捨てる神あれば拾う神あり
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それから望夢は、自分を入れてくれるチームを探した。彼一人では、どう頑張ってもモウリョウを倒せないからだ。
幸いなことに、戦闘シミュレーションをするうちに、メンバーを変更するチームはいくつかあった。
しかし、望夢を快く迎えてくれるチームはなかった。あの女子たちが、望夢の悪評をばら撒いていたのだ。
大した実力もないくせに上から目線の偉そうな奴、という彼の評判を聞いて、加入を喜ぶ者はいなかった。
結果、唯一望夢が再加入できたのは、彼のように他のチームから追い出されたあぶれ者が集まった、寄せ集めの弱小チームだった。
いくら望夢でも、能力も低くやる気もない、そもそも指示に従う気のないメンバーでモウリョウに勝てるはずがなかった。結局このチームは二戦二敗したところで、彼自らチームから抜けた。このままでは彼らと一緒に落ちるところまで落ちて、ガーディアンズを辞めてしまうような気がしたからだ。
再びチーム難民に戻った望夢であったが、最後の選択肢ともいえるあぶれ者チームを抜けたことで、今度こそ八方塞がりとなった。
そんな時、望夢に声をかける者がいた。
教官の丸山だった。
丸山に教官室に呼び出された時は、やんわりとガーディアンズを辞めろと言われるのかと覚悟したが、彼の口から出た言葉は、望夢の予想を遥かに超えていた。
「不動。お前、あるチームのリーダーをやってみないか」
「……ぼくが、リーダーですか?」
「そうだ」
突然の話に、望夢は混乱する。
会話が途切れると、他の教官たちが雑務をこなす音が室内に溢れる。彼らはみな教職員ではないが、何となく学校の職員室と似たような雰囲気があった。
「理由を訊いていいですか」
全てのチームからあぶれた望夢にとって、チームに入れる、しかもリーダー待遇で、となると一も二もなく飛びつきたくなる話であった。
だが、上手い話には必ず裏がある。望夢はそれを確かめるまでは餌には喰いつかないくらいは知恵がある魚だった。
「そうだな。まあ順を追って話そう」
そう言うと丸山は分厚い背中を背もたれに預け、オフィスチェアを軋ませた。
「そいつらは個々の実力は高いんだが、どうにも協調性がなくてな。それでも有能なリーダーがいる間は何とか形になっていた。というか、トップクラスのチームだった。だがリーダーが欠けてからというもの、今まで楽に勝てていた戦闘すら落とすようになった。今ではランク外の常連だ」
「そこでぼくをリーダーに、ですか」
「そうだ。今までの戦闘シミュレーションの全てをモニターしていたが、俺はお前の指揮能力の高さを見込んでいる」
これまでの指揮を評価されているのは嬉しいが、それでも疑問が残る。
「全部見ていたのなら知ってるでしょう。ぼくがリーダーになったところで、元のランクには戻りませんよ」
「確かにお前はリーダー失格だった。いや、人として失格だったと言ってもいい」
「そこまで!?」
「チームというのは、ただ技能が異なる人間が集まることによって補完し合うためのものではない。お互いが信頼し、背中を預けたりすることによって、個人では出し得なかった実力を発揮するためのものだ」
信頼。それは、望夢に最も足りていなかったものだ。
彼が信じていたのは自分の能力だけで、チームメイトに対しては信頼どころか興味も関心もなかった。
だから、名前すら知らなかった。
知ろうともしなかった。
そんな自分がリーダーなど務まるだろうか。
「俺も以前のお前なら、この話を持ちかけようとは思わなかっただろう。だが今のお前はどうだ? あの時のままか?」
「それは……」
あれ以来、自分が変わったという自覚はあまりない。痛いところを突かれて反省はしたものの、自分でも自覚していなかった生来の気質のようなものを、今さら簡単に治すことができるのだろうか。仮にこの話を引き受けたとしても、また同じことを繰り返さないという保証はどこにもなかった。
迷う望夢に、丸山は言う。
「迷いがあるのも無理はない。断るというのなら、それもまたいいだろう。
だがいま一度思い出して欲しい。お前は何のために四国に来た。他人を手足のように操って、ランキングの順位を上げることか?」
望夢の身体に衝撃が走る。丸山の言葉が、望夢を原点に立ち返らせた。
そうだ。
目的は、一つしかない。
「モウリョウを倒すためです」
自分はそのためにここに来たのだ。
そのためだけに、今ここにいるのだ。
「ならどうすればいい。モウリョウを倒すために、お前に何ができる」
できることなど、一つしかない。
モウリョウを倒す。そのためには、己一人の力ではどうにもならない。
だったら、やるしかない。
不安はあった。
だがもう迷いはなかった。




