断章 第22話 集結編 終結
それはまだ、魅衣が地下闘技場に到着する暫く前のことだ。マンションの一室での轟音の通報と、そのマンションに蘇芳翁の襲撃犯が倒れているという匿名―三枝の全員が目覚めたのを確認した竜馬である―での通報を聞いて、幸人達天神市警察署捜査一課の面々が重装備でマンションを取り囲んでいた。そうして、幸人達が意を決してマンションへと突入して、目の前の光景に眉をしかめる。
「こりゃ、酷いな・・・」
「四課の連中呼んできて良かったですね・・・」
風海が眉をしかめながら幸人に同意する。元々該当のマンションはとあるやくざ者の所有するマンションであった事は周知の事実であった。それ故、暴力団等の取り締まりを行う捜査四課の面々も一緒に出動していたのである。
「全滅・・・か?」
「課長・・・みたいですね。」
既に魅衣の誘拐も伝わっており、ただでさえ不手際を糾弾されているのに、この上大企業の娘に何かあっては大事と署を上げて来たのだがそれも無用の心配の様に見えた。
そうして、一向に起きない怒号を訝しんだ捜査一課の課長が、幸人の後ろから覗きこんで二人に問い掛ける。そこには何人ものガラの悪い男達が倒れ伏しており、一様に目覚める気配は無かった。
「何があった?」
「さぁ・・・」
「取り敢えず、ガイシャは4階だ。行け。」
「はい。」
ここでやくざ者達が倒れ伏しているからといって、上までそうとは限らない。なので捜査一課の面々は応援の警視庁捜査一課の面々と共に、銃をいつでも発泡出来る様に構えながら全ての逃走ルートを潰す様に上に登っていく。そうして、通報のあった部屋へと辿り着いた時、誰もが目を見開いた。
「何があった・・・いや、どうやったらこんなことが・・・」
「・・・ゴリラでも来たのか?」
「ケリっぽいんで、ムエタイの選手とかじゃ無いですかね・・・」
突入前に部屋の前で集まる予定で、エレベータで最初にやって来た天神市警察署捜査一課の面々だったのだが、その部屋の前に立ってその惨状に目を見開いた。
なにせ、鋼鉄製の扉は明らかに蹴り破られており、中を覗けば何人ものやくざ者達が倒れ伏していたのだ。中には匕首や実弾を撃てる拳銃を持っている者も見受けられたが、それら全てが倒れ伏していた。
「どうした?」
「あ、園山さん。これ・・・」
そんな捜査一課の面々の後ろから、警視庁捜査一課の課長率いる刑事達が問い掛ける。そうして困惑した様子の風海の声に、応援の一同が覗きこめば、そこには風海達が見たままの光景が広がっていた。
「なんだ、こりゃ・・・」
「どうしますか?」
「・・・行け。」
「・・・はい。」
現場総指揮を担当する警視庁捜査一課の課長はかなりの逡巡を見せたが、魅衣の身の安全を何があっても確保しろ、という警視総監から直々の命令を思い出して、意を決して突入させる事にして、自身も部屋に乗り込んだ。だが、彼らの悲壮な決意は完全に無駄だった。
なにせ、彼らが警戒していた蘇芳翁の襲撃犯さえ、ある一人の人物によって討伐された後だったからだ。一同の疑問を他所に、取り敢えずは誘拐罪と危険物所持法、銃刀法等に違反したとして、気絶したやくざ者達に手錠をかけて行く。
「うぁ・・・園山さん!こっち!」
「酷いな・・・ここにあの犯人の一人が居たのは事実だな。」
一番奥の部屋のあまりの酷さに風海が園山を大慌てで呼び、呼ばれた園山が顔をしかめる。そこには、干からびた死体が何体も倒れ伏していたのだ。その死体の様子は、彼らがずっと追っていた猟奇殺人犯の仕業と同じであった。
「ん?こいつは・・・」
一方その頃、台所のヤクザ者に手錠を掛けていた幸人はとある気絶した男に手錠を掛けて、そのフードを取り外した。そして、その顔を見て、大声を上げる。
「こいつ・・・っ、犯人発見!こいつ蘇芳氏の襲撃犯だ!」
「何!?」
部屋中が騒然となり、大慌てで幸人の所に刑事たちが集合する。そうして、全員が手錠を掛けられた男の顔を見た。
「監視カメラに映った男だ・・・」
「あの死体もこいつがやったのか・・・」
「死体?」
「こっちだ。誰か、こいつが目を覚まさないか見とけ。」
園山の手招きに従い、幸人が隣の部屋を覗きこむ。そこには、干からびた死体が転がっていた。
「これは・・・」
「おそらく、こいつが襲撃してきた所に、偶然ガス爆発が起きたんだろうな。」
死体を見て呆然とする幸人を前に、園山がことのあらましを想像する。それは、部屋の惨状を見た彼らにとって、当たりの様に思えた。
「馬鹿な奴、といやあいいのか、哀れな奴、といやあいいのか・・・」
