断章 第31話 楽園統一編 夜明け
ティナは飛空石を作成していたが、その4つ目が運び出されると同時にカイトへと連絡を入れた。
『カイト。余が製作した飛空石の4個目が今、運びだされた。これが所定の場所に到着すれば、もう落下することは無いはずじゃ。余の目測が確かじゃと、3つで十分に釣りおうておるはずじゃからな。』
『あ・・・お、マジだ。さっすが。』
『元の高度にまで戻してやれ。』
『了解。』
会話の終了と同時に、カイトが『最後の楽園』全域へと通達を送る。それと同時だ。轟音が鳴り響き、『最後の楽園』が鳴動する。ゆっくりとだが、確かに『最後の楽園』が元の高度にまで上昇を始めたのだ。
「助かった?」
「まだ終わっておらんよ。さっさと次の魔石を持って来い。手が空いたなら、里の全域で暴れまわる流れ者達を討伐してこい。」
「あ、りょ、了解!」
浮き上がり始めた『最後の楽園』に気づいて警備隊員達が安堵の表情を浮かべたのだが、それはティナによって注意される。そうして、彼らも大慌てで再び里の復旧へと奔走を始めるのだった。
それと時同じく。カイトも『最後の楽園』の上昇を終え、千夜と狗神の成れの果てとの戦闘に参戦する。
「問おう。」
カイト、陰陽師達、狗神の成れの果ての三つ巴の中。一時的に訪れた静寂を破ったのは涼夜だった。それに、カイトも応ずる。
「聞こう。」
「此度の仕儀は我らとて望む所ではない。それ故、手助け・・・否、尻拭いを申し出たい。」
「いいだろう。この戦いの間の共闘を受け入れよう。」
「感謝する。」
涼夜達はここでカイトに手出しをして要らぬ戦端を開きたく無いし、カイトとしても友人が主戦力に居るのに戦いたくは無かった。なのでこの申し出は受け入れられる。
「此方は一人身だ。そちらに合わせよう。」
「感謝する・・・鏡夜!秋夜くん!あの男と共に協同して動きを抑えてくれ!此方で降魔調伏の呪術を唱える!」
カイトの申し出を受けて、涼夜が鏡夜と秋夜に指示を送る。
「おうよ!おい!巻き込まれんなや!」
「巻き込まれてくれたほうがいいんじゃないかなぁ・・・」
カイトに対してそう告げた鏡夜に対して、秋夜は少し悩ましげな声で呟いた。
「あいにく巻き込まれた場合は術式を破壊して脱出するが?」
「げ・・・出来そうだから厄介だよ・・・」
不敵な笑みを浮かべて告げたカイトに対して、秋夜が嫌そうな顔で呟いた。それが、再戦の合図だった。どうやら敵数が一気に増えた事を見た成れの果ては霧を撒き散らして此方の数を減らす事にしたらしい。
どうやら千夜の意識は消失しても、知識が無くなったわけでは無い様だ。涼夜達が何を始めようとしているのかに思い至ると、それを妨害するにはどうすれば良いのかを判断したのだ。
「ガキ二人は右からの霧を防げ!左側は全て此方で引き受ける!正面は陰陽師共!その程度防げないとは言うなよ!」
「命令すんな!お前が合わせんねやろ!」
「いや!二人共その指示に従え!」
「はぁ!?」
抗議の声を上げた鏡夜だが、それを涼夜が却下した。
「正面程度の霧ならば此方で受け持てる!呪術を展開しようにも左右から回り込もうとする霧をなんとかしないといけない!この程度は判断出来る様になれ!お前はだから周りが見えていないんだ!」
「あー、くそっ!またかいな!」
来る前に父、来てからは謎の男、更に父が来てからもう一度。同じことを言われて鏡夜が苛立ちの声を上げる。
「だからぼさっとすんな!」
「あー、もう!五月蠅いわ!やっとる!」
「ぎゃんぎゃん喚かないでよ!僕、眠いんだよ!今何時だと思ってるのさ!」
「子供は寝る時間だな。」
「うるさい!お前こそ何者なんだよ!」
