断章 第13話 八百万謁見編 京都
カイトが星矢と将棋を指した翌日。カイトとティナは出発の用意を整えると、家の玄関にやって来ていた。見送りには仕事前だった事もあって彩斗も出て来ていた。
「じゃあ、行ってきます。」
「おーう。とりまおかんにはお盆には行けるゆーといて。」
大阪にあるのは彩斗の実家だ。それ故に彩斗が言付けを頼む。そうして同じように横の綾音がカイトに注意事項を告げる。
「着いたら電話ちょうだいねー。」
「あ、わかった。でもその前に伏見稲荷寄ってくるから、多分夕方かな。」
「あんまり暗くならない内に電話してね。」
「わかってるって。」
カイトの心配性はどうやら遺伝らしい。綾音は何度もカイトに注意すべき事を説明していく。そうして十分ほど待っていると、家の呼び鈴が鳴った。それに、カイトが玄関の扉を開ける。だが、そこには一同の予想に反して、神無ではない人物が立っていた。
「竜馬?」
「お久しぶりです、カイトさん。」
立っていたのは亜依の婚約者にして、三枝の家人の一人である竜馬だった。朝早い時間ではあったのでてっきり神無だと思っていた一同は、予想外の来訪者に首を傾げる。
「何か困りごとですか?」
「ああ、いえ。そういうことではなく、この間のお礼を、と。」
そう言って、竜馬は手に持った高級和菓子店の紙袋を見せる。一応見かけは竜馬の方が年上だし、家族の目もある。流石にタメ口はためらわれたので、カイトも口調を直して会話に望む。
「すいません。こんなに朝早く。でも今日から数日間亜依と少し出掛けなければならないので、取り急ぎで、と・・・」
「ああ、そういえば三枝もハワイまで船旅、と言ってましたね。」
天道の誕生日パーティに長女である亜依も呼ばれ、婚約者ということで竜馬も呼ばれたのだ。カイトが京都へ行く事は伝えてあったし、その前に、となんとか時間を作ったら、こんな朝早くになったのだろう。
「あ、それで、こっちは結婚式の招待状なんですが・・・来ていただけますか?ユスティーナ嬢には亜依から招待状を預かってきています。」
そう言うと、彼は紙袋の中から二つの封筒を取り出す。宛先は当然カイトとティナだ。
「何時?流石に帰って来た後でしょう?」
「ええ、一応急ぎになりますが、みなさんの登校日に。ちょうど吉日ですし、此方は内々の物にしたかったので・・・」
竜馬が少し照れた様子で告げる。確かに多くの両家の子女達は天道家の誕生日パーティに出席しているのだ。孤児である竜馬との婚約なので、そういった事でいろいろ言われない為に内々にしたいのだろう。
「ああ、なら、喜んで出席させていただきます。」
「有難う御座います。では、もう時間が無いので、これにて。」
「はい、では。」
その挨拶を最後に、竜馬も立ち去って、カイトは家に戻る。と、そうして当然だが綾音から疑問が飛んだ。
「誰?」
「ああ、この間ほら、教育実習生が来たって言っただろ?その婚約者さんなんだけど、ちょっと縁があって。結婚式に来てくれ、って。で、ティナの方は妹さんと仲が良いから、それで。」
「ああ、うむ。それは聞いておる。うむ、確かに受け取った。」
ティナにも招待状を渡しつつ、綾音の質問に答える。綾音もその横の彩斗の方はまあそういうこともあるか、とそれで流した。と、そこで再びインターフォンの呼び鈴が鳴る。再びカイトが扉を開けると、その前には当然神無が立っていた。
「やっほー、綾音ちゃん!」
「わーい、カンナちゃーん!」
朝から元気な母親二人はハイタッチで応じ合う。それから暫くは世間話や挨拶、お礼などで時間を費やしたが、あまりじっとしても居られないので、出発する事にした。
「すいません、神無さん。わざわざ送って貰って。」
「良いって良いって。ウチは夏休みは実家で、って決まってるからね。旦那も居ないしウチのはこんなのだし、男が居てくれると助かるのよ。」
ティナと共に大型の車の後部座席に手荷物を放り込んで神無に礼を言うが、言われた神無は後部座席でカードゲームをしている見た目は三姉妹の下二人を指さす。尚、放り込んだ荷物の殆どは大阪に持ち帰るお土産である。そうして乗り込んできたカイトに、皐月が告げる。
「カイト、おはよ。あんた達もする?」
「む?これは?」