そう言う園山の表情は複雑だった。今まで追ってきた事件のあっけない幕切れに、少しだけ、物悲しさを感じていたのである。
「・・・取り敢えず、犯人確保、お手柄だった。」
「・・・はい。」
「・・・おい、待て。三枝のご令嬢は?」
「はっ・・・どこだ?まさかこの死体の中に居るとかあってくれるなよ・・・」
これだけの死体が並んでいるだけならば、やくざ者達の抗争でなんとかなった。だが、もし魅衣の死体があれば、と一同が大慌てで死体の顔を確認するが、そこには女の顔は無かった。
「おい、こっち!カメラがあるぞ!」
そうして懸命の捜索が続く中、刑事の一人がデジカメを発見する。そうして彼は部屋に備え付けられていたテレビを使い、映像を確認出来るか接続してみる。
「映るか?」
「やってます・・・行けました!っつ、若干壊れてるな・・・」
データはデジカメに大きな衝撃が加わった所為か、データのところどころが飛んでいた。だが、彼らが見たかった物だけは、きちんと残されていた。
「あら、三枝のとこのか?」
「ですね・・・先に助けに来た、ってところでしょうか?」
所どころに映るガタイの良い男の影を見て、刑事たちがおおよその当たりを付ける。そうして更に続く映像に、刑事たちが騒然となった。
「おい、この声!」
「ああ、多分あいつだ!・・・こいつ、吊り下げも自分がやった、って自白してやがる!」
映った画像は鮮明では無かったし、既にカメラも倒れていたので姿は見えなかったが、声は確かに倒れている男だった。後で他の監視カメラ等の音声から声紋の照合を取るだろうが、聞こえただけでは、一致している様に思えた。それに吊り下げの事件については、まだ報道されていないのだ。彼が犯人であるならば、事件の関係者である事を決定づける決定的な自白であった。
「裏返し、干からび、吊るし・・・全部こいつがやったのか・・・多分、多重人格ってやつか・・・納得した。」
誰もが怯えながら、ごくり、と生唾を飲んだ。もし、ガス爆発で倒れていなければ、誰もがそう思った。
「取り敢えず、今のうちに運び出すぞ!そいつは5人以上で運べ!外の奴らも呼んで、他のやつも運び出せ!」
だが、気絶しているなら丁度良い。今のうちに拘束してしまうだけだ。園山の号令に従い、刑事たちは念のために足にも手錠を掛け、絶対に逃げられない様にする。その上で二人が襲撃犯の男を運び、三人でそれを見張る。三人は万が一暴れた時には即座に銃撃出来るように、懐に手を入れて銃に手を掛けていた。
『御覧ください!警官達が一気に突入・・・いえ、誰か出てきました!警官の様です!誰かを抱えているようです!被害者の方でしょうか!』
当たり前だが、この様子は天神市警察署に屯していたマスコミ達が大々的に報道していた。そして、その抱えられた男の顔が映され、既に蘇芳翁の襲撃犯の顔写真が出回っていたので、大騒ぎになる。
『あれは・・・蘇芳さん襲撃の犯人です!どうやら犯人が逮捕された模様です!』
元々いきなり大慌てで出動した警官たちについていった彼らだが、道中で襲撃犯発見か、という事を聞いて急遽生放送が実施され、そこでの襲撃犯逮捕だ。丁度夕方のニュース時であったこともあり、全チャンネルが緊急速報を発信した。
そうして、天神市だけでなく世界中を騒がせた事件は、日本中に大々的に報道される中、終結したのであった。
一方、それから暫くして、そんな事を知らないカイト達の戦いも終わりを迎えた。
「俺達は、まだまだだ、ということか。」
「御子柴さん、有難う御座いました。」
苦笑しながら呟いた御子柴に対して、由利が頭を下げた。由利達には意味がわからなかったが、救われたのは事実なのだ。
「いや、いい。俺達より、アイツに礼を言っておけ。」
「あ・・・天音、ありがとう。」
「おーう。というか、ソラに言えよ。アイツが一番速かったし、アイツが頼まれたんだからな。」
「そっちには言った。」
カイトがソラを見るとどうやら事実であったらしく、ソラが肩を竦めていた。そうして、由利が、援軍として訪れた―といっても巻き込まれて、であるので彼女の意思ではないが―魅衣に気付く。
「あんたも来たんだ。」
「・・・そうよ。成り行きでね。」
「まあ、ありがと。」
「受け取っておくわ。」
二人共、どこか照れくさそうだった。だが、それでも確かに礼を言ったのだ。が、そこで誰かの腹の音が鳴り響いた。
「・・・腹減った・・・」
「・・・それには激しく同意だ。」
ソラだった。だが、それはカイトも同様で、非常に疲れた顔であった。だが、その前に聞いておく事があった。
