断章 第20話 遭遇編 意外な遭遇 ――エリザ――
同窓会が開始されてから数時間後。結局同窓会はボーリングへ行きカラオケへ行きと三次会四次会の流れになり、日も落ちた頃に終会となった。まあカイトを除けば全員正真正銘の中学生だ。遊んでも遊び足りないのだった。とは言え、まだ中学生でもある。それ故、門限等を考えて、19時を回る頃には解散となった。
「ほな、またあおなー。」
「カイト、東京行った時は案内頼むなー。」
日も暮れてた駅の前に別れの声が響いた。聞けば引っ越してカイトの地元とは既に別の街に居を構えている面子も少なくなく、現地解散の流れとなる。そうして残ったのは、鏡夜や数日前に一緒にゲームをプレイした面子だった。
「息災無く、善き哉善き哉。」
「お前ほんま中学生か。」
扇子片手に笑うカイトに対して、鏡夜が告げる。尚、当然扇子は暑いので持って来ているだけだ。
「ん?」
そうして駅前で暫くふざけあっていた一同だったが、そこでふと鏡夜がとある人影に気づいた。まあ当該の人物は目立つ服装だったので、人目を集めていたのだが。
「うわぁ・・・すごいドレス。」
紫苑がその人物の服装を見て、思わず顔を顰める。だが、彼女の顔が見えた時、その印象は一変する。
「うわぁ・・・すげ・・・」
大智が思わず息を飲む。紫がかった黒色のドレスを着たその人物は、とんでもない美女だった。普通なら普段着にすれば気後れするドレス姿だが、彼女の場合はそれが非常に似合っていたのである。
「こないだのヨミさんぐらい美人か・・・?」
「とんとんやな・・・」
男子二人が溜め息を吐く。それぐらいに美しかった。とは言え、人目を集めているのはそんな理由では無かった。彼女は悪質な客引きか何かいかがわしい職業の勧誘なのか、そんなガラの悪そうな男に捕まっていたのである。
「けーさつ言うとる暇はなさそやな・・・」
「いや、流石に誰かもう電話・・・してそうに無いな。」
鏡夜が呆れた声で溜め息を吐いて、カイトも同じく溜め息を吐く。美女の方は軽くあしらっているが、男の方はかなりしつこく、ガラの悪そうだった事もあってかなり人目を引いていた。それ故、周囲には野次馬が出来ていた。
しかし、自分が絡まれてはかなわないという事だったのか、それともしつこくはあるが強引では無かったので通報しかねているのかはわからないが、とりあえず誰も通報した様な雰囲気は無かった。
「はぁ・・・」
同じく、紫苑も溜め息を吐く。だが、この溜め息は誰も助け舟を出さない野次馬達と自分が一緒にいる男たちに対して、であった。
「あ、やば・・・」
陽色が横を通り過ぎた紫苑に気づいて大慌てで紫苑を止めに入ろうとするが、間に合わなかった。騒動に見入ってしまった所為で、紫苑が歩き出していた事に気付くのが遅れてしまったのだ。そうして制止が間に合わなかった紫苑は、そのまま騒動の中心へと歩いて行って、男に待ったを掛けた。
「あちゃー・・・」
「あー・・・」
「あーあ・・・」
カイトを除く男三人が顔を顰める。それに、カイトも事情を把握する。
「あー・・・女傑は変わらず、か。」
「ガキ大将とちゃうか?」
カイトの言葉に、鏡夜が苦笑する。とは言え、そのまま放ってもおけない。なので、鏡夜も歩き始める。此方は誰も止めることは無かった。
「ま、なんとかしてくるわ。その間ちょっと待っといて。」
「あいあい、まあ一応警察に言うといたる。」
流石に自分の友人が事に絡めば素知らぬふりも出来なかった。なので陽色がスマホを取り出しつつ鏡夜を見送る。大抵紫苑が正義感から揉め事を起こしに行って、鏡夜が仲介役に入って事を治めるのだ。
まあ、鏡夜の場合は魔術というか呪術を使って事を治められるので、大した問題に発展しないという自信があったのである。とは言え、やはりまだ彼は中学生だ。それ故、歳相応を少し超えた所でしかまだ見渡せていなかった。
「・・・はぁ・・・大智、スマホそのまま何時でも出れる様にしとけ。スマホ繋ぐ。ヘッドセットやから電話してるかわからんからな。」
「あ?」
その光景を見て、カイトがため息混じりに準備を始める。どうやら既に出来ていた人集りの中にガラの悪い男の仲間が居たらしい。一見すると野次馬の一人にしか見えなかったが、事が起きてから強化したカイトの聴覚にはしっかりと電話相手の声まで聞こえていたのである。そうしてカイトは同行の二人に告げると、自分も歩き始める。
「いや、えらいすんません。」
「鏡夜もあやまんな!だから、あんた達が悪いんやろ!外人さんが困っとるやん!」
「あぁ?だからお前らに関係有ることちゃうやろ。」
