七十四話
(´・ω・`)登場人物紹介にイラストをさらに一枚追加しました
(´・ω・`)ついにあの人(?)のイラストです!
丁度カクテルを飲み終わる頃、にわかに周りがざわめきだし、何事かとサロンの入り口へと振り返る。
そこには、いつものようにドレス、今回は濃紺の少しだけ丈の短いブライダルドレスにも似た一着を着こなしたレイスの姿と、もう一人。
レイスと対を成すかのように、ドレスとはかけ離れた、だが優雅だと言わざるを得ないパンツルックのリュエの姿が。
男装の麗人、と呼ぶには長い髪。いつもと違い左右の髪を結いでいるが、それでも女性らしさを失わない長さ。
ハーフアップ? 詳しくは分からないがそんな髪型だったはずだ。
白いシャツに青いジャケット、パンツはタイト過ぎないが、しっかりとヒップラインの浮き出る白い物。
いつもと印象が違って見えるのは髪型の所為もあるかもしれないが、その色こそが最たる理由だろうか。
白い髪が、レイスが何かを使ったのか極めて淡いプラチナブロンドに変わっていた。
よく見れば、いつもと違い顔に化粧もうっすらとほどこされている。
正直なにがどう違うか細かいところは俺にはわからないが、いつもより綺麗だと言うことはわかる。
「……女、恐るべし」
そんな突然の美女二人の登場に、サロンにいた魔族の男性が二人、まっさきにレイスに声をかける。
……やっぱり魔族優先なのか。
だがレイスは――
「申し訳ありません、すでに先約がありますので」
「では、せめてお名前を……」
ふと、彼女の視線がこちらへと向く。
よしよし、魔王様ちょっと頑張っちゃうぞ。
カウンターから立ち上がり、男性二人組の後ろから声をかける。
「名を聞くのと引き換えに、お前達は何を差し出す? 私の連れの名をまさか、なんの対価も払わずに聞こうとは思ってはいまい?」
言ってて恥ずかしい。死にたい。
それっぽく言ってるけど、内容はヤのつく自由業の方々と大差ないんですがそれは。
『おうおうにーちゃん、何人の女に声かけてんのや』的な。
魔王補正がなければただのチンピラである。
「も、申し訳ありませんでした……」
「失礼します……」
あっさりと引く彼らに軽く心の中で頭を下げ、二人と一緒に先ほど離れたカウンターへと戻る。
そしてレイスさん、目がまた魔眼になってます。その血走った野獣の眼光を抑えて下さい。恐いです。
魔族は強い血族に惹かれるからね、仕方ないね。今の言い回しは貴女のストライクゾーンど真ん中でしたか。
で、劇的にビフォーでアフターなリュエさんと言えば、少し照れたようについてくる。
「見違えたよリュエ。この髪は魔術なのか?」
「い、いや、レイスが薬で変えてくれたんだ。似合うかな?」
「凄く似合う。男だけじゃなくて女性にも人気が出そうだ」
「ええ。私もそういうコンセプトでコーディネートしてみました。では、この後はどうしましょうか?」
ううむ、正直この姿のリュエを一人で出歩かせるのは、逆に問題が起きそうな気がしないでもない。
先ほどのやりとりからして、魔族はエルフを歯牙にもかけないのが見て取れたし、そうなるといつも以上に存在感の増したリュエに、高圧的な魔族が言い寄らないとも限らない。
「カイさん、逆に考えるんです。今の姿のリュエと一緒にいれば、普段の姿のリュエが一人で行動しても気づかれにくいと思いませんか?」
「あ、そういう事か。じゃあ髪色だけ変えたいつもの姿で行動させれば良いってわけか」
「私もそれがいい。この格好で一人で出歩くのは、少し勇気がいるよ。なんだろう、私じゃないみたいだよ」
腰に剣でも下げさせてレイスと二人で行動させれば、女王と護衛の騎士に見えないでもない。
そうなると、むしろ俺が邪魔と言うか、物騒と言うか。
宿を後にし、街の中央、やや商店の店構えが豪華な、通りを行く人々もどこか上品な印象を受ける通りへとやってきた。
ショーウィンドウにはドレスを着飾ったマネキンやら、宝石をふんだんにあしらったアクセサリーやら、中には絶対に実戦では使えないような豪華な装飾のなされた甲冑鎧まで飾ってある。
それを我が家のお嬢様二人組みが楽しそうに眺め、お互いに意見を言い合っている。
……こういう時、男一人って肩身が狭いというか、疎外感みたいなのを感じてしまうんですよね。
いいよいいよー、俺は一人でメニュー画面開いてるから。気分はスマホをいじって女家族の後ろをついていく少年だ。
「レイス、あのドレスはどうだろう? 防具屋みたいだし、レイスが探しているお店なんじゃないかな?」
「あ、そうですね、よく見つけましたねリュエ。カイさん、あのお店に入ってもいいでしょうか?」
「ああ、行こうか」
その防具屋は、どちらかと言うと女性向けの服飾店と言ったほうがしっくりくる品揃えだった。
リュエが以前着ていたドレスアーマーに似た物や、レイスが必要としているドレス型の防具に、恐らくなんらかの効果が秘められているであろうアクセサリーの数々。
男性向けの商品は申し訳程度にか置いておらず、俺はその中の剣を一振り手にとってみる。
「これは旦那様! 当店の自慢の一振りの魔剣、お気に召しましたでしょうか?」
レイス達に対応していたのとは別の、男性の店員が目ざとくこちらへとやってきて、今手にとった剣の来歴を語ってくれる。
……居心地が悪いです! こういう買い物とは縁のない生活をしていましたから! せいぜい○ニクロで買うか、通販で買うくらいだから!
