断章 第23話 楽園統一編 会談
カイトがエリザ達と出会ってから数日。『最後の楽園』の公民館的な役割をする西洋風な建物の一室では『最後の楽園』の幹部会が行われていた。
「以上が調査結果だ。」
「そう・・・政変などが起きた様子は無し。新しく人材を登用した様子も無し・・・ね。」
狗神から調査結果の報告を受けたエリザとエルザ他、『最後の楽園』の幹部達がうなずいた。
「政情の変化というよりは、単なる政策が少し変化したというだけのようね。おそらくこの間の流れ者の一件で少し変化があったのでしょう。」
「だろうな。まあ、先の一件は結局別の流れ者が解決したらしいから、流れ者に対して警戒をしているんだろう。」
エリザの推測に、他の幹部の一人が頷いた。この場の殆どが惰性で生きているわけであるが、それでも終の棲家を荒されるのはごめんだった。それ故に、『最後の楽園』の運営だけは誰もが真面目に行っているのだった。
「そうね・・・」
「そういえば、ついこの間。エリザ嬢は誰か流れ者を連れて来ていたと噂になっているが?」
「ええ、流れ者よ。あの蒼い髪は多分、私達と同じ欧州の出身者。太空の龍達の生き残りでしょうね。」
「ああ、あそこか・・・」
幹部の何人かはエルザの予想した出身地を知っていたらしく、それだけでおおよそを把握する。彼らとて同情心はあるのだ。それが自分達と同じ事情を抱える者であるとなると、尚更だった。
「迎え入れるのか?」
「いえ。当人にそのつもりが無い様子です。何か理由があって今は『最後の楽園』には来ない、と。」
狗神の問い掛けに、エルザが首を振る。狗神は迎え入れる事に反対したかったが故に尋ねたのだが、その心配が無いとわかり何も言わない事にした。要らぬ所で要らぬ事をして怪しまれるのはゴメンだった。
「ふむ・・・とは言えこんな場所に居を構える我らとしては、力ある龍族の若者は受け入れたい所だったが・・・まあ、欧州から逃げてきたのなら、信じられないでも仕方がないか・・・」
別の幹部の一人が理由を言わなかった理由を推測する。この推測は多くの幹部たちも同じ意見だったらしく、それも致し方がなしと判断された。数多仲間を失い、故郷を失ってここまで逃げに逃げてきた若者が安易に自分達の事を信じられなくても仕方がないと考えるのは当然だった。
「まあ、そんな事は置いておこう。とりあえずは数日後の蘇芳 村正達との会合だ。狗神、警護状況はどうなっている?今回はお前だっただろう?」
「問題は無い。中心部の飛空石には誰も近づけさせはしない。先の一件もあって、人狼としても警備は厳重にしておいた。」
狗神に協同する幹部の一人が、まかり間違ってカイトを勧誘に動く流れにならない様に本題に入る様に提言する。この場で欧州の戦乱を生き延びた力ある者、それもエリザと懇意にしているであろう若者が加わるのは彼らとしては是が非でも避けたかったのだ。
そして狗神は彼の問い掛けに、半分嘘で答えた。何が半分ウソなのかというと、警備状況に問題が無いのが嘘で、飛空石なる物に誰も近づけさせないというのは事実だった。
「流石に紫陽の奴らも飛空石には手を出さないと思うがな。」
「万が一の為だ。警備は厳重にしておいて損は無いだろう。一応、飛空石に手を回し過ぎたとも思えた。龍洞寺、冥合にも協同を要請している。」
幹部の一人が苦笑するが、狗神はあくまで万が一を明言しておく。彼としては、数カ月前に起きた一件はまさに天佑に思えていた。それを理由に、自分の配下や共謀する幹部達の配下を大勢里の重要拠点に配備出来るのだ。これを感謝しない道理は無かった。
「ああ、我々からも人員を供出する。まあ、3つの里の中で最弱の『紫陽の里』相手にやり過ぎとも思えるが・・・」
「まあ、向こうも警備体制を強化して来たのだ。此方もこれぐらいしても文句は言われないだろう。」
狗神に協同する二人の幹部が苦笑を見せる。当たり前だが、カイト達にしても会合を前にして誰が来るかというのは通知している。今回は先の一件と護衛の代替わりを理由に、カイトとティナを紛れ込ませたのだ。それ故に、護衛が少し増えたのであった。
それもまた、彼らにとっては僥倖だった。まるで世界が事を起こすならば今だ、と告げている様に思えたのだ。
