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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第3章 全ての始まり編

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断章 第14話 集結編 戦いの序曲

「と、言うわけで、だ。今後は事件解決まで、安易に外を出歩かない事。」


 カイトと蘇芳翁の雑談の翌日。一向に解決しない事件に、遂に警察から通達が出て、安易な外出は控えるように、との要請があったのだ。

 さすがにこれ以上犠牲が出ては最早警察の信望は地に落ちる。ならば、何故捕まえられないのか、というそしりを受けるのを覚悟でも、外に出歩かないように、と言う方が良かったのである。


「はぁ・・・マジか。」


 帰る前。最後のホームルームが終わり、連絡を聞いた翔が深いため息を吐いた。当たり前だが、事件の重大性を鑑みて天神市の全ての中学校も協力する事になっており、全ての部活動や生徒会活動は自粛されてしまったのだ。

 それに伴い、一部中学や周辺市を含めた全ての小学校では集団登下校が実施されるほどだ。おまけに、安易に出歩かない様に、と自宅外での自主練も禁止されてしまったので、夏の大会が近い翔や運動部の面々には頭の痛い問題であった。


「諦めろ。さすがに怪我されちゃ誰だってかなわんだろ。最悪、殺されるかも知れないんだからな。」

「そーだけどよ・・・やっぱ大会近いからな。先輩方にとっちゃ最後の大会だろ?いい結果残してやりたい、とは思ってたんだけどな。」


 翔はカイトの言葉に、若干ため息を吐いて頷いた。翔の担当は短距離だが、次代を担うものとして団体戦にも出場している。その為、練習にはいつも以上に熱を入れていたのだが、今回の一件で気勢を削がれたのである。


「はぁ・・・どうしようかな。」

「諦めろ、って。やばい奴はやばい奴なんだから。」


 なおも悩む翔に、カイトが忠告を送る。相手の正体について警察以上に掴んでいる彼にとって、見知った者が事件に巻き込まれるのは是が非でも避けたい事だった。

 まあ、被害者の共通点を把握しているので、有り得ないとは思っていたが、万が一もあり得た。それ故、忠告を送るに越した事は無かったのである。


「だよなぁ・・・っち、当分はイメトレと家で簡単な筋トレで終わっとくか。」

「そうしろよ。オレも当分は早帰りだしな。」

「早く捕まってくんねえかなー・・・」


 翔の言葉を、カイトも推奨する。まあ、そう告げる当人は守るつもりは無いのだが。




「どうしよっかなー。」


 その数十分後。今日も今日とて学校をサボタージュしている魅衣は、いつも通りに闘技場の開幕まで天神市をぶらぶらと出歩いていた。

 テレビや新聞なぞ見ないし読まない彼女は、唯一の情報源である学校にも登校していないせいで事件については把握していなかった。ただ単に今日はいつもよりも人気が少ないな、程度にしか考えていなかったのである。もし、事件について少しは把握しておれば、この後の事件にも少しの警戒をしていただろう。


「む?」

「あ・・・」


 と、そんな魅衣を、カイトとは別行動をしていたティナが発見する。さすがに知らぬ仲では無かったので、目が会えば当然お互いに反応する。ティナは学校も終わり、安全が確保されているので平然と出歩いていたのである。

 ティナが何をしていたか、というと、所謂はじめてのおつかいだ。ようように日本社会に慣れてきた彼女は、カイトに頼み込んでちょっと遠くの大きな本屋にまで参考書の買い出しに出かけたのである。

 そしてさすがに無視はどうかと思ったティナが、魅衣に問い掛けた。一方の魅衣は無視するつもりだったのだが、機先を制された感じだ。


「なんじゃ。確か三枝、じゃったか。何故こんな所におる。お主、今日は学校は休んでおったじゃろ。」

「あんたにはどうでもいいでしょ。」

「そうでもあるまい。折角同じクラスになれたんじゃから、何か悩みがあれば聞くぞ?」

「だから、あんたには関係無いってば。」


 ティナに背を向けて歩き出した魅衣だが、てこてことティナが後を付いて来る。


「・・・何のつもり?」

「む?単にお主がどこに行くのか興味があっただけじゃが・・・」

「付いて来ないで。」


 あまり深い仲では無い少女に後を付きまとわれ、魅衣は若干うっとおしげに対応する。が、なおも付き纏うティナに、魅衣は路地裏等の通り慣れた道を通って引き離そうと考えた。


