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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第二章 モウリョウ
37/55

斥候

     *


 望夢たちから離れ、単身で山の中を先行する麗奈。木の枝から枝へと飛び交い、まるで忍者のように移動する。その速度は望夢たちは元より、他のチームとも比べ物にならない。


 このペースで行けば、他のチームより先に目標に辿り着けそうだ。やはり自分の先行は正しい判断だった。後はモウリョウが自分一人でも何とかなるタイプであるのを願うだけだ。


 現在位置を確認するため、麗奈は再び大きく跳躍した。木々を転々としていては、危なくて地図を見られないからだ。


 だが木々を見下ろすほど上空に飛び上がると、その必要はなくなった。


「いた!」


 目標のモウリョウを発見した。


 数は三体。


 タイプは――虫タイプ。シミュレーションでも初期からよく出る、ムカデの親玉のような奴だ。あれなら三体ぐらいなら自分一人でも何とか相手にできる。ましてや他のみんなが追いつくまでの時間稼ぎなら、余裕を持って戦える。


 ついてる。麗奈はもうこの時点で、丸山の出した課題をすでにクリアした気になっていた。これでずっとみんなと一緒に戦える。みんなでガーディアンズに残れる。


 だが彼女が地面に降り立つよりも先に、


 三体のモウリョウそれぞれに銃弾が命中した。


「な――ッ!?」


 驚く麗奈の声の後から、三発の銃声がこだまする。


 誰かがモウリョウを狙撃した。そう判断すると同時に、麗奈の耳に無線の声が飛び込んだ。


『残念でした~』


「お前か……」


 神経を逆なでするような声に再び耳を侵され、麗奈は食いしばった歯の隙間からその名を呼ぶ。


「九条美奈子!!」


 麗奈は周囲を見回し、美奈子の姿を探す。だが視界に入るのは木々ばかりで、見える範囲には人影はなかった。


 つまり、美奈子のチームの狙撃手が、こちらから見えないほど遥か遠くからモウリョウを狙撃したのだ。


 麗奈から横取りするためだけに。


『そのモウリョウたちは、わたくしたちの獲物ですわよ』


「汚いわよ! 人の獲物を横から奪うなんて!」


『言いがかりはやめていただけます? 先に攻撃を仕掛けたのはわたくしのチーム。あなたじゃありませんわ』


「く……ッ!」


 やられた。確かに、先にモウリョウに攻撃したチームに権利が発生する。そしてその攻撃方法は指定されていない。拳だろうが飛び道具だろうが関係ないのだ。


『わかったらさっさとそこからどいて頂戴。邪魔ですわよ』


 邪魔。また言った。麗奈は頭に血が上り、今すぐにでも美奈子たちの居る場所に駆け出して文句をつけたい衝動に駆られる。


 しかし、今は時間が一秒でも惜しい。踏み出しかけた足をぐっと踏ん張り、止める。でもそれだけだと気持ちが収まらないので、踏み出した足を軸足にし、手近な木に下段蹴りを打ち込んだ。


「セッ!」


 どん、という音とともに、大木が大きく震える。枝で休んでいた鳥たちが、突然地震のような振動に驚いて一斉に飛び立つ。その数秒後、めきめきと音を立てて、木が倒れていった。


「ああ、もうっ!」


 麗奈は頭に落ちてきた葉っぱを手で払う。木を蹴り倒して少しスッキリすると、思い切り跳躍した。再び上空へと舞い上がる頃には、すっかり気持ちを切り替えて新たなモウリョウを探し始めた。

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