出撃前
*
「あら、あなたも出ますの?」
以前の隊名を改め、新たに不動隊用となった転送ルームのドアの前で、麗奈は声をかけられた。その声と、あざ笑うような声色に、彼女の形のいい眉がしかめられる。
振り返ると、麗奈の顔はさらに苦々しいものになる。そこには、かつてはランキングを争った級友の姿があった。
「九条美奈子……」
睨みつける麗奈の視線を、美奈子はにこやかに受け止める。墨で書いたかのように艶のある長い黒髪が、透き通る白い肌を映えさせる。身長は麗奈よりわずかに低いが、柳のように細くしなやかな体は日本画の婦人像を思わせる。性格、外見ともに麗奈と正反対、まるで碁石の白黒のように対照的なタイプだった。
「出るに決まってるじゃない」
「どうせすぐに全滅なさるんでしょ? だったら最初から出なくていいじゃありませんか。その方が、邪魔にならないのだから」
邪魔という言葉に、麗奈の目つきが鋭くなる。
「邪魔ってどういう意味よ」
「言葉通りですわよ。モウリョウもろくに倒せず全滅を繰り返すポンコツチームは、さっさとガーディアンズをお辞めになった方が、みんなのためです」
「なんですって……」
「かつてはランク上位だったチームも、今となって落ちぶれたものですわね」
ホホホ、と片手で口許を隠して上品に笑う九条美奈子。麗奈は「く……」と奥歯を噛み締める。
「そういえば、今回の戦闘で結果が出せなければ、あなたたちクビですってね」
「どうしてそれを――!?」
一年生の間で望夢が二年生のチームに抜擢されたことが周知の事実であるように、二年生の間では次の戦闘で麗奈たちのチームが結果を残せなければ全員ガーディアンズを辞めさせられることは皆が知っていた。
当然、丸山を始め麗奈たちは誰一人としてこのことを他言してはいない。しかし、それでも不思議とどこからか洩れるのが秘密というものである。
「これでようやく目障りなチームがいなくなるかと思うと、せいせいしますわ」
「く……」
何か言い返したい気持ちはあるが、言葉がうまく出てこない。それに、口でいくら言い返しても結果が出せなければ意味がない。今ここで何を言おうが、負け犬の遠吠えなのだ。
「ふん!」
結局麗奈は何も言わず、転送ルームのドアを開けて中に入った。
ただ怒りに任せてドアを閉めたせいで、ドアが壊れるかと思うほど大きな音がした。