ティナがトランプとも違う奇妙なカードゲームに首を傾げる。三姉妹がやっていたのはウノだ。トランプはエネフィアにもあったが、ウノは無かった。それ故にティナは興味津々となっていた。
「ああ。ティナ、お前は一回マニュアル見ながらプレイ見とけ。」
「そうした方が良さそうじゃな。」
ティナは何枚もあるウノのカードを見て、一度目は見送る方が良いと判断したらしい。そうして、ウノに飽きると全員で携帯ゲーム機を囲んだ為、数時間に渡る道中でティナが更にゲーマーを悪化させたのは言うまでもない事である。
それから数時間後。15時頃になって一同は京都に到着していた。そうして辿り着いたのは神無達神楽坂家の総本家とも言える一つの大きな日本家屋のガレージだった。
「有難う御座いました。」
「良いって良いって。荷物も運んでもらったしね。」
カイトとティナの感謝の言葉に、神無が首を振る。一応流石にお礼としてカイトが全員分の荷物を玄関先にまで運んだが、その後にももう一度お礼を述べていたのである。
「カイト、あんた確かこっちに当分居るんでしょ?」
「ああ・・・まあ、こいつの観光に付き合うからな。」
「うむ。とりあえず今週は京都巡りじゃ。金閣寺は外せんのう。」
皐月の問い掛けに、カイトとティナが同意する。一応、ティナは名目上は留学生の夏休みを利用した観光だ。それ故、一応きちんと観光もしておかなければならなかったのである。それに、弥生が応じた。
「じゃあ、こっちに来た時には声かけなさい。私達が案内してあげるわ。」
「あ、僕も行きます。」
既に玄関に上がった睦月もそう言う。元々カイトと三人は幼なじみなので、連絡を取り合うのに不自由は無いし、地元民だから分かる事もあるだろうと考えた二人は感謝しておく事にした。
ちなみに、弥生は面倒見の良さから来ているのだが、睦月の理由は違った。当たり前だが睦月は今日も今日とて女物を着せられているのだが、それでもまだカイトが居るおかげでユニセックスに近い衣装だ。当然その理由が消えれば完全に女物を着せられるのであった。そんな日々から脱出しようとしているのである。
「じゃあ、また登校日の前もお願いします。」
「ではの。」
そうして暫くの雑談の後、二人は神楽坂家の本家を後にする。尚、カイトが言ったのは登校日は神楽坂一家も東京に帰るらしく、再びカイトとティナも乗っけてもらう事にしていたのである。その後の行きも当然此方である。
「で、カイト。本当に伏見稲荷であっておるのか?」
「おばあちゃんに確認したんだから、あってんだろ。」
神楽坂邸を後にして荷物を異世界に放り込んだ後、二人は会話を始める。当たり前だが、二人がこんなに早く大阪入りしたのには理由があった。とは言え、その理由は蘇芳翁に言われた事を試そうと言う事が大きかったので、もし出来なければこの後は殆ど観光となる。
「とりま電話するか。」
「うむ。」
二人は伏見稲荷大社近くの喫茶店に入ってスマホを取り出して多人数通話用のチャットモードにする。電話の先は蘇芳翁である。
「おーう、爺。こっち京都着いた。」
『おお、そうか。で、今どの辺じゃ?』
「伏見稲荷の前。オレの幼なじみの実家がその近所でな。こっちに来た時はお参りするのが何時ものプランだから、特段怪しまれる事も無かった。」
本来は歩いて20分程の距離だったのだが、二人は脚力を強化している上魔術で姿を隠蔽したのでものの数分だった。そうしてカイトの言葉を聞いて、蘇芳翁が笑う。
『そりゃ、有り難いのう。で、産土神は宇迦之御魂神様で間違い無いんじゃな?』
「一応実家にも確認取った。間違い無い。で、ほんとに行けるのか?」
『とりあえずやってみればよかろう。』
「あいよ。」
その言葉を最後に、蘇芳翁からの接続が切れる。そうしてカイトとティナは注文した紅茶とケーキを食べて、再び店を後にする。向かう先は当然伏見稲荷大社だ。そうして伏見稲荷大社に向かった二人だが、直ぐにティナが圧倒される。
「なんじゃこれは・・・」
目の前に広がっていたのはかの有名な『千本鳥居』だった。無数に立つ鳥居には流石にティナも要件も忘れて大興奮だった。
「うぉ!なんじゃこれは!すごい、すごいぞ!カイト、これ何本あるんじゃ!?明らかに千本を超えとるじゃろ!」
「千本鳥居だから、千本だと思ってたか?」
「うむ!」
