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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
29/55

これは命令だ

     *


 室内の空気が固まる。


 時間にして数秒経ったのか、数分経ったのか。野生のゴリラに睨まれているようで、気が気でないのでわからない。


 固まった空気に穴を穿つように、“ギャル”が尖った声を上げた。


「あのさあ、いきなりそんなこと言われて、あたしらが『ハイわかりました』って言うわけないじゃん」


 ですよね、と望夢も心の中で同意する。自分も同じ立場なら、同じことを言うかもしれない。


 ちらりと丸山の顔を見る。相変わらずデカいミラーサングラスのせいで表情は窺えない。ひょっとしたら口から上はお面みたいに固定されているのではないかとも思う。


 そんな丸山の顔面中唯一の可動部分である口がゆっくりと開くと、溜息のような息を吐きながら言った。


「そうか」


 納得するのかよ、と思ったのも束の間。丸山はまったく語調を変えずに続ける。


「俺の言い方が悪かったようだな。これは提案や要請ではない。命令だ。お前たちに拒否権はない」


 再び女子三人に戦慄が走るが、丸山は有無を言わせない。


「ガーディアンズは慈善団体でもなければ、営利企業でもない。れっきとした国家の機関だ。つまり、お前たちに使われているのは、日本国民の血税ということになる。その大事な税金は、一円たりとも無駄に使われてはいけない」


「あたしたちが無駄だって!?」


 “ギャル”が丸山に噛みつくが、すぐさま「そう聞こえなかったのか」と返され、ぐっと言葉を詰まらせる。


「モウリョウを倒せない奴はガーディアンズに必要ない」


「倒してるでしょ!」


「だが全滅率が高すぎる。いくらモウリョウを倒しても、チーム全員が離脱するほど損傷を受けては意味がない。


 そもそもお前たちは生還率が低すぎる。いくらDSDに装着者の保護機能があるとはいえ、絶対安全というわけではないんだぞ。あれは致命傷が避けられるだけで、後遺症が残るようなケガをする可能性はいくらでもあるんだ。それなのにお前たちと来たら、どいつもこいつも猪みたいに突撃し、その結果敵に囲まれて進退窮まり次元凍結の繰り返し。少しは考えて行動しろ。お前たちの頭は何のためについているんだ。帽子かけにしかならんのなら、そんな無駄な頭は切り落としてしまえ。


 お前たちは負傷除隊しても満足かも知れんが、ガーディアンズは障害者となったお前たちの残りの人生を保障しなければならないんだ。その財源は、さっき言った税金だということを一度でも考えたことがあるのか」


 痛い事実を指摘され、女子たちは萎縮する。だが丸山は彼女たちの反応を見もせずに続ける。


「金のことだけではない。ガーディアンズはDSDの性質上、成熟した大人が装着できない。戦闘に直接参加できないから仕方なく未来ある若者に教育と訓練をし、戦地へと送り出しているんだ。お前たちにもしものことがあったら、ガーディアンズを信じて我が子を預けてくれた親御さんに顔向けできんだろうが。お前たちも、自分たちの思慮のなさが親不孝に繋がるとは思わないのか」


 親を持ち出されて黙る女子たちに、丸山は一人ずつ視線を向ける。


「次回の戦闘で結果を出せなければこの隊は解散し、全員除隊してもらう。これは決定事項だ」


「え? 全員って」


 きょとんとした顔をする望夢に、丸山は平然と言った。


「当然お前もだ。言っただろう。モウリョウを倒せない奴はガーディアンズに必要ない。この隊で結果が出せなければ、お前も除隊してもらう。お前の実力ではソロでは無理だろうから、お前にとってもこれが最後のチャンスだ」


 ついさっきまで目の前の女子たちの問題だと楽観していた『最後のチャンス』が、唐突に自分の問題になってしまった。


「でも、ぼく一年生なんですけど……」


「二年生が一年生のシミュレーションに混ざるわけにもいかないからな。当然お前が二年生に混ざって実戦に参加してもらうことになる」


「そんな……」


 まだ数えるほどしか戦闘シミュレーションをしていないのに、いきなり次回から実戦と言われ、望夢は狼狽する。


「ちょっと待って。まだ満足にシミュレーターも経験していない一年生を、いきなり実戦に投入するなんて無茶よ。それに、あたしたちだって、今日初めて会った人がチームに加わって、ちゃんと戦えるわけないじゃない。それで最後のチャンスだなんてあんまりだわ」


「文句は受けつけん。黙って結果を出せ」


 “ギャル”の抗議も、丸山は一蹴する。


「だが俺も鬼ではない。このままだとお前らの猪頭では同じ結果になるのは目に見えているだろうから、一つだけアドバイスをしてやる。


 こいつの頭を利用しろ。少なくとも、お前たち能無しが下手に考えるよりは、ましな作戦を思いつくはずだ。逆に言えば、それ以外にお前たちがガーディアンズに残る方法はないと思え」


 そう言って丸山は、手の平で『こいつ』こと望夢の頭を軽く叩く。


「ここから先は、お前らで何とかしろ」


 ほぼ一方的に言いたいことだけ言い切ると、丸山はもうここに用はないとばかりに踵を返す。


 ばたん、とリビングの扉が閉まると、室内が気まずい沈黙に包まれた。

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