断章 第20話 集結編 集結
時は少しだけ遡る。カイトが地下闘技場の入り口に立った頃。ソラと由利の取り巻きの一人である雪はとあるファミレスの駐輪場にたどり着いていた。そうして更に雪によって案内された所にあったのは、やはり彼女の足であるバイクだ。
ソラの捜索に時間が掛かりそうな―実際には運良くすぐに見つかったのだが―事は確実だったので、さすがに駐禁等を取られては時間を食うとソラの行動拠点であるゲームセンター前のファミレスの駐輪場に停車させたのである。
ちなみにそのファミレスは彼女のバイト先なので店長に頼んで停車させてもらったのだが、その時、彼女のいつもと違う様相に店長やバイト仲間が目を白黒させていたのであるが、それは置いておく。
「乗んな。ヘルメットはこっちな。」
「あ?」
「捕まると面倒だろ。そんな時間無いし。」
「あ、そりゃそうか。」
雪がシートの下から取り出した予備のヘルメットをソラに投げ渡す。ソラはそれを被ると、雪の後ろに跨った。しかし、ソラが一向に次の行動に移らないので雪が後ろを振り向いた。
「おい、さっさと腰に手を回せ。出せないだろ。」
「・・・え?」
「あん?なんだ?」
「え、いやあの・・・うん。」
雪の訝しんだ様子に、ソラはおずおずと雪の腰に手を回す。ソラはこの時、フルフェイスタイプのヘルメットで良かった、と心の底からそう思った。なにせ、ソラとてお年頃の男子で、女の子との触れ合いが恥ずかしい年頃だ。ヘルメットの下の顔は真っ赤で、背中は汗がだらだらだった。
「なんだ、可愛い奴。」
「・・・るせ。」
顔こそ見えなかったが明らかに固くなったソラの手に気付いて、雪はそんな中学生真っ盛りのソラを思わず茶化す。幾ら不良として年齢を問わず恐れられるソラとて、蓋を開けてみれば単なる年下で、年頃の少年だった事に雪は思わず笑みが零れた。
ソラはそれに言い返す事も、否定する事も出来なかった。真っ赤なのは自分でも理解出来たし、かなり恥ずかしそうに雪の腰に手を回しているのだ。言い訳のしようがなかった。
「じゃあ、飛ばすよ!」
「・・・おう。」
本当に小さな、固いソラの返事を聞いて、思わず吹き出しそうになった雪だが、気を取り直してバイクを走らせ始める。そうして、二人は気付かない。その少し後ろに、一台の車が走っている事に。そして、その後ろの車には、ソラを遥かに上回る援軍が4人、乗り込んでいたことに。
もう少しだけ、時は遡る。それは、カイトが闘技場に入る直前の事だ。
「あ、総司さん。どうっすか?」
マンション近くに止まっていた車の助手席の窓から身を乗り出した涼太が、御子柴に気付いて問い掛けた。それに答える前に、御子柴は後部座席に乗り込む。車自体は訳ありで売りに出された十万円にも満たない格安の中古車だが、乗り心地には関係が無かったらしく、悪くは無かった。
ちなみに、この車は『アウターズ』の幹部5人全員が乗った上で、後部座席を倒さなくても荷物を詰め込む余裕もある、座席が3列の家族向けの車だった。若干手狭だが二人程度ならシートを倒せば室内でも寝れるとあって、御子柴達は遠方へと向かう際の足として重宝していた。
「ああ、やはり天音が、奴だった。」
「やはり戦っていたのは奴か。」
御子柴の答えに、和平が納得した様に頷いた。中に乗っていたのは、彼の仲間の三人だ。彼らも魔力の奔流には気付いていたが、万が一もあり得た為、最も強い御子柴自らが偵察に出ていたのである。
「最近起こっている天神市の連続猟奇殺人事件の犯人と矛を交えていたようだ。」
「あれも、俺達と同族だったのか・・・」
