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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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八十五話

(´・ω・`)銀の○の背にー乗ってー

「ゴトー、今日の依頼状況はどうなっている?」

「今日は子供の護衛が七件、そのうちニ件はヒューマンと魔族の合同で既に受注されてるぜ」

「そうか。今のところ問題は?」

「一部の上位魔族が子供の採取した薬草を徴収の名で強奪、ギルドに売り払おうとした所で取り押さえられたそうだ」

「そいつらの出自は?」

「いずれもこの街の出身、恐らくだが領主が昔、愛人か何かに生ませた連中だろう」


 この街に来てから、すでに二週間が過ぎようとしていた。

 連日の依頼と、精力的に俺自身が動き、また時には力を誇示して従わせるような事もしたが、それでも少しずつ、俺の考えが浸透してきていた。

 それ即ち『種族間の上下関係を無くす事』今こうしてヒューマンであるゴトーさんを俺の右腕とし、依頼状況の管理をしてもらっているのもその一環だ。

 ん? 結局俺がヒューマンを従わせている事に違いないって? 俺はいいの、俺は。

 だって――


「おはようございます、カイヴォン様!」

「おはようございます閣下!」

「魔王さま、おはようございます!」

「カイ様、おはようございます!」

「ごきげんよう魔王さま」


 ギルドの掲示板付近にいた冒険者達が、種族関係なく全員が挨拶と共に頭を下げてくれた。

 ね? もはやヒューマンうんぬんでなく、全員がこんな有様なんです。むしろ普通に会話出来てるゴトーが珍しいくらいである。

 ……なんか本末転倒な気がするんですが、気のせいですかね。

 俺がいなくなった途端にまた元通りとか無いといいんですが。


「みんなおはよう。近頃上位魔族が子供の薬草を強奪する事件が増えてきているそうだな」

「なんですって!? どこのどいつです!」

「どうせまた偽王の子達だろう。大勢の見極めも出来ない愚か者共が……」


 なんだか本当に俺が魔王だって認識になってるんですが。

 しかし、その発言はちょいといただけない。

 その相手は恐らくアーカムの血筋だろう。だが、奴が育てた訳ではないだろう。

 聞けば、アーカムの血を多かれ少なかれ引いている人間は、この街では珍しく無いらしい。

 そして生まれた子供が魔族だった場合は、他の魔族よりも強く、諌めるべき強い父親もなく、この歪な街で育っていく。

 そんな子供達たちは言わば、この状況下での一番の被害者と言ってもいい。


「相手を貶める発言はやめておけ。多かれ少なかれ、皆も心辺りはあるはずだ。私が直に会ってくる、これ以上自身をも貶める発言は禁ずる」

「ハッ! 申し訳ありませんでした!」


 まぁ、だからと言って優しく説得なんてしないんですけどね。


 ギルドには、犯罪者の捕縛や規則を破り続けた者への制裁を加える依頼も存在するため、当然ギルド内にも地下牢のような施設が存在している。

 俺は職員に連れられ、その場所へと向かう。

 普段は職員たちのテリトリーであるカウンターの向こう、一般人は立ち入れない場所の最深部にある地下への階段。

 その最下層にある鉄の重そうな、不思議と恐怖を覚える扉が目の前に現れた。


「ここから先は私一人で行かせてもらおう」

「かしこまりました。何かあればお呼び下さい」


 何も今回が初めてという訳ではない。

 これまで、同じような状況は数度味わってきている。

 口々に似たような言葉を吐くそいつら。

『何故、自分たちが弱者によくしてやらなければいけない』と、本気で分かっていない風な口ぶりに、もはや矯正するのは無理だと思ったものだ。

 そして俺は既に、明確に『敵』だと断じてしまった相手も少なからずいる。

 そいつらの共通点は『アーカムに近い場所で働いていた連中』だ。

 果たして今回はどうなる事やら。


「地下牢の居心地はどうだ」


 地下牢の一角、そこに跪く二人の人影に向かいそう呼びかける。


「貴方は、何故ヒューマンの味方をするのでしょう?」

「魔族の誇りはないのか! 人に下った犬め!」


 牢の中にいたのは、一対の翼を持ち、片方の目を銀色に光らせる金髪の魔族の娘と、似た容姿を持つ青年。

 開口一番冷静に問う方は恐らく姉だろうか。そしてこの元気の良い青年は弟と言った所かね?


「仮に、魔族が虐げられ、ヒューマンの奴隷のように扱われていたら、私は迷うことなくそのヒューマンを滅ぼすだろう。そして、仮に逆だったとしても同じ事をする」

「その場合も、ヒューマンを滅ぼすのですか?」

「何故そうなる……その場合はその魔族を滅ぼすという話だ」


 完全に発想が魔族よりですな! なんでそうなるんですかなんで! 俺の言い方が悪かったんですかね?


