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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
四章

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四十一話

(´・ω・`)oink oink

 薄暗い会議室の中、皆が下を向き黙りこむ。

 その沈黙の中、時折むせび泣く声が漏れてくる。

 ここに集まっているのは何れも一角の人物達だ。

 にも関わらず、恥も外聞も捨て去り、涙を流す。

 それ程までにレイスの存在がこの街の支えになっていたのだろう。

 そしてそれを、突然現れた俺が、奪い去って行く。


「マザー、せめて詳しい理由を。マザーが旅立つと、本当の意味で俺達に独り立ちをしろってんなら、もう止めねぇ……だが突然すぎる、教えてくれねぇか」


 涙ながらに声を上げたのは、見るからにカタギには見えない、まるで海賊船の船長のような荒々しい身なりの男だった。

 ……君覚えてるよ、部下がリュエに失礼な事言ったんだってね?


「そうですね、話しておきましょう。私は、長い間人を待っていたんです――」


 そう語り始めたレイスを、誰も止めずにただ皆聞き入っていた。

 タキヤや、各々の護衛も、そしてリュエまでもが。


 彼女が語ったのは、自分の始まりから今に至るまで。

 幾度と無く時の権力者の庇護を手に入れ、そしてことごとくその手を振りほどいてきた罪の歴史。

 やがて辿り着いた優しい世界。そして自分の為に街を作ってくれた心優しい青年との出会い。

 そして――


「私の待ち人が、ついに現れたのです。母親として生きてきましたが、ごめんなさい……私も一人の女なのです。付いて行くべき相手が、現れたのです」

「マザー……ああ、よかった……ついにマザーの心に触れられる人が現れたんだねぇ……」


 スペルさんの元同僚でもある、レイスの店を引退した女性が涙ながらに言葉を発する。

 それにつられるように、男連中もまた、自分達の母がようやく旅立つことを受け入れてくれた。

 これならば、もう揉める事もないだろう。

 そう、思っていた。

 だが――


 何が幸いするのかわからない。

 アビリティの入れ替えを行っていなかった為そのままにされていた『五感強化』と『アビリティ効果2倍』がその力を発動させた。


 一瞬、敵意を感じた俺は咄嗟にレイスさんの前に黒い氷の壁を発動する。

 その瞬間、何かが弾かれるような甲高い音が室内に響き渡る。


「タキヤ、てめぇなんの真似だ!」

「わ、私ではない! お前、何をしているんだ!」


 犯人は、彼の背後にいた冒険者風の男。

 その手に握られているのは、スローイングダガー。



「ちっ、防ぎやがったか。まったく、こんな茶番を見せられる事になるとはな。おい女"アーカム"閣下がいい加減しびれをきらしてなぁ? 直接この俺がきてやっ――」


 次の瞬間、男の足元から氷が侵食して行き、頭以外全てを氷漬けにする。

 リュエの魔法だ。そしてそこに、更に俺も魔法を加え氷を闇で侵食して行く。


「冷たすぎて喋れなくなっては困るからな。お前はそのアーカムの直属の部下と見ていいのか?」


 不機嫌だ。

 上手く行きかけていた事が、直前でうまくいかなかった時の苛つき。

 そして自分以外の所為で自分の行動が阻害される事への苛つき。

 そして自分の『味方』が知らない人間に害された時の苛つき。


 ダメだろ、ただでさえここ数日大人しくしてきたんだから。

 そんな中、最後の最後で出てきちゃダメだろう。

 我慢が出来なくなってしまうだろう。


 身体を拘束されているにも関わらず、まだ不遜な表情を崩そうとしない襲撃犯。

 俺が氷の温度を抑えた為、こちらをナメているのだろう。


「て、てめぇ……閣下に楯突いて無事に済むと思って――」

「よし判った、じゃあ俺が今から言う事を伝えろ。あ、すみませんここって会議の場ですし、書記の方っています? 念のため今から言う事、書き残しておいてもらいたいのですが」


 唐突な魔法の行使に困惑する一同。

 護衛の人間達もようやく動き出し、自分の雇い主を背後に隠し下がって行く。


 顔を近づけ、一言一言力を込めて、身体に染みこませるように告げる。

 全てを、今俺が持てるすべての力を集めて威圧する。


「レイスは、俺が連れて行く。もうこの街への攻撃は無意味だ。俺はもう、絶対に彼女を放さない、脅迫は無駄だ」


 街への攻撃を避けるために、あえて自分が彼女を連れて行くと公表する。

 そのうち嫌でも広まりそうだしね、だったら有効活用しよう。


「俺と敵対するなら、一族郎党、その全てを捨てる覚悟をしろ。警告はした、俺は敵対する相手になら、どこまでも残酷に振る舞って見せよう」


 いやしないけどね。

 さすがに殺しに来た相手は殺すかもしれないが、関係ない人間に手は出しませんとも。

 あ、手は出すかもしれない。少なくともその閣下とやらがちょっかいをかけてくるようなら少しだけ。


「いいか、しっかりと伝えろ。いくらでも挑んでこい、その時は全てを失う覚悟をしろ。全て、全て、全てだ。たとえ貴様に家族がいようとも、仲の良い友人がいようとも、よく懐く幼子がいようとも、守るべき民がいようとも、そう全てだ!」


