四十七話
(´・ω・`)蹄がすごい勢いで伸びてきた
リブラリーを出発した翌日。
魔車での移動にも慣れたもので、魔車本来の売りである速度と持久力で一気に街道を駆け抜ける。
途中、前を行く馬車等を追い抜く度に隣にいたリュエが『馬車よりはやーい!』と言うので、若干辟易してしまった。
リュエさんや、頼むから他の男にほいほいついていかないで下さいね。なぜとは言いませんが。
「本当、馬車よりもずっと早い……」
レイス、お前もか。
何台か追い抜き、ある程度距離も稼げた所で御者をレイスと交代する。
もうすっかり辺りの気温も上がり、両脇の広大な農地でも、地面を耕し種まきの準備をしている人の姿がチラホラ見受けられる。
これは、もうすぐ次の街に着くと見ていいか。
尚、この陽気にリュエがやられてしまい、後ろの荷台で眠ってしまっている。
「次の街って『解放者イグゾウ・ヨシダ』最後の地って事で有名なんだって?」
「そうですね。私がこの大陸に現れる少し前にお亡くなりになったそうですよ」
「へぇ、じゃあレイスは正確には何年くらい前に来たんだ?」
何気なくそう尋ねると、少しだけ機嫌を損ねたようにそっぽを向いてしまった。
なにこの人可愛い。
「カイさんはデリカシーがないです。私は永遠のにじゅう……ほにゃらら歳です」
「あー、悪かった悪かった。それで、あの街でイグゾウさんは亡くなったのか?」
「そうみたいですよ。七星を解放した後、この大陸に新たな農法を広めて、自分は"アキダル"の街で農家として終生のんびりと過ごしたと言われています」
随分と自由な人だったようだ。
しかし彼のお陰で今こうして、俺も美味しいごはんを食べる事ができ、エンドレシアの一部でも作物が豊かになったのだし、感謝しなければな。
とそこに、急にキラキラと光が目に飛び込み、思わず目を細めてしまう。
「なんだ急に、眩しいな」
「大丈夫ですか? ほら、あれを見て下さい」
レイスの指の先には、とても見慣れた物が。
街道の両脇が、まるで鏡のように光を跳ね返し、キラキラと輝いている。
それは、水が張られた田んぼだった。
水田まであるのか、ここは。
まぁ日本酒があったのだし、どこかにはあるだろうと思っていたが。
しかし、一気に異世界感が薄れたしまった。
どこの田舎だよ、俺こういう場所知ってるぞ。
普通に実家から自転車で走っていけば、こういう風景に出くわすぞ。
「レイス、カイくん気をつけろ! 光魔法だ!」
「おはようリュエ。よく荷台で眠れるな」
この光を幌付きの荷台の中でも感じたのか、勢い良くリュエが飛び出してきた。
凄いなイグゾウさん、貴方の田んぼは光魔法並らしいぞ。
「あれはタン・ボーと言うそうです」
「へぇ、そうなのか。キラキラしていてキレイだね」
「そうですね、のんびり散歩でもしましょうか、今度」
発音それでいいのか。
街の前までたどり着くと、農家の人達であろう馬車の列に行く手を遮られてしまった。
まぁ急ぐ旅でもないしのんびり待つとしよう。
「街の人間ならすぐに入れる筈なんですけどね……何かあったんでしょうか?」
そんなレイスのぼやきが聞こえたのか、並んでいた農家のおじさんが一人近づいてきた。
「おおー? きれいなねっちゃだごど。いまそどのたいりぐのかいほうしゃさんがきてんだよ」
うわ、耳に心地よいほど懐かしい言葉が。
あれかイグゾウさん、貴方もしかして俺の同郷か何かですか?
「え、ええと?」
「『キレイなお姉さんですね。今よその大陸の解放者さんが来ているのです』って言ったんだよ」
「んだ。すごしなまりきつがったべが?」
最近ではある一定の年齢より上の人じゃないと使わなくなってしまった独特の訛りを、まさかこんな所で聞く事になろうとは。
これは元々この地方の特性なのか、それともイグゾウ氏の影響なのか。
まぁなんにしても――
「解放者……か。余り関わらないほうがいいよね、カイくん」
「まぁ、そうだろうな」
「そういえばお二人は確か……もしかしてその時の相手なのでしょうか?」
「どうだろうね。まぁもしレン君……ああ、エンドレシアの解放者はレンって言うんだけど、もし彼だったらなるべく関わらないようにしないと」
ようやく街の中に入った俺達は、その牧歌的な街並み……とは程遠い、とんでもなく発達した魔導具の数々に驚かされた。
ソルトバーグ同様、街中に一定間隔で立てられた電信柱のような物に、恐らく水飲み場と思われる、蛇口型の魔導具とその水の流れを利用する水車。
さらには電光掲示板のような、真っ昼間なのにチカチカ点滅している看板まである。
……間違った都会のイメージというかなんというか。
だがそれでも、街の至る所に水路や水車、そして街路樹も植えられており、ちぐはぐだが、不思議と嫌な感じがしない。
「面白そうな街だね。じゃあまずはギルドに行こうか」
「そうだな。ついでに魔車の返却もお願いしておこうか」
「ブックもこれからたくさん使う事になるでしょうしね。恐らくですが、各地の農地の視察に向かわれる頃ですから」
そのうち自分たち用の魔車でも買おうかね。
馬車だと維持費がバカにならないが、魔車の魔物は魔力を提供さえすれば餌は必要ない上に、耐久力も凄まじい。
是非とも一台ほしい所だ。
「ようこそいらっしゃいました。田園都市アキダルへようこそ」
「すみません、宿を探しているのですが、ご紹介頂けないでしょうか?」
ギルド到着後、すぐに受け付けへと向かい宿を探す。
どうやらこのギルド人が少ないらしく、冒険者と思しき人影が見当たらない。
やっぱりこの大陸は平和なんだなと改めて認識する。
まぁこの街が特別そうなのかもしれないが。
「宿ですか? もしギルドに登録なさっているのなら、そのランクに応じて紹介出来る宿がかわってくるのですが」
「はい、ギルドカードです」
受付をしていたのは、赤みがかった茶髪の女の子。
さてさて、どんな反応を返してくれるだろうか?