「約一万らしい。」
「ほへー・・・」
あまりに圧巻な光景にティナが呆ける。それほどまでに圧倒されたらしい。そうして彼女は持ち帰った記録用の魔道具を外見だけデジカメに弄った物を使って何枚も写真を撮影していく。その姿はまさに観光客だった。
尚、実はこの場で観光客達や地元民達の注目を集めているのは千本鳥居よりも大興奮の美少女である彼女の方なのはご愛嬌である。
「・・・む。」
そうして大興奮だったティナだが、そこはやはり超級の腕を持つ魔王だった。そこの神社に漂う魔力の流れを見て、即座に気を引き締める。それを見て、カイトが問いかける。
「ああ、お前も気づいたか。意味は分かるか?」
「どんな紋様なのかはわからぬが、どうやらこの千本鳥居には何らかの意味がありそうじゃのう。出来れば上から見てみたい所じゃが・・・さすがの余もこれだけではわからんのう。」
やはり京都というからには何らかの意味があったのだろう。カイトも魔力を知らなかった去年までは気付かなかったが、伏見稲荷大社にある千本鳥居等様々な場所から魔術的に意味がありそうな魔力の流れを感じたのだった。
「どうやらあながち嘘偽りでもなさそうじゃな。」
「神様がこんな人里に、って言われても信じにくかったが・・・」
二人は密かに頷き合う。そう、今回の大阪への帰郷の理由は簡単に言って、蘇芳翁の指示だった。というのも、彼によれば日本には八百万の神々が本当に居るらしく、産土神や土地神等として個人や土地を守っているらしかった。
曲がりなりにも『紫陽の里』のトップに就任したのなら、産土神に挨拶してこい、と言われたのだった。
「本殿に行くか・・・の前に、ティナ。お前あれ持ってみ?ほら、灯籠みたいなのの上に石載ってるだろ?願い事してから持つんだぞ。」
「む?なんじゃ、これは。単なる石では無いか・・・」
本殿に行く前にカイトが指差したのは、千本鳥居を通り抜けた先にある『おもかる石』だった。なんだかんだでカイトも観光気分であった。
「・・・む、予想以上に軽いのう・・・むぉ!?」
そうして持ち上げて、ティナは何かを感じ取ったらしい。それには流石にカイトも驚いた。そんな事は去年まで毎年の様に試していたカイトも無かったからだ。
「どうした?」
「何やら魔道具に近い状況になっとるようじゃのう・・・願いが叶うかはわからぬが、ご利益はありそうじゃ。詳しく調べねばわからぬが、あながち予想より軽いと願いが叶うというのも嘘では無いやもしれん。まあ、ここまで効力がありそうなのは、余の魔力の高さであるが故になのやも知れぬが・・・」
「・・・え、マジ?」
ティナの言葉にカイトが頬を引き攣らせる。まさかそんな事になるとは思いもよらなかったのだ。ちなみに、後にティナが調べた所によると、無数の人が触るものだからいつしか願いが叶うという様な魔術に似た力場が形成されて、持ち主の魔力と反応しているとの事だった。
「・・・オレ、もうやめとこ。」
「その方が良さそうじゃな。余やお主ではこの場の力場と影響しあって良からぬ事になりかねん。」
カイトが戦慄と共におもかる石から一歩離れる。流石に揉め事はごめんだった。と、そこでふと、ティナがニヤニヤと嬉しそうな表情をしている事に気付く。
「どうした?」
「なんでもないぞ。」
それにしては嬉しそうだったが、と思うカイトだが、その後何度も問い掛けてもティナは機嫌良くスルーするだけだった。
さて、そんなティナが何を願ったのかと言うと、実はカイトとの婚約である。それが祝福された様な気がして、機嫌をよくしたのだった。
その後も暫く二人は観光気分で伏見稲荷大社を巡り、魔術的な情報を入手していく。流石に攻撃を掛けられるとは思っていないが、根っからの戦士である二人の癖の様な物だった。そうして暫く歩いた所で、ティナがトイレに行くと告げてその場を後にした所でカイトが口を開いた。
「・・・さて、そこのお嬢さん?何の御用ですか?」
カイトが唐突に振り返り、一瞬で自分達の後ろの程よい距離を保ち続けていた女性に肉薄する。この問い掛けはその女性の手を取ってのセリフだった。
「逃げられるとは思わん方が良いぞ。」