胡乱げにうざったそうにガラの悪い男が紫苑の言葉に返す。だが、男の口調には何処か時間を稼いでいる様な気配があった。そこに、カイトが割り込む。
「あはは、連れ合いが失礼してます。」
「あ、何やお前。連れ合いってまたこいつの連れか?」
「あはは、そんなとこです。っと、失礼。」
カイトは強引に会話に割り込んで、更に鏡夜に耳打ちする。
「あのおっちゃんの右斜め後ろ。グレースーツのおっさんのネクタイ。」
「・・・ち。お前相変わらず目ええな。すまん、合図任せるわ。」
カイトが密かに示したのは野次馬に紛れたスーツ姿の男の一人だ。その男のネクタイには紫苑が怒鳴っている男と同じ形の紋章が付いたネクタイピンが付いていた。それは新聞を見れば一度は見たことがある暴力団組織の代紋の一つに酷似していた。これが職業柄の威圧の為なのかそれとも本物なのかは流石に二人にもわからないが、厄介な状況になりつつあるとは理解出来た。
「紫苑頼む。」
「あ、お前は?」
「あっちの姉ちゃん見捨てられんやろ。」
相変わらず怒鳴る紫苑を他所に、カイトと鏡夜が話し合う。そうして鏡夜がゆっくりと紫苑に近づいて、カイトも同時に少しだけ体勢を傾けた。
「さてと・・・ちょっと失礼。」
カイトはそう断りを入れると、事件の当人なのに我関せずを貫いていたドレス姿の美女を抱きかかえる。所謂お姫様抱っこの形である。それに気づいた紫苑とガラの悪い男がいきなりの自体に目を見開いてカイトに問いかける。
「え?」
「お前、何やっとんねん。」
「あはは、すんません。何やお兄さんのお仲間が怖いお兄さんいっぱい呼んでそうなんで、さっさと退散させてもらいますわ。」
「な・・・」
カイトの言葉を効いた男の顔には何故気づいた、という疑問が浮かび、更に彼の後ろで仲間に連絡を取っていたグレースーツの男も驚愕に目を見開く。
「んじゃ、これで!」
「あ、待てや!」
カイトがいきなり踵を返し、男が一瞬の行動に唖然となる。とは言え、カイトも何も意味もなくここまで目立つ行動をしたわけでは無かった。
「おい、行くぞ!」
「あ、ちょっと!」
状況が掴めなかった紫苑は尚も言い返そうとしていたらしいのだが、それを鏡夜が強引に手を引いて人混みの中に紛れ込む。カイトは此方から目を離させる為に敢えて目立つ行動に打って出たのだ。
「あ・・・こっちもか!」
脱兎のごとくとはまさにこの事で、目を離した一瞬の隙に全員に逃げられて誰もが目を丸くする。そうしてカイトはヘッドセットを使い通信状態にしていた大智達に通達する。
「お前ら鏡夜と一緒にどっかに頼むわ。」
『あ!?お前どうすんだよ!』
「適当に巻いてずらかる。」
どうやら目立つカイトの方を追いかけると決めたらしく、男二人はカイトを追っかけ始める。カイトとしてもこんな街中で身体強化の術式を全開にして逃げるわけにもいかず、とりあえず怪しくない程度で走っていた。
「放っておいてくれても良かったわ。」
「あ?吸血姫だろうと女は女。見過ごすのは後味悪いからな。」
「・・・そう。貴方、流れ者?」
「逃げてからにしてくれ。」
美女の問い掛けに、カイトが苦笑して告げる。尚、苦笑は舌を噛む等の理由ではなく、ドレス姿の美女を地球でもお姫様抱っこで運ぶとは思っていなかったが故の苦笑である。
どうやら美女の方は自分の正体に気づかれている事に大して驚いていない様子だった。彼女は異族だったのでその気になれば魔術で逃げ切れたのだろうが、紫苑にはそんな事分かるはずが無い。何時魔術を使おうかと頃合いを見計らっていた所だったのである。
「待てや!」
「この先、右に曲がって。そこに人払いを敷いたわ。」
「はいはい、お姫様。」
美女が指差した小道へと、カイトが一気に駆け抜ける。とは言え、こんな目立つ二人だ。男たちもそれに続いて誰もいない小道に入り込む。
「おい・・・え?」
「何処行きやがった!」
男たちの怒号が小道の中に響く。だが、そこに二人の姿は無く、困惑する男二人の姿だけだった。だが、そこにぬっ、と幾つかの影が落ちた。
「あー、ちょっと失礼。ここらでグレーのスーツと黒いスーツの二人組が中学生ぐらいの男の子を追っかけているって聞いたんだが・・・」
「あ・・・げ。」
「ちょっとお話聞けるかな?」
「あ、いや、その・・・」
後ろから掛けられた声に、男二人が一気にしかめっ面を浮かべる。というのも、後ろから声を掛けたのは巡回中の警察官二人だった。カイトはかなりド派手に逃げたので、騒ぎを聞きつけて向かってきたのだろう。こうなってしまえば男たちにもどうすることも出来ない。
