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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第1話 野営訓練編 プロローグ ――焚き火の側で――

 冒険部の本拠機能がマクスウェルの街に移転して、全てが落ち着き始めた頃。ようやく冒険部の全員が冒険者の活動に慣れてきた頃でもあったので、カイトは希望者を募ってとある訓練を実施していた。


「あ、お帰りー。」

「エネフィアじゃ野宿でも風呂って入れるんだな。」


 風呂から上がってきたソラが、気分良さ気に一同が集まる焚き火の側、隙間を空けてくれた由利の横に座る。カイトが施している訓練とはソラが言う様に、野宿の訓練だった。訓練内容は2泊3日で、食料はさすがに持ち込みだ。カイトもティナもユリィも狩りは当然出来るが、さすがにそれまで今回の訓練に含めるのは急ぎすぎだと考えたのだ。

 冒険者として今後も活動をしていくのなら、どうやっても日帰りでは出来ない仕事は多くなってくる。そんな時に、何時でも宿場町に辿り着けて、何時でもベッドで眠れるとは限らないのだ。それを考えて野宿を経験してもらおうと思ったのだった。


「カイトがその風習は作ったからね。」


 風呂あがりのソラの言葉に、ユリィが告げる。


「カイトが?」

「あー、分かる気がするわ。こいつの風呂好きは可怪しいもの。」


 魅衣は首を傾げるが、幼馴染の皐月は理解した様に頷いていた。彼女ら三姉妹もまた今回の訓練に参加していた。


「ああ、300年前だと野宿で風呂なんて無かったからな。今じゃあ携帯用の風呂なんて専門の魔道具まであるぐらいだ。さっき使ったのもそれだな。まあ、水を確保する必要があるのが難点だけどな。」


 カイトが苦笑する。そう、件の魔道具には水を供給する機能は無いのだ。それ故に水を確保する必要があった。まあ、使うのは冒険者が大半なので、水系統の魔術を使えば簡単に水が調達出来るから問題は無いのだが。それ故に搭載しなかったとも言える。


「懐かしいよねー。昔はカイトが作った大穴にルクスが土盛って仕切り代わりにして。ウィルが水入れて、おっちゃんが温めて・・・ルシアが香りづけにハーブを浮かべた時もあったよねー。」

「その後は大所帯になったから、大ぶろで馬鹿騒ぎの連続だった。その前は・・・二人っきりだったな。」


 焚き火を見ているからだろうか。カイトもユリィも懐かしげに語る。


「その頃は一人用の小さめの穴に二人で入ってたよね。」

「風呂桶浮かべてな。ひっくり返ってあっぷあっぷしてた頃が懐かしい。」

「それカイトが波起こして遊んだんでしょー。」


 口調だけは不満気だが、ユリィの顔は楽しげだ。そうして始まると思われた昔語りだが、ここで終わりだった。


「たまにゃ一緒に入るか?丁度今日のは一人用だし。」

「うん!」


 ソラの次はカイトの番だったのだ。それ故、カイト自身も用意を整えると、ユリィに問いかける。そうして不敵に笑みを浮かべて問い掛けたカイトに、ユリィは嬉しそうに同意して自身の用意を大急ぎで始める。


「あ、ちょっと!さすがに男女混浴は駄目でしょ!」

「別になんかエロい事するわけじゃねぇよ。こんな気分だし、空も綺麗だしな。」


 背を向けたカイトはそう言いながら、満天の星空を見上げる。今日は天候に恵まれて空には雲ひとつ無く、周囲には明かりは自分達が作っている焚き火の火しかなく、星の光を遮る物は一切存在していなかったのだ。


「ちょっと長風呂してくら。」

「じゃねー。」


 最後にユリィが手を振ってカイトの肩に座る。それを最後に、二人はお風呂用に区切られたスペースへと入っていった。二人の手にあった風呂桶には、白の長細い陶器が見えた。中身は考えるまでも無かった。おそらく二人でゆっくりと飲みながら昔話でも話し合うのだろう。