「ふむ・・・京都の奴らの動きはどうだ?」
「此方も相変わらずだ。流石に会合の動きは伝わっているだろうが、何かしてくる事は無いだろう。」
「とは言え気を付けろよ。京都と一番仲が悪いのは我々だ。お互いに何人も死んでいる。向こうがこれを契機に事を起こしても不思議ではない。」
狗神の担当は調査がメインだ。ホストクラブを経営しているのも、その一環であった。当たり前だが酔えば口も滑りやすくなる。そして、ホスト達は見た目もさることながら、口で稼ぐ商売だ。情報収集にはうってつけだったのである。
「まあ、向こうの人員に陰陽師でも紛れ込ませない限りは、そうはならん。流石に奴らもここに入り込む事は容易ではないからな。」
空中に浮かぶ街に攻め入る事は、当然だが容易ではない。空を飛ぶ魔術は地球でも超高等技術なのだ。まあエネフィアに飛翔機が有るように、地球にもそれに代わる魔道具はあるが、それも数が限られる。それに常に結界が張られている里に入り込むには力量も居る。もし攻め込もうものならば、どうしても内通者が必要なのだった。
「流石にそんなことはしないだろう。奴らとてここが滅びれば次は自分達だというのが身に沁みて理解している。協同するはずは無いし、理由もない。あの蘇芳がそれがわからぬ道理も無い。」
「まあ、それもそうだな。」
とある幹部の一人の言葉に、狗神も笑顔で同意する。だからこそ、その盲点を突いたのだ。既に取引は終了している。後は時を待つだけだった。
「とりあえず、狗神もご苦労だったわ。とりあえずは警護の任、お願いね。」
「ああ、承った。」
内心の笑みを隠し、狗神は真剣な顔でエリザの言葉に頷いた。そうして、幹部会は終わりを迎えるのだった。
それから数時間後。幹部たちも各々の持ち場に戻った頃。密かに里の一角で狗神は草陰の当主と会っていた。草陰家の当主は、窪んだ目にコケた頬とかなりやつれた印象だったが、服装だけは純白の着物だった。
「どうだ?」
「・・・良し。おおよそは把握した。」
幹部会から会合までの間、警備は全て狗神に一任されていた。幾つもの幹部に警備を担当させると統率が取りにくくなるので、彼に一任されていたのである。それ故に、密かに彼を招き入れるのは容易いことだった。
「ほんとに、あの化物を討ってくれるんだろうな。」
「任せておけ。我々としても、それこそが悲願。たとえ命に変えてでも、討ってみせる。」
窪んだ目に、怪しい光が灯る。それは必死の覚悟を決めた男の物だった。そんな草陰家の当主に、狗神が興味無さそうに告げる。
「好きにしろ。俺は奴を討ってくれるなら、それでいい。」
「ああ・・・」
それが最後の会話だった。当たり前だが幾ら警備状況を自由に出来るとはいえ、敵であるはずの彼ら陰陽師を招き入れているのだから誰か里の者に見られれば命取りだ。それ故足早に里の下見を終わらせる。
「流石に一人で帰れるな?」
「愚問だ。」
「しくじるなよ。」
「貴様こそ、まかり間違って決行前に捕まるな。」
カイトが『最後の楽園』を立ち去ったのと同じ場所にて、狗神と草陰家当主が最後の会話を終える。一応連絡自体は今日以外も取り合うが、直に会って話すのは今日が最後だ。そしてその会話を最後に、狗神は再び里の警戒任務に戻り、草陰家当主は地面へと落下を始める。
「くくく・・・」
誰もいなくなった後、狗神が一人獰猛な笑みを浮かべる。その姿は狩りをする獣の様だった。その日のために、数年間準備をしてきたのだ。手違いは無いし、ここまで全てが計画通りに、いや、計画以上に良い状況で進んでいた。それ故に、最早彼には笑みしか浮かばない。
と、そこで『最後の楽園』の外にある自分の会社へと向かう時間になったらしいエリザに出会う。
「狗神。私はまた地上に下りるわ。警備はよろしく。」
「はい、エリザ嬢。全て、お任せください。」
彼は恭しく、獰猛な笑みを潜め、牙を隠して腰を折った。何時もなら頭にくるおべっかも、今日から数日ばかりは、何の痛痒ももたらさない。そんなご機嫌な様子だったからだろうか。エリザが少し疑問を持った。
「?妙に機嫌が良いわね。」
「そうでしょうか?」
「ええ・・・まあ、どうでも良いわ。後はよろしく。」