「あまり出歩かん方が良いと思うがのう。」

「あんた、マジで何?」


 苛立ち半分、心からの疑問半分、魅衣は街の死角でもかなり深い部分へと入り込んでなおも付き纏っていたティナに問い掛ける。今、自分が通ってきた道は普通の少女たちなら警戒して通らない、もしくは恐怖する様な道を通っており、どこかで怯えて付き纏うのをやめると思っていたのだ。だが、ティナは平然と最深部にまで付いてきた。彼女が心から疑問に思うのも、無理は無い。

 一方、ティナにはきちんと魅衣を付き纏う理由があった。一度しか出会ってはいないが、曲りなりにも魅衣もクラスメイトだ。現在天神市で起きている事件について詳しく把握している彼女にとって、そんな魅衣が巻き込まれるのは承服しかねた。かと言って、言っても聞かないであろうことは理解できていたので、一緒に居たほうが安全だ、と考えたのである。


「いい加減にほっておいてよ。」

「むぅ・・・じゃがなぁ。事件は知っていよう?一人でおるより、二人でおった方が安全では無いか。」

「事件?」

「なんじゃ、知らんかったのか。」


 魅衣の顔に本心からの疑問が浮かんでいたので、ティナが仕方がない、と説明を開始する。と、そんな風に二人は気を抜いたのが、悪かった。


「居たぞ。行け!」

「おぅ。」


 小さく、複数の声が響いた。忘れられがちだが、魅衣は不動産業でも有数の大企業である三枝の娘だ。不動産業である以上土地絡みの利権が絡み、悪どい相手とのいざこざも避けられ無い。なので、時々ではあるが、三枝も天道等の名家と同じく脅迫もされていた。これも、その一件に端を発する物だった。


「なにっ・・・!?んー!んー!」

「何者じゃ・・・って、お?」


 人気の無い都市の闇の中に、猿轡をかまされた魅衣のくぐもった悲鳴が響き渡る。柄の悪い男達が近づいてきたのは把握していたが、ティナはあまりに弱かった為、なすがままにされて、魅衣と共にふん縛られた。どうやら相手は―人間としては―かなりの手練らしく、流れる様な手際に感心していたという事もある。

 なお、ティナまで巻き込まれたのは、単に巡りが悪かった、というだけらしい。まあ、最も巡りが悪いのはこの襲撃者達の方だろうが。

 もし魅衣に危害が及ぶなら、その時点でどういう理由かわからなくても、ティナが介入する。彼女の方にはカイトの様な慈悲の心は無いし、殺しては面倒だという考えも無い。確実に、皆殺しになる運命だったのだ。ちなみに、ティナに危害が加わることはあり得ない。常に彼女が展開している障壁の表層でさえ、彼らには破ることが出来ないからだ。


「良し!急いで離れるぞ!」

「ふむ・・・」


 猿轡をかまされ、大きめの袋に入れられて運ばれながら、ティナが状況の把握に努める。彼らからは魔力がほとんど感じられなかった為、自分狙いの襲撃者では無いことは明らかだった。


(さて、どうしたものかのう。)


 ティナにとって、ちょっと暴れて襲撃者達をなぎ倒す事も容易だったが、この後の流れに興味を覚えた事もあって自身と魅衣の身に危険が及ばない限りはじっとしておくことにする。


『と、言うわけじゃ。』

『何が、と、言うわけじゃ、だ!いい加減にしやがれ!こっちゃ忙しいんだよ!つーか、ちょっと待て!三枝!?お前、アイツと一緒に攫われてんのか!なんでだ!小鳥遊も一緒とかじゃねーだろうな!』

『む?小鳥遊?何故じゃ?・・・まあ、おらんが・・・とは言え、まさかついこの間浬が拐われたと思えば、今度は余が巻き込まれて拐われるとはのう。現在車に揺られてえんやこらせー、じゃな。』

『異世界の魔王のくせに古臭い言い方してんじゃねえよ!小鳥遊は単に不良だから一緒かな、って思っただけだ!さっき三枝の家族から話聞いたから、直ぐにそっち行く!なんかされない限り、じっとしとけよ!てめえ手加減苦手なんだからな!』


 とは言え、学校で待つカイトに連絡を入れないわけにもいかないので、ティナは起きた事象を簡単に説明する。すると、カイトは当たり前だが、怒鳴った。妙に遅いな、と思っていたら、次に連絡があった時にはクラスメイトと一緒に拐われました、だ。怒鳴りたくもなる。