「行っちゃった・・・どうしよ。」

「うーん・・・ティナちゃんも桜ちゃんも瑞樹ちゃんもお風呂中だしねー・・・」


 こてん、とソラにもたれかかりながら、由利が告げる。三人は少し大きめの女子用の風呂に一緒に入っていたのである。男子の方にも大きめのお風呂はあるのだが、カイトもソラもそちらを選ばなかったのであった。

 ちなみに、由利と魅衣の方は交流という名の下に凛と一緒に入ったのだが、その凛は落ち込んだ様な顔をしていた。主に由利との胸囲の格差に絶望したらしい。胸囲の格差を一番感じている魅衣が横で慰めていた。




「そういや・・・一個思うんだけどよ。ソラ、お前確か親父さんと揉めてたんじゃ無かったっけ?」


 それから暫くして、風呂から上がってきた翔が問いかける。その頃にはティナ達も上がってきて、一同でカイトを待っている所だった。


「は?」


 ソラの方はそれを聞いて、意味不明という顔で首をかしげる。確かに上手く行っているとは言い難かったが、不仲であるとは言いがたいのだ。


「いや、お前確か一時期ぐれてたのって、確か親父さんと揉めてたからなんだろ?」

「ん、まあ、そう。」


 ソラが少し照れ臭そうに翔の発言を認める。それは間違っていなかった。そうして同じく風呂から上がった瞬が、少し興味深そうにソラに問い掛けた。


「ふむ・・・そういえばそこの所は聞いた事が無かったんだが・・・何故揉めてたんだ?」

「あー、それはっすね・・・あー・・・これ言っていいのかな・・・まあ、親父居ないしいっか。ほら、6年ぐらい前に俺の親父・・・天城 星矢(あましろ せいや)つーか、政権が結構大揉めした事あったっしょ?」

「ああ、そういえばうろ覚えだがそんな事があったな・・・」


 ソラは少し悩んだが、結局は語る事にしたらしい。そうしてソラから告げられた言葉を聞いて、瞬が自分の記憶をたどり始める。どうやらその事は連日連夜放送されていたので、政治にあまり興味が無かった瞬の記憶にも残っていたらしい。


「んで、俺ちぃーといらん事吹き込まれたんっすよね。親父の政敵つー奴から。で、ちょっとしたすれ違いから大揉めしちまって・・・いや、あんときゃしっかり聞かなかった俺が悪かったっす。」

「そ、そうか。」


 少し照れ臭そうに語ったソラに、翔も瞬が苦笑するしか出来なかった。聞いてみたは良いものの、蓋を開けて出て来た内容は自分達が想像も出来ない世界の出来事だったのだ。そもそもで彼らの実家に政敵なんてものは存在しない。


「・・・あれ?ってことはお前今親父さんと揉めて無いのか?」


 そうして暫く沈黙が下りた後、翔が問いかける。今の話を聞けば、揉めていない様に聞こえたのだ。そして、ソラもそれを肯定する。


「おう。普通に会えば会話もすんぞ。まあ、総理大臣だからさすがに滅多には会えないけどな。」

「苦手意識は抜けてないみたいだけどな。」


 と、そこに後ろから声が掛かる。カイトが上がってきたのだ。横には当たり前だがユリィも居る。二人共湯上がりなので、少しだけ顔が火照っていた。そうして彼は持ち運び用の冷蔵庫型魔道具から牛乳を取り出し、ユリィと二人でそれを呷る。