「はい。」
とは言え、彼女は気にしない。それは全て織り込み済みだ。そうして狗神は再度腰を折り曲げ、蝙蝠羽を広げて飛び去るエリザを見送るのであった。
それと時を同じく。カイトは実家の綾音から電話を受け取っていた。内容はトラブルが起きたとかではなく、迷惑を掛けてないか、問題は起きてないか、という他愛のない話だった。
「こっちは特に問題無い。」
『そうー?まあ、お義母さんも何も言ってないし、大丈夫そうねー。』
「あ、そうだ。そういや鏡夜とか大智に会った。」
『ああ、皆元気にしてた?』
「ああ、うん。いや、ちょっと難波の方に出たんだけど、そっちで偶然出会ってさー。で、同窓会を・・・」
流石にカイトとて母親と雑談をしないわけはない。なので適当に話をしていたのだが、そこでふと綾音が思い出した。
『あ、そうだ。カンナちゃんから電話があって、早苗さん?の結婚式で着れる礼服見繕ったから一応試着しに来て、って。』
「ああ、そういえば・・・わかった。」
『貸出だから汚さないでねー。明日来れたら来て、って。ついでに京都の案内もしてあげるってー。お昼何処かで食べよって言ってたよ。』
「あはは、わかってる・・・あ、うん。そっちもわかった。」
カイトが綾音の言葉に笑い、電話を終える。
「おーい、ティナ。明日やっぱ京都行くぞ。結婚式の礼服とドレス試着してくれって。サイズ見たいらしい。」
「む?別に自前のでよくは無いか?」
「異世界のもん使おうとすんな。」
「む・・・それもそうじゃな。」
どうやら彼女は自分が持つ高級品を使うつもりだったらしい。だがカイトに言われて確かに拙いか、と思い直したらしい。
「まあ、神無さんのデザイン力は信用できるから、期待しておいていいと思うぞ。」
「ふむ・・・まあ、良かろう。」
カイトの言葉にティナが頷いた。ちなみに、弥生のファッションセンスは神無譲りであるので、その腕前もわかりよう物だった。
尚、神無は服飾の腕前もずば抜けている。そこも母親譲りだった。神無の力量を最も色濃く受け継いでいるのが、弥生だったのである。
「一応蘇芳の爺にも伝えておくか。」
数日後に迫った会談の為、蘇芳も明日には京都入りするのであった。別に会う必要も無いし会えば要らぬ情報を与えかねないので現地集合にする予定だったのだが、丁度京都に行く用事も出来たしで隠れ蓑には丁度良いだろう、と思ったのだ。と、いうわけでカイトは即座に蘇芳翁に連絡を入れておく。
「明日京都の高級ホテルの501号室で、だとよ。とりあえず爺のホテル入りは仕事の兼ね合いもあるから夕方以降になるらしい。菫さんとかと一緒に仕事で呉服店を回るそうだ。」
「ふむ。まあ、仕事でも普段着にも着物が多い奴じゃからのう。仕事着の買い付けか。」
カイトから聞いた情報を基に、ティナが推論を行う。まあ、大方間違いでは無かった。
「そういえば・・・今度の竜馬の結婚式。三枝は勿論だが、小鳥遊も来るらしい。」
「む、そうなのか。何処の情報じゃ?」
「小鳥遊は亜依さん。天城の奴は今死にすぎてクリア出来ない、だそうだ。」
「それは楽しそうなゲームをプレイしておるのう。」
「帰って来たら回してやる。」
「うむ。」
と、そんな会話の最中に、相変わらず今日も一緒の三貴子の一人、スサノオが問いかける。
『天城ってあれか?天神市に居る天城本家か?』
「ん?ああ、その天城家。知ってるのか?」
『ああ、あれは俺が氏神だ。』
「へぇー。」
『・・・あ。今度お前神無月の宴会来るか?』
スサノオが何かを思い出したかの様に、ニヤリとした笑みを浮かべる。それは何か悪戯を考えついたかの様な笑みだった。
「ん?ああ。一応うかちゃんからお呼ばれしたし、ヒメちゃんも呼んでくれてるからな。行かないのは日本人として無礼だろ。」
『だからお前は人の娘を・・・』
スサノオはカイトの言葉に何か言いたげだったが、今は横においておく。
『ちょっと面白い写真持って行ってやるよ。』
『あ・・・では私も。』
何かはわからないが、とりあえず神様達が何かを企んでいる事は理解出来た。なのでカイトはとりあえずそれをスルーして、今日も今日とて神様達とゲームを楽しむのであった。
お読み頂きありがとうございました。




