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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第16話 八百万謁見編 天照大御神 ――太陽神――

 うかに案内されて高天原にある建物の一つにやってきたカイトとティナは、天照大神、月読尊、うかの父親こと素盞鳴尊が待ち受ける部屋の前にまで来ていた。


「うっはぁ・・・やっぱ、主神クラスになるとやばいな・・・」

「やはり一つの神話の頂点は違うのう・・・」


 部屋の前でカイトとティナが苦笑する。三柱共に日本で最も信仰を集めるであろう神だ。それ故に感じられる魔力はカイトやティナでさえ苦笑出来るレベルだった。


「一応気合入れとくか。」

「そうした方が良さそうじゃな。」


 別に膨大な魔力にあてられて悶死するなどという事はこの二人にはあり得ない事だが、それでもやはり自分が抑えていると気圧される事はある。それ故、ここで二人は今まで自らに課していた枷を解き放つ。

 まあ、この場に居るのは日本でもうかこと宇迦之御魂神なので、それで気圧されることは無かった。無かったのだが、やはり圧倒的な魔力を見て、驚いてははいたが。


「・・・これは、また・・・それで平時ですか・・・」

「まあ、色々とな。」


 カイトが首を鳴らしながら答えた。というのも、どうやら中の三柱もまた、カイトとティナの魔力に気づいて動きを見せていたからだ。特に一つの荒々しい気配が濃度を増していた。

 それに、うかが溜め息を吐いた。まあこの三柱の中でそんな事をしそうなのは彼女の父親だろう。


「アマテラス様、ツクヨミ様、お父様。『紫陽の里(しようのさと)』より挨拶に来た二人を連れてまいりました。」

「入りなさい。」


 うかの言葉を聞いて、男とも女とも取れる綺麗な声音の声が聞こえてきた。調子は何処か物静かな雰囲気だ。

 そうしてうかがドアノブに手を掛けた所で、カイトがその手を取って待ったを掛ける。が、これで再びぼん、とうかが赤面する。


「あ・・・っと、待った、倒れるな!良し、そのまま場所代われ。」

「あ・・・あう・・・」

「はぁ・・・」


 なんとかカイトの声かけで意識は失わなかったらしい。とりあえずはカイトの言葉を聞いてドアから離れる。そうしてカイトはドアノブに手を掛けて、それを回してドアを開ける。


「<<天叢雲(あまのむらくも)>>!」


 そうしてドアを開いた瞬間、飛んできたのは深い青色の斬撃だ。だが、カイトはそれに臆すること無く対処する。


「<<(かすみ)>>。」


 カイトは斬撃を見て取ると即座に刀を抜き放つ。そうして激突した二つの斬撃はお互いに打ち消し合い、後には何も残らなかった。

 その斬撃が消えた後にカイトと対峙したのは、着物に似た衣服を身に纏ったちょっと悪そうなイケメンの青年だった。彼は直刀を片手に不敵に笑みを浮かべていた。


「へぇー。面白いな。魔力の完全キャンセルか。」

「素盞鳴尊様とお見受けするが、如何に?」

「おう。」


 流石にカイトとて武器を構えた相手を前に気を抜く事は無い。それ故に無礼とはわかりつつも跪く事は無かった。

 とは言え、これを別にスサノオ側は不敬とは思っていない。なにせ攻撃を仕掛けたのは此方で、カイトが戦士である事は先の魔力の質で理解していた。この行動を不敬と取るのは理不尽だろう。

 そうして、再びスサノオが行動に移る。腰に帯びたもう一振りの直刀を空いている手で抜き放ったのだ。


「<<草薙剣(くさなぎのつるぎ)>>!」

「日本の神器相手にコピーのバッタモンで悪いんだが、ここはエクセで!」


 スサノオの行動に、カイトも空いた左手に片手剣を創りだして斬撃を防ぐ。そうしてスサノオが繰り出した斬撃と競り合いながら、カイトは一気にスサノオへと肉薄するべく一気に駆け出す。