 俺氏、盛大に悪役になる。

 だがこれくらい言った方がヘイトはこっちに集まるだろう。

 少なくとも、もうこの街に工作活動をするような事にはならない筈だ。

 それに幸いにして、こっちは自由に動ける身だ。そんな攻撃いくらでも振り切る事が出来る。

 しかしまぁ、もし本当に全力で敵対してくるのなら、なりふり構わず徹底抗戦してしまうかもしれないが。

 やっぱり、こっちに来てから自分を縛る物が少なくなったせいか、少しばかし思考が物騒になりかけている。

 現代社会に生きるって、想像以上に見えないリミッターが思考にかけられているんだなと実感。


「さぁ、そろそろ解放してやろう。だが忘れるな、しっかりと貴様の雇い主に伝えろ」


 迫真の魔王、これにて終了。

 漆黒の氷を瞬時に黒炎に変化させ消失させる。

 息苦しさと恐怖に、涙と鼻水とその他諸々を垂れ流しながら、転がるように部屋を飛び出す男をただ見逃す。

 一瞬護衛の人間達が後を追おうとしたので、最低限の監視の目だけをつけて、街を去るのを見届けるようにお願いする。

 そして、彼をつれてきたタキヤだが……。


「た、たすけて……ころさないで……わ、わたしは命令されて、それで……」

「手紙は読んでもらえましたか?」

「ひっ! ああ、ぜんぶ……貴方様に聞かれて……」

「あの狙撃手は後で貴方の手でギルドに出頭させてくれますよね? それならばここでその話はしません」


 手紙には『全部聞いたぞ。大人しく手を引け、さもなければ切り落とす』とだけ書いておきました。

 ついでにアイテムボックスから『ある食材』を一つ一緒に添えて。

 この街でナニがないと色々と辛かろうて。

 いや、逆に常時賢者モードで誘惑に負けずに業務に専念出来る可能性も。


「タキヤさん、前領主は貴方に何を約束したのですか?」


 そんな襲撃があったにも関わらず、レイスはいつも通りの様子で優しげにタキヤへと語りかける。

 ……そういえば彼女のレベルは90を超えていた。

 もしかして自分でも余裕で対処出来たりするんですかね?