陽介が少しだけ嫌そうな顔で呟いた。この時、彼らは異族に種別が在ることは知らなかった。なので、魔力が使えるのは全て同族と捉えていたのである。それ故、自分たちも何時かはああなるかも、と少しだけ嫌悪したのだ。それを見た御子柴は、先ほど聞いたばかりの答えを三人に告げる。
「いや、どうやら色々と違いがあるらしい。奴みたいになることは有り得ないそうだ。」
御子柴の答えに、三人の顔に少しだけ希望が見えた。御子柴もこの話を聞いた時に同じ不安を抱き、それを見抜いたカイトにフォローされたのである。そうして、御子柴は少しだけ、新しい発見をした少年の様な笑顔を浮かべる。
「どうやら、俺達が思う以上に、この世界は広いらしいな。」
「あ、久しぶりっすね。総司さんがそんな顔浮かべんの。」
「ん?」
どうやら、御子柴は気付かなかったらしい。怪訝な顔をしていたが、涼太以外の二人もそれに気付いていた。そうしてそんな三人の顔を見て、御子柴もどうやらそれが事実らしいと気付く。彼は少しだけ恥ずかしげに、話題を逸しに掛かった。
「ちっ・・・希の交換条件として、罠に掛かった小鳥遊を助ける事を依頼された。場所は外れの倉庫街のあのデカイ空き地だ。どうせ俺達の尻拭いだ、出せ。」
「・・・はい。」
そうして運転席に座っていた和平が、少しだけ笑みを浮かべて車のエンジンを掛ける。第二の援軍の、出陣である。
「間に合った!」
そうして、雪とソラが倉庫街に辿り着いた時、二人は間に合った事を知る。由利達が罠に嵌められ、追い詰められる予定の場所へ至る最後の曲がり角が見えた時、丁度襲撃者の最後尾のバイクがそこを曲がったのが見えたのだ。
「飛ばすよ!」
「しゃあ!」
雪の言葉に、ソラが気勢を上げて応じる。そうして、二人がたどり着いた時、それはギリギリ、戦いが始まる直前だった。
「じゃあ、アタシは由利さんとこ目指すから、あんたも頼むよ。」
「おう。」
そうして、乱闘が開始される直前、ソラは道中で話し合った手筈通りに雪と別れる。そうして、後ろに対して注意が疎かな襲撃者達に攻撃を仕掛ける前に、肩を回して呟いた。
「さて、と。腕鈍ってねぇよな。」
そうして思い返せば、笑みが出る。なにせ、此方から喧嘩を仕掛けるのは一ヶ月ぶりだ。売られた喧嘩は買っているので喧嘩自体が久しぶりと言うわけではないが、やはり、少しだけ調子が違った。そうして彼は、久しぶりに獰猛な笑みを浮かべる。
「おっしゃ!やるか!おう、ちょっと良いか?」
「あん?なっ、てめえは!」
「おらよ!」
「ぎゃぁ!」
ソラは目の前に居た少年に気さくに問い掛け、振り向いた瞬間にその顔面に殴りを入れる。そうしていきなり響いた背後からの轟音と悲鳴に、一同の視線がソラへと集結する。
「お、やってるやってる。パーティ会場はここでいいんだよな?」
「あ、天城・・・てめえ!なんでこんなとこにいやがる!」
「あん?まあ、成り行き。」
そうして、なるべく目立つ様に、と心がけたら、少しカイトの様である事にソラが気付いた。ソラは内心でそれを笑いながら、男達と会話を行う。
すると彼らは恨みがある自分も標的に加える事にしてくれたらしい。注意が自分にも向いた。その隙に、雪が間隙を縫って由利の下へとたどり着いた。
「由利さん!」
「ユキ!あんたどうやって・・・」
「すんません!天城に手を貸してもらいました!」
「あんたっ!」
雪の言葉に、ソラと仲が悪いチームの何人かがいきり立つが、由利が止めた。
「待って。そうしないと危なかったんだから、文句言わない。」
「っ・・・うっす。」