「なっ!?」


 自身の斬撃を押し返しながら一気に自分へと肉薄しようとするカイトを見て、スサノオもたまらず驚愕を露わにする。だが、直ぐに再びその顔には笑みが浮かんだ。


「ちぃや!」

「はっ!」


 完全に肉薄した瞬間、スサノオは迷いなく右の天叢雲でカイトへと攻撃する。それにカイトも右の霞で応じる。二人共、浮かぶのは獰猛な闘士の笑みだ。


「次代はなかなかな武闘派だな!」

「更生したというスサノオ様はどうやら出来ていなかったご様子で!」

「俺は元々更生したことはねえよ!勝手に人間が作った作り話を鵜呑みにしてんじゃねえ!」


 その言葉に次いで、スサノオは楽しげに笑みを浮かべてカイトに蹴りを繰り出す。それに合わせるのは、やはりカイトも足だった。


「荒い!戦場仕込みだな!」

「そちらもそのご様子で!」


 二人は剣戟と殴打を繰り返しながら言葉を返す。だが、それに待ったが掛けられるのには、そう時間が掛からなかった。


「い、いい加減にしてー!」


 剣戟の応酬の最中、可愛らしい声が響いた。そうして注連縄の様な光の帯がカイトとスサノオの身体に巻き付く。それに、スサノオが抗議の声を上げる。


「ちょ!姉貴!いいとこだったのに!」

「すーくん!お客様にそんなことしちゃ駄目!」


 その声の主は顔だけ謁見の間の高台の上にある一つの椅子の後ろから顔を出していた。かなりの童顔で、可愛らしい顔立ちだった。光の注連縄は彼女から放たれていた。


「失礼致しました。」

「ふぇ!?」

「ふぉ!?」

「ほぅ・・・」


 身悶えして動けぬスサノオを放っておいて、カイトは勝手に注連縄から脱出して玉座らしい席に向かって頭を垂れる。それにアマテラスとスサノオが驚き、残る一人は感心する。曲がりなりにも、アマテラスは高天原で最もの力を持つ神様だ。その拘束を難なく解いたのは驚愕に値したのである。

 そうして頭を下げたカイトだが、今度は暫く待てど暮らせど何の反応も無い。それに、最後に残った少しクールっぽい中性的な神が告げた。男なのか女なのか明言しないのは、性別がわからないからだ。それを狙ったのか服装は男物にも女物にも見える様な着物をアレンジした物で、顔立ちもどちらなのか判別出来ない。


「すいません、弟も弟ですが姉がこんなのなので、顔を上げてください。」

「はぁ・・・?」


 彼?の言葉から予想すれば、彼?は月読尊だろう。その言葉に従ってカイトが頭を上げると、そこに先ほどまで見えていた顔はどこにも無かった。

 だが魔力はそのまま感じられていたし、相変わらず注連縄は玉座の裏から出ていた。なので、おそらく玉座の裏に隠れたままなのだろう。


「姉上、お客様の前なんですから、もう少しそのおどおどを直してください。貴方、ヒルコを除けば一応高天原で最も年上でしょう。」

「うぅ・・・」


 ツクヨミがそう言うが、相変わらずアマテラスらしき少女は玉座の裏に隠れたままだ。


「・・・おい、姉貴。そろそろ俺を開放してくれ・・・」


 暫くの間、もぞもぞとスサノオが身動ぎする音だけが響く。だが、何の動き――スサノオの脱出も含めて――も起きることは無かった。


「えっと、月読尊様ですよね・・・?」

「ええ。」

「あの・・・そちらへ失礼しても?」

「はぁ・・・どうぞ。」

「ふぇ!?」


 一応このままでは顔見せも何もならないので、カイトがツクヨミに申し出た所、ツクヨミからも許可が下りた。だが、この許可に慌てたのはアマテラスである。玉座の後ろから明らかに怯えた可愛らしい悲鳴があった。


「駄目ですか?」

「え、えっと、あの!えーっと・・・」


 カイトの問い掛けに、アマテラスは玉座の裏からおどおどとどうすればよいか迷っていた。だがそんなアマテラスに対して、ツクヨミが顎でカイトにさっさと行けと指示を送る。


「はぁ・・・」


 そうしてカイトは玉座の裏を覗き込む様に顔を突っ込んだ。だが、アマテラスの方は逆の側から顔を出したらしく、カイトからは顔は見えなかった。


「・・・ありゃ。逆か。」

「ふぁ!?」


 カイトが顔を引っ込めて逆側を覗き込もうとすると、その引っ込めた瞬間にカイトの目の端にアマテラスが顔を引っ込めたのが見えた。


「アマテラス様?」


 そうしてカイトが逆側から覗きこめば、そこには再び逆側から顔を出したアマテラスが見えた。


「・・・」

「・・・」


 奇妙な沈黙が下りる。どうやらアマテラスはカイトと顔を合わせたくないらしい。とは言え、顔を突き合わせなければ話は進まない。なのでカイトはめげずにもう一度逆側から覗き込む。が、今度も同じ結果だった。そうして幾度か同じことを繰り返す。