三者三様に罵り合いながら成れの果ての霧を防いでいく。だが、それも鏡夜と秋夜には困難な作業だった。
「これ・・・結構きついんだよ!なんでこんなに濃いの!」
「あー、おっさんいい加減に諦めろや!んなんやったとこで佳彦さんはもう戻ってこんわ!」
二人が悲鳴に似た声を上げる。そもそもで出力が桁違いなのだ。おまけに二人はカイトとは違い、使い魔を操作しながらの戦いだ。まあ、カイトはカイトで飛空術を使用しているので、そこは相殺されるだろうが。
「この程度で音を上げるのか?陰陽師も大した物ではないな。」
「なにゃと!」
「あ、兄ちゃん噛んだ。」
「うっさい!こんな状況や!噛むぐらい許せや!」
それでも耐えれているのは、ひとえにカイトが叱咤激励にも似た挑発を繰り返すからだ。それで、一時期的には防御の勢いを取り戻す。とは言え、これはやはり一時的な物だ。なので、何時かは息切れする。
「左右は一時的に引き受ける!二人は一度休め!」
「つぅ、くそ・・・すまん!」
「最悪・・・お願い!」
悪態を吐きつつも、鏡夜も秋夜も中央の父親達の所へと入っていく。幾ら三童子と褒めそやされようと、二人の魔力保有量は人間の領域に留まっている。防御だけとはいえ、魔力が保たないのだ。そこで、一時期的に使い魔も消失させて陰陽師達が作る回復薬に似た薬で魔力を補給するのだった。
「さて・・・はっ!」
そうして二人が居なくなった後。カイトは正面に立って気合を入れて魔力を放出する。それだけで大気が鳴動し、黒い霧が雲散霧消する。カイトとて魔力を込めた咆哮を放てるならそれで吹き飛ばせるのだが、それだと陰陽師たちの準備している術式にも影響が出てしまうのだ。それ故、軽く一瞬しか出来ないのだった。まあ、その一瞬の攻撃さえ陰陽師達を驚かせるのには十分なのだが。
「一体どんな肺活量してんだよ・・・」
「つーか、あいつ息継ぎ無しやぞ・・・」
「回復したならさっさと飛び立て!如何にあいつとて無限では無いはずだ!あれが破られれば我々も全滅だぞ!」
「わかってるよ!」
「もう少し待ってくれ!流石に連続で十数分も全力で闘いながら飛んどんねや!」
秋夜の父親の言葉に、鏡夜も秋夜も肩で息をしながら大声で告げる。薬を飲んだ所で、すぐさま回復するわけは無いのだ。回復するのにも数分を要する。
「行って来る!」
「はぁ・・・もうやだ・・・」
「つべこべ言うなや!さっさと来い!」
「うぅ・・・僕一応小学生なんだよ・・・」
なんだかんだ言いつつも、秋夜とて罪悪感が強すぎて再び飛び立つ。そうして、戦闘が開始されて30分。ついにその時が訪れた。
「すまん、千夜。お前の嘆きを、苦しみを理解してやれなかった・・・」
準備が整い、涼夜が少しのやるせなさを吐き出した。彼と千夜は従兄弟同士だった。年齢は千夜が少し上で本家と分家の差はあったが、同じ草壁一門として、同じ陰陽師として、彼らは仲が良かった。
それが狂ったのは、数年前に起きた出来事だ。千夜の兄と息子は伯父と甥としてとコンビを組んである流れ者を追っていたのだが、それを『最後の楽園』が保護したのがきっかけとして、『最後の楽園』と彼らの間で抗争が起きたのだ。その時の死者の中に、千夜の兄と息子が含まれていた。
「元々我らは欧州の者共より追跡を請け負っただけの事・・・討伐を・・・いや、あそこまで深追いしなければ・・・」
涼夜が嘆きと共に、術式を完成させる最後の呪符を空中に浮かべる。二人は深追いし、『最後の楽園』の中にまで入り込んでしまったのだ。そして見つけたは良いが、そこで一悶着起きてしまう。
