 明らかに演技ではあったが嫌そうな口調で告げた少女に対して、少年が大声でつっこみを入れる。


『はぁ・・・まあ、ええ。とりあえず、俺らは一度学園に何があったか調べるのにそっち行きや。曲りなりにも三童子の残り二人や。幻術や封印なんかやと、それでなんとかなるからな。まあ、一応親父やお目付け役は来るやろ』

「相変わらず、貴様への見張りは解けていないか」


 少しだけ声音を真面目な物に変えた少女は何処か申し訳無さそうに口にした言葉に、少年は快活に笑った。


『あはは! いや、そりゃしゃーないわ! なにせ俺ら陰陽師100年の術式を完璧に台無しにしたんやからな! それも勝手に! そりゃまた勝手になんかされん様にお目付け役の一人や二人付けるわ!』

「笑い事か・・・」


 ケタケタと楽しそうに大笑いする少年に対して、少女はため息混じりに呟いた。とは言え、これについて何かを言えるのか、というと、そうでもなかった。


「まあ、その判断で救われた身としては、何も言わんが・・・貴様はもう少しまじめにやれ・・・」

『あはは・・・その根っこの真面目さは変わっとらんなぁ』

「こればかりは、性分だったらしくてな」

『でや・・・すっかり話がそれたけど、刀花の見立てはどや?』

「わからん」


 刀花。そう呼ばれた少女はスマホ越しだが、頭を振った。少年は今、天桜学園に何が起きたのか、それを問うたのだ。彼女は今現在天神市にある別の高校に進学しており、その縁で先んじて確認に向かったのだ。だが、結局自分では何もわからなかった。まあ、彼女だけなら、だが。


「まあ、それは私に限ればの話だ。貴様が聞きたいのは、ウチの情報網のことだろう?」

『せやな。なんや情報は入っとらんか?』

「流石にネットも大荒れしているな。誰がやったのか、と犯人探しにやっきだ・・・まあ、誰も本気で探していないが」


 ため息混じりに刀花は頭を振る。今まで雲の上の存在だとばかり思っていた相手と付き合うようになって久しいが、未だにここまで神様達の一部がいい加減な存在だとは信じられなかった。

 ちなみに、神様達がなぜ本気で探していないのか、というと、決して自分達がやるような事では無いからだ。彼らは神様。人間あってこその存在なのである。

 それ故に、よほどの悪神でもなければ人間に無闇矢鱈に危害を加える事はしない。好き好んで自らの信者を少なくする神様は居ないだろう。おまけに、日本は八百万の神々を除けば多くの神々の管轄外。わざわざ無関係の土地でこんな事をする馬鹿者は居なかった。


『はぁ・・・おりゃ、そのサーバーの存在が信じられんわ』

「3年前に設立して以来、参加者数は増える一方だ。崑崙の弟子達はともかく、道士達や斉天大聖殿等は暇だ、なぞ言っているぐらいだ」


 少年の言葉に刀花はそう言うと、ちらり、と目の前の人物を見る。そこにはすわ何かカイト関連で面白い事が起きたか、と思って急ぎ飛ばしていたらしいが、何も無くてがっかりしているとある人物の姿があった。今は目の前のソファに横になって眼を閉じていた。

 ちなみに、学園一つが消し飛んだという人間から見れば大事件も当人からしてみれば大して面白くもない事件だったらしい。


「はぁ・・・天帝とか釈迦とかが何も言わなきゃ好き勝手出来るのに・・・異世界行ってみたいなぁ・・・」

「はぁ・・・まあ、とりあえず。転移して10分程でカイトから連絡が来たらしい。向こうで一段落付いたから、連絡を送ってきたみたいだ。あの10分で向こうは一ヶ月ぐらい経過していたらしいな」

『お、そりゃ助かるわ』


 ため息の先に何があったのか少年は気になる所であったが、その前に情報だ。なので少しだけ、身を乗り出した気配があった。


「とりあえずは無事、だそうだ。何やら楽しげな声が録音されていた」

『そうか・・・』

「やはり貴様も心配か?」

『当たり前や。これでも幼馴染やし、でかい借りがある。それまで死なれちゃ困る』


 少年が笑いながらそう告げる。そこでふと、刀花が何かを思い出してスマホを押さえて別の部屋に声を掛けた。


「っと、そうだ。すまん、ちょっと待っててくれ・・・御子柴殿! 鏡夜から電話が来ているが、何か言いつけておく事はあるか!?」

「ん、ああいや、すまない。今は何も無いな・・・まあ、此方から何かあれば・・・あ、おい希。それは貴様のじゃないぞ」

「あ・・・ちっ」

「ぎゃはは! 希さん、そりゃバレバレっすよ!」


 ひょこりと別の部屋から顔を覗かせた総司は何もない事を告げると、再び首を引っ込めて希に対して苦言を呈する。ちなみに、どうやらお菓子を食べていたらしいのだが、総司が居なくなった隙を見計らって希が手を出したらしい。

