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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
30/55

チーム結成

     *


 家族向けマンションのリビングに、重苦しい沈黙が広がっている。


 本来なら家族団欒が満ちるはずの場所なのに、誰もが沈痛な面持ちで押し黙っている。


 皆が、丸山の命令に戸惑っていた。


 それに突然の新入隊員。


 しかも男子を、リーダーとして、である。


 唐突なことが重なり過ぎて、誰もが頭と心を整理するのに時間が必要だった。


 一番最初に立ち直ったのは、望夢だった。


「あの……」


 か細い声に、女子たちが彼に視線を向ける。異質なものを見るような目に望夢は一瞬怯んだが、唾を呑み込むと同時に腹に力を込めてどうにか踏ん張る。


「とりあえず、自己紹介しませんか。これから同じチームになるんだし」


「はあ?」


 何を言ってるんだコイツ、といった感じで“ギャル”が睨む。今にも掴みかかって来そうな剣呑な雰囲気に、これまでの望夢ならばビビって萎縮してしまっただろう。


 だが、今の望夢は違う。


 この中で、最も早く覚悟を決めたのが彼なのだ。今さら女子に睨まれたぐらいでビビるわけにはいかない。


「いつまでもこうしていても、時間の無駄ですよ。それより情報交換でもした方が建設的じゃないですか」


「建設的? 今からそんなことしてどうなるのよ」


「そうッス。あれは遠回しな除隊勧告ッス。無理難題押しつけて、うちらを諦めさせるつもりッスよ」


「諦める? もう諦めたんですか? まだ何もしていないのに」


「そうよ。あんな無茶振りされて、今さら何が出来るっていうのよ。ここに残りたいのなら、あんた一人で頑張ることね」


「それは無理です。丸山教官の言った通り、ぼく一人ではモウリョウを倒すことなんて到底できません。だから、ぼくがここに残るには、どうしても皆さんの力が必要になります」


 望夢があまりにもきっぱりと言い切ったので、女子たちは一瞬ぽかんとする。


「……あんた、自分で言ってて恥ずかしくない?」


「まったく思いません。ぼくはモウリョウを倒す、ただそれだけのためにここに来ました。ぼくにとって一番恥ずかしいことは、何もせずに諦めてここを去ることです。それに比べたら、女子の力を当てにすることぐらい何でもありません」


「うわあ……。恥ずかしいことを堂々と言い切ったッスねえ……」


「フ、だがその意気や良し」


 “糸目”の呟きに、それまで無言だった“剣豪”がにやりと笑う。そして意を決したようにきりりと眉を吊り上げると、向かいに座る“ギャル”に言った。


「麗奈」


「何よ、巴」


 “剣豪”――巴は、言葉を選ぶようにゆっくりと間を置いて、“ギャル”――麗奈に問う。


「わたしはまだ終わりたくない。お前はどうだ?」


「わたしだってそうよ。けど……」


「けど、何だ」


「巴はこんな奴にリーダーを任せてまで、ここに残りたいの?」


「それしか方法が無いのなら、そうするまでだ」


「あたしは厭よ。他の誰かの手を借りるなんて。それよりも、あたしたちだけの力で何とかする方法を考えようよ」


「それが無理だからこうなっているんだろうが」


「けど……」


 巴は、声が尻すぼみになり俯く麗奈から、望夢の方へと目を向ける


「彼はモウリョウを倒すためなら、女子の力を当てにするのも厭わないと言った。それは彼なりの覚悟の現れだ。


 だがお前は何だ。この期に及んでまだ駄々をこねるのか。そんなに他人の力を借りるのが厭か。お前は自分の安いプライドを守るために、ここから追い出されてもいいと言うのか」


 巴は溜め息と同時に、視線を麗奈に戻して言う。


「もう一度問う。お前はどうしたい」


「あたしは……」


 踏ん切りがつかない麗奈を、巴はけしかける。


「己の安いプライドを守るためにここを去るか、それとも彼のように手段を選ばず目的を果たすか」


「そんなの決まってるじゃない」


 そこまで言われて、まだ迷っているような麗奈ではなかった。そして、一度前に進んでしまえば、彼女はもう迷わずに真っ直ぐ走り続ける。


「あたしはここに残る。どんな事をしてもね。だから、こんな奴の力を借りることぐらい、どうってことないわ」


「こんな奴って、酷いなあ……」


 不満そうな望夢の声をよそに、巴はにやりと笑う。


「それでこそ麗奈だ」


「で、ミミはどうするの?」


 麗奈の問いに、“糸目”――ミミは待ってましたとばかりに明快に答える。


「ウチもみんなと一緒にいたいッス。だから、そのためなら何でもできるッス」


「フ、ミミの方がお前よりよほど腹が据わっているな」


「うるさい」


 麗奈がツッコミを入れると、それまで重苦しかった部屋にようやく笑顔が訪れた。


 望夢は彼女たちの顔を見やる。みなそれぞれ、お互いを信頼し合っている。いいチームだと思った。それ故に、この中に異分子である自分が入って大丈夫なのだろうか、という不安があった。


 不安が顔に出てしまっていたのだろう。巴は望夢の顔を見ると、察したように口許に笑みを浮かべた。


「わたしたちはすでにどん底だ。今さらきみという不確定要素が入ったところで、これ以上悪くなる心配はない」


「そうでしょうか……」


「丸山教官が、わたしたちがここに残る方法はこれしか無いと言うのなら、本当にそうなのだろう。


 あの男は、絶対に無理な事をわたしたちに押しつけるような真似はしない……と思う。たぶん」


 ずいぶん頼りない信頼関係だが、どちらにせよこれが最後のチャンスだという事には変わりない。だったらもう、やるしかないのだ。


「頼りにしてるぞ、隊長」


 巴に頼りにされ、望夢は全身に力がこもる。


「はい!」


 二人のやりとりに、麗奈が拗ねたように言う。


「少しでも頼りないって思ったら、戦闘中でもあたしは勝手に動くからね」


「だめッスよ。隊長の指示には従わないと」


「冗談よ」


「レナっちが言うと、冗談に聞こえないッス」


「なによそれ~」


「日頃の行いというやつだな」


「巴まで!?」


 ショックを受けた麗奈を見て、巴とミミが笑う。


 二人の笑顔につられ、望夢も笑う。


 三人が笑っているのを見て、麗奈も笑った。


 リビングに、団欒のような笑い声が満ちた。


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