「あはは・・・まあ、そっちはな・・・なーんで苦手なんだろ・・・」


 ソラが少し悩み始める。それをきっかけに、再び沈黙が下りる。だが、その沈黙は牛乳から口を離したカイトによって破られる。


「・・・そういやお前いつの間に親父さんと仲直りしたんだ?」

「ん?あれ?お前知らなかったっけ?」

「5年前の夏休み終わった頃に唐突に仲直りしてたろ?」


 ソラの方としては、カイトも知っていると思っていたのだが、当たり前だがそんな事をカイトが知っている筈が無い。知っていても怖いだろう。


「おう、夏休みの間だ。」


 その時のことは、ソラは今でもしっかりと覚えている。それは忘れる事が出来ない記憶だったからだ。


「5年前の夏休み、ねえ・・・そういえばカイトはその当時ティナちゃんが居るから、って浬ちゃんや海瑠くんよりも一足先に大阪の実家に帰ってたんじゃなかった?」

「うむ。そういえばそうじゃな。一度途中で天神には帰っておるが。」


 弥生の言葉をティナが認める。そうしてそこで、桜が声を上げる。何かを思い出したらしい。


「あ!思い出しました!」

「・・・お、おう。何が?」

「そういえば私カイトくんの事一度紹介されてるんです!ソラさんのお父さんからの紹介で!」

「ああ、そういえば見たことがありましたわ!」


 そんな桜と瑞樹の言葉に、一同がカイトに注目する。そんな話は一度も聞いた事が無かったのだ。だが、一同が注目したカイトの方も驚愕で目を見開いていた。


「いや、オレも知らないぞ。そもそもでソラの親父さんと二人であったのなんて両手で数える程。出かけた事なんてないぞ?それに桜に会ってたら覚えてない筈が無いだろ?オレ達が初めて出会ったのは入学前の筈だ。それ以前には会っていない。」

「・・・え?」

「・・・あ。」


 カイトの失言に、桜が気付く。そうして一時的だが、場が中座されるのだった。


「・・・ひどいです・・・」

「桜、貴方こそ気付いていないと思ってる方が可怪しいでしょ?」


 真っ赤になった桜に対して、楓が慰めの言葉を送る。まあ、慰めている様には見えなかったが。それは入学式前のカイトと桜の遭遇に始まる出来事に対する事だった。


「悪いって。注目されている事には気づいていたが、まあ、何分美少女だし生徒会役員だったからな。意図が掴めなくて放置していたんだ。で、そのままずるずると今に至るってわけ。」

「うぅ・・・」


 カイトが苦笑ながらに謝罪する。桜にしても自分の方に非があるのだから、と彼女の元来の性格も相まって真っ赤になっても何も言えないのであった。


「っと、戻ろうか。それで、オレは桜と会ってない筈だよな?」

「・・・あ、はい。私とカイトくんは確かにあの時が初めてです。」


 とは言え、いつまでも解決出来る疑問をそのままにしておくわけにもいかない。なのでカイトが本題に戻した。


「天道家には許嫁は無いんですけど、やっぱり一応中学校以降には出会い自体には選別みたいな物があるんですよ。私や煌士とかお兄様達が入学する時には、学園の入学者にしても少しそれが考慮されるらしいんです。何故か学園から推薦状が送られてきたりするのは、その一環ですね。あ、これオフレコでお願いします。」


 一同の顔に浮かぶ驚愕に桜が苦笑しながら告げる。一応言っておくが、天桜学園は私立学園だ。それ故、合格者の選定基準は学園の運営側に一任される為、これが違法というわけではない。


「そ、そうか・・・で、それが何故オレの紹介に繋がるんだ?」

「あ、いえ。ごめんなさい。そっちは関係ないんです。あ、いえ、関係無くはないんですけど・・・」


 どうやらかなりどん引かれた――さすがにこれには瑞樹も少し頬が引きつっていた――のを見て、桜がも少し取り乱したのだろう。彼女にしては珍しく、少ししどろもどろになっていた。


「えっと、それで、そう言う人って分家の方から推挙があると、時々私にも持って来てくださる時があるんですよ。で、その時にカイトくんの顔写真があったんです。」

「オレが?オレは分家も分家、最下層の天音家の更に末端だぞ?」


 カイトの顔に困惑が浮かぶ。あの当時は――カイトの考えでは――自重していたのだ。それに、天道家の本家筋や分家でも高位の面々には――ソラとソラの父親を除いて――面識はない。どう考えても推挙される筈が無いのだ。なのに何故推挙があったのか、理解が出来なかった。