 そうして響いてきた笑い声を受けて刀花は苦笑を浮かべると、再びスマホに向けて話し始める。


「わかった・・・すまない。丁度御子柴殿達が居てな。何か言付けはあるか、と聞いたが何もないらしい」

『ああ、そういうことか。まあ、俺もこの間総会で会ったばっかやからな。まあ、何もないやろ』

「でだ・・・」


 そうして再び話し始めようとした所で、銀光が迸った。それに一瞬で刀花はスマホの通信を切断すると、後ろを振り返って刀を構え、同時に異変に気付いた総司達が戦闘態勢で出て来たが、現れた姿に警戒を解いた。


「なんだ、あんたか」

「・・・ああ、御身か」

「刀花に小僧共か。何の用事だ」

「マンションからだと他の面々が五月蝿いですので」

「俺達は偶然集まっている時に事件に出くわしたんだが・・・」

「そうか」


 一同は顔見知りらしい。刀花は警戒を解くと再びソファに腰掛けて、総司達は部屋に戻っていった。そうして刀花が再びスマホを取り出そうとした所で、相手が口を開いた。


「まあ、それは良い。刀花、一つ仕事をしろ」

「ふふ・・・相変わらず強引だ。わかりました。何を?」

「このメモに沿って手筈を整えろ・・・必要な書類等については後で此方から送る」

「わかりました」


 刀花はその言葉と共に少女から渡されたメモに笑みを浮かべる。彼女がカイトを溺愛していることは知っていたが、ここまで溺愛している様を見せられて笑みしか出なかったのである。


「・・・カイトにどれだけの対価を要求したのですか?」

「何だ? 文句があるのか?」


 刀花が発した問いかけを受けて、銀光と共に現れた少女が睨みつける。それは本来は心底肝が冷える様な威圧感を放っていたが、刀花には、単なる照れ隠しとしか思えなかった。そんな余裕を浮かべる刀花に少女は少しだけ舌打ちをしたが、気分を変える事にした。


「・・・まあ、良い。そういえば私も一つ、気になっていた事がある」

「なんでしょうか?」

「そういえば今まで貴様らの出会いについて聞いたことがなかった・・・話せ」


 照れ隠しである事は目に見えていたのだが、刀花はそれを受け入れて口を開こうとして、客人――と言っても刀花自身もこの部屋から見れば客人だが――に対して飲み物を用意していなかった事を思い出した。


「ふふふ・・・ええ、いいですよ。と、その前に飲み物は何か?」

「ワインだ・・・奴の秘蔵品が隠し扉の先にある。そこから取ってこい」


 少女の言葉を受けて、刀花は立ち上がり、言葉通りのワインを持ってくる。そうして彼女は全ての用意を終えて、ようやく、口を開き始めたのだった。




 一方、同じ頃。エネフィアでは、その話の主役の少年に対して何人もの少年少女達が少しの申し訳無さを含みながら笑っていた。


「いっやー、悪い悪い。すっかり寝ちまった!」

「はぁ・・・結局お前ら殆ど聞いてないだろ」

「い、いや、聞いてたぞ? 少し聞き逃したけど」


 カイトのため息混じりの苦言に対して、翔が照れた様な笑いを浮かべながら言い訳をする。ちなみに、翔は昨夜に大精霊達が言った様に、半分程度も聞いていない。


「ったく・・・ほら、さっさと今日の仕事に入るぞ。まずは野営の道具を片付けろ」


 カイトはそういうや、自身は寝ぼけ眼のユリィを自身の寝袋のポケットから回収すると、手際よく寝袋を畳んでいく。野営訓練なのだから、野営の為に必要な事は殆ど自分で出来ないといけないのだ。なので、教わりながらではあるが、全員が各個人の事は自分でやっていた。


「い、いや、これ結構ムズいぞ?」


 まあ、やろうとしているだけで、できていない面子も居たが。その筆頭であるソラは、寝袋を畳もうと悪戦苦闘する。まあ、畳むと言ってもくしゃくしゃにして袋に突っ込もうとするだけだが。


「あー、ソラー。そんなくしゃくしゃにしちゃダメだよー」


 そんなソラを見かねたのか、由利が手を貸す。彼女はもともと家事を手伝っているし、そもそもで実母が逝去してから暫くは家事を殆ど彼女がやっていたのである。その為、一通りの作業は出来るのであった。


「サンキュー」

「もー、ソラもこれぐらい出来ないとダメだよー」


 少し怒る様子はあったが、少しだけ嬉しそうに由利がソラの世話を焼く。この頃には既に二人は付き合っていたし、もともと由利は世話焼きであった事もあってこういった奉仕は好きらしく、苦言を呈しつつも何処か嬉しそうだった。なお、当たり前だがソラは嬉しそうである。