彼らが請け負ってもいない討伐――討伐かどうかは推測だが――の為に放った一撃が、関係のない『最後の楽園』の住人に命中して即死してしまったのである。元々保護した者が追われている事を知らなかった『最後の楽園』側は、当然この行動に怒った。元々険悪な仲だ。後は取り押さえようとして乱戦になるだけだった。
ここで最悪だったのは、二人がなまじ強かった事だ。攻めあぐねた上に里に入り込んでしまった所為で、エリザが出ざるを得なかったのだ。
そうなれば、勝敗は火を見るより明らかだった。問答も無く一撃で、彼らは跡形もなく消滅した。事を知った他の陰陽師達が救援と交渉に乗り出した時には、既に全てが決した後だった。
そうして、元々タカ派だった草陰家は人当たりの良かった次期当主と、寡黙ながらも面倒見が良かった当主の兄を失った事で一気に暴走していった。それが、今回の一件の裏事情であった。
「すまん・・・千夜。これで、全てにかたをつけよう。」
「鏡夜くん!秋夜!二人共術の展開に入れ!蒼髪の男!一瞬で良い!動きを縫い止めてくれ!」
涼夜の謝罪を他所に、秋夜の父親が鏡夜と秋夜に指示を送る。
「おう!頼んだわ!」
「しくじらないでね!」
「任された。」
その言葉に三者三様に返事を返して、鏡夜と秋夜の二人は陰陽師達の集団の中に。カイトはもう一度光の注連縄を顕現させる。
「ぐぅううう!」
「はっ!神さえも動けない注連縄だ!動けると思うな!」
光の注連縄によって動きを縫い止められた成れの果ては、恨みとも嘆きともつかないうめき声を上げる。だが、それはスサノオさえも抜け出せなかった光の注連縄だ。そして、使い手はヒメを上回るカイトだ。逃げられる道理は無かった。そうして、それと同時に陰陽師達の最後の口決が大阪の空に響き渡った。
「皇宗流・降魔調伏術!<<天照らせし日輪の光条>>!」
彼らの口決と共に現れたのは、太陽の如く金色に光り輝く巨大な剣だった。それは射出されると、一気に千夜と狗神の成れの果てへと直進する。直進したそれは光の注連縄で動きを縛り付けられた千夜と狗神の成れの果ての眉間に直撃し、そのまま東の空へと飛んで行く。
そんな最中。まるで狗神の身体から剥がれ落ちる様に、黒い煙が噴出していく。そして、全ての黒い霧が晴れると同時に狗神の姿が一瞬だけ現れて、光の剣は日輪のごとくに光り輝くのだった。
「ほう・・・なかなかに見事。」
それを見ていたカイトが、笑いながら称賛する。伊達に30分近くも詠唱を続けていたわけではない。カイトであっても今の攻撃は見れるレベルだった。そうして、東の空へ消えていった狗神を見ていたカイトだったが、直ぐに後ろを振り向いた。
「で・・・やんのか?」
後ろには、一切警戒を解くこと無く武器を構え続けていた陰陽師達が居た。共闘は元々千夜と狗神の成れの果てとの戦いだけだ。それが終われば、両者は味方同士ではない。そうして、カイトの問い掛けに、陰陽師たちの間で魔力が俄に高まっていく。だが、そこにカイトの後ろから二人の影が現れる。
「ほう。どうやらやるつもりの様じゃな。」
「どれ・・・儂も傷が癒えたし、そろそろ参戦するとしようかのう。」
「誰だ!・・・蘇芳 村正!尖爪のクシナ!他にも・・・『紫陽の里』の連中が何故ここに!?」
「ふん・・・儂らは『最後の楽園』との会合中でクーデターに巻き込まれた。この里におって当然じゃろう。」
いきなり現れたティナに誰何した陰陽師達だが、更に続いて現れた蘇芳翁や菫達を見て驚愕に目を見開く。だが、カイトの背後に現れたのは、それだけでは無かった。
「あら・・・私達も居るわよ。」
「名は・・・告げぬ方が良さそうですね。エリザをありがとうございました。」
