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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第25話 和解編 新たな戦士の目覚め

 皐月達の実家である神楽坂呉服店へと竜馬達の結婚式の為の衣服を受け取りに行ったカイトだが、受け取った衣服はサイズがぴったりで手直しの必要は無いとの事だった。


「あ、弥生さん。ティナの方はどう・・・?」

「かわいい!すごくかわいいわ!」


 職員用の更衣室から出てカイトが目の前に居た弥生に問いかけようとして、その異変に気づいた。何か呉服店らしからぬ興奮が巻き起こっていたのだ。


「ティナちゃん!次これ!これお願い!」

「う、うむ。」


 響いていたのは神無の声だ。それに答える様に、困惑したティナの返答も聞こえてきた。


「あはは・・・あら、カイト、皐月。終わった?」

「ええ・・・あー、またお母さんやっちゃったんだ。」


 弥生が出て来たカイトと皐月に気づいて振り返る。そうして弥生の肩越しにカイトと皐月が何が起きていたのかを確認する。そこには明らかに呉服店には似合わぬゴスロリ服が並べられていて、その前にはカメラ片手の神無が居た。幾つかの衣服は明らかに着た後があった。


「あはは・・・」

「な、なんなんですか、あれ?」


 睦月が苦笑する。どうやら菫の着付けも終わったのだろう。涼し気な藍色の着物を着た菫がそこに居たが、彼女の顔には満面の困惑が浮かんでいた。


「あー、あれ神無さんの悪癖で・・・かわいい娘にかわいい服着せるのが好きなんだよ、あの人。」

「・・・ああ、成る程・・・まあ、カイト殿の知り合いといえば納得出来る気も・・・」


 カイトの説明に菫が納得する。と、そこで弥生がカイトと菫が知り合いである事に気づいた。


「あら、菫さんと知り合いなの?」

「え、弥生さんも知り合い?」

「あら、藤堂 菫といえば今売出し中のモデルよ?貴方は相変わらずそこら辺には疎いわね。」


 カイトの言葉に対して、弥生が少し呆れた様子で告げる。これは昔からで、カイトは少し芸能界には疎かったのである。変わった様であまり変わらないカイトに、弥生も笑みを浮かべた。尚、弥生はこの時代から既に読者モデルをやっているので、知り合いであっても不思議では無かった。


「今度確かドラマにも出るんでしたっけ?」

「ええ。」


 睦月の問い掛けに、菫が頷く。


「・・・あれ?そういえばカイト殿には報告書回ってませんでしたっけ?」

「あー、すまん。ここ当分明日の会合に掛り切りでそっちの資料優先してた。」

「会合?」

「ちょっと、ね。はは。」


 カイトの乾いた笑いで、何かカイトが厄介事に巻き込まれていそうだ、と一同が感づいた。そして気づいた以上は、さらわぬ神に祟り無しだ。これで話は終わりとなった。と、それと同時にティナがやってきた。金髪で小柄な彼女に似合う、白色のゴスロリ服だった。


「やっぱりいいわー!綾音ちゃんとさっきの女の子も一緒に並べたいわ!」

「む、むぅ・・・」


 神無が大興奮でゴスロリ服のティナを写真に撮っていく。対して褒められているのがわかっているので、ティナは対応に困る。何処かクラウディアと同じ臭いがした所為で、強く出られなかった事も大きい。


「はぁ・・・」


 そうして、客もほっぽり出して行われる撮影会は、その後神無の母が出て来るまで続けられるのだった。




 それから約一時間後。神無が怒られている間に脱出した神楽坂三姉妹と共に、カイトは結局ゴスロリ服をプレゼントされてそのままのティナ、菫、蘇芳翁を連れて鞍馬寺まで来ていた。