「訳がわからない! 姉さん、こいつはダメだ、魔族なんかじゃない、ヒューマンの奴隷だ」

「一応、あまりに一般常識を知らなさすぎる相手を何人か消してきているが、お前もそうしてやろうか?」

「……ふん、仮面で目を隠すような奴に僕が怯えるとでも思ったか!?」


 あ、ちなみに以前いくら微笑んでも住人の皆さんが『ポッ』とも『ニコッ』ともしてくれないので、魔眼だけは解除していたりします。

 ちょっと悔しいので、ご期待にお答えしようじゃありませんか。

 疑ってるって奴かな? しょうがないなぁ……いいよ。

 俺はゆっくりと勿体ぶってハーフマスクを外し、両目を魔眼に変える。


「さぁ、これで満足したか紛い物。言い残す言葉は?」

「申し訳ありません、弟にはもう聞こえていないと思います」

「む」


 気がついたら青年が床でビクンビクンしてました。

 どうしてこうなったし。


 床でうなされている青年を他所に、俺はこの娘さんを鑑定する。


【Name】  ジニア

【種族】  上位魔族グランデーモン

【職業】  剣士(18)魔術師(10)

【レベル】 37

【称号】  月眼の魔剣士


【スキル】 地形認識 悪路走破 炎魔術 雷魔術 片手剣術 格闘術 魔装術


 あれ、この子随分強くないか。

 レベルは高くも無く低くも無くと言ったところだが、全体的なまとまりが素晴らしい。

 それに一部俺の知らないスキルまで所持している。

 左目だけ銀色だが、これが魔眼なのだろうか? 月眼と称号にあるが、確かに言われてみれば月に見えなくも無い。


「あの、私達はこれからどうなりますか?」

「認識を改める気がないのなら、恐らくこれから先、この街で暮らして行くのは難しいだろうな。それはもちろん、外の世界でもだ」

「……やはり、この街だけなのですね」

「お前は薄々何かに感づいていたのか? ならば何故、この流れに逆らう」


 最初から、この子はここに閉じ込められたこれまでの魔族と反応が違っていた。

 むしろ、弟の青年の方がこの場所では正常と言ってもいい。

 俺には、この子がわざとここに来た様にしか思えなかった。

 弟の方はたぶん普通にやらかして来たんだろうけど。


「私は知りたいのです。親とは、子とは、庇護とは、親愛とは、それらが何なのか。私は……余りにも無知ですから」

「……何があった、話してみろ」


 そうして、彼女の独白が始まった。



「私は、これまで父……とは呼ばせて貰えませんでしたが、領主の館で弟と共に暮らしていました。

 母は館の家政婦で、魔族である事と、容姿に優れているからと、長年人の上に立ち、家政婦を取り仕切る役目をしていたのです。

 アーカム様の寵愛を賜り、そして私達双子も生まれ、目をかけてくれていたのを覚えています。

 やがて私はアーカム様の私兵団の管理を任されるまでになり、弟も私の補佐としてつき、これまで過ごしてきました。

 ですが、数日前、館に一人の女性が現れたのです。


 その方は、とても美しく、そして強かった。

 聞けば近々婚約を発表すると、そして私達と母は、今まで暮らしていた館を追われ、他の使用人と同じ建物へと住まわせられる事になったのです。


 母は狂おしい程に怒り、やがて私達にこう言い放ちました。

『お前たちさえいなければ』『子を傍に置いておいては結婚の邪魔になる、だから私まで追われたのだ』

 そう言い放ち、アーカム様に掛け合い、私達姉弟を追い出す事を条件に母は館に戻りました。


 親とは、何なのでしょう? 私はヒューマン保護区で、幼子を庇い、必死に頭を下げる母親や大人たちをこれまで幾度も見てきました。

 庇護とは、親愛とはどうすれば得られるものなのでしょう? 私は、それが知りたく、今回の犯行に及びました。

 ギルドとは、私を守ってくれるのですか? 親愛は、カイヴォン様が与えてくれるものなのでしょうか?

 罰とは、私を正しく導いてくれるものなのですか? 罪とは何の事なのですか? この流れとは、どういう事なのですか?

 申し訳ありません、やはり私は何も分からないようです」




 なんとも。

 ははは、なんと歪な。この街の歪みの化身のような娘さんじゃないか。

 これはもう、笑うしかない。呆れた笑いだ。

 きっと子供なんて沢山いて、たまたま力があったから傍に置いていたんだろうな。

 いやぁ……まさかここまでとは思わなかった。

 この娘さん、ジニアは本当に心の底から疑問に思い、行動を起こしたのだろう。

 ある意味、完全に街に染まった弟君のほうがまだマシなくらいだ。

 彼女は賢いのだろう。街の中にある情報だけで、自分たちの歪さに気がついてしまう程に。

 それは悲劇だ。理解出来ずに捨てられ、怒り狂う方がまだ救いがある。

 冷静に理解しようとして、それでも分からず、分からないまま動き出す。

 ……悲しすぎるだろ。


「庇護や親愛は、一方的に求めて得るのは難しい。今はまだ、わからなくていい。もうすぐ、いくらでもそれを知る機会が訪れるだろう」

「本当ですか? でしたら、今は少しだけ、ここで休ませて頂きます。ここは、路地裏よりずっと心地良いですから」


 そう最後に言い残し、彼女は床で気を失っている弟に寄り添うように横になった。

 見た目は大人の女性と言っても過言ではない。だが、その内面は今の彼女たちの姿が表している。

 姉弟で寄り添って眠る、ただの子供。もしかしたら、それがこの街の魔族の本質なのかもしれないな。

 さすがに被害にあった子供の手前、俺の一存で外に出すわけにもいかない。

 看守に寝具一式と暖かい食事の用意を頼み、俺は今日の仕事をするために地下牢を後にするのだった。

(´・ω・`)別に孤島でお医者さんなんてしていないゴトーさん

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