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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
28/55

糸目とギャルと剣豪とぼく

     *


 玄関から廊下を抜け、リビングに入る。中は普通の家族向け5LDKだった。


 リビングはシステムキッチンと繋がっており、二十畳ほどの広さがあった。カウンター形式の仕切りに沿うようにして置かれた大きなテーブルには椅子が五脚。そのうち三脚には人が座っていた。


 一人はさっき玄関で望夢を不審者でも見るような目で見ていた“糸目”。玄関ではジト目で見ていると思ったら、元々目が糸のように細いだけだった。


 隣の席には、長い黒髪を後ろでひっつめた女子。形のいい柳眉を逆ハの字にし、腕を組んだまま望夢には目もくれず瞑目している姿は剣豪みたいで実に男らしい。いや、女子だけど。暫定呼称“剣豪”。


 その向かい側の席には、よく日に焼けた健康そうな女子が、すらりとした足を組んで座っている。不機嫌そうにいじっている長い髪は、軽く色が抜かれている。全身から発せられる活発そうな印象から、体育会系の部活で活躍するアスリートといった方がしっくりくるが、髪と肌の色だけ見るといかにもギャルっぽい。暫定呼称“ギャル”


 望夢は彼女たちが全員ジャージ姿なのも気になったが、それよりももっと気になることがあった。


 隣に立つ丸山にだけ聴こえるように、ぼそりと呟く。


「……男子じゃなかったんですか」


「俺はそんなことは一言も言っていない」


 またかよ。あるチームだと言われて一年生だと思っていたら二年生で、男子だと思っていたら女子のチームだった。


 騙された。


 いや、騙されてはいないか。


 ただ、言わなかっただけだ。


 訊かない方が悪いと言われればそれまでだが、それにしてもやり方が汚い。これが教育者のやることか、と思ったが丸山他ガーディアンズの教官は教育者ではなかった。少なくとも日教組の手の者ではない。だからセーフとは言えないが。とにかく大人って汚い。


「で、」と、“ギャル”の声が望夢の思考を中断させる。


「話って何ですか? あたしらも忙しいんで、さっさと済ませて欲しいンですけど」


 あからさまに不機嫌な声。どう見ても歓迎されていないように見えるのは、彼女の声色だけでなく、他二人の態度からありありと感じられる。まあ、こっちも歓迎されるなんて思っていなかったが。


「では手短に済まそう」


 丸山はそう言うと、隣に所在なさげに立っている望夢の背中を押して半歩前に出す。


「今日からこいつがお前たちリーダーだ」


 瞬間、リビングの空気が震えた。


 “糸目”は声もなく目と口を大きく開け、


 “剣豪”は逆立てた眉毛をびくりと震わせ、


 “ギャル”は「な……ッ!?」と漫画みたいに呻いた。


 彼女たちの反応に望夢は焦った。言ってなかったんかい、と。


 今日ここまでの経緯で、丸山は余計なことは言わない性格だと理解したが、まさか自分がこのチームのリーダーになることを、当のチームの誰にも話していなかったとは予想外だった。


 大事なことは言えよ。せめて当人たちには事前に話しておけよ。そうでないのなら、つまり丸山にとっては望夢がリーダーになることは、別に話しておくほどのものではないということなのか。


 様々な思考が望夢の脳内を駆け巡る。こうして意識を逸しておかないと、女子たちが自分に向けてくる剥き出しの敵意に押し負けてしまう。特に“ギャル”など、望夢を殺しかねない視線で睨んでいる。自分がリーダーになりたいと頼んだわけではないのだから、そんな目で見られても困る。


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