「ここが、鞍馬寺よ。」

「おぉ!これもまたでかいのう!」

「・・・ああ、うん。」


 大興奮のティナに対して、カイトはとある一人の作務衣姿の少年に出会って両者困惑の表情を浮かべていた。


「・・・どうやら鞍馬の大天狗に弟子入りした様だな。」

「ほう、お主がかつて言うておった進路相談に悩む若造か。」


 総司の顔を蘇芳翁が覗き見る。この場にいて、師匠を探しているなら弟子入りした先は鞍馬の大天狗以外にはあり得ないだろう。それはカイトにだって簡単に理解出来た。


「・・・ちっ。何故京都にいやがる。」

「オレの地元はこっちなんだよ。」

「なに?・・・ち、それは予想外だった。」


 カイトが嘘を言っているとは思えなかったらしい。総司はそう告げるが、そこでふと鞍馬から言われた事を思い出した。


「お前、欧州出身なのか?」

「・・・あ?」

「儂はそんな情報は流しておらんぞ。」


 横の蘇芳翁を流し見るが、蘇芳翁も怪訝な顔をしていた。と、そこで空から声が掛けられた。


「いや、すまん。それを流したのは俺だ。」

「鞍馬さん・・・まさか嘘だったのか?」


 そうしてふわりと現れたのは、山伏姿の天狗面だ。鞍馬である。


「いや、本当だと思ったが・・・違う様子だな。」

「鞍馬山の大天狗か。お目にかかれて光栄だ。だが、何が楽しくてそんな嘘言う必要がある?」

「だがなぁ・・・その蒼い髪と龍の気配・・・欧州の太空の龍達の特徴だろう?」


 鞍馬はカイトをしげしげと眺めながら告げる。どうやら彼もカイトの施している偽装は見抜けている様子だった。まあ、有名な鞍馬の大天狗だ。見抜けぬ道理は無いだろう。


「残念だが、縁者じゃない。」

「の、様子だ。なら、尚更疑問だ。お前、何者だ?」


 鞍馬の気配に剣呑さが混じる。明らかに警戒していたのだ。それに、カイトが裏の役職で名乗る。


「『紫陽の里(しようのさと)』頭首・天音 カイト。」


 その言葉を聞いて、鞍馬が横の蘇芳翁を見る。彼は何処かの里に所属しているわけではない。無いが故に名乗ったのである。


「本当じゃ、鞍馬殿。暫くじゃが、代替わりを済ませた。天照大御神殿にも月読尊殿にも素盞鳴尊殿にも既にお目通りを済ませておる。」

「ほう・・・次代は武闘派か。来歴は問うた所で答えてくれないだろうな。」

「飯の種なんでね。」

「ふむ・・・悪い男ではないな。」


 幾度か会話を交わし、鞍馬がカイトをそう断言する。彼とて数千数万の戦士たちを見てきたのだ。その見立てには自信があった。


「鞍馬殿。御子柴の調練、楽しみにしている。貴方が稽古をつけているのだろう?」

「見抜くか・・・まあ、ここに居るんだから当たり前か。」


 カイトの言葉に、鞍馬が笑みを浮かべる。彼は実は育てる事が好きだった。だから総司に稽古をつけているのだし、源義経にしても、他の総司の兄弟子達にしても面倒をみたのだ。まあ、ここ最近は総司以外に訪れる者も殆ど居なかったので退屈していたのであるが。


「総司、上がりだな。」

「あ、ああ。」

「飯を食ったら稽古だ。今日からは一歩先の訓練を始めるぞ。」

「何?」

「あれは今でも鍛錬を積んでる奴だ。今のままのペースでやっていたらいつまで経っても追いつけん。」


 久々に修行のつけがいのある弟子を見つけたと思ったら、そこに来て更に弟子に因縁ある面白い相手だ。久方ぶりに彼は熱を取り戻していた。おまけに言えば、今の弟子は総司だけだ。彼専用の訓練を作るのもたまさか良いだろう、彼はそう思った。


「義経以来か。総司、少しつらくなるが、倒れるなよ。」

「ああ。」

「とは言え、まずは飯だ。しっかり食え。」


 バイトを終えた総司を連れて、普通の洋服に一瞬ではや着替えを行った鞍馬は山を下りるのであった。そうして、彼らが去った後。蘇芳翁とカイトが二人、笑みを浮かべる。


「ふむ・・・あれは面白くなりそうじゃな。」

「鞍馬の大天狗直伝か。楽しみだ。」


 蘇芳翁が頷き、カイトが獰猛な笑みを浮かべる。カイトとて源義経の伝説は知っている。最近になっていろいろ異族達の情報も得られているので、その知識量は普通の大学の教師を遥かに超えているだろう。それ故、楽しみで仕方がなかった。