「千年姫!人魚姫もか!それに・・・『最後の楽園』の幹部陣だと・・・」
まるでカイトを頂点としてその左右に控える様に、2つの里の面々が居並ぶ。それと同時に、夜明けが訪れた。夜明けの光を後光の様に受けて並み居る強者達を背後に居並ばせるカイトの姿は、さながら物語に語られる覇王の様だった。そして、覇王が不敵な笑みを浮かべて告げる。
「さあ、今度はこっちから問うぜ?この場で戦いを始めるのか、否か。だが、覚悟しておけ。やるというのなら、この場の全員が相手だ。それに打ち勝てる自信があるのなら、弓を引くと良い。」
覇王の問い掛けに、陰陽師達が生唾を飲んだ。協同については想定はしていた。だが、それが統一したとなると、想定以上の事態だった。協同は単に連携を取るだけで一枚岩ではないが、統一となると一枚岩となるのだ。連携から何から全てが段違いになる。それを前にして、戦いを行うかどうかは流石にこの場の面々には決めかねた。
「さあ、どうするんだ?ガキがお眠の様だから、そろそろ帰るか?オレも帰って寝たいんだが?」
カイトは顎で秋夜を示す。流石に激闘の上に夜明けまで起きていたものだから、完全にウトウトと船を漕いでいた。一応使い魔が落ちない様に常に位置を調整しているのだが、これでは戦えないだろう。そうして沈黙が下りるが、唐突に答え来た。
「全員、武器を下ろせ。ここでの戦闘は我々皇家としても本意ではない。」
「皇花殿。」
答えたのは皇花だった。彼女は巫女服姿の凛とした美少女だった。堅物という印象を受ける凛とした整った目鼻立ちに、ロングの黒髪はきっちりと切りそろえられて、枝毛も一切ない程に手入れされていた。所謂姫カットという髪型だった。そんな彼女だが、彼女だけは、使い魔も無しに空を飛んでいた。彼女は陰陽師たちの前に出てカイトと相対すると再度告げる。
「全員、武器を下ろせ。そちらも戦意がないならば、武器を下ろしてもらいたい。我々は我々の尻拭いに来ただけだ。他意は無い。」
「良いだろう。下ろせ。」
皇花の指示に従って陰陽師たちが武器を下ろし、呪符を懐にしまう。カイトの指示に従って後ろの面々が武器を下ろし、展開していた魔法陣を消失させる。どうやら戦闘は避けられた様子だった。
「私は皇 皇花。貴殿の名を問おう。」
「すまないが、オレは名乗れぬ理由があってね。まあ、別に呪術等を警戒したわけではないが・・・申し訳ない。のっぴきならない理由があってね。」
「ほう・・・わかった。承知しよう。だが、そのままでは名を呼べぬ。何か無いか?」
皇花は名前が問えぬ理由を聞かなかった。名乗れぬ、というのだけでも一つの情報なのだ。安易に突っ込んで警戒されるより、それに従ったほうが得だった。
「好きにしろ。」
「ならば、覇王殿ではどうか?好きにしろ、と言われたのでな。」
「ほうほう。此方が指定しなかった以上、確かに否やは言えんな。」
茶化すように、皇花がカイトに告げる。いや、真実茶化したのだ。様々な手法を通じて、彼女はカイトの情報を引き出そうと言うのであった。それに、カイトが楽しげな笑みを浮かべて頷いた。そうして、相手が気を良くしたのを見て、皇花が切り出した。
「では、覇王殿。一つ問いたい。『最後の楽園』と『紫陽の里』は統一したのか?」
「さて・・・それは答えかねるな。今回の一件はそもそもで会談中に起きた事。両方の里が協同しても当たり前だろう。」
「ふむ・・・だが、全員覇王殿に傅いている様に見えるが?」
「オレはそんなつもりは無いのだが?ただ単にオレが先ほどまで貴殿らと相対していたが故に、代表して取りまとめているだけやも知れんぞ?」