「姉上・・・人見知りなのは良いですけど、幾らなんでも見知ってる氏子にまで怯えないでください。」

「あぅ・・・だって・・・会ったこと無い人、怖いもん・・・」


 客から逃げようとするアマテラスに対して、ツクヨミが溜め息かじりに苦言を呈する。一方のカイトもティナから苦言を呈された。


「お主、楽しんでおらんか?」

「うん、結構。」


 当たり前だがカイトが全力の速度でやれば、アマテラスの速度を追い抜く事は余裕だ。それをやらない時点で楽しんでいた。それ以前に顔に先ほどのスサノオとの戦いとは違う楽しげな笑みが浮かんでいたのだが。

 とは言え、カイトとていつまでも日本の最高神を相手に遊んでいるわけにもいかない。なので、そろそろいいかと一つ悪戯を仕込む事にした。


「ふぇ!?」

「はじめまして、天照大神様。天音 カイトです。以後、お見知り置きを。」


 逆側からは分身に覗きこませ、アマテラスが出て来るであろう方向に自分が待機していたのだ。そうして顔を出した所にあったにこやかな笑顔のカイトの顔を見て、アマテラスが驚愕に目を見開いて赤面する。どうやら此方も此方で男なれしていないらしい。そうして、暫くの沈黙の後、アマテラスが口を開いた。


「あ、あの・・・大丈夫ですか?いきなり攻撃したりしませんか?」

「いや、あの・・・流石に弟君が仕掛けてこられましたので返しましたが、流石に私も故もなく攻撃なんて仕掛けませんよ。」

「ほんとですか?」


 相変わらず問いかけるアマテラスに、カイトが頷いた。と、そこにスサノオが声を掛ける。


「なー、姉貴ー。そろそろ俺も出してくれ。俺が馬鹿力の姉」

「もー!すーくんの馬鹿ー!」


 スサノオの言葉は最後まで発せられる事は無かった。なにせ光の注連縄が彼の口元まで覆い尽くしたからだ。スサノオの暴言にアマテラスは先程までとは別の意味で赤面する。


「もー・・・」

「んー!んー!」


 モガモガともがき苦しむスサノオに対して、おかんむりなアマテラスは可愛らしく怒りを浮かべ、玉座の裏から出て立ち上がる。


「すーくんはそこで少し反省していてください!」

「はぁ・・・相変わらず貴方は成長しませんね・・・」


 空中に吊られて蠢く注連縄の束に向かってアマテラスが告げ、ツクヨミが溜め息を吐いた。そうしてようやく本調子に戻れたのか、アマテラスがカイトに向かって口を開いた。


「あ、えっとあの、挨拶が遅れました。天照大御神(あまてらすおおみかみ)、または天照皇大神あまてらすすめおおかみと呼ばれています。よろしくお願いします。」


 ぺこり、とアマテラスが頭を下げる。年の頃はおよそ10代半ば、背丈は150センチには僅かに満たないだろう。顔立ちは既に述べた様に、愛らしく、可愛らしい。服装は改造された着物らしき服で、フリルやフリフリが満載だった。総じて、可愛らしい美少女だった。

 そうして彼女が顔を上げると、そこにはまさに太陽の様な笑みが浮かんでいた。それは誰もが――同じく陽性の美少女であるティナさえ――見とれる程に可愛らしい物だった。


「ユスティーナ・ミストルティン。異世界エネフィアにて魔王を務めた者。此度の謁見、感謝する。」

「天音 カイト。先日より故あって『紫陽の里(しようのさと)』の頭首に就任致しました事、ここにご報告致します。また、合わせて、ご挨拶が遅れました事、ここに深くお詫び申し上げます。」

「はい、確かに、聞き入れました。」


 ちょこん、と大きめの玉座に腰掛けたアマテラスは、その言葉にしっかりと頷く。人見知りは先程の一見で有耶無耶になったのか、もしかしたら仕事用ということで抑えているのかもしれない。