少女たちとて、現状が絶望的である事ぐらいは理解出来ていた。忸怩たる思いではあるが、天神市で最悪の一人と言われるソラの救援は、まさに渡りに船でしかあり得なかった。
「行くよ!」
「うっす!」
そうして、ソラに対して攻撃が開始されると同時に、由利達に対する攻撃も開始されるのであった。
「で、どこ行くの?」
時同じく、地下闘技場から三島を引きずって外に出た所で、魅衣がカイトに問い掛けた。ちなみに、カイト達が地下闘技場に入ってからものの十数分の出来事であった。
「はぁ・・・小鳥遊を助けてくれ、って頼まれてんだ。今から行くしか無いだろ。」
幸いと言うかなんというか、この地下闘技場を内包する地下街は由利が罠に嵌められた倉庫街に近い場所に出入り口の1つが設置されていた。
「なんで小鳥遊?」
「しゃーないだろ。どうせそっちに用事あるし。」
「用事?」
「飼い主にペットの犬を引き渡す。」
「・・・おりゃ犬じゃねえ。」
魅衣の問い掛けに対してカイトは引きずっていた三島を示す。示された彼はよほどカイトが恐ろしかったのか大人しくしているが、少し憮然と文句を言った。
「さて、問題は・・・どうやってあっちまで行こうかな・・・」
「のう、カイト。あれは使えんのか?」
そうして悩んだカイトに対して、ティナがある物を指さした。それは、タンデム付きのバイク―ただし、廃車寸前―だった。それを見たカイトは、顔に笑みを浮かべるのであった。
「ひゃっほー!」
超が付くほどにごきげんなカイトの声が、風を切って走るバイクの上に響いた。
「うるせえよ!」
「諦めよ。カイトは昔から飛ばすと五月蝿い。」
タンデムでティナに拘束されている三島がはしゃぎ回るカイトに文句を言うが、ティナはあきらめ気味だ。なにせ、彼女の義姉の上に乗って大空を飛び回る時も、このように大はしゃぎするのだ。風を切ってバイクが走り始めた時点で、こうなることが予想出来ていた。
ちなみに、全員ノーヘルの上無免なので警察に見つかればアウトなので、魔術を使って姿を隠している。なので実はカイトがどれだけはしゃぎまわっても問題に成ることは無い。尚、この時の感覚にドはまりした結果、カイトは蘇芳翁に頼み込んで大人状態での免許を入手する事になるのだが、それは置いておく。
「ねぇ、これ、ほんとにいきなりバラバラになるとか無いわよね?」
「あぁ?まあ、多分。」
「多分って・・・」
カイトの腰に手を回す魅衣が、不安げに問い掛けた。魅衣が不安になるのも無理は無い。なにせ、彼女だけは、魔術というものを知らないのだ。ボロボロになったタンデム付きのバイクを無理矢理走らせているようにしか、見えていなかった。
ちなみに、実際にはカイトの魔力での武器を創り出す力を応用して不足したパーツを補い、ガソリンは魔力で補っているので、魅衣が心配する様なことは起こりえない。まあ、それでもボロには違いないのだが。
とは言え、さすがに自身が触る錆びまみれのハンドルと、自身が腰掛けるよくわからないカビや埃まみれのシート、魅衣には気づかれないタンデムの内側については新品同然に魔術で洗浄した。
「まあ、もう着くから、それまで持てばいいだろ。」
「いや、そうなんだけどさ・・・」
どこか不安げな魅衣だが、カイトからはその顔が少しだけ赤く染まっている事が見えていない事を少しだけ安堵していた。そんな話をしていると、直ぐに怒号が聞こえてきた。その声に、4人は気を引き締める。
遂に最後の増援が到着することで、戦いは終盤を迎えるのであった。
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