「カイト、何をしておる?」

「カイト殿、蘇芳さん、皆行きましたよ?」

「おっと、悪い。」

「む、直ぐに参る。」


 呼びに来たティナと菫の言葉で、二人も歩き始める。そうして、その日は何もなく、終わるのだった。尚、その日から総司は更に生傷が絶えなくなるのだが、それは総司の望む所であった。




 その翌日。日も暮れた頃。カイトとティナは本来の姿で、大阪府内のとある高級ホテルのエントランスに居たのだが、そこで偶然蘇芳翁のマネージャーの御影に出会った。


「あれ?貴方は確か・・・」

「御影さん。お久しぶりです。貴方もいらっしゃってたんですね。」

「ああ、確か天音さんでしたっけ。今日先生が少し会食してくる、とおっしゃってたのは貴方でしたか。」

「ええ、偶然私の故郷がこっちで帰っていたんですが、それで一緒に食事でもどうか、と。」

「そうですか。では、先生をよろしくお願いします。」


 御影が去っていったと入れ違いに、蘇芳翁が『紫陽の里(しようのさと)』の幹部達と共にやってきた。


「来ておったようじゃな。」

「おう。どうやって行くんだ?あそこまで。」


 『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』は空中に浮かぶ里だ。それ故に空を飛ばねばそこまで辿りつけない。全員が全員出来るなら良いだろうが、それは無理な話だった。


「まあ、楽しみにしておれ。ティナ殿にも楽しめると思うぞ。」

「ふむ?」


 ティナにも楽しめる、と言うからには移動方法は何か魔術的な物なのだろう。まあそもそもで魔術的に隠蔽された場所に純科学の産物で辿り着く事は出来ないのだが。そうして暫く待っていると、スーツ姿の一人の男が一同の下へとやってきた。何処か青白い肌で黒色の髪の紳士的な男だった。


「蘇芳 村正殿。それに『紫陽の里(しようのさと)』の皆様。お久しゅうございます。『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の一人、夜摩 蘭人(やま らんと)です。この度、皆様の案内をエリザ嬢より仰せつかりました。」

「うむ。此度は護衛の代替わりもあって人数が増えて手間を掛けさせた。申し訳ない。」


 蘭人が挨拶で下げた顔を上げると同時に、蘇芳翁がまずは今回の一件で人数が増えた事を詫びる。それに蘭人は首を振った。


「いえ、クシナ殿もご老体でしたから。そろそろご隠居されても致し方がないでしょう。」

「かたじけない。最近は刀を握る力も弱くなってしまってな。万が一が起きる前に、護衛は代替わりをしておきたい。」


 幹部陣の何人かや護衛の何人かは当然ながら何度も会合に望んでいる。それ故、顔見知りであったのだ。


「まあ、此方に来られなくても我々がそちらへ伺う時にはまたお会い出来るのですから、そう悲しむ事は無いでしょう。少々会えない期間が長くなるだけでは無いですか。」

「そうですな。では、参りますか。」

「はい。」


 蘭人の案内に促され、一同はホテルの前に横付けされた数台のリムジンへと分乗する。そうして走る事十数分。カイト達は一つのとある高層ビルへと案内されていた。高さはおよそ250メートル程だ。


「此方です。」


 既に営業を終了している高層ビルの扉を開けて、蘭人が中へと全員を招き入れる。後に聞いた話だと、ここも彼らの持ちビルの一つらしかった。こういう高層ビルを彼らは幾つも所有しているらしい。


