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ガーディアンズ・オブ・シコク  作者: 五月雨拳人
第一章 ガーディアンズ
27/55

厭ッス

     *


 訓練終了後。


 望夢は丸山に案内されて、JR徳島駅近くのマンションの前に立っていた。


「ここですか」


 てっきりガーディアンズ本部の中で顔合わせが行われると思っていた望夢は、意外そうに目の前のマンションを見上げる。


 普通の家族向けのマンションだ。鉄筋コンクリート造五階建て。外壁は新しい。築十年は経っていないであろう。入り口はオートロック完備でエレベーター付き。今が平時なら地方都市であるのを差し引いても、駅近くのこの物件であれば家賃は結構するだろう。


 さておき、何故マンションなのだろう。丸山の住居なのだろうか。だとしたら、忘れ物でも取りに来たのか。それならとんだ無駄足である。


 疑問に思っている望夢に、丸山がことも無げに言う。


「ガーディアンズも二年生になると、チームごとにルームシェアができるようになる。ここは、さっき言ったあるチームがルームシェアしているマンションだ」


「へ~……」


 間の抜けた返事をする望夢は、丸山がさらりととんでもないことを言っていたのに気づいた。


「二年生!? あるチームって、ぼくと同じ一年生じゃないんですか!?」


「俺はそんなことは一言も言っていない」


 ですよね。けど、そういう大事なことは最初に言って欲しい。望夢の同期も年齢がまちまちで年上の同級生もいたので、取り分け年上だから苦手という感覚はないが、それでも心構えができているとのとそうでないのとでは随分違う。


 文句を言いたいのをぐっと堪えて、エレベーターに乗り込む。驚くべきことに、マンション入り口のオートロックは丸山があっさりと暗証番号を打ち込んで開けてしまった。五階のボタンを押して、上昇。函の中が沈黙に満たされ、ちょっと気まずい。


「ここだ」


 着いたのは、一番端の角部屋だった。重厚な鉄扉は塗装もまだ綺麗で、これまた家賃がお高そうな、と思っている間に丸山のごつい指がインターホンが鳴らした。


 数秒待つと応答があった。


『はい、どちらさんッスか』


 女の声だった。


「丸山だ。開けろ」


『厭ッス』


「何だと」


『丸山さんなのは見たらわかるッス。うちが訊いてるのは、隣のちっこいのッス』


 どうやらインターホンのカメラで、向こうからこちらの様子が見えているようだ。それには驚かないが、扉の向こうの相手が丸山の要求をあっさり断った方に驚いた。怖いもの知らずか。


「それは中でまとめて説明する。つべこべ言わずに開けろ」


 丸山の傍若無人としか言いようのない物言いに、押し問答が続くかと思った。だがインターホンが沈黙を数秒続けている間に、鉄扉の鍵が開く音がした。


 鉄扉が僅かに開いた隙間から、じとっとした細い目がこちらを覗いている。インターホンの声の主だろうか。身長は望夢よりも少し低い。髪は短いぼさぼさ頭。あずき色のジャージ姿。そこから伸びる活発そうな細長い手足は一見望夢と同い年の少年のように見えるが、さっき聞いた声では確かに女子だったように思える。暫定呼称“糸目”。


 “糸目”は丸山と望夢を交互に見ると、渋々といった感じで行った。


「どうぞッス」


 ようやく開けられた鉄扉をくぐり、二人は玄関へと進む。

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