「・・・この二人は一緒にした方が良いか」


 そんな様子を見て、カイトはソラと由利の遠征に対する適正をメモする。戦闘に対する相性もそうだし、人格についての相性も良しだ。ソラは今部隊指揮を覚えさせている最中だし、由利はもともと自分のチームを持っていた為、指揮に対する補佐も多少は出来るのだ。

 それに加えて、由利は周知の通りで料理が出来る。野営では自炊出来ないと満足に食事も取れないのだ。料理が出来る人員が居るかいないかは、実は死活問題なのであった。つまり、この二人はありとあらゆる意味で相性がぴったりなのである。


「さて、今日の以来はここら一帯の魔物の掃討任務だ。数時間後には草原に子供達が来る予定だ・・・全員、今日もぬかるなよ!」


 それから暫く野営の後片付けを行い何か不備がない事を確認すると、冒険部の一同が集まった所でカイトが号令を掛ける。どうせ人数が居るのだから、と大人数でしか受けれそうにない依頼をクズハから回させたのである。

 この依頼はクズハにしても貴重な軍人を動かす必要も無く、更にかと言って冒険者から人員を集める必要が無く、冒険部にしても地域交流を促進する事が出来るというお得な仕事であった。偶然ではあったが、カイトとしてもクズハとしてもありがたい依頼だった。

 ちなみに、子供達の護衛に万が一があってはならないため、きちんと結界を張った上にアル達が見回りに参加する事になっていることを、念のために言及しておく。


「・・・ぐ、ぐあ・・・もうだめだ・・・」


 カイトの号令から10時間後。疲れきった様子の一同の姿がそこにはあった。


「な、なんであれだけ元気なんだ・・・」


 ソラの疲れた様子の言葉に対して、瞬が何処か真っ白になりながら呟いた。彼らは元の面倒見の良さがあった所為でやんちゃ坊主達の相手を務める事になってしまい、魔物の襲撃を警戒しながら勝手気ままする子供達の面倒を見るという重労働をやらされたのであった。

 おまけにその後は野営訓練で野営の準備だ。幸い火を起こす等の作業は魔術によって一発なので何ら問題はなかったが、テントの準備や簡易的な結界の設営、食事の用意等と大量の仕事があったのであった。


「子供なんてこんなもんだよー」

「ねー」


 そんな二人に対して、由利とユリィが笑いながら頷き合っていた。由利は今弟や妹が今回来た子供達の中でも低年齢の子供と同じぐらいの年齢であった事も幸いして、大した問題も無く面倒を見きれていて、対してユリィは公爵家の有する孤児院がある。時々マスコットとして出現しているユリィに何も問題はなかった。

 と言うより、今回の依頼の依頼主はその孤児院だ。引率として孤児院の手伝いをしていたミレイも来ていて、おまけにお昼ごはんは同じく孤児院出身のミニス達の出前だった。簡単な野外ピクニックの依頼だったのである。


「そういえば・・・結局昨日の続きってどうなったの?」

「昨日・・・ああ、あの話か」


 寝袋も全ての用意を終えた魅衣の問いかけに対して、同じく全ての寝る用意を整えたソラが少し思い出すかの様に頷いた。


「え、えっと・・・どこまで話が進んだんでしたっけ?」

「んー・・・桜達がなぜオレのお見合い写真があったのか、が不明なままお話は終わった」


 桜の確認するようで誰かに助けを求める視線に対して、カイトがイタズラっぽい笑みで答える。


「うぐ・・・ごめんなさい。すっかり眠ってしまっていましたので・・・」

「いいさ。それで、まあ・・・それより、だ。なあ、ソラ。なぜあの後京都に居たんだ? お前確か京都じゃなくてアメリカにとんぼ返りのはずだろ?」


 申し訳無さそうなソラに対して、カイトが問いかける。丁度昨日シルフィ達も気にしていた所だし、かねてよりカイトも疑問だったのだ。丁度良いか、と思って尋ねてみる事にしたのである。


「あ、いや、まあ・・・色々あってな」

「だから、その色々を話せ、って言ってんだろ。あん時はオレも何も言わずにおいたが・・・そろそろいいだろ」

「うぐっ・・・マジ?」

「なら向こうで貸した5万ぐらい返せよ」


 ソラの何処かやめてくれ、という様な顔に対して、カイトがトドメの一言を告げる。実はその時にカイトは色々と便宜を図ったのであった。その結果、諸々の諸経費が5万ぐらい、だったのである。まあ、実はもっと掛かっているのだが、それはカイトとソラの仲だ。貸しとしておくことにした。


「・・・わーったよ。話すよ。だからその5万は待って」

「その理由が真実ならな」

「わかったよ・・・その代わり、お前もあの部屋がなんなのか教えろよ」

「ま、そっちは良いか。じゃあ、オレから行くか」


 カイトの方は別に隠している事でもなんでもない。なので、躊躇いなく話し始める。そうして、奇しくも殆ど同じ時間に異なる世界で、二人の登場人物達による、過去語りが開始されるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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