「いくつかのエレベータに分乗しますが、お渡しした鍵はお持ちですか?」

「持って来ておるよ。いつもどおり屋上へ先に行っておれば良いのじゃな?」

「はい。では、いつもどおりの手順でお願い致します。」

「菫、お主はカイト殿と共に蘭人殿に付いていけ。」

「わかりました。」


 蘇芳翁の指示に従い、カイトは蘭人に従ってエレベータに乗り込む。


「此方の鍵が無いと、この建物に密かに建造されている階層へ行けないんですよ。」


 一見すると普通の鍵の様な鍵をコントロールパネルに突っ込んで回し、そして魔力を通して最上階のスイッチを押す。


「ほう・・・特殊な符号を認識させておるのか。科学文明を取り込んだ魔道具・・・独特な物じゃな。」

「よくおわかりですね。ええ、この鍵を持ち、更に一定以上の魔力が無いと反応しない様にしているんですよ。まかり間違って鍵を落としても入れない様に、ね。」


 ティナの言葉を受けて、蘭人が頷く。どうやら鍵とエレベータのコントロールパネルに魔石を仕込んでおり、それが一致しない限りは目的の階層には行けない様になっているのだろう。それから数分で、一同は鍵を持つ者しか行けないと言う秘密の最上階へと辿り着いた。そこは窓も扉も無い広いだけの部屋だった。


「此方です。」


 そう言って蘭人が一角に安置された魔道具を手にとった。警備の人員は居ないものの幾重もの結界が張り巡らされており、かなり厳重に警備がされている様子だった。


「・・・良し。これで大丈夫です。すいませんね。これは我々『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の者しか使えないんですよ。で、あなた方にも一応は何か偽装を施していない事を確認していただくため、ここにご一緒していただいています。」


 蘭人は魔道具を手に取ると、そのまま再度エレベータへと一同を案内する。ちなみに、今回はカイトやティナという新しい護衛が一緒だったので彼は一応説明したのであって、そうでなければ他の面子がエレベータで待って彼一人でこの魔道具を取りに行っていたらしい。


「では、もう一度エレベータへ。今度は屋上にあがります。」


 そう言うと、彼は再び鍵を突っ込んで回し、今度は屋上のスイッチを押す。


「一応は管理業者等が作業で使う場合でしか屋上に入れない様にしているので、鍵でロックしているだけです。此方には魔力はつかっていませんよ。」

「つまりは魔力を通して屋上階のスイッチを押せばあの隠し部屋で、ただ単に鍵を突っ込めば屋上、というわけか。」

「ええ。そうしておけば一応管理会社が落としたと思ってくれますからね。」

「第二次大戦期の発想だな。」

「ええ。それを我々なりに改良した物です。」


 カイトの言葉を蘭人が認める。そうして元々最上階であった事もあって、エレベータは直ぐに屋上階に到着した。そうして、エレベータを降りて屋上に出た所には、蘇芳翁達が待ち構えていた。


「お揃いですね?」

「うむ。」

「では・・・」


 そう言うと、蘭人は持って来た魔道具を操作する。すると直ぐに、異変が現れた。直径20メートル程の巨大な岩盤がゆっくりと落下してきたのだ。それはゆっくりと落下して、屋上の中心部に着陸した。岩盤には乗り込める様にきちんと階段が用意されており、更には落下防止なのか手すりも用意されていた。


「では、此方に。」


 岩盤の上に乗り、蘭人が告げる。それに続いて一同が岩盤へと乗り込んだ。そうして、再び蘭人が魔道具を操作すると、岩盤がゆっくりと上昇していく。


「飛空石という物を使い、浮遊させているんですよ。」

「飛空石?」


 その言葉を聞いて、カイトとティナが自分達が乗る岩盤をまじまじと観察する。だが、それはどう見ても自分達が知る飛空石では無かった。

 カイト達が知る飛空石は魔力を受けて重力と反発して浮上、もしくは重力を打ち消す物だったが、この岩盤は至って普通の岩盤だった。と、そんな彼らだけの疑問に、疑問の理由を知る蘇芳翁が耳打ちした。


「お主らが知る飛空石では無いよ。」

「む?」

「所謂土系統の魔術で重力を打ち消す物があるじゃろう?それを刻んだ大きな魔石があるんじゃ。それを、飛空石と呼んでおるのよ。」

「ほう、これにも使われておるわけか。」

「然り。」


 蘇芳翁の言葉を聞いて、ティナが周囲を注意深く観察し始める。そうして周囲に無いと見るや、密かに岩盤の内側を精査する。


「ふむ・・・中心部に魔石の反応があるのう。かなり精密な術式じゃ。が・・・まだ荒いのう。」


 どうやら今回の仕掛けはティナも随分と気に入ったらしい。それから到着するまで、ずっと彼女は地球製の飛空石について、思考を巡らせるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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