「マ、マザー……マザーをアーカム様の元へ行くように、この街で工作をすれば、私もマザーと一緒に連れて行ってもらえると……」

「……困った子ですね、本当に」


 おいマザコン。

 お前はそんな理由でその母に弓を引いたのか。

 だがしかし、その気持ちがわかってしまう俺もいる。

 この男は、このメンツの中では最年少だ。

 恐らくだが、この中で一番格下故の苦労もあったのだろう。

 それ故に、付け込まれてしまったと。

 俺自身余り許す気が起きないが、本人がこれ以上咎めないと言うのなら、今回は見逃そう。

 次はない、そのポークビッ○(想像)輪切りにして焼いてあげよう。





「お、おい! アンタがマザーを連れてくってのは本当なのか!」

「ん? ああ、そうですよ」

「て、てめぇが……いいか! マザーを泣かせたら、俺達がお前をぶっ殺しにいってやるからな!」

「そうだ! もしマザーを悲しませてみろ、そん時ゃうちの若いもん全部集めて、ぜってぇ後悔させてやる!」

「ふ、二人共やめて下さい! カイヴォン様、我々ギルドは何も、何も関与しませんからね!?」


 男3人が立ち上がり、口々に自分達の思いをぶつけてくる。

 あとギルド長、貴方はもうちょっと男を見せてくれませんかね。

 一体オインクはどんな通達をしたのやら。



 ようやく騒ぎの収拾が済んだ頃、今まで大人しくしていたリュエが側へとやってくる。


「カイくん、後でもう一回私の魔法に闇魔法を使ってみてくれないか」

「ん、どうした突然」

「あっさり闇魔法に取り込まれた。悔しいからもう一回だ」


 君はどこまでも我が道を行きますね。

 レイスに万が一なんて起きないと自信を持っていたのは理解出来るが。







 こうして、彼女は名実共に俺達の仲間となった。

 スペルさんはこれから、他の代表者の皆さんに手伝ってもらい、少しずつレイスのいなくなった街を支えていくのだろう。

 勿論レイスの去ることに納得出来ない人間が、俺に勝負を挑むという事も一回や二回で済まなかった。

 この日から、彼女が旅立つまでの一週間、常に誰かしらの敵意のこもった視線を受けた。

 勿論、説得が通じない場合はしっかり拳と拳で語り合いましたとも。


 なお、手加減用のアビリティがセットされた剣を手放すのって、相手にとって一番恐ろしい事だって気がついたのは返り討ちにした相手の数が100を超えた辺りでした。



 タキヤの傘下だった外部の人間は、あの日を境にこの街を去り、また逃した襲撃犯の逃亡先もおおよそ目星がついたそうだ。

 しっかりと付かず離れず追跡していたんですね、ちょっと見なおしたぞギルド長。


 また、襲撃犯を寄こし、タキヤに取引を持ちかけた『アーカム』という人物についてだが、前領主だという事は流れから分かっていたのだが、ソイツの今の立場が中々に面倒だ。

 この大陸は不完全ながらも民主主義となっているらしく、領主や商人、果ては冒険者から選挙で選ばれた人物たちが、この大陸の行く末を決めているそうだ。

 そして、アーカムと言う人物はその中でも大きな派閥のトップだとか。

 ……まぁこれ以上ちょっかいをかけてこないなら何もするつもりはないのだが。



 そして、旅立ちの日はあっという間にやって来た。


「お待たせしました。まずは領主であるウェルド様の住む『リブラリー』へ向かうんでしたよね」

「きままな旅だから正直どこにいっても良いんだけど、さすがにあの人に何も言わないのはマズイと思ってね」


 屋敷から出てきたレイスは、ふわりとたなびく、しかし動きやすいように深いスリッドの入ったベージュのロングスカートに、レースがあしらわれたアンティーク調のブラウスとショールいう、旅行に出かける貴婦人のような出で立ちで現れた。

 そしてその背中には、黒くツヤのある木材で出来た、赤い弦の張られた洋弓。

 何故か違和感がないのはその色彩の所為なのか。


「それ、使えるようになってたんだね」

「ええ。20年以上かかってしまいましたけど、ね」


 俺の知る最強の弓。

 彼女の防具は服だけだが、この大陸は比較的安全なので、後で防御能力の上がるアクセサリー類を装備させてそれで間に合わせるとしよう。

 彼女の旅の支度はばっちりだ。まぁ3人とも貴重なメニュー画面持ちでアイテムボックスがある為外見上は旅人には見えないが。

 そして最後の一人、リュエはどうしているかと言うと――


「レイスレイス! この服もらってもいいのは嬉しいけど、私には大きすぎる」


 屋敷の中から、水色や白い服を抱えて飛び出してくる。

 あの日から、リュエはずっとレイスの部屋に通い詰めていた。

 おかしいな、リュエの方が姉だと思っていたが、どうみても姉になつく妹にしか見えない。


「旅の途中にでも、私が手直ししますよ。得意なんです、再利用」

「そういえば【再生師】だったなレイス。やっぱりお母さんみたいだ」


【再生師】は生産職寄りではあるが、一応戦闘でも役に立つ職業だ。

 主に壊れた装備や敵の部位を原料に、本来得られたはずのアイテムや壊れる前のアイテムより若干劣った状態で再生させる事が出来る。

 戦闘では主に、攻撃の余波で生まれたエネルギーを活用して自分の攻撃に使うという、トリッキーな戦法を使う。

 ……そして、俺の知る最強の【再生師】は『ダリア』だ。


「ふふ、この屋敷だって元々打ち捨てられていた物だったんですよ? それを私が修繕して、その後ここを中心に街が出来たんですから」

「へぇ、そうだったのか」


 彼女はもう、自分の姿を偽るのを止め、小さな羽を背中から覗かせている。

 思えば、この街の名は『ウィング・レスト』であり、彼女の家名にも『レスト』とある。

 街の名前の意味は『羽を休める』

 そして、彼女の為に作られたと言う。

 つまり、そういう事なんだろう。



「さて、大げさな見送りになる前に、ささっと行っちゃいましょうか」

「いいのかい? 黙って行って」

「今日出て行く事はもう教えていますし、良いんです。みんなにも自分たちの仕事があるのですから」

「そういうものなのかな……よし、じゃあ行こうか、カイくん!」


 屋敷の前には俺達と館から手を振る彼女の娘たちの姿しかない。

 だがそれを寂しがるでなく、むしろその方が良いと彼女は一歩を踏み出した。



 館を後にし、色街を進む。

 すると、そこで働く全ての人達が両脇に並び、道を作っていた。

 いやそれだけじゃない、宿場町の人間からギルドの人間、街の裏表関係なく大勢の人が集まっているようだ。

 老若男女、そして子供までもが列をなし、彼女に声をかける。


『ありがとう』『いってらっしゃい』『大好き』『いつでも遊びに来て』『ちくわ大『身体に気をつけて』


 その中に、彼女を引き止める言葉は一つもなかった。

 本当の意味で、子供たちが独り立ちをしたのだった。



「結局大げさな見送りになっちゃったな」

「凄いじゃないかレイス、大人気だ!」

「……はい、本当に……」


 さあ、旅の再開だ。

 顔を上げろ、レイス。しっかり前見てないと躓くぞ?
























「なんかさー、最近封印の術式がよく乱されるんよ」

「……そうか。他の七星に何か動きでもあったのか?」

「知らん。けどまぁ、誤差の範囲だし別に良いっしょ」

「油断するなよ? こいつらだけは、絶対に解放させるわけには行かないんだから」



 彼らと一行が出会うのは、まだもう暫く先の話。

(´・ω・`)これにて四章終わりです

(´・ω・`)五章開始はもう少々お待ちください

(´・ω...:.;::......


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