『聞いた?どういうことじゃ、それは?』

『いろいろあったんだよ、こっちも!って、次は誰だよ!』


 確かに、いろいろあったのだろう。カイトの口ぶりにはどこか嘆くような感情が乗っていた。そうして、図らずも魅衣の無事は確保されるのであった。




「おい、テメーら。全員武器は持ったな。」


 一方、ちょうどその頃。人気の無いのをいいことに動いているのは、何も企業の裏に潜む危ない者達だけでは無かった。複数の男達が各々の得物を手に、頷き合っていた。全員がどこかしらに怪我を負っていたり、怪我の跡が見受けられた。


「あのアマ・・・絶対ヒィヒィ言わせてやる・・・」


 全員の顔には憎悪が浮かんでおり、悪鬼羅刹を思わせる様相であった。そんな彼らが睨むのは、いつも通りにバイクに跨って市内から少し離れた山間の道を走る由利達だ。彼女らも魅衣と同じく、事件について何も知らない所為でいつもより人通りが少ない、程度にしか思っていなかった。まあ、彼女らの場合は人数もあって、普通に出歩いたであろうが。


「おい、行くぞ。手筈はわかってるな?」

「おう。」


 そうして、複数のバイクが走り始める。それは、由利達の後を追い回す様な感じだ。


「由利さん!後!」

「へぇ・・・ウチらに走りで勝負しようっての?」


 取り巻きの一人の言葉にバックミラーで後を確認して、後のバイクの集団が挑発している事を見て取った由利が獰猛な笑みを浮かべる。


「突っ放すよ!」

「うっす!全員、急ぎな!遅れんじゃないよ!」

「うっす!」


 そうして、走り屋集団同士の戦いが始まる。が、当たり前だが、後の集団はそれが目的では無かった。由利達はいいように誘導され、天神市の外れにある倉庫街に誘導されてしまう。


「っつ!」

「なっ!」


 由利とそのチームの面々の驚きが響き渡る。そこに居たのは、嘗て自分たちが倒した数多の襲撃者達だ。彼らは全員武器を手に持ち、更にはバイクに乗った集団によって、退路を断たれて完全に包囲される。

 周囲は元々人気の無い倉庫街である上、最近の事件の影響で更に人気が少なく、多少大音を上げても気づかれない状況だった。


「へへへ、引っかかったな。」

「あんたら・・・」


 由利がようやく今回のバトルの裏を把握して、思い切り睨みつける。いつもならそれで多少の威圧効果があった由利の睨みだが、今回ばかりはそんな事をしても無駄だった。襲撃者達の人数は100を上回り、数的劣勢は明らかだったからだ。どうやら由利達に少しでも恨みがある少年達に片っ端から声を掛けた様だ。


「由利さん、どうしますか?」

「どうするも何も・・・やるしか無いでしょ。」

「そうっすね。」


 完全に危ない状況だったのだが、やらなければやられるだけだ。なので、由利達も覚悟を決める。そうして、増援など有り得ない絶望的な戦いが開始されるかと思われたその時。有り得るはずの無い増援が襲撃者一人の悲鳴と轟音を伴って、現れた。


「お、やってるやってる。パーティ会場はここでいいんだよな?」


 その楽しげな声は、天神市やその周辺都市で不良をやっている者ならば、誰もが知っている声だった。だが、それは襲撃者達にとって、絶望を告げる声にしかなり得なかった。


「あ、天城・・・てめえ!なんでこんなとこにいやがる!」

「あん?まあ、成り行き。」


 そうして答えたソラとそんな彼を睨む襲撃者達だが、襲撃者の方は人数を把握しており、ソラが一人増えたところで、いや、ソラが増えたのならついでだ、とばかりにソラも標的として数える事にする。


「まあ、いい。どうせ天城にもいい加減痛い目見しておきたかった奴がほとんどだろ!ついでにやっちまえ!」

「おぉおお!」

「お、いいねぇ。最近天音の所為で動けてなかったし、久々に運動すっか!」


 楽しそうに、ソラが周囲の少年の一人の顔面に不意打ちで殴りを入れる。以前の様に荒々しさはなくなっていたが、その代わりに楽しそうであった。まあ、荒々しく乱暴なソラと、楽しげに敵を殴り倒していくソラとではどちらが襲撃者達にとって不運なのかは、わからない。そうして、不意打ちで数人倒された襲撃者達が気勢を上げて、大乱闘が開始される。

 だが、この時。襲撃者達は知らなかった。増援はソラだけでなく、彼を上回る絶望が、それも複数で迫っていた事を。

 お読み頂きありがとうございました。

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