とは言え、これは本物の警察官では無かった。いくらなんでも追っかけている二人を見付けるのが早過ぎるのだ。これはカイトが一人別れた事を見て鏡夜が放った使い魔の偽装だったのである。そんな光景を、カイトはビルの上から見ていた。曲がり角を曲がって二人の目から逃れた瞬間、一気にビルの壁を蹴って屋上まで登ったのである。
「・・・鏡夜か。かなり精密な使い魔だな。」
「・・・貴方も陰陽師かしら?」
「いや、流れ者だ。」
美女の問い掛けに、カイトはそう嘯いた。とは言えこれは本当では無いが、嘘偽りでも無いだろう。ただ単に一時的に『紫陽の里』の頭首に就任しているだけだ。とは言え、そんな事が分かるはずも無い美女はカイトの返答に頷いた。
「まあ、当然ね・・・姿を偽っているんだもの。始めは草壁の護衛かと思ったけど、違うみたいね。」
タイミング的に見て、明らかに警察に似せた使い魔が来たのはカイトが小道に入り込んで危ないと見て取ったからだった。それ故カイトが陰陽師であるとは思わなかったのだろう。
「っと、いつまでもこの状態で居るわけにも行かないか。」
「・・・ありがとう。」
お姫様抱っこの状態から下ろされて、美女が感謝を示す。彼女だけでも対処は出来たが、助けられたのは事実だ。
「会ったのも何かの縁、何処か目的地があるなら、護衛してこうか?オレでも男避けにはなるだろ。」
「その姿では遠慮しておくわ。」
カイトの姿は相変わらず中学生の姿だ。なので美女は苦笑してそう告げる。だが、彼女が告げたのは『その姿では』だ。言外に本来の姿を見せろ、と言っているのだった。その提案をカイトも受け入れて、本来の姿に戻り、即興で黒いスーツを身に纏う。そうしてカイトが恭しく跪くと、二人の姿は貴婦人と紳士だろう。見た目だけは。
「では、これで、お姫様。」
「ええ、騎士様。お願いするわ。今見たいに絡まれるのも面倒だもの。」
表情や雰囲気に厭世的な雰囲気があった美女だが、どうやらノリは悪く無いらしい。カイトの軽口に付き合ってくれた。とは言え、こんな二人が出歩けば、当然耳目を集める。それを忘れていた。
「・・・すまん。意外とこっちの方が目立った。」
「・・・いいわ。流石にこれは私も予想外よ。」
二人はお互いに苦笑しあう。二人共街中で安易に魔術を使うつもりは無いらしく、繁華街の人混みの中を歩いて行く。とは言え、カイトが居るのは効果が無かったわけではない。きちんと変な勧誘の男避けにはなっていた。
「ここよ。私の持ちビルよ。」
そうして美女に案内されたのは、一つの大きなビジネスビルだった。10数階立ての立派な建屋で、かなり新しそうだった。と、そこで入り口の看板を見ると、カイトも何度か見たことがあるそれなりに古い企業だった。
「・・・IT企業?」
「一応経営だけよ。私自身がITに優れているわけじゃないわ。夜の一族は昼が苦手な子も多いわ。SE――サービスエンジニア――とかは室内だし強いて昼に働く必要も無いもの。部屋はクーラーも効いてるわ。夏も良い職場よ。」
明らかに美女の見た目と異なる業種に、カイトが目を丸くする。そんなカイトの問い掛けに、美女が苦笑して告げる。
「成る程。確かに良い隠れ蓑と職場だ。夜の一族だとホストなんかも向いてそうだ。」
「貴方も、よ。」
「それはどうも。もう会えないだろう友人の教えでね。女にはなるべく尽くすこと、だそうで。」
「・・・そう。」
カイトの顔に浮かんだ寂しげな笑みに、美女も何か思う所があったらしい。彼女は神妙な顔で頷いた。
「ここまでで良いわ。流石に流れ者の貴方を中に入れたら五月蝿いもの。」
「わかった。じゃあ、また何処かで。」
「考えておくわ。」
その言葉を最後に、美女はビルの中へ。カイトは再び駅に向けて歩き始める。そうして少し歩いた所で、カイトは元の少年の姿に戻った。そうして、カイトはウェアラブル端末を使ってスマホにアクセスして、耳のヘッドセットで通話を始める。通話先は鏡夜だ。
「おーう。今あの美女送ってきた。なんか途中でけーさつが来てくれてなんとかなったわ。」
『おお、そか。陽色が大急ぎで電話してくれとったらしいわ。俺ら隠れんのに駅前の店に入って、今はポテト摘んどるとこや。こっちは紫苑に事情を説明すんのにえらい苦労したわ。えらい心配しとるから、はよ顔見せに来い。』
「あはは、ご苦労さん。こっちはちょっと離れたとこおるから、も少し待ってくれ。」
『あいあい。』
苦笑した鏡夜の言葉に、カイトが笑って告げる。鏡夜もカイトが魔術を使って屋上に逃げた以外は全て把握しているので、話は簡潔に終りを迎える。そうして、カイトは駅前に向かい、4人と合流するのだった。
お読み頂きありがとうございました。