「星矢さんから、推挙があったんです。それで、天道本家としても星矢さんが送ってくる事は珍しいので、私の所に顔見せがされたんです。」

「親父・・・カイト、お前なんかやったか?」

「いや、しらね。」


 予想外の所からの予想外の推挙に、ソラが顔を引き攣らせてカイトに問いかける。だが、問い掛けられたカイトにしても理解出来なかった。


「あの当時と言えば・・・エリザ・エルザの二人の所と揉めておった頃では無かったかのう。そもそもで天神市では殆ど何もしておらん筈じゃったんじゃが・・・」


 ティナが当時を思い出して告げる。彼女も殆どカイトと一緒に居たのだ。それ故、カイトが心当たりが無い事は把握している。だが、そうして語られた単語二つに、魅衣が大いに反応した。


「ちょっと待って!エリザさんとエルザさんと出会ったのってその頃?」

「ああ。そっか。あいつらとももう5年近くになるのか・・・」

「それ聞きたい!と言うか、どんな生活してたのか気になる!」


 さすがファンを自称するだけのことはある。魅衣が身を乗り出して問いかける。だが、興味深げなのは他の面々にしても同じだった。ソラが代表して問い掛けた。


「あ、そこら辺の話は俺も知りたい。」

「あ?なんで?」

「いや、だって世界的な歌手がなんで日本に居て、とかって気になるじゃん。」


 それに、全員が頷く。それを受けて、カイトが少し考えこむ。


「んー・・・色々と一度全員その時を振り返るしか無いか?」


 色々な案件が複雑に絡み合っていそうなのだ。それ故、カイトがそう告げる。


「あー、そういや俺もソラがなんで親父さんと仲直りしたのか気になる。」


 と、翔が言えばソラが少しだけ嫌そうな顔で少し考え込んだ。


「え・・・まあ、いいけどよ。じゃあ、カイトがメインで話して、俺らが補足するか?」

「そうですね。私も何故星矢さんが推挙されたのか気になりますし・・・夏休みは瑞樹ちゃんと一緒でしたっけ?」

「そういえば・・・誰かしら誰かと出会っていそうですわね。」

「私達はあの時の夏休みって言えば・・・あー・・・あれあったっけ・・・」

「魅衣のお姉さんが結婚式挙げたんだっけー?カイトもティナちゃんも来てたよねー。」

「私達は京都の実家でカイトとティナちゃんと会ってたわね。あれ・・・そういえばあの時に御子柴さん見た様な・・・」


 どうやら全員が全員と出会っており、何かしらの関係が生まれていそうだった。


「こりゃいよいよ複雑になってそうだな・・・」


 カイトが少し楽しげな顔を浮かべる。全員高校の入学までばらばらだと思っていた関係だが、もっと昔から繋がっていたのだ。それが何よりも面白かったのである。


「この世に偶然は無い、じゃのう。」


 ティナも楽しげに告げる。こういった奇妙な縁は彼女が生きて来た中でも滅多に無い。それ故、彼女にとっても面白い出来事だった。


「どっから話すかな・・・とりあえず、魅衣の所からの方がいいか?」

「え?なんで私のあの一件から?」

「いや、あれでちょっとやんちゃして暴力団一つ潰したんだが・・・それで蘇芳の爺の跡目つぐ事になってな?そっからやった方がいいかなー、って。」

「お前何やってんだよ・・・」

「はは、カイトを知ってるんなら当たり前に感じるがな。」


 カイトの言葉を聞いて翔は呆れるが、瞬は楽しそうだった。


「椿、長くなりそうだから、お前も座れ。」

「はい。」

「じゃあ、始めるか。」


 そうして、カイトが語り始めるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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