あと剣の良し悪しなんて一度メニュー画面に入れないとわかりません。
店員さん、俺いい金づるになりますよ?
今ならどんなボロ剣でも伝説の~やら最強の~とか言っちゃえば信じてしまいますよ?
「かの有名なエルフの国、『サーズガルド』から流れてきた逸品でございます! 制作にはなんと『永劫の聖女』が関わっていたと言われております」
エルフの国? 永劫の聖女?
知らない言葉が出てきたので、もう少しだけ店員の口上に付き合うことにした。
剣の真偽はわからないが、それでも嘘の情報は教えないだろうと質問を投げかけてみる。
「永劫の聖女とはなんだ?」
「これは失礼! エルフの国建国の折より、国を支えている聖女様がいると、そう伝承が残っているのです! 曰く、かの人物は歳を取らず、また絶大な魔力を剣に宿すことが出来ると言われているのです」
……ダリアか? いやいや、あいつは生産職じゃないのだし、そんな真似は出来ない筈だ。
ただそうなると、少しこの武器が気になってしまう。
ふぅむ、ちょっと店員さんどっか行ってくれないかね、こっそり一度アイテムボックスに収納して説明を見てみたい。
「少々剣をじっくり見たい。私の連れにも何か合うものがないか、見繕っておいてくれないか?」
「かしこまりました!」
よし成功。俺は早速剣を収納し、その説明文に目を通す。
『超七色閃光遊戯剣』
『無駄に洗練された謎の魔法剣』
『魔力を通すと七色に光り、振り回すとまるで肉を切り裂いたかのような音がする』
『製作者の遊び心の塊 目指せ室内ソードマスター』
【攻撃力】1
【魔力】 25
…………そこはかとなくダリアが関わっていたと言われても信じてしまいそうな説明文に困惑。
これはあれか、お祭りの出店で売ってるようなアレですか。
何故無駄に豪華な装飾をしたし。
黄金の鞘に、まるで植物の蔦のようなレリーフが施されている。
ヒルト部分はまるで飴細工のように繊細な、細い白銀で編み込まれた美しいナックルガードが取り付けられている。
柄頭にはまるでつららのような、うっすら白く気泡を孕んだ水晶が配され、どこか厳かな雰囲気を醸しだされている。
鞘から引き抜くと、銀色と鉄が交じり合ったかのような複雑なマーブル模様の波紋が浮かぶ刃が現れた。
……なんで本気で作ったんですかね?
「よし、買おう」
いつかダリアに合うことがあったら聞いてみよう。
店内を見ていると、丁度レイスがドレスルームから出てくるところだった。
着ているのは、真紅のドレス。
深いスリットが入り、全体的にタイトなシルエットだが、動きやすそうに配慮されている逸品のようだ。
「あ、カイさん。どうでしょう、私は気に入ったのですが、防御性能が低いみたいなんです。どう思いますか?」
「似合っているし、俺はいいと思うな。レイスは基本後衛だし、ダメージを受ける機会も少ないし。なら動きやすさを優先した方がいいかもしれない」
「そうですよね! はい、ではこれに決めたいと思います」
「了解。じゃあ支払いはすませておくから、リュエを見つけておいてくれないか?」
「え、そんな、いいんですよ私が買いますので」
「いいからいいから。あれですよ、男のロマンみたいなもんです」
「……ありがとうございます、カイさん」
店員さんも見てますから!
いや見てなくても払いますとも。日頃綺麗な物を見せてくれているせめてものお返しです。
本当目の保養すぎて、目が甘えん坊になっております。
「またのおこしをお待ちしております」
買い物をすませ、一度宿へと戻る事に。
今回買ったレイスのドレスとネックレス、そしてリュエ用のペンダントと何故か持って行かれてしまった魔法剣に、俺の[カースギフト]を試そうと思ったからだ。
あ、でもそうなると一度レイスに脱いでもらわないといけないな。
レイスは先ほど試着したままの姿だ。
そして案の定二人は道行く人の視線を釘付けにしている。が、今回ばかりは俺へと向けられる視線の方が多いように見受けられる。
少しずつ、少しずつ俺の存在が街に浸透して行く。
作戦は順調、後は本拠地である街へと向かうだけだ。
「はーい、じゃあレイスさんはそのドレスを脱いでくれませんか?」
「は、はい……あの、ついに、なんですか? いきなりなのであの」
「はーい、じゃあ俺は外に出ていますので、別な服着ておいて下さいねー」
「……知っていました! 言ってみただけです!」
貴重なレイスのヤケクソ笑顔。
今度な、今度! いつか憂いがなくなったらな!