「で、お前らはどうするんだ?」
「・・・一度、俺達はこの街を出る。希もそれで良いな。」
「俺もかよ・・・」
「どうせ今のままやっても勝てないんだ。諦めろ。」
「ちっ・・・」
三島が小さく舌打ちしたが、それを拒絶しなかった。そうして、旅立とうと言う時、また、誰かの腹の音が鳴った。
「おい、天城・・・」
「いや、俺じゃねえよ。」
「・・・こいつだ。」
「バラすんじゃねえよ!」
御子柴に指摘されたソラが否定したのに合せて、和平が三島を指さす。それに、三島が真っ赤になって怒鳴る。どうやら彼は仲間内では意外といじられキャラらしい。
「むぅ・・・ならば、飯でも食いに行くか?」
「あ?」
ティナの提言に、三島が首を傾げる。そうして、一同の注目の中、ティナが戦果の入った茶封筒を魅衣に手渡した。
「おっと、忘れん内に・・・こっち、魅衣の分な。」
「何これ?・・・って、ちょっと!これ何!」
魅衣が目を見開いて、手渡された茶封筒の中身の分厚い札束に驚いていた。それに、ティナがその札束の理由を告げた。
「ほれ、先ほどの賭けの賞金じゃ。お主もカイトに賭けておったじゃろ?出しなに換金しておいたんじゃ。」
「うそ・・・こんなに・・・って、待って!じゃあ、ユスティーナは・・・」
魅衣の言葉に、ティナはにぃ、と笑うだけだ。そう、魅衣が賭けた賭金は3万円。倍率30倍なので、90万の大金になって返って来た。
それに対して、ティナが賭けた賭金は、その額10万円。つまり、その額はなんと300万円となる。で、更にティナはそのままその賭金を全額次の試合に賭けた。その倍率は1.5倍。最早語るまでもなかった。当分の生活資金は稼げたのである。
「くくく・・・どれ!お主ら、おごってやろう!そこなおなご達も来るが良い!ほれ、えーっと、由利じゃったな!お主も来い!」
「え?え?」
「ほれ、由利!さっさと出せ!行き場所はどこでも良いぞ!」
「すまん、どこかに連れてってやってくれ。」
勝敗の見えた試合で簡単に大勝出来て上機嫌なティナは、強引に由利を引っ張ってバイクに導き、強引に由利を座らせると自身はその後ろに跨った。由利なのは偶然彼女が最も近かったからである。それに、カイトが若干申し訳無さそうに謝罪する。
「・・・じゃあ、適当に出すよ。」
「え?ちょっと、由利さん?」
「助けられたんだから、しょうがないでしょ。送るぐらいは聞いてあげても。」
「うっ・・・そうですね。お前らはどうするんだ?」
少し不承不承に由利がヘルメットをかぶり、ティナに手渡したのを見て、由利の取り巻き達は目を見開いて由利に尋ねた。だが、それに対して由利に告げられた言葉に、それもそうか、と納得する。そうして、問い掛けたのは、そんなティナに困惑するソラ達に対してだ。
「む?そやつらも来るんじゃぞ?全員纏めておごってやると言ったからのう。」
「・・・マジで、おごり?」
「うむ!金の心配ならせんでも良いぞ!」
「おっしゃ!なら乗った!誰か乗っけてくれ!」
元々ソラも空腹だったのだ。おごりとあっては、乗らないはずが無かった。そうして彼が告げたのに、由利のチームの面々が顔を見合わせて悩む。だが、その悩みはカイトの強引さによって解決された。
「おい、乗っけてけ。天城、こっち乗るぞ!三枝、折角だし、一緒に来いよ。」
「え?」
「・・・へ?」
「どうせだ、色々と教えてやりたい事があるし、お前らも付き合え。」
「・・・何?」
カイトは御子柴達の乗ってきた車の側に立っていた。元々が大人数の家族用なので、8人ぐらいなら余裕で乗れるのだ。だが、御子柴達は元々付いていくつもりは無く、いきなりの行動に唖然となる。
「・・・どうしますか?」
「・・・情報は欲しい。行くしかないだろう。」
困惑した和平だが、取り敢えずは御子柴に問い掛けた。問われた御子柴も珍しい困惑の色を浮かべたが、彼の言った『教えたいこと』に興味を覚え、それに従う事にした。
「全員、乗れ。小鳥遊、案内を頼むぞ。」
「はい。」
「おい、天城とあー・・・そこの女。お前もさっさと乗れ。」
「え・・・いや・・・ちっ、覚悟決めるか。」
「え・・・」
「ほら、さっさと乗れ。」
由利のチームの誰かに送ってもらおうと困惑していたソラだが、御子柴まで席を薦めたので、意を決して車に乗り込む。それを見て、魅衣がかなり困惑したが、出てきたカイトに引っ張られて車に乗り込んだ。そうして、奇妙な一同は、由利とティナ先導の下、出発したのであった。
お読み頂きありがとうございました。