「ん? ん~? これなんですか? こんなカード見たことないんですけど」
「あれ? 連絡きてませんでしたか?」
「ちょーっとまっててくださいね」
受付の奥へと消えていく姿を見送り、リュエとレイスの方を振り返る。
「カイさん、そういえばそのカードってなんなんですか? 初めて見る色なのですが」
「あ、レイスには教えていなかったっけ? カイくんと私はSSランクなんだよ」
「SSランクですか? 初めて聞きます。新しく出来たんですか?」
はい。新しく俺とリュエの為だけに出来たトンデモ制度です。
そういえば、まだ教えていなかった。
俺がエンドレシア限定なら公爵家相当の身分で、この大陸では領主と同等。
さらにはエンドレシア王家の後ろ盾と、ギルド総長の後ろ盾も持っていると言う事を。
我ながらやりすぎ感満ち溢れる代物だ。
「なななーんと! へば今その人こさきでるってが!?」
「んだ! いまこのカードわだしてけだもの!」
あ、さっきまでの口調は素じゃなかったんだね。
奥から聞こえてきた若干大きな声に、思わず口角が持ち上がる。
「ここの人達の言葉はちょっと難しいね。カイくん、翻訳翻訳」
「『なんと、では今その人がここにきているのか』と男の人が言ったんだよ。それに対して『はい、今このカードを渡してくれました』とさっきの女の子が答えたんだ」
「カイさん、どうしてそんなに笑っているんですか?」
いやぁ、だってなぁ。
まさか自分の慣れ親しんだ故郷の言葉が、こんな異世界で使われていると思うと。
こんなん笑うに決まってるだろ!
「おまたせしました。先ほどは部下が失礼しました。では、宿の紹介をさせて頂きます」
現れたのは、キチっとしたギルドの制服を着込んだ、髪をしっかりとセットした壮年の男性だった。
銀行の頭取と言われても通じてしまうほどの貫禄を持つその姿に、先ほどまで聞こえてきた声が何かの間違いだったのではと思ってしまう。
が、だがしかし。
「なんもだ。へばなるべぐ広ぐで風呂あるどご頼む」
「おお!? まさかアキダルの訛りを話せるのですか! ではそうですね、この『みちのく温泉宿かしわぎ荘』をおすすめしましょう」
「名前の響きがいいですね。ではそこにします」
「いやぁ、まさか総長の最終兵器と呼ばれた貴方が、我々の言葉を話して下さるなんて。うんうん、総長の人を見る目は確かだ」
一気に距離が近づいたのか、男性の表情が柔和な物となる。
勧めてくれた宿も、どこか懐かしいような、聞き覚えのある名前の温泉宿だと言う。
俺もうこの街に定住しようかしら。そんなレベルで気に入りつつある。
んで、俺ってオインクの最終兵器なの? 俺兵器扱いなの?
豚ちゃん次に会ったら覚えてろよ。
「レイス、温泉だって温泉」
「ふふ、いいですね。何年ぶりでしょう」
混浴ありますか?
一緒にお風呂は気恥ずかしいが、何故か温泉の混浴は許せてしまう不思議。
宿への紹介状を受け取り、今日は依頼の確認もせずに宿へ向かう事にした。
いやもうね、楽しみ過ぎて依頼どころじゃないんですよ。
温泉宿と言うくらいだし、きっと食事も期待出来る。
下手したらこの地方の地酒なんかも出てきちゃったりして?
ダメだもうニヤニヤが止まらない。
「カイさん、凄く楽しそうですね。私まで笑顔になってしまいます」
「わかる? いやぁもしかしたら美味しいお酒も飲めるかなーって思うと」
「カイくんはあのお米のお酒が好きだからね」
「ライスワインですか? そういえば、カイさんが私の店に来ていた時は、丁度切らしていたんですよね……」
「あれだ、もし宿で出なくても俺が沢山持ってるから一緒に飲もうか」
「ええ、是非」
美女二人に挟まれて最高の酒とかもう、この世の楽園ですわ。
(´・ω・`)ぼんぼんの出身って何処なの?