「カイくん、私は脱がなくてもいいのかい?」
「ん、今回は大丈夫。たださっき買った剣と、いつもの剣を出しておいてくれ」
少し待つと、部屋の中から声がかかり、部屋へと戻る。
そこにはなんと下着姿のレイスが! ……なんて事もなく、いつものドレスに着替えた状態でベッドに腰掛けていた。
「どうぞカイさん。そのドレスをどうするんですか?」
「ちょっと実験というか、試してみたい事があるんだ」
ほんのりと温かいドレスを渡されて、内心ドキドキが収まらないです。
変態的思考の持ち主なら、今すぐこのドレスに顔面を押し付けたりするんでしょうね。
…………やらないぞ? ホントだよ?
気を取り直して、一度アイテムボックスに収納して説明を見る。
『紅玉糸のスカードレス』
『紅玉石の魔力を絹糸に転移させ作られた魔防具』
『身体の動きを阻害せず、動きやすさを追求した』
【防御力】38
【精神力】30
【素早さ】55
見れば他に変わった能力も見当たらず、本当に一般的な防具のようだ。
防具にも、上級の物になればアビリティが付与されている事があるが……しかし今回は実験も兼ねているのでこの方が都合が良い。
性能そのものは、やはり布製なので普通の鎧よりは低く、その分素早さへの補正が高い。
ドレスだと逆に下がりそうなものだが、その辺りは魔法の力か、それともドレスの構造のおかげなのか。
……ちなみに、俺の魔王ルックの性能もこれくらいしかないんですよね。
「レイス、この防具に何か一つ力をつけるとしたら、どんなのがいい?」
「力、ですか? どういう事でしょう?」
「今より防御力を上げて欲しいとか、早く動けるようにして欲しいとか、何か特別な効果が欲しいとか」
「そうですね……そう言われますと、防御の低さをカバーできる何か、でしょうか?」
ふむふむ、じゃあちょっと試してみようか。
奪命剣を取り出し[カースギフト]を発動させると、唐突に脳内に所持アビリティのリストが展開された。
少々混乱してしまったが、気を取り直して対象を物品、このドレスに出来ないか念じてみると、しっかりと対象として認識してくれた。
だが――
「ありゃ、いくつかリストから消えてしまったな」
「どうしたんです?」
「いや、俺の持ってる力を分けようかと思ったんだけど、選べる物がだいぶ限られてしまったんだ」
「むむ、カイくんの強さの秘密が今明らかに!? 後で教えておくれよ」
「ああ、後でリュエにも何か使ってみるよ」
まず最初に消えてしまったのは、主に攻撃に関するアビリティだった。
言われてみれば、防具に追加攻撃系のアビリティがついても意味がないし、言わんとしていること分かる。
が、攻撃力に補正をかける物まで選べないと分かり、若干気落ちしてしまう。
ううむ、攻撃力を極限まで強化したりしたかったのに。
次に、防御関連の物に目を通す。
こちらも、一部の物が消えてしまっている。例えばこの[HP+10%]のアビリティ。
同じ系統で[HP+20%]や[HP+30%]も存在するが、表示されているのは[HP+10%]のみ。
もしかして一番下位の物しか付与出来ないのだろうか?
俺は一先ず、現在羅列している物の中で、最も効果の大きそうな[被ダメージ-10%]を選ぶことにした。
これならば、物理的なダメージであれ、魔法的なダメージであれカットしてくれる。
単純に能力を上げるよりは多少効果が落ちてしまうかもしれないが、割合で防いでくれるので、大きなダメージ程その効果は大きくなる。
やっぱり、一番恐いのは即死級の大ダメージだ。これに決定。
「よし、じゃあ行くぞ」
アビリティを決定し、発動を意識すると、身体から急激に熱が奪われるような、命が吸い取られるような喪失感に襲われる。
だがそれも一瞬の事。気がつけば、ドレスがうっすらと輝きを放ち、静かにその光が染みこんでいくように消えていった。
もう一度ドレスをアイテムボックスにしまい説明文を読むと――
『紅玉糸のスカードレス』
『紅玉石の魔力を絹糸に転移させ作られた魔防具』
『身体の動きを阻害せず、動きやすさを追求した』
【防御力】38
【精神力】30
【素早さ】55
【アビリティ】[被ダメージ-10%]
「成功だ。レイス、見てくれないか」
「今の光は……失礼します」
よし、まず物に付与する事も可能だと。
じゃあ次は、どういう装備にどの程度の能力が付与出来るかの検証だな。
俺は久々に、少し後ろ暗い快感を覚えながら、自覚出来るくらい悪い笑顔を浮かべるのだった。
(´^ω^`)ニチャア