「えっと、それで、これで終わりですか?」

「あ、そうです。一応ご報告を、と。」


 アマテラスの問い掛けに、カイトが頷く。が、それに対してアマテラスが告げる。


「あの・・・出来ればいつもどおりのお話の仕方で・・・」

「は?」

「あと、えと・・・」


 アマテラスはかなりいいにくそうにしているので、ツクヨミがにこやかな笑みを浮かべて助け舟を出した。


「昨日の宇迦之御魂神との一件を姉上も見てたんですよ。」

「昨日の・・・きゅう」

「あぁ、うかちゃん!」


 どうやらうかが思い出したらしい。きゅう、といううめき声と共に倒れこむ。それに近くに居たカイトが大慌てで抱きとめたが、それに上から抗議の声が上がった。


「あ、てめ!ウチの娘に何しやがった!」

「ただ単に髪さわれ、って言われたから触っただけだ親ばか!言われた通りにやったらご覧の有様だよ!」


 流石に原因を前にしてカイトも素で抗議の声を上げる。


「というか何貴様馴れ馴れしくウチのうかちゃんをうかちゃんって呼んでるんだ!俺達家族の特権だぞ!」

「あんたが男慣れさせないからこうなってるんだろ!後、本人の希望だ!一応うか様とかで行こうとしたら強引に変えられたんだよ!」

「可愛いんだから仕方ないだろ!トシなんて可愛げないし!クシナダ・・・は可愛いけどおいちはこわ」


 その次の瞬間。スサノオの言葉を遮って打撃音が響いて、スサノオが沈黙する。いきなりの打撃音にカイトとティナが驚愕で目を見開くが、ツクヨミが溜め息を吐いて告げる。


「お気になさらず。ただ単に奥方のお仕置き術式が発動しただけです。」

「は、はぁ・・・」

「あの、一応ウチのお母様は市場の神様でかなりイケイケな性格で・・・」


 困惑を浮かべるカイトとティナに対して、赤面したうかが告げる。


「一応これでも三貴子の中で唯一結婚してるんですが、口が減らない弟でして・・・」

「つーちゃんも私も結婚してないもんねー。結婚したら落ち着いてくれるかなーって思ったけど、全然なんです。」


 唯一の既婚者であるはずの弟に対して、上二人は溜め息を吐く。と、そこでアマテラスの物言いにカイトがふと気がついた。


「つーちゃん?ツクヨミ殿は女神でしたか?」


 その言葉に、ツクヨミがピクリ、と反応する。そうしてすたすたと歩き始め、カイトの所までやって来る。


「ふふふ、どっちだと思いますか?」


 カイトの顔に自らの顔を近づけ、あと少しでくちづけをするというレベルにまで持ってくる。そうして浮かべたのは、艶のある妖艶な笑みだ。それは男装した麗人のようであり、女装した美男子のようでもあった。


「え?」

「男神か女神か・・・人の子がついぞ知れなかった事、知りたくはありませんか?」


 そう言いつつ、だんだんとツクヨミは顔を近づける。後もう少しで唇がふれあうという距離まで近づいても、相変わらず男なのか女なのかは判別出来ない。


「閨の中でなら、知ることが出来ますよ。ただ・・・そこまで来れば、私とて逃がす気はありません。男でも女でも、一夜を共にしてもらいましょうか。ご安心を。これでも夫も妻も迎え入れた事の無い無垢な身体。貴方だけの色に染まってみせましょう。」

「いや、あの・・・」

「つーちゃん!太陽がある内の誘惑禁止ー!というか結婚前なんだから誘惑は禁止ー!」


 返答に困るカイトだったが、その前にアマテラスから助け舟が出た。そうして、あと少しで口がふれあう所までだったツクヨミの端正で中性的な顔が離れていく。


「た、助かったのか・・・?」

「さぁのう・・・」


 どうやらティナさえも一連の流れに飲まれていたらしい。カイトの問い掛けに疑問を返した。


「もー。」

「ふふふ、次代の里長はなかなかに楽しいお方ですね。」


 離れてからも浮かべる笑みは艷の有る物だった。どうやら冷静なふりをして、ツクヨミはツクヨミでそれなりに食わせ物な性格らしい。


「ごめんなさい!ごめんなさい!二人はこんな性格で・・・」


 アマテラスがペコペコと何度もカイトに謝罪する。姉は姉でかなり腰が低かった。


「えっと、あの・・・それでどっちなんですか?」

「つーちゃんどっちだっけ?」

「ふふふ。」

「つーちゃんー・・・ごめんなさい!私も忘れちゃいました!」


 どうやらアマテラスは本気でど忘れしたらしい。ツクヨミのにこやかな笑顔に、頭を下げてそう告げるだけだった。


「はぁ・・・で、アマテラス様は何をお望みだったんですか?」

「え、あの・・・」


 カイトの問い掛けにアマテラスが再び目が泳ぐ。だが、意を決して口を開いた。


「私も何か渾名で呼んで欲しいなー・・・って。後口調も普段にしてほしいなー。」

「・・・はぁ。じゃあとりあえずヒメちゃんでいいか?大日女(おおひめ)って呼ばれてただろ?」


 ねだるような口調のアマテラスに、もう色々とどうでも良くなったカイトは素直にお願いを聞く事にした。揃いも揃って個性的な神様達であった。


「あ、それでお願いします。」

「あいあい・・・」


 そうして、なんとか八百万の神々への顔見せが終わるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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