そんな女性の少し後ろ。何処に逃げても二人で対処出来る位置取りと体勢でティナが現れる。トイレに行くと言ったのは嘘で、この女性を取り囲む為だった。だが、どうやら女性の方には敵意も何も無かったらしい。柔和な笑みを浮かべて、口を開いた。
「逃げるつもりはありませんよ、カイト。」
「貴方は・・・」
名乗ったつもりは無いが、女性はカイトの名を呼ぶ。そうして呼ばれた名に、カイトが何かに気づいて停止して、彼女の顔をしっかりと見る。
その顔は柔和で包容力のある笑顔が浮かんでいて、とびきりの美女が恥じらうレベルの美女だった。体型は巫女服の上からでも分かるほどに整っており、高身長である事も相まって総じて包容力がある美女だった。そうして停止したカイトに、ティナが怪訝な顔で問いかける。
「どうした?」
「いや・・・ティナ。多分警戒を解いていい。」
カイトは自分でそう言うと同時に、自分も美女の手を離した。そうして、彼は片膝をついて問い掛けた。
「宇迦之御魂神様とお見受け致しますが、如何でしょうか?」
「はい。貴方のことはずっと見ていましたよ。空白の一時間を除いて、ね。」
そうして、宇迦之御魂神は柔和な笑顔でカイトの事を知っている事を告げるのだった。
その後、二人が案内されたのは近くの高級料亭だった。聞いた話だと、彼女が本当の総支配人である店らしい。
「まずは、聞かせてください。貴方に何があったのか。あの空白の一時間には何があったのか。貴方が貴方である事は私が一番理解しています。それ故に、貴方に何があったのかが知りたい。貴方はあの一時間で、何が起き、どうしてそうなったのか・・・それを知らないと、今後も同じ事が起こりえない。」
「あの、その前に一応自己紹介をしたいのですが・・・」
店の奥にある個室に案内されて、三人が着席して早々に宇迦之御魂神がカイトに問いかける。だが、問い掛けられたカイトは礼儀として一応自己紹介を申請すると、それに少し照れた様子で宇迦之御魂神が認める。
「あ、ごめんなさい。では、私から。父は素盞鳴尊、母は神大市姫。兄に大年。名は宇迦之御魂神。貴方の産土神でもあります。名は呼びにくいのでうかで良いです。それ以外の略称は・・・まあ、良いのがあれば。」
「宇迦之御魂神様よりの自己紹介有難う御座います。私は」
「うか、です。呼び捨てが嫌ならうかちゃん、うかさん、うか様でお願いします。」
カイトの『うか』略称スルーに宇迦之御魂神はずい、と身を乗り出す。どうやら何かのこだわりがあるらしい。わざわざカイトの言葉に割り込んでまで訂正させていた。
「えっと、ではうかさま・・・うかさん・・・うかちゃんで。」
「はい。後口調もフランクにお願いします。」
何故か無言の圧力によって様とさんを却下されて、カイトは結局うかちゃんで通す事にする。自分で言いつつ嫌だったらしい。まあ、神族に知り合いが居るカイトはこの程度のワガママは普通に感じられたので、特段何も思わなかった。
「はぁ・・・オレは天音カイト。知っての通り生まれは大阪。数年前まではこっちに居た。父は天音 彩斗。母は天音 綾音。氏神はうかちゃん。年齢は一応表向き13歳。」
「余はユスティーナ・ミストルティン。ティナで良い。異世界エネフィアの元魔王じゃ。あいにくと孤児での。氏神の風習も無いが故にそんな物は知らぬ。年齢は・・・うむ。聞かないでくれ。」
ティナは元々気にする様な性質では無いので口調はそのままだった。だったのだが、カイトが年齢に言及したのでついうっかり流れで言及しそうになって止める。それに、うかが少し興味を見せた。
「そう言われると聞きたくなります。」
「やめてやってくれ・・・これでも行きおく」
「んぎゃー!やめよ!その話題は出すなぁー!」
茶化そうとしたカイトの言葉を遮り、ティナが大慌てでカイトの口を塞ぐ。だが、そんなティナの様子に一人、そっと右手を差し出した者が居た。まあ、この状況でその一人はうかしか居ないのだが。
「・・・」
「・・・」
ティナは差し出された右手とうかのそのなんとも言えぬ表情を見て、事情を察する。そうして二人はしっかりと握手する。
「結婚、ってしたい時に意中の殿方とすべきですよね。」
「うむ!おかげでカイトを見付けられたしのう!」
「うらぎりものー!」
うかの叫び声が響き渡る。そうして、本題に入らぬままに時は過ぎ行くのであった。
お読み頂きありがとうございました。