皇花の問い掛けに対して、カイトは敢えて情報を錯綜させる様に答えていく。此方の力が強いと警戒させる事。それが最大の安全保障だ。相手が強ければ強いほどに、安易に攻撃を仕掛けられなくなるのだ。
カイトは『最後の楽園』の強さを利用して、『紫陽の里』を警戒させようと考えたのである。『最後の楽園』を救ったのだから、この程度の駄賃は貰っていいだろう、という考えだった。
「では、統一していないと?」
「さて・・・それはどうだろうな?今この場に全員が居並んでいる事こそが、答えかも知れん。」
「成る程・・・情報は与えん、ということか。覇王殿が何者かは知らんが、どうやらやり手の様だ。では、もう寝ている面子も居る。これでお暇させてもらおう。」
その会話を最後に、皇花が踵を返した。それを合図に、陰陽師達が京都の方面へと飛び去っていく。
「・・・」
そんな最中。最後まで残っていた鏡夜は戦闘が終わった事で、カイトの顔をつぶさに観察していた。
「どうした?」
「いや、なんでもない。知り合いに似とると思ったけど、あいにくそいつは俺と同い年や。草陰のおっさんがえらい迷惑を掛けた。草陰家次期当主として、謝罪しとくわ。えらいすまんな。」
「軽いな、おい。」
「すまんな。元々こんな性格や。」
「そうか。」
二人は苦笑しあうが、鏡夜の横。同じく最後まで残っていた涼夜が鏡夜に告げる。彼は最後まで残って、光の中に散った従兄弟を偲んでいたのだ。
「鏡夜、行くぞ。」
「草壁殿。後で草陰家の遺体は運ばせよう。埋葬してやれ。」
「かたじけない。多少は損傷しているだろうが、出来れば集めてくれると助かる。」
「承った。」
出発の間際、カイトが涼夜にそう告げると、涼夜が頭を下げて感謝を示した。それが、両者の最後の会話だった。そうして、彼らが見えなくなるまで一同は『最後の楽園』の上空で警戒し続ける。その最中の事だった。カイトのスマホが鳴り響いたのは。
「・・・ふふっ。」
「どうした?」
「いや?・・・おーう、何や、朝から。」
『おう、スマンな!今からゲーム出来るか?』
電話の相手は鏡夜だった。当たり前だが、彼はそう言いつつ今からゲーム出来るはずは無い。それをカイトも知りつつ、敢えて気怠げに告げる。
「あぁ?後にしろよ・・・こっちは今まで寝てたんだぞ・・・つーか、今何時だよ・・・って、5時じゃねえか・・・お前、アホか。何考えとんねん・・・」
『お・・・マジや。いや、すまんな!つい実家の手伝いではよ起きて終わったから明るいしで電話したらこんな時間やったわ!後でまた掛けるわ!そんときゃあの金髪の美人さんも頼むわ!』
それを最後に、鏡夜は通信を切断する。何を確認したかったのか。それは考えるまでもなかった。
「頭が回る所だけは、回るんだよな、あいつ。」
カイトが苦笑する。あれだけの力量を持っているのなら、いつまでも事実を隠し通せるはずは無いのだ。そして、流石にカイトとて完全に彼との縁を絶つ事は出来ない。実家は知られているし、転居先の住所も同じく、だ。だからこそ、自分の正体が露呈する可能性を知りつつ、電話を受けた。
「むぅ?何を確認したんじゃ?」
「風だよ。風。」
カイトの言葉に、ティナもようやく気づいた。ここは、数千メートルも高空だ。それ故、風が吹き荒んでいた。鏡夜は電話に紛れ込むであろう風の音を確認したかったのだ。敢えて大声でハイテンションを偽ったのは、カイトに風の音を気づかせないためだった。
「全く。忙しくなりそうだ。」
その言葉を最後に、カイトは『最後の楽園』へと落下し始めるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




